相続税の基礎控除額の計算と法定相続人の正しい数え方

相続税の基礎控除額の計算と法定相続人の正しい数え方

相続放棄した相続人も、基礎控除の計算では人数に含めます。

この記事の3ポイント
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基礎控除の計算式を正確に押さえる

「3,000万円+600万円×法定相続人の数」が基本。2015年改正で控除額が4割削減され、課税対象者は約1.8倍に増加しました。

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法定相続人の「数え方」に落とし穴がある

相続放棄・養子・代襲相続など、ケースによって人数の数え方が変わります。ミスが基礎控除額の計算誤りに直結します。

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不動産に関わる特例を活用して節税につなげる

小規模宅地等の特例を使えば土地の評価額を最大80%減額できます。基礎控除と組み合わせると相続税がゼロになるケースもあります。

相続税の基礎控除額の計算式と2015年改正の影響

 

相続税には、遺産の総額が一定額以下であれば課税されないという「基礎控除」の仕組みがあります。基礎控除額の計算式は以下のとおりです。

法定相続人の数 基礎控除額
1人 3,600万円
2人 4,200万円
3人 4,800万円
4人 5,400万円
5人 6,000万円

計算式にある「3,000万円」は固定部分で、「600万円×法定相続人の数」は人数が増えるたびに加算される変動部分です。つまり法定相続人が1人増えるごとに基礎控除が600万円ずつ大きくなる、という仕組みです。

注目すべき背景として、2015年1月の税制改正があります。改正前の基礎控除額は「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」でしたが、改正後は現在の計算式に引き下げられました。この変化により基礎控除額は実に4割削減され、相続税の課税対象となる人の割合が改正前の約4%から改正後は約8%前後まで増加し、課税対象者数は約1.8倍にまで膨らみました。

不動産従事者にとって特に重要なのは、都市部の影響です。路線価が高い地域では、自宅1棟だけで基礎控除額を超えるケースが珍しくありません。これが大きなポイントです。土地・建物の評価は時価ではなく路線価や固定資産税評価額を基準にするため、実際の売買価格より2割程度低く算出されることが多いとはいえ、それでも都市部の不動産は相続税と無関係ではいられない水準に達しているケースが多いです。顧客への説明時に「うちは財産が少ないから関係ない」という誤解を解くきっかけにもなります。

参考:基礎控除の改正前後の比較と相続税の仕組みは国税庁の公式ページで確認できます。

No.4152 相続税の計算|国税庁

相続税の基礎控除における法定相続人の正しい数え方

基礎控除額の計算で最も注意が必要なのが「法定相続人の数え方」です。単純に家族の人数を数えるだけでは足りず、民法上の規定に従って正確に判定しなければなりません。法定相続人の数え方が基礎控除額を左右します。

まず、法定相続人には優先順位があります。配偶者は常に相続人となり、血族相続人は第1順位(子・孫)、第2順位(父母・祖父母)、第3順位(兄弟姉妹)の順で権利が発生します。上位の相続人がいれば、それより下位の人には相続権が生じません。

ここで特に間違えやすいのが以下のケースです。

  • 相続放棄した人がいる場合:相続を放棄した人は民法上は「最初から相続人でなかった」とみなされますが、相続税の基礎控除計算では放棄がなかったものとして人数に含めます。例えば子3人のうち1人が放棄しても、基礎控除の計算は法定相続人3人分で行います。
  • 養子がいる場合:養子は実子と同様に法定相続人となりますが、基礎控除の計算に含められる養子の数には上限があります。被相続人に実子がいる場合は養子1人まで、実子がいない場合は養子2人までが上限です。この制限は相続税の節税目的で無制限に養子を増やすことを防ぐために設けられています。
  • 代襲相続の場合:子が被相続人より先に亡くなっていて孫が代わりに相続する場合(代襲相続)、その孫が法定相続人となります。兄弟姉妹が相続人の場合の代襲相続は甥・姪の一代限りです。

「養子は何人増やしても大丈夫」という誤解が現場では散見されます。これは誤りです。節税対策として養子縁組を検討している顧客がいれば、上限人数を必ず確認するよう案内しましょう。

参考:法定相続人の範囲や相続順位の詳細は国税庁のページで確認できます。

相続人の中に養子がいるとき|国税庁

相続税の基礎控除額と遺産総額の計算手順(具体例つき)

基礎控除額の計算ができたら、次は実際に課税対象となるかどうかを判定するための「遺産総額」を正確に算出する必要があります。遺産総額の計算手順が原則です。

遺産総額の計算式は「プラスの財産−非課税財産−債務・葬式費用」です。不動産従事者が特に把握しておきたいのは、不動産の評価方法と、遺産に含まれる「みなし財産」の存在です。

土地の評価: 土地は路線価方式(路線価×面積)または倍率方式で評価します。路線価は公示価格の約80%水準で設定されているため、時価1億円の土地の相続税評価額は8,000万円程度になることが多いです。現金でそのまま持つよりも不動産に換えることで評価額が下がり、節税効果が生まれる理由はここにあります。

