導管性要件とはTMKの税務優遇を左右する核心条件
TMKスキームで不動産を取得しても、導管性要件を1度でも外すと、その後ずっと法人税が課される可能性があります。
導管性要件とはTMKのペイスルー税制を実現する仕組み
TMK(特定目的会社:Tokutei Mokuteki Kaisha)は、資産の流動化に関する法律(資産流動化法)に基づいて設立される法人です。通常の株式会社と異なり、特定の不動産などを流動化するためだけに存在する「ハコ」として機能します。
TMKには法人格があるため、原則として法人税が課されます。しかしそのままでは、TMKが不動産から得た収益に対して法人税が課され、さらに投資家が受け取った配当にも所得税・法人税が課されるという「二重課税」が生じます。これでは不動産証券化のメリットが大幅に損なわれます。
この問題を解消するのが「ペイスルー税制」であり、その適用条件が「導管性要件」です。
導管性要件を満たすと、TMKが支払った配当金を「損金」として法人税の計算上控除できます。つまり利益をほぼ全額配当すれば、TMK自体の課税所得はほぼゼロになる仕組みです。TMKが利益を一種の「導管(パイプ)」として投資家に流すイメージから「導管性」と呼ばれています。
根拠条文は租税特別措置法第67条の14第1項です。
導管性が条件です。
なお、GK-TK(合同会社+匿名組合)スキームでは、匿名組合員への配当が損金算入できる点でTMKと機能的に似ていますが、根拠法・設立手続き・課税構造が異なります。GK-TKはパススルー課税、TMKはペイスルー課税という整理です。不動産証券化における両スキームの選択は、不動産の性質・投資家構成・スケジュールなどを総合的に判断して行われます。
TMI総合法律事務所:特定目的会社(TMK)を不動産流動化に利用する際のポイントと実務(第2回)
導管性要件とはTMKの「法人要件」と「適用事業年度要件」の2区分
導管性要件は、大きく2つのカテゴリーに分けられます。これを理解していないと、スキーム組成の段階で致命的なミスを犯す可能性があります。
①法人要件(措法67条の14第1項第1号)
法人要件は、TMK自体の「設計段階」で整えるべき要件です。一度でも満たさないと、それ以降永久に導管性(支払配当の損金算入)が認められなくなります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 特定目的会社名簿への登載 | 流動化法に規定する名簿に登載されていること |
| 特定社債・優先出資要件 | ①1億円以上の特定社債発行 ②機関投資家のみ保有 ③優先出資50人以上 ④優先出資が機関投資家のみ、のいずれかに該当 |
| 国内募集割合50%超 | 優先出資・基準特定出資の募集が各50%超国内で行われる旨が資産流動化計画に記載されていること |
| 会計期間1年以下 | 会計期間が1年を超えないこと |
②適用事業年度要件(措法67条の14第1項第2号)
適用事業年度要件は、各事業年度ごとに判定する要件です。この要件を満たさない事業年度だけ導管性が認められません。翌事業年度以降は要件を満たせば再び損金算入が可能になります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 資産流動化計画の遵守 | 計画に従って業務を行っていること |
| 他業禁止 | 流動化業務以外の業務を営んでいないこと |
| 業務委託 | 特定資産を信託または第三者に管理委託していること |
| 非同族会社要件 | 事業年度終了時点で同族会社に該当しないこと(特定社債要件を満たす場合は除外) |
| 90%超配当要件 | 配当可能利益の90%超を配当していること |
| 無限責任禁止 | 合名会社・合資会社の無限責任社員になっていないこと |
| 特定資産限定 | 資産流動化計画に記載された特定資産以外を保有していないこと、機関投資家からのみ借入れを行っていること |
この2区分は必須です。
法人要件の中でも特に重要なのが「特定社債要件」です。通常、TMKの出資者(特定社員)は数名程度しかいないため、同族会社に該当することが多くなります。同族会社のままでは適用事業年度要件の「非同族会社要件」を満たせません。そこで実務上は、メインバンクなどに1億円以上の特定社債を引き受けてもらうか、機関投資家のみに特定社債を引き受けてもらう方法で、法人要件と非同族会社要件の両方をクリアするのが一般的です。
導管性要件とはTMKの90%配当要件が最大の難関になる理由
導管性要件の中で、不動産従事者が最も注意すべきなのが「90%超配当要件」です。一見シンプルに見えますが、これが実務で一番の難所になります。
要件の内容は、「当該事業年度に係る利益の配当の支払額が、配当可能利益の90%相当額を超えていること」です。
ここで重要な注意点があります。それは「配当可能利益」の定義が複雑だという点です。
この要件における「配当可能利益」は、流動化法上の配当可能額ではなく、措置法上の特別な計算式で求めます。
$$配当可能利益 = 流動化法の配当可能額 – 前期繰越損失 – 減損損失 \times 70\% – 特定社債控除$$
「配当支払額(会計ベース)÷ 税務上の配当可能利益 > 90%」を満たさなければなりません。
ここに「税会不一致」という落とし穴があります。
例えば、TMKが保有する不動産に減損損失が発生した場合を考えます。会計上は減損損失が費用計上されるため、配当の原資となる利益(配当支払可能額)は小さくなります。一方、税務上は減損損失が損金として認められない(加算調整される)ため、課税所得は膨らみます。その結果、「税務上の配当可能利益」が会計上の利益より大幅に大きくなり、90%超の配当割合を満たせなくなる事態が起こりえます。
厳しいところですね。
