IT重説のやり方・準備から当日の流れまで徹底解説
電話だけで実施しても、それはIT重説ではなく法的に無効です。
IT重説とは何か・宅建業法上の位置づけと改正の歴史
IT重説(ITを活用した重要事項説明)とは、宅地建物取引業法第35条に基づく重要事項説明を、テレビ会議等のオンラインツールを使って遠隔で行う仕組みです。従来は対面が絶対条件でしたが、社会のデジタル化と利便性向上のニーズを受けて段階的に解禁が進みました。
まず2017年10月、賃貸借契約の借主への重説に限定して試験運用がスタートしました。続いて2021年3月に売買・賃貸ともに本格運用が認められ、さらに2022年5月の宅建業法改正によって書面の電子化も解禁されたことで、完全なオンライン完結型の不動産取引が実現しました。つまり今は売買・賃貸の両方でIT重説が使えます。
法的な根拠は国土交通省が公表する「書面電子化・IT重説マニュアル(令和6年12月版)」に詳しくまとめられています。不動産従事者として実務にあたる前に、一度目を通しておくと安心です。
国土交通省「書面電子化・IT重説マニュアル ハンディガイド(令和6年12月版)」PDF
IT重説が使えるのは宅建士に限られます。宅建士の資格を持つ担当者が実施することが大前提です。
また、電子契約と組み合わせると印紙税法上の「課税文書の作成」に該当しないため収入印紙が不要になります。売買契約書で5,000万円以上の物件なら印紙代だけで3万円もかかりますが、電子化すればそのコストがゼロになります。これは不動産会社にとっても顧客にとっても大きなメリットです。
IT重説のやり方・事前準備と必要な機材チェックリスト
IT重説をスムーズに進めるためには、当日前の準備が成否を左右します。「機材があればすぐ実施できる」と思いがちですが、実際には機材・書類・ルールの3点セットをそろえることが条件です。
まず機材面では以下の4つを確認します。
- 💻 パソコンまたはタブレット(画面10インチ以上を推奨。スマホは画面が小さく、図面や宅建士証が視認しにくいため、国土交通省もパソコン推奨を明示しています)
- 📡 安定したインターネット回線(光回線または高速Wi-Fi。スマホのモバイル回線は速度制限のリスクあり)
- 📷 カメラ・マイク・スピーカー(双方向の映像と音声が必須。ノイズキャンセル機能付きヘッドセットが便利です)
- 🖥️ オンライン会議ツール(Zoom・Google Meet・Microsoft Teamsなど。顧客がアカウントなしで参加できるかも事前に確認します)
スマホのみは問題ありません。ただし、図面等を画面共有する場面では文字や図面が見えにくく、宅建士証の記載事項も視認しづらくなるため、できる限りパソコンかタブレットを案内するのが実務上の正解です。
次に書類面での準備です。IT重説を開始する前に、宅建士が記名した重要事項説明書(35条書面)と説明に必要な添付資料を顧客へ事前送付しておく必要があります。書類が手元に届いていない状態でのIT重説開始は認められません。送付方法は「電子メールによるPDF送付」か「郵送」で、どちらを使うかを事前に顧客と確認しておきましょう。
書類の事前送付が原則です。これが抜けると当日に実施できません。
最後にルール面の整備として、社内でIT重説の運用マニュアルと模擬実施(ロールプレイ)を行っておくと現場での対応がスムーズになります。担当者ごとに対応がバラバラになることを防ぐためにも、標準手順の文書化をおすすめします。
全日本不動産協会「IT重説のためのIT環境」(実務向けの環境整備ポイントを解説)
IT重説のやり方・当日の流れと宅建士証提示の正しい手順
準備が整ったら、当日の流れはおおむね以下の順番で進めます。実務では「どのタイミングで何をするか」を事前に把握しておくことが、顧客への安心感にもつながります。
① 接続確認と録画開始
双方が入室したら、まず映像と音声に問題がないことをお互いに確認します。録画を行う場合はこのタイミングで顧客に伝え、許可を得てから開始します。録画は義務ではありませんが、後日のトラブル防止として多くの会社が実施しています。
② 書類の手元確認
「重要事項説明書はお手元にご用意いただけていますか?」と確認します。当日に書類が届いていないことが判明した場合は、IT重説を開始できません。中断か後日に変更する必要があります。
③ 宅建士証の提示(重要)
IT重説でも対面と同様に宅建士証の提示が法律上の義務です。カメラに宅建士証をかざし、顧客に氏名・生年月日・登録番号を読み上げてもらう形で確認します。
ここで見落とされがちなのが、宅建士証に記載されている「住所」の扱いです。個人情報保護の観点から、住所欄に剥がせるシールを貼った上で提示しても差し支えないと国土交通省が明示しています。シールは容易に剥がせるものを使い、宅建士証を汚損しないよう注意が必要です。宅建士証の住所は隠してOKです。
④ 本人確認
説明を受けているのが契約当事者(借主・買主)本人であることを確認します。顔写真付き身分証明書(運転免許証・マイナンバーカードなど)を画面越しに提示してもらいましょう。
⑤ 重要事項説明の実施
