相続時精算課税選択届出書の記入例・国税庁書式の完全ガイド
届出書を1枚提出するだけで、あなたは一生涯「暦年贈与110万円」を同じ贈与者に使えなくなります。
相続時精算課税選択届出書とは?国税庁の制度概要を整理する
相続時精算課税選択届出書とは、相続時精算課税制度を利用することを税務署に申告するための書類です。国税庁の定める所定様式(令和7年度版・PDF番号025)を使用し、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までに受贈者の住所地を管轄する税務署に提出します。
この制度は、原則として60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子または孫に財産を贈与する際に選択できる課税方式です。通常の暦年課税と大きく異なる点は、贈与者1人あたり累計2,500万円までの特別控除が適用され、それを超えた部分に一律20%の税率がかかる仕組みにある点です。2024年(令和6年)1月1日以降の贈与からは、さらに年間110万円の基礎控除が別枠で新設されました。
つまり、現行制度では「年110万円の基礎控除+累計2,500万円の特別控除」の二段構えが適用されます。
不動産従事者の立場から見ると、顧客が不動産の生前贈与を検討している場面でこの制度が頻繁に話題にのぼります。制度の仕組みと届出書の手続き両方を正しく理解しておくことが、顧客への適切なアドバイスにつながります。
制度の適用対象や節税効果を正確に確認したい場合は、国税庁の公式情報が最も信頼性が高いです。
国税庁「No.4103 相続時精算課税の選択」(最新の適用要件・控除額を確認できます)
相続時精算課税選択届出書の記入例・国税庁書式の各欄の書き方
届出書は国税庁ウェブサイトからPDFをダウンロードして印刷するか、最寄りの税務署の窓口で受け取ります。記入はすべて黒のボールペンまたは黒インクで行い、消せるボールペンは不可です。訂正する場合は二重線と訂正印が必要です。
①提出年月日・提出先税務署
提出年月日は実際に提出する日付を記入します。提出先税務署は「受贈者(もらう側)の住所地を管轄する税務署」です。贈与者(あげる側)の住所ではない点に注意が必要です。
②受贈者(届出者)の情報
受贈者の住民票上の住所・氏名(フリガナあり)・生年月日(元号表記)・贈与者との続柄(「子」「孫」など)を記入します。マンション名や部屋番号まで正確に記載してください。
③贈与者(特定贈与者)の情報
贈与を行う側の住所・氏名(フリガナあり)・生年月日を贈与時点のものとして記入します。住所変更があった場合は贈与時点の住所で記載するか、所轄税務署に確認を取ることを推奨します。
④最初に贈与を受けた年
「令和〇年」という形式で、制度を初めて適用しようとする贈与を受けた年を記入します。例えば2024年中に初めて贈与を受けた場合は「令和6年」と記載します。
⑤年の途中で推定相続人または孫となった場合の欄
養子縁組などにより年の途中で贈与者の推定相続人や孫になった場合のみ記入が必要です。該当しない場合は空欄で問題ありません。これが条件です。
⑥届出書の提出方法のチェック欄
贈与額が年間110万円以下で贈与税申告書を提出しない場合(届出書を単独提出する場合)に、チェックを入れます。申告書と同時に提出する場合はチェック不要です。
記入が完了したら、添付書類と合わせて管轄税務署に提出します。
| 記入欄 | 記入内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 提出先税務署 | 受贈者の住所地管轄の税務署 | 贈与者の住所地ではない |
| 受贈者の住所 | 住民票上の現住所 | マンション名・部屋番号まで記入 |
| 受贈者の生年月日 | 元号表記(昭和・平成・令和) | 18歳以上であることを確認 |
| 贈与者の生年月日 | 元号表記 | 60歳以上であることを確認 |
| 最初の贈与年 | 令和〇年 | 制度初適用年を記入 |
国税庁の最新様式(令和7年分の届出書PDF)は以下から入手できます。
国税庁「相続時精算課税選択届出書(令和7年度版様式)」
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/shinkoku/zoyo/yoshiki2025/pdf/025.pdf
相続時精算課税選択届出書の添付書類と2024年改正による変更点
