立地適正化計画の居住誘導区域と浸水想定区域の重なりを正しく把握する

立地適正化計画の居住誘導区域と浸水想定区域の関係を不動産実務で正しく理解する

浸水想定区域内の土地でも、居住誘導区域に指定されていれば住宅開発ができます。

📌 この記事の3つのポイント
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約66%の都市が浸水想定区域を居住誘導区域に含めている

国土交通省の調査では、浸水想定区域を居住誘導区域から除外しているのは全体の約3分の1のみ。残り3分の2の都市は、浸水リスクがある区域にも居住を誘導している実態があります。

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居住誘導区域外の取引には重要事項説明と届出義務が発生する

宅建士は、居住誘導区域外となる物件の取引において、都市再生特別措置法に基づく届出義務を説明する義務があります。無届出の場合は30万円以下の罰金リスクがあります。

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浸水深3m以上・家屋倒壊等氾濫想定区域は除外の対象になりやすい

自治体によって基準は異なりますが、浸水深3m以上の区域や家屋倒壊等氾濫想定区域(L2)は居住誘導区域から除外される傾向があり、当該区域の開発には制限がかかります。

立地適正化計画と居住誘導区域の基本的な仕組みを理解する

立地適正化計画とは、2014年(平成26年)の都市再生特別措置法改正により創設されたまちづくりの制度です。人口減少・超高齢社会という課題に対応するため、医療・福祉・商業などの都市機能と居住を特定のエリアに集約させる「コンパクトシティ」を目指す包括的なマスタープランと言えます。

この計画のなかで、不動産取引において特に重要になるのが「居住誘導区域」の設定です。居住誘導区域とは、一定のエリアに人口密度を維持することで、生活サービスやコミュニティを持続的に確保するために居住を誘導すべき区域のことを指します。簡単に言えば、「ここに住んでほしい」と行政が定めたエリアです。

一方で、居住誘導区域の外では、住宅を建てるための開発行為や建築行為に際して、行為に着手する日の30日前までに市町村長への届出が義務付けられています。これは都市再生特別措置法第88条に基づくものです。届出制度が問題ないというわけではありません。無届出または虚偽の届出で開発を行った場合、同法第130条に基づき30万円以下の罰金が科される可能性があります。

不動産実務においては、取引対象の土地・建物が居住誘導区域の内か外かを正確に把握することが、リスク管理の第一歩です。宅建士はこの届出義務について、取引の相手方に対して重要事項説明で説明する義務を負います。説明義務の基本です。

国土交通省が公表している立地適正化計画の手引きや届出制度の解説については、以下のリンクが参考になります。居住誘導区域外での届出対象行為の詳細や、制度の運用上の注意点が体系的に整理されています。

居住誘導区域外での届出制度・罰則規定の詳細(国土交通省Q&A)。

立地適正化計画の作成・運用に係るQ&A(国土交通省)

立地適正化計画の居住誘導区域と浸水想定区域が重なる現実

「居住誘導区域=安全な居住エリア」と思い込んでいる不動産従事者は少なくありません。ところが、国土交通省の調査が示す実態は異なります。

立地適正化計画における居住誘導区域から浸水想定区域を全部または一部除外している都市は、全体のおよそ3分の1に留まっています。つまり、残り約3分の2の都市では、何らかの浸水リスクを抱えた区域が居住誘導区域の中に含まれているということです。これは意外ですね。

なぜこのような事態が生じているのでしょうか?大きな理由の一つは、既成市街地の多くが河川沿いや低地に形成されており、浸水想定区域と市街地が広範囲に重なるケースが多いことです。兵庫県尼崎市の例が典型的で、中心市街地を含む既成市街地の大部分が浸水想定区域となっているにもかかわらず、行政のハード・ソフト両面の災害対策を前提に居住誘導区域に含めています。

つまり「居住誘導区域だから安心」という判断は危険です。区域内であっても浸水リスクがある可能性は十分にあります。不動産従事者として取引の際には、居住誘導区域の確認と並行して、必ずハザードマップでの浸水想定区域の確認を行うことが重要です。2020年8月の宅建業法施行規則改正により、水防法に基づく水害ハザードマップにおける取引対象物件の所在地の説明が重要事項説明として義務化されていることも、見落とせないポイントです。

