相続税の連帯納付義務改正で不動産相続が変わる理由

相続税の連帯納付義務と改正を不動産従事者が正しく理解する方法

自分の相続税を払い終えても、他の相続人の滞納分で差し押さえられることがあります。

この記事の3つのポイント
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連帯納付義務は「拒否できない」法的義務

税務署から納付通知書が届いた時点で義務が確定し、原則2カ月以内に現金一括で納付しなければならない。延納・物納は一切認められない。

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平成23・24年改正で「5年の消滅」と「利子税への変更」が実現

改正前は申告期限から何年経っても義務が続き、延滞税(年14.6%)まで連帯して負担させられていた。改正により申告期限から5年で消滅・利子税(年0.9%前後)への軽減が実現した。

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不動産中心の相続は「連帯納付リスク」が特に高い

相続財産の多くが不動産だと現金化が遅れやすく、期限内に納税できない相続人が出やすい。遺産分割の段階から納税資金計画を立てることが予防の鍵となる。

相続税の連帯納付義務とは何か:相続税法第34条の基本的な仕組み

 

不動産の売買や相続に関わる仕事をしていると、「連帯納付義務」という言葉を耳にする機会があります。しかし、その具体的な仕組みを正確に把握している人は意外と少ないのが実情です。

相続税の連帯納付義務は、相続税法第34条に規定された制度で、同一の被相続人から相続または遺贈によって財産を取得した全員が、互いの相続税について連帯して納付する責任を負うことを定めています。もう少し噛み砕くと、「相続人の誰か1人でも相続税を滞納したら、他の相続人が代わりに払わなければならない」という制度です。

注意しなければならないのは、この義務の対象者が「遺産そのものを相続した人」だけではない点です。死亡保険金や死亡退職金といった「みなし相続財産」を受け取った人も連帯納付義務の対象に含まれます。つまり、遺産分割には参加していないのに生命保険金を受け取った兄弟がいた場合、その人も連帯納付義務者となり得るわけです。これは多くの方が見落とすポイントです。

連帯納付義務の上限額(限度額)も押さえておく必要があります。各相続人が負担できる金額は「自分が相続または遺贈により取得した財産の価額から、自分が既に納付した相続税額を差し引いた金額」が上限です。たとえば、不動産を3,700万円相続し、自分の相続税325万円をすでに支払い済みの場合、連帯納付義務の限度額は3,375万円となります。一見大きな金額ですが、この上限は相続した全財産をすべて充てなければならないケースもあり得ることを意味しています。

この制度はあくまで「税収の確実な徴収」を目的として設けられたものです。相続税が支払われない事態を防ぐための、国としての安全網のような位置づけと言えます。

参考:相続税法第34条の条文・連帯納付義務の基本的な解釈については以下の国税庁サイトをご参照ください。

国税庁|国税の連帯納付義務についての民法の準用(第8条関係)

相続税の連帯納付義務の平成23・24年改正:3つの具体的な変更点

改正前は厳しい制度でした。率直に言えば、かなり過酷な内容だったのです。

改正以前の連帯納付義務には大きな問題が2つありました。1つ目は「義務の期間が無制限だった」こと、2つ目は「本来の納税義務者に課される年14.6%の延滞税をそのまま連帯して負担させられていた」ことです。自分は何も悪いことをしていないのに、何年経っても高い延滞税を上乗せされた状態で未納分を求められるのは、制度として不公平だという声が多く上がっていました。

そこで平成23年度・24年度の税制改正によって、連帯納付義務の制度が大きく見直されました。変更点は主に3つあります。

1点目は「利子税への変更」です。改正前は延滞税(原則年14.6%)を連帯して負担しなければなりませんでしたが、改正後は利子税(納付基準日までの期間については令和7年の税率で年0.9%)に変更されました。延滞税と利子税では税率が大幅に異なります。年14.6%と年0.9%では実に16倍以上の差があり、これは連帯納付義務者にとって大きな負担軽減となりました。

2点目は「5年の消滅ルールの新設」です。相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10カ月)から5年を経過した場合には、連帯納付義務が消滅するという規定が設けられました。ただし、5年経過時点で既に連帯納付義務の履行を求められている場合は継続します。5年経てば自動的に消えるわけではない点に注意が必要です。

