貸宅地の評価と相当の地代の判定・計算を徹底解説
地代を年6%に設定すると、相続税の申告で借地権の評価額がゼロになります。
貸宅地の評価と相当の地代の基本的な関係
貸宅地とは、建物の所有を目的として有償で他人に貸し付けている宅地のことです。いわゆる「底地」に相当し、土地の上に借地権が存在している状態の土地を指します。不動産従事者であれば日常的に扱う概念ですが、相続税評価の文脈では、地代の水準によって評価額が大きく変動する点をしっかり押さえておく必要があります。
貸宅地の評価の基本公式は次のとおりです。
| パターン | 貸宅地評価額の計算式 |
|---|---|
| 借地権取引慣行がある地域(通常ケース) | 自用地評価額 × (1−借地権割合) |
| 借地権取引慣行がない地域 | 自用地評価額 × 80% |
| 相当の地代を収受しているケース | 自用地評価額 × 80% |
原則の計算式では、借地権割合を差し引いた価額が貸宅地の評価額になります。路線価図に記載されているアルファベット記号(A〜G)が借地権割合を示しており、地域によって30%〜90%の幅があります。たとえば借地権割合が70%の地域なら、自用地評価額の30%が貸宅地評価額になる計算です。
ここで見落としやすいのが、「相当の地代を収受しているケース」です。このケースでは、借地権割合ではなく一律20%の減額に留まります。つまり、借地権割合が70%の地域でも貸宅地評価額は80%になるわけです。これは原則よりも高い評価額になることを意味します。
地代水準が高いほど地主の収益は増えますが、相続税評価上は貸宅地の評価が上がるという逆転現象が生じる点は、実務上の盲点になりやすいです。
国税庁タックスアンサー No.4613 貸宅地の評価(計算方法の公式確認はこちら)
貸宅地の評価における相当の地代の計算方法
相当の地代とは、権利金の授受をしない代わりに支払うべき適正な地代のことです。税務上は「過去3年間の自用地評価額の平均値 × 年6%」が相当の地代の基準とされています。この6%という数字は、土地全体(底地部分+借地権部分)の価値に対する適正収益率として設定されたものです。
通常の地代と相当の地代の計算式を並べると、違いが鮮明になります。
| 種類 | 計算式(年額) |
|---|---|
| 相当の地代 | 自用地評価額(3年平均) × 6% |
| 通常の地代 | 自用地評価額(3年平均) × (1−借地権割合) × 6% |
通常の地代は底地部分のみを基準にするため、相当の地代より低い金額になります。これが原則です。
具体例で確認しましょう。自用地評価額(3年平均)が1億円、借地権割合が60%のケースを想定します。
- 相当の地代:1億円 × 6% = 年600万円
- 通常の地代:1億円 × (1−60%) × 6% = 年240万円
つまり、相当の地代は通常の地代の2.5倍になります。都市部で自用地評価額が2億円の土地であれば、相当の地代は年1,200万円(月100万円)にもなる計算です。月100万円もの地代を支払い続けるのはかなりの負担です。
相当の地代が高水準になるため、実際には権利金を支払って通常の地代に抑えるケースの方が多いのが実情です。相当の地代を採用するのは、主に親族間・同族会社間での借地設定で権利金の授受を省略したい場合に多く見られます。
国税庁タックスアンサー No.5732 相当の地代及び相当の地代の改訂(計算根拠と改定方法を確認)
貸宅地の評価で地代水準ごとの借地権評価額の判定方法
貸宅地の相続税評価を正確に行うには、実際の地代がどの水準に該当するかを判定することが先決です。判定結果によって借地権評価額が変わり、貸宅地評価額も連動して変動します。
判定の流れは次のとおりです。
| 実際の地代の水準 | 借地権評価額 | 貸宅地評価額 |
|---|---|---|
| 固定資産税等以下(使用貸借) | ゼロ | 自用地評価額 × 100% |
| 固定資産税等超〜通常の地代以下 | 自用地評価額 × 借地権割合 | 自用地評価額 × (1−借地権割合) |
| 通常の地代超〜相当の地代未満 | 調整計算あり(減額) | 自用地評価額 × 80%が上限 |
| 相当の地代以上 | ゼロ | 自用地評価額 × 80% |
注目すべきは「通常の地代超〜相当の地代未満」のゾーンです。このゾーンでは次の算式で借地権評価額を算出します。
借地権評価額 = 自用地評価額 × 借地権割合 × (1 − (実際の地代 − 通常の地代)÷(相当の地代 − 通常の地代))
算式が複雑に見えますが、考え方はシンプルです。実際の地代が相当の地代に近づくほど、借地権者の「借り得」が減少し、借地権評価額が低下していく構造になっています。
数値例で確認します。自用地評価額1億円、借地権割合70%、実際の地代が年300万円のケースです。相当の地代は年480万円、通常の地代は年144万円と算出されます(3年平均を8,000万円と仮定)。
