区分地上権に準ずる地役権と農地の相続税評価・減額の全解説
純農地に高圧線が通っていても、50%減額は適用できません。
区分地上権に準ずる地役権の意義と農地評価における位置づけ
財産評価基本通達における「区分地上権に準ずる地役権」とは、特別高圧架空電線の架設・高圧ガス導管の敷設・飛行場の設置などを目的として、地下または空間について上下の範囲を定めて設定された地役権で、建造物の設置を制限するものをいいます。農地に限らず宅地・雑種地などにも適用される概念ですが、農地においては評価通達の第41条(貸し付けられている農地の評価)や第41条の2(権利競合)などと絡み合って、実務上かなり複雑な処理が求められます。
重要なのは「登記の有無を問わない」という点です。
登記がなくても地役権設定契約書や線下補償契約書の存在、あるいは現地での架線確認があれば、評価減の対象となります。これは最高裁(平成10年2月13日判決)で「通行地役権は登記なくして第三者に対抗できる」とされたことと整合する考え方です。不動産実務においても、登記謄本の乙区欄だけ確認して「登記がないから関係ない」と判断してしまうと、評価減の機会をまるごと見落とす可能性があります。登記がない場合でも、路線価図の鉄塔マーク・住宅地図・現地調査で高圧線の存在を確認することが必須です。
つまり「登記がなければ減額不要」というのは間違いです。
農地に設定される区分地上権に準ずる地役権の主な例としては、以下の3つが挙げられます。
- 🔌 特別高圧架空電線(7,000V超)の架線:最も頻繁に見られるケース。鉄塔間の電線が農地上空を通過するケースは全国各地に存在します。
- 🔥 高圧ガス導管の地下埋設:農地の地下にガス管が通っており、掘削制限などが課されているケース。
- ✈️ 飛行場の設置に伴う空域制限:自衛隊や民間空港に近接する農地で、建造物の高さ制限が課されているケース。
これらはいずれも「上下の範囲を定めて設定される」点が特徴で、土地の水平面全体に設定される通常の地役権とは構造が異なります。農地の上空または地下の一定空間だけが制限を受けているという状況を、相続税評価に反映させるのがこの制度の目的です。
区分地上権に準ずる地役権が設定された農地の相続税評価の基本計算
農地に区分地上権に準ずる地役権が設定されている場合の基本的な評価式は、次のとおりです。
| 評価の順序 | 計算式 |
|---|---|
| ① 農地の自用地評価額を算出 | 固定資産税評価額 × 倍率(または宅地比準方式) |
| ② 区分地上権に準ずる地役権の価額を算出 | 農地の自用地評価額 × 地役権の割合 |
| ③ 農地の評価額(承役地) | ①の自用地評価額 − ②の地役権価額 |
地役権の割合は、建築制限の内容によって次の2段階に分かれます。
- 🏚️ 家屋の建築が全くできない場合:50% または借地権割合のいずれか高い方
- 🏠 家屋の構造・用途等に制限を受ける場合:30%
たとえば自用地評価額が3,000万円の農地で、建築が一切できない制限(借地権割合60%)がある場合の計算は次のようになります。
地役権の価額 = 3,000万円 × 60%(60% > 50% のため借地権割合を採用)= 1,800万円
農地の評価額 = 3,000万円 − 1,800万円 = 1,200万円
これが宅地であれば同じ条件で40%も評価が下がります。農地でも理屈は同じですが、農地の種別によっては「この計算がそのまま使えない」という点が重大な落とし穴です。これが条件です。
農地は評価通達上、①純農地、②中間農地、③市街地周辺農地、④市街地農地の4区分に分類されており、区分地上権に準ずる地役権の適用可否がこの農地区分によって変わってきます。農地区分の確認を最初に行うことが、正確な評価の大前提となります。
国税庁|財産評価基本通達 第41条(貸し付けられている農地の評価)
純農地・中間農地における地役権評価の落とし穴と個別斟酌の実務
純農地・中間農地に区分地上権に準ずる地役権が設定されている場合、前述した「50%または借地権割合」「30%」という通達上の割合をそのまま適用することは原則として認められていません。意外ですね。