この状況を完全に解消する救済措置が現行税法にはないため、「減損損失の認識=スキーム破綻」とまで言われることがあります。ただし、TMK計算規則では減損損失を特別損失として細分化して表記することが求められており、この細分化された減損損失の額の70%相当額を配当可能利益の算定から控除できる調整措置が設けられています。この調整があることで、多くのケースでは要件を維持できますが、すべてのケースで問題が解消されるわけではありません。
また、減損損失以外の税会不一致(貸倒損失・交際費・寄付金など)については、この70%調整の対象外です。これらが発生した場合、配当可能利益の計算に影響し、要件を満たせなくなるリスクがあります。
TMKのスキームを組む際には、こうした税会不一致リスクを事前にシミュレーションしておくことが不可欠です。具体的には、会計士・税理士とともに「どのような会計事象が発生しえるか」を洗い出し、スキーム設計に織り込む手順を踏みます。
SPC・ファンド監査の専門家事務所:特定目的会社(TMK)の配当の取り扱い(税会不一致リスクを詳しく解説)
導管性要件とはTMKの税制優遇に連動する登録免許税・不動産取得税の軽減条件
導管性要件は配当の損金算入だけでなく、不動産取得時の税コストにも直結しています。これは多くの不動産従事者が意外と知らない連動効果です。
登録免許税の軽減(租税特別措置法第83条の2の2)
通常の不動産所有権移転登記では、登録免許税率は1000分の20(2.0%)です。しかし、一定の要件を満たすTMKが取得する特定資産の不動産については、1000分の13(1.3%)に軽減されます。
例えば10億円の不動産を取得した場合で計算すると、
$$通常: 10億円 \times 2.0\% = 2{,}000万円$$
$$TMK軽減適用: 10億円 \times 1.3\% = 1{,}300万円$$
$$節税効果: 2{,}000万円 – 1{,}300万円 = 700万円$$
これは使えそうです。
不動産取得税の軽減(地方税法附則第11条第3項)
TMKが取得する特定資産の不動産については、課税標準の算定において不動産価格の5分の3が控除されます。通常の課税標準は不動産価格の100%ですが、TMKでは40%(=5分の2)に圧縮されます。
$$不動産取得税(通常): 不動産価格 \times 4\% (または3\%)$$
$$不動産取得税(TMK軽減): 不動産価格 \times \frac{2}{5} \times 4\% = 不動産価格 \times 1.6\%$$
ただし、これらの軽減措置には適用期限があります。現行制度は令和9年(2027年)3月31日までの時限措置です。期限が来るたびに延長が図られていますが、スケジュール管理は必須です。
また、登録免許税の軽減を受けるためには、不動産取得日の所有権移転登記申請時に財務局が発行する減税証明書を添付する必要があります。この証明書の取得には事前申請が必要で、手続きに相応の時間がかかります。スケジュールに余裕を持った準備が原則です。
さらに重要なのは、これらの軽減措置を受けるための要件が導管性要件とは別に設定されている点です。主な要件として、「資産流動化計画において特定不動産の合計額が特定資産全体の75%以上とする旨の記載があること」や「特定借入れに係る貸付人と特定社員とが同一ではないこと」などが求められます。導管性要件さえ満たせば自動的に適用されるわけではない、という点に注意が必要です。
TMI総合法律事務所:登録免許税軽減の要件(業務開始届出・特定不動産75%要件など詳細解説)
導管性要件とはTMKスキームの「永久失効リスク」を回避するための実務的視点
ここからは検索上位にはあまり出てこない実務的な視点を紹介します。導管性要件で最も怖いのは、「法人要件」の失効です。
適用事業年度要件を外してしまっても、翌年以降に要件を回復すれば損金算入を再開できます。一方、法人要件は「一度でも満たさないと永久に導管性が認められない」という厳格な規定です。これはインフラ投資法人(J-REIT)の導管性要件にも共通する考え方ですが、TMKにおいても同様に適用されます。
現行税法上、法人要件を満たさなかったことについて「やむを得ない事情がある場合の救済措置」は設けられていません。つまり、どんな理由があっても一度外れたら終わりです。
救済措置がない、というのが現実です。
では、実務的にどのようなリスクに注意すべきか整理します。
① 設立年度による導管性要件の違い
平成23年(2011年)以降に設立したTMKと、それ以前に設立されたTMKでは導管性要件の内容が異なる場合があります。既存のTMKスキームを引き継いだり、古いスキームを活用する場合には、設立時期を必ず確認します。
② 同族会社要件と特定社債の関係
TMKの出資者(特定社員・優先出資者)が少人数になりがちな実態から、同族会社に該当するリスクが常に存在します。実務上は1億円以上の特定社債を機関投資家(銀行・保険会社等)に引き受けてもらうことで、法人要件の「②特定社債要件」と事業年度要件の「非同族会社要件の例外」を同時にクリアするのが定石です。
③ 国内募集割合50%超要件の判定タイミング
資産流動化計画に「国内50%超募集」の記載があることが条件ですが、優先出資を2種類以上発行する場合は種類ごとに判定が必要です。また、判定は発行の都度行うため、過去分を含む累計での判定ではありません。
④ 平成23年以前設立TMKへの注意
平成23年以前に設立されたTMKでは、現行の導管性要件とは異なるルールが適用されることがあります。このため、既存のTMKスキームを承継・活用する場合には、必ず設立年度と当時の要件を確認することが重要です。
不動産証券化に携わる実務家にとって、TMKの導管性要件は「設計段階でのミスが後から取り返せない」という点で非常に神経を使います。スキームを組む際には不動産の専門家だけでなく、TMKの税務に精通した税理士・公認会計士を必ず関与させることが現場の常識です。