建物の評価: 建物は固定資産税評価額をそのまま使います。一般に建築費の50〜60%程度の水準です。

みなし財産(生命保険金など): 被相続人の死亡により支払われる生命保険金は、受取人固有の財産でありながら「みなし財産」として課税対象に含まれます。ただし非課税枠があり、「500万円×法定相続人の数」までは非課税です。法定相続人が3人なら1,500万円まで非課税になります。これは使える枠です。

具体的な計算例を見てみましょう。

> 【事例】法定相続人3人(配偶者+子2人)、遺産:自宅土地5,000万円・建物1,000万円・預貯金2,000万円・生命保険金1,500万円

  • 基礎控除額:3,000万円+(600万円×3)=4,800万円
  • 生命保険非課税枠:500万円×3人=1,500万円(全額非課税)
  • 課税遺産総額:(5,000万円+1,000万円+2,000万円+0万円)−4,800万円=3,200万円

このケースでは3,200万円が相続税の課税対象です。基礎控除だけで完全に非課税にはなりませんが、次のH3で紹介する特例を組み合わせると大幅に圧縮できます。

相続税の基礎控除と小規模宅地等の特例の組み合わせ効果

不動産が相続財産に含まれる場合、基礎控除と並んで必ず確認すべきなのが「小規模宅地等の特例」です。これは一定の条件を満たす土地について、相続税の計算上の評価額を最大80%まで減額できる制度です。不動産を持つ顧客にとって最強の節税策といえます。

主な適用区分は以下のとおりです。

宅地の種類 限度面積 減額割合
特定居住用宅地等(自宅) 330㎡まで 80%減額
特定事業用宅地等 400㎡まで 80%減額
貸付事業用宅地等(賃貸物件) 200㎡まで 50%減額

先ほどの事例にこの特例を適用してみましょう。自宅土地5,000万円のうち330㎡以内であれば、評価額が80%減額されて1,000万円になります。

> 特例適用後の課税遺産総額:(1,000万円+1,000万円+2,000万円)−4,800万円=マイナス800万円

課税遺産総額がマイナスとなり、相続税はゼロ円になります。

ただし、この特例には重要な注意点があります。特例を適用して相続税がゼロになった場合でも、申告書の提出は必須です。申告しなければ特例の適用が認められず、相続税が発生してしまいます。「税金ゼロ=申告不要」は誤りです。不動産従事者として顧客案内時に必ず添えておくべき情報といえます。

また、特定居住用宅地等の適用には「誰が相続するか」によって要件が変わります。配偶者であれば原則として無条件で適用可能ですが、子などの同居していない相続人が取得する場合は「家なき子特例」の要件を満たす必要があります。

参考:小規模宅地等の特例の要件・計算方法の詳細は国税庁のページで確認できます。

No.4124 小規模宅地等の特例|国税庁

相続税の基礎控除を超えた場合の税率と各種税額控除の活用法

遺産総額が基礎控除額を超えた場合、相続税がかかります。ただし「基礎控除を超えた全額に課税される」わけではありません。基礎控除を超えた部分(課税遺産総額)に対して累進税率が適用されます。税率の仕組みを理解することが大切です。

相続税の税率は以下のような段階構造になっています。

法定相続分に応じた取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

税率の適用は「各法定相続人が法定相続分どおりに取得した」と仮定して計算した後、実際の取得割合で按分します。これが相続税の総額の計算手順です。

税率に加えて、基礎控除以外にも税額を減らせる各種の控除があります。代表的なものを整理しておきましょう。

配偶者の税額軽減: 配偶者が相続した遺産が1億6,000万円以下、または法定相続分以下であれば、配偶者に相続税はかかりません。非常に強力な制度です。ただし先述のとおり申告は必須で、申告期限は相続開始を知った日から10か月以内です。

未成年者控除: 法定相続人である未成年者(18歳未満)が相続した場合、(18歳−相続開始時の年齢)×10万円が控除されます。例えば10歳の子が相続した場合、80万円の控除が受けられます。

障害者控除: 相続人が障害者の場合、85歳になるまでの年数×10万円(特別障害者は20万円)が控除されます。

これらの控除は、基礎控除と組み合わせて活用することで最終的な納税額を大きく減らすことができます。顧客が「相続税がかかりそう」と相談してきた際には、小規模宅地等の特例・配偶者控除・生命保険の非課税枠などを漏れなく確認することが、専門家として信頼される対応になります。相続税の専門家である税理士への早期相談を案内するのが、最も確実な一手です。

参考:相続税の税率の詳細は国税庁のページで確認できます。

No.4155 相続税の税率|国税庁



【中古】 Q&A不動産オーナーの相続対策 遺産分割対策 納税資金対策 相続税対策/伊藤健司(著者)