借地権割合とは路線価で読む評価と計算のすべて
路線価に記載された借地権割合60%で底地を売っても、実際の取引額は30%以下になることがあります。
借地権割合とは何か:路線価に記載される「税務の割合」の正体
借地権割合とは、土地の更地評価額(自用地としての価額)に対して、借地権がどれだけの価値を占めるかを示す割合です。1つの土地に「地主の権利(底地権)」と「借り手の権利(借地権)」という2種類の権利が同時に存在するため、税務上はその価値を分けて評価する必要があります。
この割合は、国税庁が毎年公表している「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」に掲載されており、相続税や贈与税の計算に使われます。つまり、借地権割合はあくまで税務上の評価基準です。
ここで重要なのは、借地権割合は「売買価格を決めるための割合ではない」という点です。不動産実務の現場では、この割合を不動産取引価格の根拠として使おうとするケースが散見されますが、それは誤りになります。この点は後述の「実務上の注意点」で詳しく解説します。
借地権割合は、30%から90%の間で、10%刻みで設定されています。地域によって異なり、土地の利用価値が高い都市部ほど高く設定される傾向があります。たとえば東京・銀座や新宿駅周辺では90%(A)が見られる一方、郊外の住宅地では50〜60%(D〜E)が一般的です。
借地権割合が高い地域は、それだけその土地を実際に使っている借地人に帰属する価値が大きい、ということですね。
借地権割合を決める根拠は、財産評価基本通達27項に規定されており、借地権の売買実例価額や精通者意見価格、地代の額などを総合的に考慮して、国税局長が地域ごとに定めます。
以下に借地権割合とアルファベット記号の対応表を示します。
| 記号 | 借地権割合 | 多い地域の例 |
|---|---|---|
| A | 90% | 都心部の主要駅周辺・商業一等地(銀座・新宿等) |
| B | 80% | 都市部の主要駅周辺・人気商業地域 |
| C | 70% | 交通量の多い駅前・高級住宅地 |
| D | 60% | 都市部への通勤圏の市街地住宅地 |
| E | 50% | 郊外の比較的閑静な住宅地 |
| F | 40% | 地方の交通が発達した住宅地 |
| G | 30% | 都市から離れた郊外・農村部 |
参考:国税庁「財産評価基本通達27項(借地権の評価)」の内容については以下のページで確認できます。
国税庁|財産評価基本通達 第2章 宅地及び宅地の上に存する権利の評価(第11条〜第27条の5)
借地権割合の路線価図の読み方:アルファベットと数字の意味
路線価図とは、道路に面した土地の1㎡あたりの評価額(路線価)を地図形式で示したもので、毎年7月1日に国税庁が公表します。路線価図には「280D」「550C」のように、数字とアルファベットがセットで記載されています。
数字の部分は路線価(千円単位)を示しています。「280D」であれば、1㎡あたり28万円という意味です。アルファベットの部分が借地権割合です。
たとえば「550D」と記載されていれば、路線価は55万円(1㎡)、借地権割合は60%(D)と読み取ります。
路線価図は数字を見るだけで止まりがちですが、アルファベットを見落とすと借地権評価の計算ができません。これが原則です。
路線価図の調べ方の手順は以下の通りです。
- 国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」にアクセスする
- 調べたい都道府県を選択し「路線価図」をクリックする
- 市区町村・地名を選択して路線価図を表示する
- 対象地に接する道路の数字とアルファベットを確認する
なお、路線価図でアルファベットが記載されていない(空欄)地域は、借地権の取引慣行がなく、借地権の評価をしないとされています。借地権が存在しないわけではありませんので注意が必要です。
意外ですね。アルファベット空欄=借地権なし、ではありません。
路線価が設定されていない地域(倍率地域)では、路線価図ではなく「評価倍率表」を使います。郊外の農地・山林などがある地域に多く見られます。倍率地域の調べ方は、同じく国税庁のサイトで都道府県・市区町村を選択し「評価倍率表(一般の土地等用)」から対象の町(丁目)または大字名を検索します。
倍率地域での借地権割合はパーセンテージで直接表示されています。評価倍率表の「借地権割合」欄に「−」と表示されている地域は、路線価図側で確認が必要です。
路線価図・評価倍率表の公式ページは以下から確認できます。
借地権割合を使った相続税評価額の計算方法
借地権割合を使った評価額の計算は、立場によって3つのパターンがあります。不動産従事者として依頼者の状況に応じて使い分けることが必要です。
① 借地権(借り手側)の評価額
借地人側の評価計算は以下の通りです。
- 借地権評価額 = 自用地としての価額 × 借地権割合
たとえば、路線価55万円・土地200㎡・借地権割合60%(D)の場合は次のようになります。
- 自用地価額:55万円 × 200㎡ = 1億1,000万円
- 借地権評価額:1億1,000万円 × 60% = 6,600万円
② 貸宅地(地主側の底地)の評価額
地主側(底地権)は「自用地評価額から借地権分を差し引いた残り」で評価します。
- 貸宅地の評価額 = 自用地としての価額 × (1 − 借地権割合)
同じ例で計算すると、1億1,000万円 × 40% = 4,400万円です。底地割合が40%ということですね。
③ 貸家建付地(土地を借りて建物を建て第三者に貸している場合)の評価額
テナントや賃貸マンションを運営している借地人の場合は、さらに借家権割合と賃貸割合を加味します。
