同族会社の行為計算否認の例と不動産取引の税務リスク対策

同族会社の行為計算否認の例と不動産オーナーが知るべき税務リスク

「借上料率20%以内なら否認されない」は都市伝説で、20%設定でも追徴課税を受けた税賠事例が実際に存在します。

この記事のポイント3選
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「行為計算否認」は伝家の宝刀

形式上は合法な取引でも、所得税や法人税の負担を「不当に減少」させると判断されると、税務署が取引を丸ごと引き直して課税できる強力な規定です。

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不動産サブリースが否認の最多エリア

個人オーナーが同族会社に低い賃料で貸し付け、会社が高い賃料で転貸する構造は、借上料率が60%未満だと「経済的合理性なし」と判断されたケースがあります(大阪高裁 令和7年4月25日)。

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否認を防ぐ3つの実務対策

①第三者相場に基づいた取引条件、②事業目的の明文化、③契約書・計算根拠資料の保存。この3点を日頃から整えておくことが、調査時のリスクを大幅に下げます。

同族会社の行為計算否認とは何か:所得税法157条・法人税法132条の基本

不動産賃貸業を法人化しているオーナーや、資産管理会社を持つ地主にとって、「同族会社の行為計算否認」は見て見ぬふりをしてはいけない規定です。

この規定は、所得税法第157条・法人税法第132条・相続税法第64条に定められており、税務署長が「伝家の宝刀」として使う最終手段とも呼ばれます。具体的には、形式上は法律に違反していない取引であっても、その取引を認めると「主等の所得税・法人税の負担が不当に減少する」と認められる場合に、税務署が取引を通常の条件に引き直して再計算できるという制度です。

重要なのは、「脱税」でなくても適用されるという点です。

租税回避は脱税とは異なります。「法律の抜け穴を使った合法的な節税」と思っていた行為が、否認規定によってひっくり返されるケースが現実に起きています。令和7年7月には、ファッション通販サイトを運営する元社長の個人資産管理会社が東京国税局から法人税法132条を適用されて4億円の申告漏れを指摘され、修正申告を行ったことが話題になりました。

この規定が法人税・所得税の両方に存在するのには理由があります。同族会社の取引は、会社(法人)と社長個人(株主・役員)の双方に影響するため、どちらか一方だけを是正しても不十分になることが多いからです。会社側の計算のゆがみを正す条文として法人税法132条、個人側の所得のゆがみを正す条文として所得税法157条が並行して整備されているわけです。

つまり法人税と所得税の両方が増える可能性があります。

適用要件は大きく2つに整理できます。①その行為または計算が「同族会社の行為または計算」であること、②その結果として株主等の所得税・法人税の負担が「不当に減少」することです。この「不当性」の判断は個別具体的な事実関係によって左右されるため、画一的な数字で安全圏を引くことが難しい点が、実務上の難しさになっています。

参考:同族会社の行為計算否認とは?税務署の「伝家の宝刀」を解説(司法書士・税理士監修)

同族会社の行為計算否認の例:不動産管理・サブリース取引で否認された主な裁判例

不動産業に携わる実務者が特に注意すべきなのは、不動産管理会社やサブリース(一括転貸)を使った取引における否認例です。これらは裁判例・裁決例が豊富に積み重なっており、どのような条件が「不当性あり」と判断されるかが比較的見えやすくなっています。

大阪高裁 令和7年4月25日判決(逆転敗訴事例)

司法書士業と不動産賃貸業を営む個人Xが、自己の全株式を保有する同族会社A社に対して27件の不動産を一括してマスターリース契約で賃貸した事案です。XはA社から受け取る賃料として、2015年は月額1,500万円(年額1億8,000万円)、2016年は月額1,200万円(年額1億4,400万円)、2017年は月額800万円(年額9,600万円)と設定していました。

大阪高裁は次の3点を理由に所得税法157条の適用を認め、納税者を逆転敗訴させています。まず、一般的な借上料率は80〜90%程度であることが多く、60%未満とすることはオーナーにメリットがなく通常は想定し難い点。次に、第三者の管理会社との間でも管理委託契約が重複して締結されている物件がかなり存在しており、A社は実質的に賃料を受け取る「窓口業務」をしていたに過ぎないと評価された点。そして、A社への所得移転を目的としており、XがA社の株主兼代表取締役であるがゆえに行える行為であって、経済的合理性を欠く点です。

