不動産業界DXの課題と推進に向けた実践的対策

不動産業界DXの課題と、現場が今すぐ動くための対策

DXツールを導入した不動産会社の8割以上が効果を実感しているのに、導入済みはまだ全体の約2割だけです。

この記事でわかること
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不動産DXが進まない5つの構造的課題

アナログ商慣習・属人化・人材不足・コスト・法制度——それぞれの課題が絡み合い、DX推進の足かせになっている実態を解説します。

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業界の最新調査データ

1,286名への調査で判明した「予算・人材・方法論」の3大障壁と、DX経験者の76.2%が効果を実感している現実をデータで紹介します。

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中小不動産会社でも使える実践ステップ

大規模投資なしでスタートできる「スモールDX」の進め方と、生成AI活用で月10時間以上の業務削減を実現する方法を紹介します。

不動産業界のDX課題──なぜ「わかっているのに進まない」のか

 

不動産業界でDXを「推進すべき」と考えている人の割合は、2025年の調査で98.6%にのぼります。ほぼ全員が必要性を感じているわけです。それなのに実際にDXに取り組んでいる・取り組む予定と答えた人は68.0%にとどまり、さらに具体的なDXツールを導入済みの不動産会社は全体の約2割(22.6%)という現実があります。

「わかっているのに進まない」。これが不動産DXの本質的な課題です。

ではなぜ進まないのか。DXに取り組まない理由のトップは「予算がかけられない」(48.6%)、次いで「取り組み方がわからない」(22.1%)、「社内に人材がいない」(21.3%)という順番でした。つまり、ツールや技術の問題よりも先に、お金・知識・人材という3つの経営資源が不足していることが最大の壁です。

問題はここからです。予算・知識・人材の3つが同時に不足している状況では、「何かひとつ解決すればいい」という発想では動けません。これが不動産DXが”慢性的な停滞期”に入りやすい構造的な理由です。

参考:アットホーム式会社「不動産DXに関する実態調査2025」

不動産DXに関する実態調査2025(アットホーム)

不動産業界DXの課題①──属人化した業務プロセスとアナログ商慣習

不動産業界には、営業担当者個人の経験・人脈・勘に依存した業務プロセスが根深く残っています。顧客管理ひとつとっても、担当者のノートや頭の中にしかない情報が多く、退職や異動があると顧客対応が一からやり直しになるケースも珍しくありません。

CRMやSFAといった顧客管理システムを導入しても、現場が「自分のやり方」に固執して入力してくれない——というのは、不動産会社のDX担当者から繰り返し聞かれる悩みです。つまり、システム側の問題ではなく組織文化の問題です。

また、商習慣の問題も大きいです。不動産取引は契約・登記・重要事項説明など法的手続きが多く、以前は「紙と押印と対面」が前提でした。2022年の宅建業法改正により電子契約・IT重説が全面解禁されましたが、取引先の金融機関や司法書士が紙を求めるケースは今でも残っており、片方だけデジタル化しても業務が完結しない状況が続いています。

「仕方なく紙を残している」状態のまま新しいシステムを入れると、紙とデジタルが混在するハイブリッド運用になります。これは二度手間を生み、かえって業務負担を増やすことがあります。アナログ業務の見直しを先行させることが原則です。

参考:不動産DXが遅れている構造的要因を詳しく解説した記事

不動産業界でDXが遅れている5つの理由|SHIFT AI経営メディア

不動産業界DXの課題②──導入コストとIT人材不足という二重苦

不動産会社のDX年間予算を調査すると、69.6%が「100万円以下」と回答しています。さらに約54%が「10万円未満」という驚くべき数字も出ています。10万円というのは、一般的なクラウド型賃貸管理システムの年間利用料にも満たない金額です。規模感でいえば、社員10名以下の中小不動産会社が全体の大半を占める業界では、この予算制約は現実的な課題です。

IT人材の問題も深刻です。経済産業省の推計では、IT人材の不足数は2030年に最大約80万人規模に達するとされています。不動産業界はIT業界ではないため、そのような希少人材を採用で争うのはさらに難しい状況です。不動産DX調査(2025年版)でも「社内に人材がいない」が取り組まない理由の第3位に挙がっており、社内でDXを引っ張る人材がいないことが停滞の直接的な要因になっています。

しかし、ここに見落とされがちなポイントがあります。IT人材がいなくてもDXはできます。重要なのは「自社でゼロからシステムを開発する人材」ではなく、「既製品のSaaSツールを選定・運用できる人材」です。この2つを混同して「IT部門がないからDXは無理」と諦めてしまうのは、時間とビジネス機会の損失につながります。

コストについても同様です。月額数千円から始められる電子契約サービスや、無料プランのあるクラウドCRMも存在します。まずは「1つの業務」に絞って小さく始める発想が、予算制約のある中小不動産会社には向いています。

参考:不動産DX推進状況調査2025の詳細データ

不動産業界のDX推進状況調査2025(GA technologies)

