貸家建付地の評価額を計算で正しく把握する全ポイント
賃貸物件を相続しても、評価額が自動的に下がるとは限りません。
貸家建付地の評価額とは何か:自用地・貸宅地との違い
不動産の相続税評価では、同じ「土地」でもその使われ方によって評価額の計算方法がまったく異なります。大きく「自用地」「貸家建付地」「貸宅地」の3区分があり、これをきちんと区別することが正確な評価計算の出発点です。
自用地とは、所有者が自由に使える土地のことで、評価減は一切ありません。すべての土地評価の基準になる数字です。
貸家建付地は、自分の土地に建てた建物(アパートやマンションなど)を第三者に貸している場合の敷地を指します。入居者(借家人)には「借家権」という強い権利があるため、土地所有者であっても自由に立ち退きを求めたり更地にしたりできません。この利用上の制約が評価額の減額に反映されます。
貸宅地はさらに制約が大きく、土地そのものを他人に貸して借りた人が建物を建てているケースです(借地権付き土地など)。貸宅地は評価減の幅が最も大きく、評価額が自用地の30〜70%程度になることもあります。
| 区分 | 土地所有者 | 建物所有者 | 建物利用者 | 評価減の目安 |
|---|---|---|---|---|
| 自用地 | 自分 | 自分 | 自分 | なし(基準) |
| 貸家建付地 | 自分 | 自分 | 第三者(借家人) | 約18〜21%減 |
| 貸宅地 | 自分 | 第三者 | 第三者 | 約30〜70%減 |
貸家建付地として評価されるには、①土地と建物の所有者が同一、②第三者への有償賃貸、③相続開始時点で賃貸中——という3つの要件をすべて満たす必要があります。
つまり貸家建付地が基本です。この3要件を押さえることで、評価額計算の前提となる区分判断がスムーズに進みます。
参考:国税庁が定める貸家建付地評価の根拠通達(財産評価基本通達第26項)と要件を確認できます。
貸家建付地の評価額の計算式と借地権割合・借家権割合・賃貸割合の求め方
貸家建付地の相続税評価額は、次の計算式で求めます。
貸家建付地の評価額 = 自用地評価額 × (1 − 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
この式に登場する3つの割合をそれぞれ正しく把握することが、計算精度の要になります。
① 自用地評価額は、路線価地域であれば「路線価(円/㎡)× 土地面積(㎡)× 補正率」で算出します。路線価が設定されていない倍率地域では「固定資産税評価額 × 倍率」で求めます。路線価と借地権割合はともに国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で確認できます。
② 借地権割合は地域ごとに異なり、A=90%〜G=30%の7段階で設定されています。路線価図では「320D」のように数字とアルファベットが併記されており、アルファベット部分が借地権割合を示します。都心の商業地では70〜90%と高く設定される傾向があり、この割合が高いほど評価額の下げ幅も大きくなります。
③ 借家権割合は全国一律30%です。地域差はありません。これは法律(財産評価基本通達第94条)で明確に定められています。
④ 賃貸割合は、実際に賃貸されている部分の床面積を、全独立部分の床面積の合計で割った数値です。満室なら100%、一部空室があればその分だけ低くなります。重要なのは「戸数」ではなく「床面積」で計算する点です。広さが異なる部屋が混在するアパートでは、単純に戸数割合で計算すると誤りが生じます。
計算例を確認してみましょう。
- 自用地評価額:1億2,000万円(路線価60万円/㎡ × 200㎡)
- 借地権割合:70%(C)
- 借家権割合:30%(全国一律)
- 賃貸割合:100%(満室)
$$\text{貸家建付地の評価額} = 1億2{,}000万円 \times (1 – 0.70 \times 0.30 \times 1.00)$$
$$= 1億2{,}000万円 \times (1 – 0.21) = 1億2{,}000万円 \times 0.79 = 9{,}480万円$$
自用地より2,520万円の評価減となります。これは評価額約21%の圧縮です。
賃貸割合が下がると評価減の効果は薄れます。たとえば10部屋中2部屋(各20㎡)が空室なら、賃貸割合は80%となり、評価減は「0.70 × 0.30 × 0.80 = 0.168」にとどまります。満室との差は大きく、空室管理が評価計算に直結することがよく分かります。
参考:賃貸割合の具体的な計算方法(戸数割りではなく床面積割り)の実務解説が詳しく掲載されています。
貸家建付地の相続税評価とは?計算方法と併用できる特例を解説|税理士法人チェスター
貸家建付地の評価額が下がらない3つの落とし穴:空室・社宅・使用貸借
「賃貸物件があれば貸家建付地になる」という思い込みは危険です。実務では評価額が下がらないケースが複数存在し、申告誤りの原因になりやすいのです。
落とし穴①:長期空室は「賃貸割合ゼロ」とみなされる
空室部分は、原則として賃貸割合に算入できません。ただし「一時的な空室」と認められれば、賃貸中として取り扱う余地があります。国税庁は「一時的」の目安として「課税時期の前後1か月程度」という例を示していますが、これはあくまで例示です。
実際の裁決事例を見ると、平成21年裁決では8室中4室が9か月〜1年9か月以上空室で、募集活動の証拠もなかったため「一時的空室」と認められず賃貸割合が50%に修正されました。一方、平成20年裁決では20室中4室が最長1年11か月空室だったにもかかわらず、媒介契約書・募集広告・内覧記録などの証拠が揃っていたため、賃貸割合100%が認容されています。
判断の肝は期間の長短ではありません。「募集活動を継続していた証拠があるかどうか」が評価を分けます。
落とし穴②:社宅の敷地は貸家建付地にならない
