法人化のメリット・デメリットを不動産経営者が正しく判断する
法人化すれば節税になる、と思っていたのに年間100万円以上の出費が増えて後悔した方も実際にいます。
法人化のメリット①:課税所得900万円超で所得税が大幅に下がる
個人が不動産経営で稼ぐ場合、所得税は「累進課税」が適用されます。課税所得が増えるほど税率が上がっていく仕組みです。課税所得が900万円を超えると、所得税率は33%、住民税10%を合わせた合計税率は43%に到達します。
一方、法人税の実効税率は中小法人でおおむね年800万円超の部分でも約23.2%、実際に税金全体(法人税・住民税・事業税など)を合算した法人実効税率は約30%前後です。課税所得900万円超から、43%対30%という差が生まれます。これが法人化の節税効果の核心です。
たとえば課税所得が1,200万円の場合、個人なら所得税・住民税だけで約400万円超の税負担になります。法人化することで同じ収益に対する税負担が年間数十〜100万円単位で変わる可能性があるため、税率差のインパクトは非常に大きいといえます。
つまり課税所得900万円が節税の分岐点です。
ただし注意が必要なのは、課税所得の算定に「給与所得」も含まれる点です。会社員として働きながら不動産賃貸を行っているサラリーマン大家の場合、給与所得と不動産所得の合計で900万円を超えれば法人化の検討タイミングになります。自分の課税所得を把握することが第一歩です。
国税庁|所得税の税率(No.2260)および法人税の税率(No.5759)については下記が参考になります。
国税庁|No.2260 所得税の税率(個人の税率区分と累進課税の仕組みを確認できます)
国税庁|No.5759 法人税の税率(中小法人の軽減税率も含めた法人税率の詳細)
法人化のメリット②:役員報酬・経費の範囲が広がり相続対策にもなる
法人化による節税は税率差だけではありません。個人では認められない「役員報酬」「生命保険料」なども法人では経費に計上できるようになります。これは非常に大きなメリットです。
たとえば家族を法人の役員にして役員報酬を支払うことで、家族全体の所得を分散できます。所得分散により、それぞれの税率が下がるため、家族全体の税負担を抑えることが可能です。個人で全額を受け取るよりも、複数人で分散した方が累進課税の影響を軽減できます。
また、個人の青色申告では赤字の繰越は「3年間」が上限です。法人化すると、赤字(繰越欠損金)を「10年間」繰り越せます。大規模修繕を行った年や空室が続いた年に生じた損失を長期間にわたって翌年の黒字と相殺できる点は、長期的な不動産経営において非常に有利です。
繰越期間が個人の3倍以上になるということですね。
さらに相続対策としても、法人化には効果があります。不動産経営による収益を役員報酬として家族に分配することで、相続資産の蓄積を抑制できます。また、不動産を株式に置き換えることで、相続時に複数の相続人へ「株式」として分割しやすくなります。これは、不動産を現物のまま分割しようとすると必ずトラブルになりやすい点をカバーする大きなメリットです。
さらに、個人で生前贈与をすると年間110万円を超えた分に贈与税がかかりますが、法人の役員報酬として支払う形であれば贈与税は発生しません。相続・贈与の両面で有効な対策になることを覚えておいてください。
法人化のデメリット①:設立・維持コストと社会保険料負担が重くのしかかる
法人化を検討する際に、最も見落とされがちなのがコスト面です。まず法人を設立するための初期費用として、株式会社なら約22万円〜、合同会社でも約10万円〜の法定費用がかかります。これに司法書士への手続き報酬が加わると、実質的な設立費用はさらに増えます。
設立したあとも費用は続きます。赤字が出ても毎年必ず払わなければならない「法人住民税均等割」が最低7万円かかります。これは利益ゼロでも、赤字でも変わりません。
痛いですね。
加えて、税理士への顧問報酬も法人では個人より高くなる傾向があり、年間30〜50万円程度が相場です。個人の確定申告であれば10万円前後で済む場合もあることを考えると、その差は大きいといえます。
さらに社会保険の問題があります。法人化すると、役員が1名でも社会保険(健康保険・厚生年金)の強制加入が義務付けられます。社会保険料は役員報酬に応じて決まり、法人と本人が折半で負担します。たとえば月額役員報酬が50万円の場合、健康保険料と厚生年金保険料を合わせた法人負担分は月額7〜9万円程度にのぼり、年換算で80〜100万円以上になることもあります。
これらの固定コストを加味しないまま「節税になる」と法人化してしまうと、実質的な手取りが減るという逆効果になるケースもあります。社会保険料・維持費を含めた総合的な収支シミュレーションを必ず行うことが条件です。
法人化のデメリット②:物件売却・相続で想定外の税負担が生まれることがある
