火災保険の解約返戻金の勘定科目と正しい仕訳処理
解約返戻金を受け取っても、消費税は一切かかりません。
火災保険の解約返戻金とは何か・基本的な仕組み
火災保険の「解約返戻金」とは、契約期間の途中で保険を解約した際に、保険会社から戻ってくる未経過期間分の保険料のことです。不動産業に従事していると、物件の売却、建て替え、保険の見直しなど、さまざまなタイミングで火災保険を解約する機会があります。
特に長期契約の火災保険(以前は最長10年、2022年10月以降は最長5年)を途中解約した場合、残存する期間に対応する保険料が返戻金として戻ってきます。この金額は契約期間が長く残っているほど大きくなり、数十万円になることも珍しくありません。
つまり重要なことです。解約返戻金は単なる「お金の入金」ではなく、経理上は適切な勘定科目で仕訳する必要があります。処理を誤ると、利益計算がずれ、法人税や所得税の申告額にも直接影響が出ます。
なお、火災保険には大きく分けて「掛け捨て型」と「積立型(満期返戻金あり)」の2種類があります。どちらの型かによって、解約返戻金の会計処理の方法が変わってきます。これが原則です。
| 保険の種類 | 特徴 | 解約返戻金の処理 |
|---|---|---|
| 掛け捨て型 | 保険期間終了後に戻り金なし | 全額「雑収入」 |
| 積立型(満期返戻金あり) | 積立部分が資産に計上されている | 「保険積立金」取崩+差額を「雑収入」または「雑損失」 |
まずは自社が契約している火災保険がどちらの型かを保険証券や保険会社への問い合わせで確認しましょう。確認が条件です。
参考:火災保険の仕訳に使える勘定科目の解説(マネーフォワード クラウド会計)
火災保険の解約返戻金の勘定科目・掛け捨て型の仕訳例
掛け捨て型の火災保険を解約した場合、受け取った解約返戻金はシンプルに全額を「雑収入」として計上します。これが基本です。
では、具体的な仕訳例で確認してみましょう。
【例①:1年以内の契約を解約した場合】
1年以内の掛け捨て型火災保険で保険料を「保険料」として全額経費に計上済みの場合、解約返戻金15万円が普通預金に入金された時の仕訳は次の通りです。
| 借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 150,000円 | 雑収入 | 150,000円 |
これだけで問題ありません。
【例②:長期契約(前払費用・長期前払費用あり)を途中解約した場合】
このケースが最も注意が必要です。たとえば5年契約で火災保険料120万円を一括払いし、帳簿上に「長期前払費用」の残高が72万円ある状態で物件を売却し、解約返戻金として70万円が戻ってきたとします。
この場合、返戻金70万円と長期前払費用残高72万円の差額2万円は「雑損失」として計上します。
| 借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 700,000円 | 長期前払費用 | 720,000円 |
| 雑損失 | 20,000円 |
逆に返戻金が長期前払費用の帳簿残高を上回った場合、その差額は「雑収入」になります。差額の方向がどちらかで、使う勘定科目が雑損失か雑収入かに分かれるということですね。
不動産業では物件の売却タイミングと保険の解約が重なるケースが頻発します。物件を引き渡した後に保険会社から返戻金が振り込まれることも多く、入金と帳簿残高の突合を忘れないようにしましょう。
参考:損害保険の返戻金が戻ってきた場合の不動産業向け仕訳解説(叶 税理士法人)
火災保険の解約返戻金の勘定科目・積立型の仕訳と保険積立金の処理
積立型の火災保険は、保険料の一部が「積立部分」として資産計上されています。帳簿には「保険積立金」という勘定科目で計上されているはずです。これを解約したときは、積立型特有の処理が必要になります。
保険積立金が残っている場合、解約時にはまずその保険積立金を全額取り崩します。そして解約返戻金との差額が生じた場合、プラスなら「雑収入」、マイナスなら「雑損失」として処理するのが原則です。
【パターンA:解約返戻金 > 保険積立金の場合(差益が出るケース)】
解約返戻金900万円・保険積立金700万円の場合の仕訳例です。
| 借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 9,000,000円 | 保険積立金 | 7,000,000円 |
| 雑収入 | 2,000,000円 |
【パターンB:解約返戻金 < 保険積立金の場合(差損が出るケース)】
解約返戻金600万円・保険積立金700万円の場合の仕訳例です。
| 借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 6,000,000円 | 保険積立金 | 7,000,000円 |
| 雑損失 | 1,000,000円 |
厳しいところですね。保険積立金が多い時期に早期解約すると、差損が大きくなることがあります。積立型火災保険を解約するタイミングは、保険積立金の帳簿残高と解約返戻金の見込み額を事前に比較した上で判断することが重要です。
なお、保険会社からは解約時に積立金の残高証明や解約計算書が発行されます。その書類の数字と自社の帳簿残高が合っているかを必ず確認してください。
参考:保険積立金の処理を含む解約返戻金の仕訳解説(CPAラーニング)
https://www.cpa-learning.com/column/keiri/保険料の勘定科目は?パターン別の勘定科目と仕訳/
火災保険の解約返戻金の消費税の扱い・不課税と非課税の違い
解約返戻金を受け取ったとき、会計ソフトへ入力する際に「消費税の税区分」を設定する場面があります。ここで非常に多くの不動産業者がミスをしています。意外ですね。