不動産業界DXの課題③──システム開発失敗率6割超という見落とされたリスク

DXを推進しようとした際に、「業務に合ったシステムを自社用に開発しよう」と考える不動産会社もあります。ところが、不動産業界の開発者300人を対象にした調査(株式会社サービシンク)では、システム開発に「失敗した経験がある」と答えた人が実に60.1%にのぼりました。「非常にある」が10.6%、「数回程度ある」が49.5%という内訳です。

失敗の主な原因として挙がったのは、「システム開発の目的が共有されていない」(35.5%)、「システム開発の標準化がされていない」(33.9%)、「新しい技術を取り入れる準備ができていない」(32.3%)といった項目です。技術的な問題よりも、組織のコミュニケーションや準備不足が原因であることがわかります。

さらに特徴的なのは、「どんなシステム開発会社を選びたいか」という質問に対して、「不動産に特化し、不動産業界に理解のある会社」を選びたいという回答が60.0%でトップだったことです。技術力やコストパフォーマンスよりも「業界理解」を最優先している点は、不動産業務の複雑さを物語っています。

オーダーメイドのシステム開発は費用も時間もかかる上、失敗リスクが高いです。不動産業向けに特化した既製品のSaaSツールをまず試すほうが、時間的にも金銭的にもリスクが低い選択といえます。外注する場合でも、不動産業界に精通した開発会社を選ぶことが条件です。

参考:不動産業界のシステム開発失敗に関する調査データ

不動産業「システム開発の失敗」6割以上が経験あり(BizHint)

不動産業界DXの課題④──「ツール導入=DX完了」という誤解が招く停滞

DXが途中で止まってしまうもうひとつの大きな原因が、「ツールを入れた=DX達成」という誤解です。これが、多くの不動産会社が見えない壁にぶつかる根本的な原因です。

たとえば、電子契約システムを導入したとします。確かに紙の契約書は減ります。しかし、顧客管理が旧来のエクセル管理のまま、物件情報が担当者のPCにバラバラに保存されたまま、問い合わせ対応が担当者の個人スマホのLINEのまま——という状態では、業務全体のデジタル化はほぼ進んでいません。

DXとは本来、デジタル技術を使って業務の流れそのもの、組織の動き方、さらには企業文化を変革することです。特定の道具を1つ増やすことではありません。この点を経営トップが正確に理解していないまま進めると、現場の温度差が広がり、ツールは形骸化します。

「DXに取り組んでいる」と答えながらも、データが部門間で断絶していて一元管理できていない会社は業界内に多く存在します。たとえば仲介部門・管理部門・営業部門がそれぞれ別々のシステムを使い、情報を手動で転記しているケースは珍しくありません。これはデジタル化であって、DXではないということですね。

DXを正しく進めるための出発点は、「今の業務のどこに手動・紙・属人の工程があるか」を可視化することです。ツールを選ぶ前に、まず業務の棚卸しを行うことが条件です。

よくある誤解 DXの本質
電子契約を導入した 業務フロー全体をデジタルでつなぐ
物件情報をExcelで管理している 全社でリアルタイム共有・分析できる状態にする
チャットツールを使い始めた コミュニケーション構造と意思決定プロセス自体を変える
IT担当者を一人採用した 全社員が一定のデジタルリテラシーを持つ体制を作る

不動産業界DXの課題⑤──生成AI活用の「興味と実態のギャップ」が競争格差を生む

2025年の不動産DX調査では、生成AIに「興味がある」と答えた人は65.3%に達しました。ところが実際に「活用している・活用予定」と答えたのは46.3%で、約20%のギャップがあります。興味はあっても行動できていない層が2割いるということです。

さらに生成AIを活用できている人の中でも、月10時間以上の業務削減を実現できている人は全体の11.1%に過ぎません。一方で、活用しているものの月1時間未満の削減しかできていない人も31.4%います。つまり、使い方によって効果に大きな差が出ています。

生成AIを不動産業務にどう使うか、具体例を挙げます。まず「物件紹介文の作成」は最も導入しやすい分野です。ChatGPTなどに物件スペックを入力するだけで、魅力的な物件紹介文を数十秒で生成できます。次に「問い合わせメールへの返信文の作成」も効果的です。定型的な返信のドラフトをAIに作らせ、担当者が少し加筆修正するだけで対応時間を大幅に短縮できます。

さらに一歩進んだ活用として、チャットボットによる24時間問い合わせ対応の自動化があります。人手不足が慢性化している不動産会社では、問い合わせに即応できないことで顧客を逃しているケースが少なくありません。AI対応を導入すれば、営業時間外の問い合わせを機会損失なく受け取れるようになります。

生成AIへの興味はあっても動けていない場合、まずChatGPTの無料版で「物件紹介文を書かせてみる」だけで十分です。小さな成功体験が、社内の生成AI活用を広げるきっかけになります。

参考:不動産業界の生成AI活用・DX推進状況の詳細

不動産業界のDX推進状況調査2025(WealthPark)



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