「法人化すれば売却時も有利」と考えている不動産経営者は多いのですが、それが常に正しいわけではありません。個人が不動産を売却する場合、所有期間が5年を超えると「長期譲渡所得」として税率が約20%(所得税15%+住民税5%)に下がります。これは比較的低い税率です。
ところが法人には個人のような「長期・短期の区分」がありません。法人の場合、不動産の売却益は通常の事業所得と合算され、法人実効税率(約30%)が適用されます。つまり、5年超の長期保有物件を売却する場合は「個人:20% vs 法人:約30%」となり、法人のほうが税負担が重くなるのです。
これは意外ですね。
反対に、5年以内の短期売却であれば個人だと約39%(所得税30%+住民税9%)になるため、法人の約30%の方が有利です。保有期間と売却予定の有無によって、個人と法人どちらが有利かが変わってきます。
また相続対策として法人化した場合でも、注意が必要です。新たに貸付事業の用に供した宅地等については、相続開始前3年以内に開始した場合、「小規模宅地等の特例」の対象から原則として外れます。つまり、法人化直後3年以内に相続が発生すると、相続税の評価額が最大80%減額されるはずだった特例が受けられないケースがあるのです。
法人化から3年以内は特例が使えないと覚えておけばOKです。
相続を見越して法人化を検討している場合は、こうした制約も踏まえて税理士と十分に相談することをおすすめします。事前にシミュレーションをしておくだけで、数百万円単位のリスクを回避できることがあります。
国税庁|No.4124 小規模宅地等の特例(相続時の評価額減額の要件・3年縛りの詳細)
法人化のデメリット③:不動産を個人から法人へ移すとき別途コストが発生する
すでに個人名義で保有している不動産を法人に移す場合、単純に「名義変更」するだけでは済みません。法律上は「売買」または「現物出資」という形で所有権を移転させる必要があり、この際にさまざまなコストが発生します。
まず不動産取得税がかかります。物件の固定資産税評価額を基準に算出され、土地は評価額×3%(2027年3月31日まで軽減措置)、建物は評価額×4%が課税されます。物件規模によっては数十万〜数百万円になることもあります。
そして登録免許税も発生します。登記を移転する際に必要な税金で、土地は固定資産税評価額×1.5%、建物は評価額×2%が原則です。また、抵当権が設定されたローン残高がある物件の場合、金融機関との交渉・承認が必要です。最悪の場合、借入先の変更や融資の一時完済が求められることもあります。
これらのコストは法人化の初期投資として必ずかかります。
さらに、すでに賃貸入居者がいる物件を管理会社方式やサブリース方式ではなく「所有移転方式」で法人化する場合は、既存の賃貸借契約の扱いについても整理が必要です。既存テナントへの通知義務が発生するケースもあります。
これらの一連のコストを事前に試算しないまま法人化を進めると、節税効果よりも移転コストが上回ってしまう「本末転倒」の結果になりかねません。特に小規模な不動産経営の場合は、移転コストの回収に何年かかるかを試算したうえで判断することが大切です。
不動産経営者が見落としがちな法人化の独自視点:「法人の信用力」は融資戦略を変える
節税・相続対策の観点だけで語られることが多い法人化ですが、実は「融資の受けやすさ」という観点でも大きな変化があります。これは検索上位の記事ではあまり取り上げられていない視点です。
法人化することで、決算書が作成されます。黒字が続く決算書は金融機関にとって「信用の証明」になります。個人の確定申告書よりも、法人の決算書の方が融資審査時に詳細な事業実績を示しやすく、複数物件の取得を検討している場合には融資交渉が進めやすくなるケースがあります。
これは使えそうです。
ただし、逆のケースも存在します。法人設立直後(特に1〜2期目)は決算実績がゼロのため、金融機関からの評価が下がるリスクがあります。個人として実績を積んでいた状態から、まったく履歴のない新設法人として再スタートすることになるため、融資条件が一時的に悪化するケースも報告されています。
融資戦略の観点では、「今後も物件を増やす予定か」「現在の個人融資枠はどの程度使っているか」を先に確認することが重要です。複数物件を長期的に取得していく計画があるなら、早い段階で法人格を持って決算実績を積み上げていく方が、融資戦略上も有利になります。反対に、現状の1〜2棟を長期保有するだけであれば、法人化のメリットは限定的です。
不動産投資の拡大を視野に入れているなら、融資戦略も含めて法人化のタイミングを考えることが、長期的には最も重要な判断軸のひとつになります。
ノムコム|法人化のタイミングとメリット(不動産専門家による税金・融資の観点からの解説)
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