3点目は「延納・納税猶予を受けた場合の義務解除」です。本来の納税義務者が農地等の納税猶予の適用を受けた場合や、延納の許可を受けた場合には、他の相続人は連帯納付義務を負わないとされました。

この改正は平成24年4月1日以後に申告期限が到来する相続税から適用されています。また、同日時点で未納になっているものについても同様に適用されました。

改正前後の変化について、詳しくは以下の資料が参考になります。

税務研究会|平成24年度税制改正 連帯納付義務の改正内容

相続税の連帯納付義務の流れ:税務署からの通知書が届く4つのステップ

通知が届いてから慌てないためにも、義務が発生するまでの流れを順番で理解しておくことが重要です。

ステップ①:本来の納税義務者への督促状送付

相続税の申告期限(相続開始を知った日から10カ月以内)を過ぎても相続税が納付されなかった場合、税務署は最初に本来の納税義務者(滞納している相続人)へ督促状を送ります。督促状は、申告期限から50日以内に発送されるのが通常の流れです。

ステップ②:連帯納付義務者への「お知らせ」送付

督促状が発行されてから1カ月が経過しても完納されない場合、税務署は連帯納付義務者(他の相続人)へ「完納されていない旨のお知らせ」を送付します。この段階はあくまで予告で、まだ支払いを求める内容ではありません。

ステップ③:連帯納付義務者への「納付通知書」送付

それでも未納状態が続くと、今度は連帯納付義務者に「納付通知書」が届きます。ここが重要なポイントです。納付通知書が届いた時点で連帯納付義務が法的に確定します。通知書には納付金額・期限・納付先が明記されており、到達から原則2カ月以内に現金一括で支払わなければなりません。

ステップ④:督促・差し押さえへ

納付通知書が届いてから2カ月を過ぎても完納されない場合、延滞税が加算された督促状が届きます。その後も未納が続けば、連帯納付義務者の預金や不動産に差し押さえが実行される可能性があります。

つまり「先に差し押さえやすい財産を持っている人」から先に取られる恐れがあるのです。自分がきちんと相続税を納め終えていても、財産を多く持っているというだけで先に差し押さえられるケースもあります。不動産仲介の現場では、相続財産が不動産に偏ったケースを多く見かけますが、まさにそういった状況ではこのリスクが現実味を帯びます。

相続税の連帯納付義務と不動産相続:現金が少ない相続で必ず起きる問題

不動産中心の相続は、連帯納付義務のリスクが特に高くなります。これが実務で最も頭に入れておくべき点です。

たとえば、被相続人が一戸建て(評価額8,000万円)と少額の預貯金(500万円)を残した場合を考えてみます。長男が不動産を相続し、長女が預貯金を相続したとします。長男は相続税を支払う現金が手元にほとんどなく、不動産を売却しようとしても買い手がつかない、あるいは申告期限10カ月以内に売却が間に合わないというケースが起きます。

こうした場面で長男が相続税を期限内に納められないと、長女のもとに連帯納付義務の通知が届く流れになります。長女は自分の相続税を既に払い終えているにもかかわらず、兄の分まで現金一括で払わなければならなくなるわけです。しかも延納や物納は認められません。

この問題は「遺産分割の仕方」によって大きく変わります。たとえば不動産を売却して換金してから分配する「換価分割」を選べば、各相続人が現金で相続税を納めやすくなります。あるいは、先に「代償分割」を採用して、不動産を相続する人が他の相続人に代償金を支払う形にする方法もあります。その場合、受け取った相続人が納税資金を確保しやすくなります。

また、不動産を相続した人が「リースバック」を活用するという選択肢もあります。不動産を売却しつつも賃貸として住み続ける方法で、まとまった現金を確保しながら居住の継続が可能です。