解約返戻金は「不課税(課税対象外)」取引です。「非課税」ではありません。この2つは似ているようで、消費税の申告書上の扱いが全く異なります。
- 🔴 不課税(課税対象外):そもそも消費税法の課税対象に含まれない取引。解約返戻金はこちらに該当します。対価性がないため課税の枠外です。
- 🟡 非課税:消費税法の課税対象にはなるが、政策的に課税しないと定められた取引(土地の売買、住宅の家賃収入など)。
なぜこの区別が大切なのでしょうか?理由は、消費税の課税売上割合の計算にあります。「非課税売上」は課税売上割合の分母に算入されますが、「不課税」は分母にも算入されません。誤って「非課税」で入力すると、課税売上割合が下がり、仕入税額控除の計算に影響が出る可能性があります。
これは使えそうです。会計ソフト(freee、弥生、マネーフォワードなど)を使用している場合、解約返戻金の入金を処理する際には、税区分を必ず「不課税」または「対象外」に設定してください。「非課税」に設定するのはダメです。
また、保険料の未経過分が戻ってくる「保険料の返戻」と、解約返戻金では税区分の名称が違います。保険料の返戻(未経過分の戻り)は「非課税仕入」の戻り、解約返戻金は「不課税」と整理しておきましょう。
参考:保険金収入と保険料の戻りの消費税処理の違いについて(ひなた税理士法人)
不動産業者が見落としやすい火災保険の解約返戻金の処理パターン3選
不動産業に関わる現場では、一般的な業種とは少し異なる場面での火災保険解約が発生します。ここでは現場でよく起こる3つの具体的なシーンを取り上げます。
① 物件売却に伴う火災保険の解約
物件を売却したとき、保有していた火災保険(長期一括払い)を解約するケースが最も多いパターンです。売却引き渡し日以降の未経過期間に対応する返戻金が戻ってきます。
この場合の仕訳は「売却引き渡し日まで」の保険料を費用化し、「引き渡し日以降」の未経過分が返戻金として入金されるという2段階の処理が必要です。帳簿上の長期前払費用残高と返戻金の差額を「雑収入」または「雑損失」として計上することになります。
② 建て替えや大規模改修で保険を入れ替えるとき
古い建物を壊して建て替える、または管理物件を大幅にリノベーションするタイミングで保険の入れ替えが行われます。このとき、旧建物に掛けていた火災保険を解約するため、返戻金が発生します。
前払費用の残高と比較して差額を処理するのは同じですが、新しい保険料の支払いが同時に発生するため、仕訳が混在しやすいです。入金と出金を明確に分けて処理することが大切です。
③ 法人から個人、または個人から法人への名義変更ができない場合の解約・再加入
不動産業者が個人から法人成りをした場合や、逆に法人を解散して個人で管理を続ける場合、火災保険の契約者名義の変更が保険会社によって認められないことがあります。その場合は旧契約を解約し、新たな名義で新規加入することになります。
法人の場合は解約返戻金が「雑収入(益金算入)」として法人税の課税対象になります。個人事業主の場合も同様に、事業用の火災保険の解約返戻金は「雑収入」として収入に計上します。これが原則です。
なお、個人の私有住宅の火災保険(事業に使用していない部分)の返戻金については、事業とは無関係のため会計処理は不要です。自宅兼事務所の場合は、事業利用割合(家事按分の比率)に応じた処理が必要になる点も覚えておけばOKです。
参考:勘定科目「保険料」とは(法人の経理処理)/解約返戻金の仕訳を含む(ジャパンネクス)

火災保険の解約返戻金を雑収入に計上する際の法人税・所得税への影響と注意点
解約返戻金を「雑収入」として計上することは、そのまま課税所得を増やすことを意味します。これを年度末のタイミングによって誤った年度に計上すると、誤申告につながります。
【計上タイミング:解約通知日か入金日か?】
解約返戻金の収益計上タイミングは「解約日(保険会社が解約を受理した日)」が原則です。入金日ではありません。年度をまたぐ場合(例:3月決算法人が3月に解約し、返戻金の入金が4月)は、収益計上は3月期になります。入金待ちで翌期に計上するのはダメです。
法人の場合、雑収入として益金に算入した解約返戻金は法人税の課税対象になります。たとえば解約返戻金が200万円で法人税実効税率が約30%だとすると、約60万円の追加税負担が生じる計算になります。解約を計画するときは、その年度の他の損益状況も踏まえてタイミングを検討する意識を持ちましょう。
【個人事業主(不動産賃貸業)の場合】
個人事業主が事業用物件に掛けていた火災保険を解約した場合、受け取った解約返戻金は「雑収入」として不動産所得の収入金額に算入します。結果として、不動産所得が増加し、所得税・住民税の課税所得が上がることになります。
特に、数百万円規模の返戻金が発生した年は、予定外の追加納税が生じる場合があります。解約返戻金を受け取ったら、その年の確定申告で正確に申告することが不可欠です。
【会計ソフトへの入力ミスの典型例】
以下のようなミスが実務では散見されます。
- ❌ 解約返戻金を「売上高」に誤計上 → 売上が膨らみ申告誤り
- ❌ 消費税区分を「課税」に設定 → 仮受消費税が発生する誤り
- ❌ 積立型なのに保険積立金の取崩しをせず全額「雑収入」に計上 → 資産に残高が残り続ける誤り
- ❌ 入金日を計上日として翌期に収益計上 → 期間損益のズレ
これらはいずれも税務調査で指摘されやすいポイントです。不動産賃貸業は税務調査の対象になりやすい業種でもあるため、会計処理の正確さには注意が必要です。
疑問点がある場合は、管轄の税務署か担当税理士に確認するようにしましょう。
参考:保険料に用いる勘定科目(freee)
https://www.freee.co.jp/kb/kb-journal/insurance-fee/
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【中古】 不動産投資と火災保険/薮井馨博(著者)