会社が従業員のために提供する社宅は、一般的に借地借家法の適用対象外とされています。従業員は「在職中に使用する権利」を持つにすぎず、借家権という強い保護権利は生じません。このため、社宅の敷地は貸家建付地ではなく自用地として評価されます。国税庁の解説でも明確に「一般的に借地借家法の適用がないとされている社宅の敷地は自用地として評価する」と定められています。
ただし例外があります。社宅の使用料が周辺の賃貸相場と同水準以上の場合は、実質的な賃貸借とみなされ貸家建付地として評価される可能性があります。これは個別判断が必要な領域です。
落とし穴③:使用貸借(無償・低額貸与)は評価減なし
親族に無償で住まわせている場合(使用貸借)は、借家権が生じないため土地は自用地評価になります。また固定資産税相当額に満たない家賃の場合も使用貸借とみなされるリスクがあります。「身内だから安くていいか」という判断が、相続時に大きな税額差を生む可能性があります。
落とし穴③が特に注意すべき点です。相続発生後に「もっと家賃を受け取っておけばよかった」と後悔しても、過去には遡れません。
参考:社宅の敷地が貸家建付地ではなく自用地評価になる根拠を詳しく解説しています。
社宅の相続税評価は貸家建付地ではなく自用地評価になる|税理士法人チェスター
貸家建付地の評価額と小規模宅地等の特例を併用した節税計算
貸家建付地の評価額は、さらに「小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)」を重ねることで、大幅な圧縮が可能です。ここが実務上の最大の節税ポイントです。
貸付事業用宅地等として認められると、200㎡を上限に評価額を50%減額できます。貸家建付地の計算式による減額(約18〜21%)に加えて、さらに50%の減額が適用されるため、両方を活用できれば税負担は劇的に変わります。
小規模宅地等の特例(貸付事業用)の主な要件:
- 相続税の申告期限までに被相続人の貸付事業を引き継いでいること
- 相続税の申告期限(相続開始から10か月)まで当該土地を保有し続けること
- 相続税の申告期限まで貸付事業を継続していること
併用した場合の計算例:
前提:自用地評価額1億円、満室、借地権割合60%、土地面積200㎡
$$\text{貸家建付地の評価額} = 1億円 \times (1 – 0.60 \times 0.30 \times 1.00) = 1億円 \times 0.82 = 8{,}200万円$$
$$\text{小規模宅地等の特例(50\%減)後} = 8{,}200万円 \times 0.50 = 4{,}100万円$$
自用地1億円が最終的に4,100万円まで圧縮されます。評価額が約59%も下がることになります。これは使えそうです。
ただし重大な注意点があります。平成30年の税制改正で「3年縛り」ルールが導入されています。相続開始前3年以内に新たに賃貸不動産の貸付を始めた土地については、「特定貸付事業」(3年超の継続貸付事業)に該当しない限り、貸付事業用宅地等の特例が適用できません。
つまり、節税目的で相続直前にアパートを建てて賃貸を開始しても、小規模宅地等の特例が使えないのです。対策のタイミングが重要ということです。申告期限までに土地を売却したり、賃貸事業をやめてしまったりすることも特例適用外になるため、相続後の管理方針についても事前に検討しておく必要があります。
参考:貸付事業用宅地等の特例要件と3年縛りルールの詳細が整理されています。
No.4124 小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)|国税庁
不動産従事者が見落としやすい貸家建付地評価の特殊ケースと実務対応
現場で頻繁に遭遇するが、意外と判断を誤りやすい特殊ケースをまとめます。
ケース①:賃貸併用住宅
自宅と賃貸部分が混在する賃貸併用住宅では、賃貸部分の床面積割合に応じた按分計算が必要です。「建物全体が貸家建付地」とはなりません。たとえば建物の60%が賃貸スペースの場合、土地の評価も60%分のみ貸家建付地として評価し、残り40%は自用地として計算します。
ケース②:駐車場の扱い
単独のコインパーキングや月極駐車場は、原則として貸家建付地にはなりません。駐車場を利用する人には借家権が生じないからです。ただし、アパートや賃貸マンションに附属した入居者専用駐車場は、建物と一体利用と見なされ、敷地全体を貸家建付地として評価できます。
ケース③:複数棟がある場合の評価単位
一筆の土地に2棟の賃貸アパートが建っている場合、それぞれが別の「1画地」として取り扱われます。各棟ごとの敷地を正確に区分する必要があり、面積の特定が曖昧な場合は土地家屋調査士に測量を依頼することになります。逆に、2筆にまたがる1棟の建物は1画地として一体評価されます。
ケース④:令和6年改正によるマンション評価の変化
令和6年1月1日以降の相続・贈与分から、居住用の区分所有財産(分譲マンション)の相続税評価方法が改正されました。「区分所有補正率」が導入され、市場価格(時価)の60%相当額を下限とする形で評価額が引き上げられています。賃貸に出している分譲マンションの敷地権は貸家建付地評価の対象になりますが、この改正後の補正率を先に乗じた後に貸家建付地の計算を行う順序に注意が必要です。改正前の旧方式で計算していると、大幅な過少申告になりかねません。
ケース⑤:建築中の土地は評価減なし
相続開始時点でアパートが建築中で、まだ入居者がいない場合は貸家建付地には該当しません。自用地として評価されます。「もうすぐ完成するのに」という状況でも、相続日の実態が基準になります。これは知らないと損するポイントです。
参考:令和6年からの区分所有マンション評価改正と貸家建付地評価の適用順序について公式解説があります。
参考:「一時的空室」の認定をめぐる2つの裁決を比較した実務解説です。空室があっても賃貸割合100%が認められるための証拠準備の考え方が詳細に紹介されています。