- 貸家建付地の評価額 = 自用地評価額 × (1 − 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
借家権割合は国が一律30%と定めています。賃貸割合は満室率のことで、20戸中10戸入居であれば50%です。
借地権割合が高い地域でテナント経営をしている借地人は、この計算式で評価額がかなり圧縮されます。節税効果が高い構造になっているため、相続対策の相談時に活用できる知識です。
参考:国税庁タックスアンサー「借地権の評価」と「貸宅地の評価」の具体的な内容は以下のページで確認できます。
国税庁|No.4611 借地権の評価
国税庁|No.4613 貸宅地の評価
借地権割合が必要になる4つの場面と実務上の落とし穴
借地権割合は、不動産実務においていくつかの場面で登場します。それぞれの場面での使い方と、実務上でよく起きる誤解を整理します。
場面① 相続発生時
借地人が亡くなった場合、借地権と借地上の建物は相続財産に含まれ、相続税の課税対象となります。法定相続人が借地権を引き継ぐ場合、地主の承諾は不要です。これは相続が「売買や贈与といった意思表示による権利移転ではない」からです。
承諾料が不要なのに誤解している依頼者は多いですね。
ただし、法定相続人以外への遺贈(遺言による特定の人への財産移転)の場合は地主の承諾が必要になります。実務上で混同されやすいポイントですので、依頼者に確認が必要です。
また、2024年4月から相続登記が義務化されており、相続知日から3年以内の申請が必要です。これを怠ると10万円以下の過料が発生する可能性があります。
場面② 贈与時
借地権の贈与は、原則として地主の承諾が必要です。相続とは異なります。地主の承諾を得ずに名義変更すると、借地契約が解除される可能性があります。依頼者が「相続と同じだから大丈夫」と誤解しているケースが実務でも見られます。
相続か贈与かで、地主承諾の要否が変わるのが原則です。
場面③ 借地権売却時
借地権を第三者に売却する場合は地主の承諾が必要で、承諾料(譲渡承諾料)として借地権価格の10%程度が相場です。ここで重要なのが、「路線価に記載された借地権割合通りに売買は成立しない」という点です。
不動産鑑定士や実務家の間では広く認識されていますが、借地権割合60%の地域でも、実際の取引では50%程度で成約するケースが多いとされています。地代が低い場合は路線価に近い水準になることもありますが、一般的にはやや低くなる傾向があります。
実際に「路線価上の借地権割合=取引価格」と勘違いして顧客にそのまま説明すると、後でクレームに発展するリスクがあります。
また、底地(地主の権利)を第三者に単独で売却する場合、買取価格は更地価格の10〜30%程度になることも珍しくありません。借地権割合で計算した「底地割合40%」とは大きく乖離します。
場面④ 地代設定時
地代の適正水準の参考として借地権割合を活用することがあります。ただし、権利金の授受がある場合とない場合で、底地・借地それぞれの相続税評価が大きく変わります。地代の設定は相続対策にも影響するため、税理士との連携が重要です。
借地・底地に関する実務上の考え方を詳しく解説した参考ページです。
底地犬の巣|注意!「借地権割合」の使い方でこんな間違いをしていませんか?
借地権割合と路線価を活用した相続税対策:小規模宅地特例との組み合わせ
借地権割合を正しく理解すると、相続税の節税対策の提案にも活かせます。特に「小規模宅地等の特例」との組み合わせは、不動産従事者として依頼者に伝えられると大きな差別化になります。
小規模宅地等の特例とは、被相続人が自宅や事業用として使っていた土地(または土地上の権利)を相続した場合、一定の要件を満たせば評価額を最大80%減額できる制度です。
ここで知っておきたいのは、借地権(自分が所有しない借りている土地)であっても、この特例が適用できるという点です。これは知らない方が多いポイントです。
根拠は租税特別措置法第69条の4第1項で、「土地または土地の上に存する権利」が対象と規定されており、借地権は「土地の上に存する権利」に該当します。
具体的な節税効果を数字で見てみましょう。
- 自用地評価額:1億2,000万円
- 借地権割合:70%(C)→ 借地権評価額 8,400万円
- 配偶者が同居継続・330㎡以内の場合(特定居住用宅地等)
特例適用前:借地権評価額 8,400万円
特例適用後:8,400万円 × (1 − 80%) = 1,680万円
評価額が6,720万円圧縮されます。これは使えそうです。
借地権を相続した場合、路線価ベースの評価額はすでに更地より低くなっています。さらに小規模宅地等の特例も使えるため、二重の節税効果が期待できます。首都圏や地方主要都市の借地では、この組み合わせで相続税が大幅に軽減されるケースがあります。
一点注意が必要です。小規模宅地等の特例は、配偶者・同居親族・家なき子など、適用パターンごとに要件が細かく異なります。不動産従事者として概要を理解した上で、詳細は税理士に確認・連携することが、依頼者へのトラブル防止にもつながります。
路線価自体も、公示価格のおおむね80%を目安に設定されているため、実勢価格よりも低い水準になっています。借地権を相続することは、現金を持つより相続税評価上は有利な場合が多いという点も、依頼者への説明に使えます。
借地権への小規模宅地等の特例適用に関する詳しい解説は以下で確認できます。
税理士法人チェスター|借地権に小規模宅地等の特例は適用可能か?
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【中古】借地権割合と底地割合 権利割合の本質と実務への応用 /判例タイムズ社/日本不動産鑑定協会(単行本)