画面共有を使って重要事項説明書を表示しながら、項目ごとに口頭で説明します。対面の重説と同じく、宅建士が一つひとつ読み上げて質疑応答を行います。「ここまでで何かご質問はありますか?」と適宜確認しながら進めることが大切です。
⑥ 通信トラブル時の対応
説明の途中で映像が途絶えたり音声が聞き取れなくなった場合は、直ちに説明を中断しなければなりません。この点は法律の解釈上も明確で、「トラブルが解消した後に再開」が原則です。通信が回復しないまま説明を強引に続けることは認められません。事前に電話やメールなど複数の緊急連絡先を交換しておくとスムーズです。
⑦ 署名・返送の確認
書面契約の場合は顧客に重要事項説明書へ署名してもらい、不動産会社へ返送してもらいます。電子契約の場合は電子署名サービスを使い、改変防止措置とタイムスタンプが備わったシステムで手続きを完了させます。
三井住友トラスト不動産「ITを活用した重要事項説明(IT重説)について」(法的解釈と通信トラブル時の対応を詳解)
IT重説のやり方でやりがちなNG行為と法的リスク
現場で意外と多いのが、「ちゃんと説明した」つもりでも法律上は無効になってしまうケースです。以下のNG行為は特に注意が必要です。
❌ カメラオフでの実施
IT重説は「双方向で映像と音声がやり取りできること」が法的要件です。顧客側・宅建士側のどちらがカメラをオフにしても、IT重説として認められません。「顔を映したくない」という顧客の希望であっても、カメラオフのままでは進められない点を丁寧に説明しましょう。カメラオフは不可です。
❌ 電話(音声のみ)での実施
「電話で説明すれば良いのでは」と思う担当者が一定数います。しかし電話や音声のみの通話はIT重説として認められていません。映像が必須条件であり、音声だけでは宅建業法上の重説を実施したことになりません。法的に重説を怠った状態とみなされれば、「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」の対象になりうる重大なリスクを抱えることになります。
❌ 書類未着のまま開始
「説明しながら後で送ります」という対応も法的にアウトです。重要事項説明書は説明の「前」に顧客の手元に届いていることが条件です。書類の送付タイミングは絶対に守る必要があります。
❌ 接続不良のまま説明を続ける
映像や音声が乱れている状態での説明継続は認められていません。前述の通り、トラブルが解消されるまで中断が義務です。「時間がもったいない」と強引に進めるのは法的リスクに直結します。
❌ 宅建士以外が説明する
「営業担当が代わりに読み上げる」という運用も完全NGです。重要事項説明は宅建士のみが行える行為で、資格を持たない者が説明した場合は重大な宅建業法違反になります。宅建士が直接説明することが条件です。
全日本不動産協会「重要事項説明義務違反に対する監督処分」(違反時の業務停止・免許取消処分の内容を解説)
IT重説導入で不動産業務が変わる・対面との比較と費用削減の実態
IT重説が現場に定着してきた今、「なぜ対面から切り替えるのか」をもう一度整理しておくことは重要です。単なる時代の流れではなく、具体的な業務改善と費用削減効果があります。
まずコスト面から見ると、遠方の顧客との取引で移動が不要になることで交通費・宿泊費が丸ごと削減できます。地方から東京の物件を契約する顧客であれば、新幹線代だけでも往復2万円以上になることは珍しくありません。さらに電子契約と組み合わせることで印紙代もゼロになるため、件数が多い不動産会社ほど年間の削減効果は大きくなります。
時間面でも効果が出ます。対面契約では来店・受付・待ち時間・帰宅までのトータルで2〜3時間かかることも多いですが、IT重説なら説明時間の30〜60分だけで完結するケースが多いです。顧客の負担が減ることは成約率の向上にもつながります。これは使えそうです。
一方で、IT重説ならではのデメリットも正直に把握しておく必要があります。通信環境が不安定な顧客への対応、高齢者などオンラインツールに不慣れな方へのサポート、そして画面越しでは細かいニュアンスが伝わりにくい点は現実の課題です。
顧客の状況に応じて「IT重説か対面か」を柔軟に使い分けることが現場では重要な判断になります。「IT重説一択」で押し通すのではなく、「遠方で来店が難しい方にはIT重説を提案する」「書類は紙で受け取りたい方には郵送して重説のみオンラインにする」など、顧客のニーズに合わせた組み合わせが実務の正解です。
IT重説のツール選定では、顧客がアカウントなしで参加できるかどうか、録画が可能かどうか、画面共有が安定しているかどうかを軸に比較することをおすすめします。ZoomはPC・スマホともに扱いやすく、接続の安定性も高いため不動産業界での採用実績が多い選択肢です。Google Meetはアカウントなしでも参加できる点で顧客への案内が簡単という利点があります。ツール選びが業務効率を左右します。
業務DX化の文脈でIT重説の運用マニュアル整備や電子契約の導入を検討している場合は、国土交通省の公式マニュアルを社内研修の教材として活用することも現実的な手段です。業界団体への相談も有効とされています。