借地権評価額 = 1億円 × 70% × (1 − (300万円 − 144万円)÷(480万円 − 144万円))= 約3,750万円
貸宅地評価額 = 1億円 − 3,750万円 = 6,250万円
同条件で実際の地代が通常の地代以下だった場合、貸宅地評価額は3,000万円(1億円×30%)になります。同じ土地でも地代水準の違いだけで3,250万円もの評価差が生まれます。評価前に地代水準の精査が不可欠です。
国税庁通達 相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱い(算式の根拠通達)
貸宅地の評価における固定方式と改定方式の選択
相当の地代を採用している場合、実務上さらに重要な判断があります。それが「固定方式」か「改定方式」かという地代の改定方針です。どちらを選択するかによって、将来の相続税評価額に大きな差が生まれます。
固定方式とは、借地契約時に設定した相当の地代をその後も変更せずに据え置く方式です。税務署への届出は不要で、何も手続きをしなければ自動的に固定方式と判断されます。一方の改定方式は、「相当の地代の改訂方法に関する届出書」を税務署に提出することで採用でき、おおむね3年以下の期間ごとに地価変動に応じて地代を改定していく方式です。
| 方式 | 地代改定 | 自然発生借地権 | 借地権評価額 | 届出 |
|---|---|---|---|---|
| 固定方式 | しない | 発生する(地価上昇時) | 発生する可能性あり | 不要 |
| 改定方式 | 3年ごとに改定 | 発生しない | ゼロ | 必要 |
固定方式の場合、地価が上昇していくと、当初に設定した地代が実質的に相当の地代を下回る水準になっていきます。この差額部分が借地人側に帰属する「自然発生借地権」です。自然発生借地権は相続発生時に評価対象となり、借地権としての課税が生じる可能性があります。これは盲点になりやすいです。
一方、改定方式では3年ごとに地代を路線価の変動に連動して見直すため、常に相当の地代水準を維持できます。この結果、借地権評価額はゼロのまま維持され、貸宅地評価額は自用地評価額の80%で安定します。
固定方式を選ぶ理由としては「相続税対策への活用」が挙げられます。地価上昇局面では固定方式により貸宅地の評価額が相対的に低下するため(自然発生借地権の発生)、地主側の相続税評価を抑える効果が期待できます。ただし、自然発生借地権の分だけ借り手側の株式評価額が増加するため、同族会社を巡る全体の相続税負担は慎重に試算する必要があります。
税理士法人チェスター 自然発生借地権の相続税評価上の取り扱い(固定方式の落とし穴を詳述)
貸宅地の評価と相当の地代における実務上の注意点【独自視点】
相当の地代を正確に把握しているつもりでも、実務では見落とされやすいポイントがいくつか存在します。ここでは、一般的な解説記事では触れられにくい注意点を取り上げます。
① 小規模宅地等の特例との併用は「相当の対価」が条件
貸宅地は貸付事業用宅地等として、小規模宅地等の特例の対象になります。特例を適用すると、200㎡まで評価額を50%減額できます。東京都内で200㎡の貸宅地の評価額が1億円だった場合、特例を使えば評価額が5,000万円になる計算です。
ただし、特例を使うためには「相当の対価を得て継続的に貸し付けていること」が要件です。固定資産税相当額以下の地代(使用貸借)は対象外になります。特例の適用可否も地代水準と直結しているということです。
② 地代に固定資産税等の意味を誤解しているケースがある
「固定資産税等以下の地代であれば使用貸借として評価額がゼロになる」という理解は正しいですが、「固定資産税等」の範囲を固定資産税だけで考えているケースがあります。正確には固定資産税と都市計画税の合計が基準です。都市計画税が課税される地域では、その分も合算して判断する必要があります。
③ 親族間での地代設定は書面化が必須
口頭で地代を取り決めている親族間の借地契約では、相続発生時に「本当に地代を支払っていたか」「いくら支払っていたか」を証明できないケースがあります。実際の地代水準が相続税評価額を左右するため、賃貸借契約書の作成と通帳での入出金記録が不可欠です。税務調査では過去の通帳が複数年にわたって確認されます。厳しいところですね。
④ 相当の地代の基準となる評価額は「路線価」ではなく「3年平均」
相当の地代を計算する際の「自用地評価額」は、課税時期時点の路線価評価額ではなく、課税時期の属する年と前2年の合計3年間の自用地評価額の平均値を用います。路線価が毎年変動するため、直近年度だけで計算すると地代水準が適正かどうかの判定を誤るリスクがあります。地代の改定方式を採用している場合も、この3年平均で計算することが原則です。
これらは申告漏れや過大申告につながるポイントです。不動産の評価業務に関わる際は、地代の実態と設定根拠を必ず確認してから評価に着手するようにしましょう。