浸水想定区域と居住誘導区域の重複状況についての国土交通省の調査資料は下記からご確認いただけます。実際に自治体ごとの取り扱いの違いや、除外基準の考え方が詳しく記載されています。

居住誘導区域における浸水想定区域の取扱いに関する国の調査資料。

居住誘導区域における浸水想定区域の取扱いについて(国土交通省)

浸水想定区域の「除外基準」は自治体によって大きく異なる

浸水想定区域のすべてが一律に居住誘導区域から除外されるわけではありません。除外するかどうかの判断基準は、自治体によって大きく異なります。これが実務上、最もわかりにくい部分の一つです。

代表的な判断基準として、多くの自治体が採用しているのは「浸水深」による区分です。一般的な2階建て住宅で1階天井まで浸水する深さが約3mとされており、計画規模降雨(L1)または想定最大規模降雨(L2)において浸水深が3m以上となる区域を除外する自治体が多く見られます。浸水深3mというのは、目安として東京都の木造住宅の標準的な1階天井高(約2.4m)を超える水位と考えると、そのリスクの大きさがイメージできます。

ただし、埼玉県志木市の事例では、既成市街地の大部分が浸水想定区域と重なっているにもかかわらず、学校などの公共施設の上階(小学校の4階など)を指定した災害避難場所から半径1km(徒歩10〜15分)以内に含まれることを理由に、居住誘導区域に含めるという方針をとっています。また岩手県花巻市では、浸水シミュレーション上で浸水開始から60分の猶予がある地区については、避難所まで約500m以内であれば居住誘導区域に含めています。

このように、「L1の浸水深」「L2の家屋倒壊等氾濫想定区域」「避難所までの距離」「浸水開始までの時間」など、複数の指標を組み合わせて判断している自治体もあります。各自治体の立地適正化計画を個別に確認することが原則です。

実務でこうした確認を効率的に行うためには、国土交通省が提供するハザードマップポータルサイト「重ねるハザードマップ」を活用する方法があります。浸水想定区域と都市計画情報を重ねて表示できるため、物件の位置確認に役立てることができます。

自治体の除外基準の具体例や防災指針の考え方については、以下の資料が詳しく解説しています。

豊橋市の居住誘導区域見直しにおける浸水想定区域の除外基準の詳細。

居住誘導区域の見直しについて(立地適正化計画/防災指針)(豊橋市)

2020年改正で強化された「防災指針」と居住誘導区域の関係

立地適正化計画において特に重要な転換点となったのが、2020年(令和2年)の都市再生特別措置法改正です。この改正は、西日本豪雨(2018年)や台風19号(2019年)といった大規模水害を受けて行われました。

改正の柱の一つが「防災指針」の作成義務化です。市町村は、居住誘導区域内に浸水想定区域などのハザードエリアが残る場合、そのリスクを軽減するための施策を「防災指針」として立地適正化計画に盛り込む必要があります。具体的には、堤防・排水施設などのハード整備、避難訓練・情報伝達などのソフト対策、住宅の嵩上げなど建築物の浸水対策が対象です。

また、もう一つの柱として「災害レッドゾーンの居住誘導区域からの原則除外」が強化されました。災害危険区域(急傾斜地崩壊等)、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)などは、居住誘導区域に含めてはならないことが明確化されています。

不動産従事者として注意すべき点があります。浸水想定区域は災害レッドゾーンとは別の扱いです。洪水浸水想定区域については、一部を除いて依然として居住誘導区域に含めることができますが、それは行政が防災指針に基づく対策を前提にしているからです。防災指針の有無や内容が、区域内の資産価値や将来の開発可能性に影響を与える可能性があります。立地適正化計画の改定サイクルは概ね5年とされており、区域の見直しも今後続いていきます。

この改正の詳細と不動産事業への影響については、下記の解説が参考になります。

2020年改正都市再生特別措置法と立地適正化計画の防災対応の詳細解説。

令和2年改正:立地適正化計画が改正されます(建築・都市計画専門ブログ)