なぜかというと、純農地や中間農地はそもそも原則として建造物の建築が認められていない土地だからです。「家屋の建築が全くできない」「家屋の構造に制限がある」という区分は、もともと建物を建てられる土地(宅地や市街地農地など)を前提にした制限の程度を示すものです。最初から建物を建てられない農地では、高圧線によって建築制限が加わったとしても、それが追加的な損失とはならないという考え方が背景にあります。
純農地等は建築制限の概念が馴染まないということですね。
では、純農地・中間農地の高圧線下地はどう評価するのでしょうか? この場合は、通達上の割合に頼らず「区分地上権に準ずる地役権の設定の対価等を参考に個別に斟酌する」こととされています。具体的には、電力会社などとの間で締結している線下補償契約書に記載された補償額や補償年数を参考に、地役権の価額を算定するアプローチが取られます。
- 📄 線下補償契約書の確認:電力会社との補償料(年間または一括払い)の金額・内容が記載されています。
- 📞 電力会社へのヒアリング:電圧・制限内容・離隔距離などを確認します。
- 🗂️ 固定資産税評価額との比較:固定資産税評価額に既に高圧線の影響が織り込まれているケースでは、二重減額にならないよう注意が必要です。
純農地に高圧線が通る案件は、農村部の広大な農地を相続するケースで珍しくありません。評価額がゼロに近い農地であっても、補償料の実績をもとに地役権価額を計上することで、わずかながらも評価減が実現できることがあります。金額は小さくとも、正確な申告という観点から見落とせません。これは使えそうです。
一方、市街地農地の場合は宅地並みに評価されることから、通達上の50%または30%の割合を適用して評価減を行うことが可能です。市街地農地かどうかは農地区分の判定によりますので、相続対象農地が市街化区域内にあるかどうかを農業委員会や都市計画図で確認することが重要です。
FP総合研究所|土地の評価で見落としがちな減額要素⑦ 区分地上権に準ずる地役権(No.797)
区分地上権に準ずる地役権と耕作権が競合する農地の評価計算
実務上、農地に区分地上権に準ずる地役権だけが単独で設定されていることは比較的少なく、耕作権(小作権)や永小作権と同時に設定されているケースも多く見られます。この「権利の競合」が生じている農地の評価は、評価通達41条の2に規定されており、単純に各権利の価額を足し引きするだけでは正しい答えが出ません。
権利競合の場合は計算式が特殊です。
耕作権及び区分地上権に準ずる地役権が同一農地に設定されている場合の農地(承役地)の評価は、次の順序で計算します。
| ステップ | 内容 | 計算式の概要 |
|---|---|---|
| Step 1 | 農地の自用地評価額を求める | 例:500万円 |
| Step 2 | 区分地上権に準ずる地役権の価額を求める | 500万円 × 50% = 250万円 |
| Step 3 | 地役権が設定されていない場合の耕作権価額を求める | 500万円 × 50%(耕作権割合)= 250万円 |
| Step 4 | 競合を考慮した耕作権価額を求める | 250万円 ×(1 − 250万円/500万円)= 125万円 |
| Step 5 | 農地の評価額 | 500万円 −(250万円 + 125万円)= 125万円 |
このStep 4の計算がポイントです。耕作権の評価額は「地役権の設定により農地の利用価値が既に下がっている分を控除した後の残余部分」を基準に按分計算されます。地役権が先に設定されているほど、耕作権の評価額は小さくなる仕組みです。
言い換えると「地役権と耕作権が競合すると、農地の評価額は最大で自用地評価額の75%減になり得る」ということです。500万円の農地が125万円になるイメージは、農地4枚が1枚分の価値になるほどの減少です。
厳しいところですね。
なお、永小作権が設定されている場合は、耕作権割合(50%固定)ではなく相続税法第23条に基づく残存期間に応じた割合(5%〜90%)を使うため、さらに計算が複雑化します。相続実務では競合権利の内容を正確に把握したうえで、評価通達41条の2の各項目((1)〜(3))のどれに該当するかを最初に判断することが重要です。
税理士法人チェスター|土地の上に存する権利が競合する場合の農地の相続税評価