不動産従事者として相続相談を受ける場面では、「どの財産を誰が相続するか」が後の連帯納付リスクに直結することを、依頼者にしっかり伝えることが大切です。

参考:不動産と相続税の具体的なケース、連帯納付義務の問題についてはこちらも参照できます。

大東建託|よくある相続税の納税対策 連帯納付義務の問題

相続税の連帯納付義務における「求償権」と「みなし贈与」の落とし穴

連帯納付義務を履行した後にも、見落としがちな落とし穴が潜んでいます。知らないと二重に損をする話です。

連帯納付義務者が他の相続人の代わりに相続税を納付した場合、その人には「求償権」が発生します。求償権とは、立て替えた相続税や利子税を本来の納税義務者に返還請求できる権利です。求償権の時効は10年ですので、立て替え後は速やかに内容証明郵便などで請求することをおすすめします。

問題は、「情けで返済を求めない」と決めたときです。求償権を放棄したり、請求しないまま放置したりした場合、立て替えた金額が「贈与」とみなされます。みなし贈与として扱われると、本来の納税義務者に贈与税が課税されることになります。

さらに深刻なのは、贈与税が課されてもその人が納付しない場合です。贈与税の連帯納付義務は贈与をした人(= 相続税を立て替えた人)が負います。つまり、相続税の連帯納付義務を果たしたにもかかわらず、その人が今度は贈与税の連帯納付義務まで負う二重苦になり得るのです。

ただし、本来の納税義務者が資力を喪失して返済が実質的に不可能な状況であると認められる場合は、みなし贈与と判断されないこともあります。例外が条件です。

このリスクを回避するためには、立て替え払いをする場合には「立替金であること」「返済時期・方法」を書面で取り決めておくことが必須です。感情的に「兄弟だから求償しなくていい」と動いてしまうと、税務上の問題に発展する可能性があります。納付書の控えや通知書類の保管も忘れずに行いましょう。

参考:求償権とみなし贈与の関係について、専門家の解説は以下からも確認できます。

小野会計事務所|相続税の連帯納付義務の通知の流れと求償権

相続税の連帯納付義務を避けるために不動産従事者が知っておくべき実務的な対策

「関係する相続人全員が納税できる状態かどうか」を早い段階で確認することが、トラブル防止の基本です。

①遺産分割の段階で納税資金を先に確保する

遺産分割協議では、財産の分け方を決める前に、まず「各相続人が相続税を現金で納付できるか」を確認することが大切です。不動産が遺産の大部分を占める場合は、換価分割や代償分割を活用して現金を確保する流れを組み込みましょう。遺産分割のやり方が最初の防衛策です。

②相続人全員で相続税の概算額と納税計画を共有する

代表相続人が申告・納付をまとめる場合でも、他の相続人は「自分の相続税額がいくらか」「いつまでに払うのか」「既に払ったか」を把握しておく必要があります。コミュニケーション不足が連帯納付の引き金になるケースが実際に多いのです。定期的に状況を共有するだけで、リスクを大幅に減らせます。

③立て替え払いをする場合は必ず書面を残す

万一、他の相続人の分を立て替えて納付する場合は、必ず「立替金であることを明記した書面」を作成してください。返済のスケジュールや金額も書面で取り決めておくことで、後々のみなし贈与リスクを回避しやすくなります。

④申告期限の10カ月を逆算して行動する

相続税の申告・納付期限は「相続開始を知った日の翌日から10カ月以内」です。この10カ月は思いのほか短く、不動産の売却や遺産分割協議に時間がかかると、あっという間に過ぎてしまいます。相続発生直後から専門家(税理士・司法書士など)を交えてスケジュールを立てることが、最も確実な対策です。

⑤延納・物納の活用も「本来の納税義務者」に事前に促す

延納(5〜20年の分割払い)や物納(不動産等による現物納付)は、本来の納税義務者が要件を満たせば利用できます。資金力の乏しい相続人がいる場合には、早い段階でこれらの制度を紹介し、申請を促すことで連帯納付義務の発生を防ぐことができます。連帯納付義務者はこれらを利用できない点が重要な違いです。

不動産相続に関する相談を受ける機会の多い方は、単に「不動産の売却をお手伝いする」だけでなく、こうした税務上のリスクも含めてお客様に情報提供できると、信頼度が格段に上がります。税理士や相続専門家と連携する体制を整えておくと、お客様にとって本当に頼れる存在になれるでしょう。

e-GOV法令検索|相続税法第三十四条(連帯納付義務の根拠条文)

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