届出書の提出には、戸籍謄本(または戸籍抄本)の添付が必要です。これは受贈者の氏名・生年月日のほか、「受贈者が贈与者の推定相続人または孫であること」を証明するためのものです。この証明にはマイナンバーカードや住民票では代用できない点が意外と見落とされがちです。
なお、近年の税制改正によって必要書類は段階的に省略可能となっています。平成30年度改正では戸籍謄本の「コピー」でも提出が認められるようになり、令和元年度改正(令和2年分以降)からは贈与者の住民票や受贈者の戸籍附票の添付も不要となりました。現在は基本的に受贈者の戸籍謄本(または抄本)のみで対応できるケースが多いです。
2024年(令和6年)の税制改正により、年間贈与額が110万円以下の場合は贈与税の申告書自体が不要になりました。ただし、制度を初めて使う年の届出書の提出は110万円以下でも引き続き必要です。この点が多くの方の誤解を招いています。
- 📄 相続時精算課税選択届出書(国税庁様式・必須)
- 📄 受贈者の戸籍謄本または戸籍抄本(贈与日以後に発行されたもの)
- 📄 贈与税申告書 第一表・第二表(贈与額が年110万円超の場合のみ必要)
- 📄 本人確認書類(マイナンバーカード等)(申告書提出時に提示または写しの添付が必要)
戸籍謄本の入手は本籍地のある市区町村の窓口・郵送・コンビニ(マイナンバーカード利用)で可能です。2024年3月からは広域交付制度が始まり、本籍地以外の窓口でも取得できるようになっています。これは使えそうです。
国税庁「No.4304 相続時精算課税選択届出書に添付する書類」(最新の添付書類一覧を確認できます)
提出期限と提出方法|相続時精算課税選択届出書の翌年3月15日厳守の理由
相続時精算課税選択届出書の提出期限は、贈与を受けた年の翌年3月15日です。この期限は非常に厳格で、1日でも過ぎると原則として制度の適用ができなくなります。
なぜこれほど重要なのでしょうか。
たとえば2,000万円の現金贈与を相続時精算課税制度の適用を前提として受け取ったにもかかわらず、届出書の提出を失念した場合、暦年課税として計算されてしまい、最大で810万円超の贈与税が発生するケースがあることが報告されています。さらに期限後申告となるため、無申告加算税(最大20%)や延滞税が上乗せになります。痛いですね。
| 贈与を受けた年 | 届出書の提出期限 |
|---|---|
| 令和6年(2024年)中 | 令和7年(2025年)3月17日(15日が土曜のため翌平日) |
| 令和7年(2025年)中 | 令和8年(2026年)3月16日(15日が日曜のため翌平日) |
提出方法は「窓口持参」「郵送」「e-Tax(電子申告)」の3つがあります。
窓口持参は書類の不備をその場で指摘してもらえる点が最大のメリットです。ただし2〜3月の申告期間中は税務署が大変混雑します。郵送の場合は簡易書留など記録が残る方法を選び、期限間際の場合は消印が翌日以降になるリスクを考慮して早めに手配することが重要です。e-Taxは24時間いつでも送信可能で、マイナンバーカードがあれば自宅から完結できます。なお、贈与税申告書と同時ではなく「届出書のみを単独でe-Tax提出する場合」はダウンロード型の「e-Taxソフト」を使う必要があり、確定申告書等作成コーナーでは完結しない点に注意が必要です。
提出先は受贈者の住所地を管轄する税務署で、贈与者の住所地ではありません。確認する際は国税庁の税務署検索ページが便利です。
国税庁「税務署の所在地などを知りたい方(税務署所在地・管轄検索)」
不動産贈与と相続時精算課税|登録免許税・不動産取得税の見落としに注意
不動産従事者が特に把握しておきたいのが、相続時精算課税制度を使って不動産を贈与する場合に発生する「贈与税以外のコスト」です。
「2,500万円の特別控除があるから不動産は贈与税ゼロで渡せる」と考えがちですが、それは贈与税の話だけです。登録免許税と不動産取得税は、相続時精算課税を使っても通常の贈与と同額発生します。
登録免許税は、所有権移転登記にかかる税金です。相続による取得では固定資産税評価額の0.4%ですが、贈与による取得では2.0%が適用されます。なんと5倍の差です。評価額2,000万円の不動産で比較すると、相続の登録免許税が8万円なのに対し、贈与では40万円になります。
不動産取得税の差はさらに大きいです。相続では原則非課税ですが、贈与では課税対象となり、土地・住宅は軽減税率3%が適用されます。評価額2,000万円の宅地の場合、相続では不動産取得税0円ですが、贈与では土地の評価額を2分の1とした上で30万円程度が発生します。