これは痛い逆転敗訴ですね。

高松地裁 平成24年11月7日判決

個人Yが自己の代表会社に土地を賃貸し、会社が第三者に転貸していた事案です。裁判所が高松国税局長の指示に基づき比準同業者から算出した適正な管理料割合は3〜4%台でした。これに対し、実際にYが受け取っていた賃料は適正賃料の3分の1以下という水準で、「著しく低額で経済的合理性を欠く」と判断され、所得税法157条の適用が認められました。

国税不服審判所の公表裁決事例(複数件)

国税不服審判所の公表裁決事例では、管理料割合が比準同業者平均を大幅に超えた場合の否認、建物の又貸し料収入に対してオーナーへの賃料がゼロや半額以下だった場合の否認など、多くの事例が積み重なっています。なかには、賃料の差が適正額の1.4倍程度に過ぎなくても「税額のかい離が大きい」として否認が認められた事例もあります。

注目すべきは「20%が安全圏」という誤解です。

税理士職業賠償責任保険の事故事例集(2013年版)には、不動産のサブリースにあたって税理士が「不動産管理手数料は20%が税務上の限界」とアドバイスし、その通りに設定した申告が「著しく高額」として同族会社の行為計算否認により更正処分を受けたという案件が収録されています。東京高裁も「20%という数字は一般的傾向の推測であって、20%以内であればフリーパスとは言えず、個々の物件の規模・地域性・管理業務の内容で判断される」と明確に述べています。20%が絶対的安全圏ではないということです。

参考:大阪高裁が逆転判決 同族会社経由の不動産転貸で借上料率60%未満は「経済的合理性欠く」(日本税理士会ジャーナル)
参考:土地の賃料で行為計算否認が適用された裁判例(弁護士法人みらい総合法律事務所)

同族会社の行為計算否認の例:相続税法64条と法人税法132条の適用パターン

不動産オーナーが関係する行為計算否認は、所得税法157条だけにとどまりません。相続・事業承継に絡む場面では相続税法64条、法人間のグループ取引では法人税法132条が問題になります。

相続税法64条の適用例:高齢被相続人による地上権設定

大阪地裁 平成12年5月12日の事案です。83歳で余命わずかな被相続人が、自ら保有する土地に駐車場経営目的の同族会社を設立し、その土地に60年間の地上権を周辺相場よりも著しく低額な地代で設定しました。相続発生後、国税当局は「地上権設定がなかったものとして相続財産を評価し直す」として相続税法64条を適用しました。

裁判所は「高齢で余命わずかな時点での地上権設定・低額地代・60年という極端に長期の設定期間」を総合して、「合理的な経済行為とは認められない」と判断し、課税処分を適法としました。事業目的で会社を設立したという形式的な行為も、実質的な相続税負担軽減を目的としたものと評価されています。

相続税対策が否認の対象になる、という点は意外ですね。

法人税法132条の適用例:光楽園旅館事件(最高裁 昭和53年4月21日)

同族会社の代表取締役等が共有する土地と、その会社が所有する建物を一括して第三者に売却した際、会社が土地の売却益を計上しなかった事案です。最高裁は「本来会社に帰属すべき所得を不当に個人に帰属させる行為は、経済的実態に即していない不当な行為」と判断し、法人税法132条の適用を認めました。

法人税法132条の不適用例:ユニバーサルミュージック事件(最高裁 令和4年4月21日)

一方で、企業グループ再編の一環として行われた同族会社の借入行為については、「グループ再編に合理的な事業目的があり、税負担軽減以外の目的が存在する」として法人税法132条の適用が否定されました。この最判は「経済的かつ実質的な見地において不自然・不合理か否か(経済合理性基準)」が判断基準であることを最高裁として明確にした重要判例です。

つまり経済合理性があれば否認されません。

この一連の判例から分かるのは、行為計算否認の適用可否は「取引の外形」だけでなく、「取引の目的」「業務の実態」「相場との乖離幅」「同族関係者だからこそできたか否か」という複合的な要素で判断されるということです。不動産管理会社のスキームを採用している場合、自社の実態がこれらの要素においてどう映るかを定期的に確認しておくことが必要になります。

参考:同族会社の行為計算否認の適用要件・判例整理(ON税理士法人・元国税調査部所属税理士監修)