不動産取引実務での確認フローと説明義務の落とし穴

ここからは、不動産従事者として実際の取引でどう動くべきかを整理します。確認の手順が重要です。

まず確認すべきは、取引対象の物件が立地適正化計画の計画区域内に位置しているかどうかです。計画区域外であれば本制度の届出義務は発生しません。計画区域内であれば、次に「居住誘導区域の内か外か」を確認します。この確認は各市町村のホームページ、または国土交通省が提供する「立地適正化計画区域・居住誘導区域等の公表状況」から行えます。

居住誘導区域外であれば、宅建士は取引相手に対して「居住誘導区域外における開発行為・建築行為には、行為着手の30日前までに市町村長への届出が必要」という旨を重要事項説明書で説明する義務があります。これは都市再生特別措置法に基づく法令上の制限として、重要事項説明書の「都市再生特別措置法」欄にチェックを入れて説明します。

次に重要なのが浸水想定区域の確認です。2020年8月施行の宅建業法施行規則改正により、水防法に基づく水害ハザードマップにおける物件所在地の説明が義務化されています。説明対象は洪水・雨水出水(内水)・高潮の3種類のハザードマップです。ここで注意が必要なのは、物件が浸水想定区域の外に位置していても、ハザードマップ上での位置を示して説明しなければならない点です。

整理すると確認フローは次の3ステップになります。

ステップ 確認内容 説明義務
立地適正化計画区域内か確認 計画区域内なら②へ
居住誘導区域内か外か確認 区域外なら届出義務を重要事項説明に記載
浸水想定区域・ハザードマップ確認 区域外でもハザードマップ上の位置を説明(義務)

この確認フローを抜かりなく実施することが、トラブル防止の基本です。説明漏れは業法違反につながります。

重要事項説明における浸水ハザードマップの説明義務と記載方法については、以下のページで詳しく解説されています。

ハザードマップの重要事項説明義務化に関する国土交通省の案内。

水害ハザードマップにおける対象物件の所在地の説明を義務化(国土交通省)

重要事項説明における都市再生特別措置法の扱いの詳細。

不動産の重要事項説明書における「都市再生特別措置法」とはなにか(イクラ不動産)

居住誘導区域の見直しが資産価値に与える独自視点のリスク

立地適正化計画は概ね5年ごとに見直しが行われます。この「見直し」が不動産の資産価値に大きな影響を与える可能性があることは、まだ十分に認識されていません。

現在、居住誘導区域に含まれている浸水想定区域のエリアでも、計画の見直しによって将来的に区域外に変更されるリスクがあります。居住誘導区域外になると何が起こるでしょうか?住宅の新規開発を行う際の届出義務が生じることに加えて、行政が公共投資(インフラ整備・生活サービス)を優先的に行うエリアから外れていきます。長期的には、人口が集積しにくくなるため、当該エリアの不動産需要が徐々に低下していく可能性が考えられます。

一方で、居住誘導区域内のエリアでは公共インフラへの重点投資が続くため、相対的に資産価値が維持されやすいと言えます。つまり、同じ浸水想定区域内の物件であっても、「居住誘導区域内か外か」で将来の資産性に差が出る可能性があります。これは使えそうな視点です。

不動産従事者として価値ある情報提供をするためには、単に現在の居住誘導区域の状況を確認するだけでなく、計画の次回見直し時期や見直しの方向性を事前に調べておくことが有効です。多くの市町村は立地適正化計画の策定・改定状況をホームページ上に公開しています。防災指針の内容と合わせて確認しておくと、顧客へのより深い情報提供につながります。

また、顧客が浸水想定区域内の居住誘導区域にある物件の購入を検討している場合は、「国土交通省のハザードマップポータルサイト(重ねるハザードマップ)」を活用して、浸水深や家屋倒壊等氾濫想定区域との重なりを一緒に確認することをお勧めします。これにより、顧客自身がリスクを視覚的に理解し、納得感を持って意思決定できるようになります。

国土交通省の「重ねるハザードマップ」は、浸水想定区域と都市計画情報を一画面で重ねて表示できる無料ツールです。

重ねるハザードマップ(国土交通省ハザードマップポータルサイト)