登録免許税40万円+不動産取得税30万円で、合計70万円程度の税負担が贈与税とは別にかかります。トータルコストで判断が基本です。
- 🏠 登録免許税の税率比較:相続 0.4% → 贈与 2.0%(5倍の差)
- 🏠 不動産取得税:相続 原則非課税 → 贈与 3%(土地・住宅の軽減税率適用後)
- 🏠 評価額2,000万円の宅地の場合:贈与時の追加コストは約70万円
さらに、相続時精算課税制度を使って不動産を贈与した場合、その不動産は相続税の計算上「贈与時の評価額」で持ち戻しとなります。将来値下がりした場合は有利ですが、「小規模宅地等の特例」による評価減(最大80%減)の適用対象外になる点も重大なデメリットです。居住用宅地であれば相続時精算課税ではなく相続で引き継いだ方が有利になるケースも十分あります。
不動産贈与を顧客が検討している場面では、贈与税額だけでなく登録免許税・不動産取得税・将来の相続税との比較シミュレーションを税理士と連携して確認することを強くお勧めします。
不動産と相続時精算課税制度の税コストを詳細に確認したい場合は以下が参考になります。
税理士富山広道「相続時精算課税により不動産を贈与すると損?意外な税負担に注意」

不動産従事者が知っておくべき相続時精算課税の申告ミスと制度の落とし穴
相続時精算課税制度には、届出書の記入・提出以外にも実務で注意が必要な落とし穴が複数あります。国税庁が「資産課税関係 誤りやすい事例」として公表しているほどです。
落とし穴①:一度選択すると取り消せない
相続時精算課税選択届出書を提出すると、同じ贈与者との関係においては生涯にわたって暦年課税に戻せません。これは贈与者ごとに判断されるため、父から相続時精算課税を選択しても、母からの贈与については別途暦年課税を継続することは可能です。一度選択すると暦年課税の年110万円基礎控除がその贈与者との間では使えなくなります。ただし2024年改正で相続時精算課税制度側にも年110万円の基礎控除が新設されたため、実質的なデメリットは緩和されました。
落とし穴②:特別控除を使い切った後も暦年課税には切り替えられない
累計2,500万円の特別控除を使い切った後は、同じ贈与者からの追加贈与に対して一律20%の贈与税が課されます。この段階で「暦年課税に戻して年110万円の控除を使いたい」と考えても、それは不可能です。国税庁の誤りやすい事例にも明確に記載されているケースです。
落とし穴③:2年目以降も110万円超なら申告が必要
2024年改正で「年110万円以下なら申告不要」となりましたが、これはあくまで「110万円以下の場合」の話です。110万円を1円でも超えると贈与税申告書の提出が必要で、特別控除の残額を使って計算した贈与税額がゼロでも申告義務は発生します。申告不要の条件です。
落とし穴④:贈与者が複数いる場合は届出書も複数枚
父と祖父の両方から贈与を受けた場合、それぞれについて別々に相続時精算課税選択届出書を作成・提出する必要があります。1枚の届出書ですべての贈与者をまとめることはできません。
落とし穴⑤:贈与者が死亡すると届出書の特例的な提出期限が変わる
贈与者(特定贈与者)が死亡した年の分の贈与について届出書を提出する場合、通常の「翌年3月15日」ではなく「相続税の申告期限」(死亡を知った翌日から10ヶ月以内)のどちらか早い方が提出期限になります。不動産オーナーの親が急逝した際など、現場でこのケースに遭遇する可能性があります。
- ⚠️ 届出書は一度提出すると取り消し不可
- ⚠️ 特別控除2,500万円を使い切っても暦年課税には戻れない
- ⚠️ 110万円超の贈与は特別控除内でも毎年申告が必要
- ⚠️ 贈与者が複数なら届出書もそれぞれ別々に提出
- ⚠️ 贈与者の死亡時は届出書の期限が変わる
こうした実務上の複雑さを踏まえると、不動産が絡む贈与の場面では、税理士との連携なしに顧客へ具体的な節税効果を断言することはリスクが伴います。制度の全体像と注意点を正確に説明したうえで、専門家への相談を促す姿勢が重要です。
申告ミスの具体的な事例と正しい対処法は以下で詳しく確認できます。
税理士武田「相続時精算課税の申告ミスに注意!特別控除枠と110万円非課税の落とし穴」
https://souzoku.taxtakeda.com/blog/seisankazei/

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