不動産従事者が見落としやすい:行為計算否認が「管理型」より「所有型」法人化に有利な理由

不動産の法人化スキームには大きく3種類があります。「管理型(管理委託方式)」「サブリース型(転貸方式)」「所有型(法人が直接所有する方式)」です。行為計算否認の税務リスクという観点では、一般的に「管理型>サブリース型>所有型」の順にリスクが低いとされています。

この順序は意外ですね。

なぜ所有型がリスクが低いのかというと、法人自体が不動産を所有して直接収益を得る構造は、個人と法人の間の「不自然な賃料のやりとり」が発生しないからです。否認の問題が起きるのは、個人と法人の間に「相場とかけ離れた条件での取引」が介在する場面です。所有型ではその介在自体がなくなります。

管理型のリスクが最も高い理由は、管理業務の実態が伴っていなければ「形だけの管理契約」とみなされやすく、管理料の計上自体が否認されるからです。管理委託費として計上できる割合の目安として「5〜10%程度」が実務では参考にされていますが、先述のとおり比準同業者との比較で判断されるため、10%以下であっても業務実態が薄ければ否認リスクがゼロにはなりません。

サブリース型は管理型よりリスクが低い一方、大阪高裁 令和7年4月25日のように「A社の業務が窓口業務に過ぎない」という業務実態の評価によって否認される事例が出てきています。

重要なのは「業務実態の記録」です。

サブリース型を選択している場合、法人が実際にどのような業務を行っているか(入居者対応、物件巡回・点検、リフォーム手配、空室対応など)を具体的に記録・文書化しておくことが、否認リスクへの最大の備えになります。借上料率の設定だけでなく、「なぜこの料率が合理的か」という根拠資料を揃えておくことも同様に重要です。

同族会社の行為計算否認リスクを不動産取引で回避するための実務対策

ここまで見てきた裁判例・裁決例を踏まえると、否認リスクを下げるための実務対策は具体的に整理できます。

①取引条件は第三者相場を基準に設定する

賃料・管理料・地代・役員報酬など、同族会社との間の全ての取引条件は「独立した第三者間で通常成立する条件」を基準に設定することが原則です。不動産取引であれば、近隣の賃貸相場、同業他社の管理委託費率、国税局が公表している比準同業者データなどを参考資料として手元に揃えておきます。

第三者相場の根拠が鍵です。

②業務実態を具体的に記録し続ける

管理会社やサブリース会社が実際にどのような業務を行っているかを日常的に記録しておきます。業務日誌、巡回点検記録、入居者対応の履歴、リフォーム業者との発注書・請求書などがこれにあたります。法人の業務が「窓口業務に過ぎない」とみなされないためには、業務の質と量の両方を記録で示せることが必要です。

③事業目的を契約書・議事録で明文化する

取引を行う経営上の理由を、契約書や取締役会議事録に明記しておきます。「管理業務の煩雑化に対処するため」「法人として信用力を高めるため」「物件の集約的管理を効率化するため」といった具体的な事業目的が文書に残っていると、税務調査時の説明が格段に容易になります。

④役員報酬・地代・管理料の見直しを定期的に実施する

市場環境や不動産の稼働状況の変化に応じて、取引条件を定期的に見直すことも重要です。

設定した賃料を変えない方が安全、と思っている方もいますが、市場から大きく乖離した条件を何年も据え置くことは、かえって「同族会社だからこそ可能な不合理な条件」という印象を強めるリスクがあります。市場実態に合わせた定期見直しと、その見直しの根拠記録の保存が現実的な対策です。

⑤専門家との連携で「設計段階」からリスクを排除する

行為計算否認は、「過去数年分をまとめて指摘される」という性質があります。法人化を検討している段階や、グループ間取引の内容を変しようとしている段階で、税理士・弁護士に相談し、否認リスクの少ない取引構造を最初から設計しておくことが最も効率的な対策です。

否認されてから争うのはコストが高すぎます。

国税不服審判所への審査請求・税務訴訟は、時間・費用・精神的負担いずれも相当なものになります。令和7年の大阪高裁事案のように、一審では勝訴しても控訴審で逆転敗訴するケースもあります。予防的なコンプライアンス整備が、結果として最も低コストのリスク管理になるわけです。

参考:同族会社経営者が知っておきたい「行為計算否認」のリスクと適用要件(辻・本郷税理士法人)
参考:同族会社の行為又は計算の否認に関する公表裁決事例一覧(国税不服審判所)