農地における高圧線下地の現地調査と地役権確認の実務手順
区分地上権に準ずる地役権が農地に設定されているかどうかの確認は、宅地の場合と基本的な流れは同じですが、農地特有のポイントがあります。特に地方の農村部では、線下補償契約が口頭で結ばれていたり、土地所有者の高齢化により契約書が行方不明になっているケースが多々あります。
まず、農地における確認の基本ステップを整理します。
- 🗾 路線価図・住宅地図の確認:路線価図上の鉄塔マーク(●印)を直線で結んだラインが評価対象農地を横切る場合、高圧線下地の可能性があります。
- 📋 登記簿謄本(乙区)の確認:地役権設定登記が入っていれば制限内容・対象地積が記載されています。ただし登記がないケースも多いため、これだけで判断しないことが原則です。
- 🏃 現地調査:農地上空を高圧線が通っているか目視確認します。鉄塔の銘板(管理者・電話番号記載)をメモしておくと、後の電力会社ヒアリングに役立ちます。
- 📞 電力会社へのヒアリング:電圧(ボルト数)・建築制限の内容・最下線の高さ・離隔距離を確認します。農地の場合でも同様に回答してもらえます。
- 📁 相続人へのヒアリング:「電力会社から補償料をもらっているか」「線下補償契約書が手元にあるか」を確認することで、高圧線下地の存在が明らかになることがあります。
農地評価における独自の注意点として、倍率方式で評価される農地(純農地・中間農地の多くはこちら)については、固定資産税評価額に既に高圧線による利用価値の低下が反映されているケースがあります。この場合は「二重減額」を避けるため、まず固定資産税評価額が減額されているかどうかを市区町村役場で確認する必要があります。
固定資産税評価額の確認が先です。
農地の場合は特に公図の確認も欠かせません。農地の一部に高圧線の鉄塔用地や線下部分が分筆されているケースでは、地番の形状が不自然に細長くなっていることが多く、これが高圧線存在のサインとなります。現地で上空を確認するだけでなく、公図上の筆形にも注意を払うと見落としが減ります。
明日の相続税|高圧線下の土地(区分地上権に準ずる地役権)の相続税評価(路線価図・公図・登記簿の確認方法)
農地における区分地上権に準ずる地役権の見落とし防止と申告上のリスク管理
相続税申告において、農地の高圧線下地という評価減要素は「見落としやすい減額ポイント」として税理士実務でもたびたび指摘されています。宅地に比べて農地はそもそも評価額が低いため、「少し減っても変わらない」という心理が働きやすいですが、面積の広い農地では評価差額が数十万円〜数百万円単位になるケースもあります。
見落とすと相続税が過払いになるリスクがあります。
評価減を適切に行うためのチェックリストとして、実務上以下の点を確認しておくことが重要です。
- ✅ 農地の種別確認(純農地・中間農地・市街地周辺農地・市街地農地のどれか)
- ✅ 路線価図・住宅地図での鉄塔マーク確認
- ✅ 登記簿謄本の乙区確認(地役権設定登記の有無)
- ✅ 固定資産税評価額への減額織り込み有無の確認(市区町村への問い合わせ)
- ✅ 線下補償契約書・地役権設定契約書の保管状況確認(相続人ヒアリング)
- ✅ 電力会社へのヒアリング(電圧・建築制限内容・対象地積)
- ✅ 耕作権・永小作権など他の権利との競合有無の確認
なお、一つの農地の一部だけが高圧線下にある場合の評価減は、農地全体ではなく「建築制限を受けている地積部分のみ」が対象となります。地役権設定契約書や図面でその対象地積を正確に把握し、面積按分によって評価減の金額を算出することが必要です。全体面積で計算してしまうと過大な評価減となり、税務調査で指摘を受けるリスクがあります。
対象地積の特定が条件です。
農地の相続税申告は、農業委員会への届出や農地法の転用許可といった手続きと絡み合うため、不動産実務・相続税実務双方の知識が求められる領域です。特に区分地上権に準ずる地役権と農地評価が絡む案件は、評価通達の複数の条文を横断的に確認しながら進める必要があります。相続専門の税理士や不動産鑑定士との連携を視野に入れながら、早期からの情報収集・現地確認を心がけることが、申告の精度向上とリスク管理の両面から有効です。