関係人口とは何か、例と不動産業との深い接点
移住しない人が、あなたの物件を借りる最大顧客になります。
関係人口の定義と不動産業者が知るべき基礎知識
「関係人口」という言葉は、2017年ごろから徐々に使われ始め、総務省が正式に定義したことで広く普及した比較的新しい概念です。総務省による定義は「移住した定住人口でもなく、観光に来た交流人口でもない、地域と多様に関わる人々」とされています。つまり、その地域に住んでいるわけでも、単なる旅行者でもない、「中間的な存在」が関係人口です。
具体的な例を挙げると、次のような人たちが関係人口に当たります。
- 📌 ふるさと納税を通じて特定の地域を継続的に応援している都市住民
- 📌 かつて暮らしていた地方の故郷に年数回戻り、地域イベントに参加する人
- 📌 週末だけ農村に滞在して農業体験をしながら地域住民と交流する会社員
- 📌 SNSや地域のオンラインコミュニティに参加し、情報発信や意見出しをしている人
- 📌 地域産品を定期購入することで経済的に地域を支援している消費者
関係人口は「定住人口(その地域に住む人)」「交流人口(観光等で一時的に訪れる人)」とは明確に異なります。不動産業においては長年、「定住人口を増やす=移住促進」が唯一の地域活性化策として語られてきました。しかし、地方の人口減少はあまりにも深刻であり、移住だけでは回復しきれない現実があります。
そこで注目されているのが、「移住せずとも地域と関わり続ける人たち=関係人口」の活用です。不動産業者にとってこの概念は、顧客層の再定義につながります。「買う人・借りる人」だけを顧客と見ていたところから、「地域に関わり続けるすべての人」を視野に入れた提案が可能になるのです。これは基本的な考え方の転換です。
国土交通省が2025年6月に発表した調査によれば、全国の18歳以上人口(約1億275万人)のうち、約2,263万人が関係人口に該当するとされています。東京ドームの収容人数が約5万5千人ですから、約411倍の規模感です。この数字の大きさが、潜在的なビジネス機会の広さを物語っています。
参考:国土交通省「全国の関係人口は18歳以上の2割超」(関係人口の実態把握調査結果)
関係人口の具体例と不動産需要への連鎖パターン
関係人口が不動産需要に直結する経路は、大きく分けて3つのパターンがあります。それぞれを具体例とともに確認しておきましょう。
まず1つ目は「二地域居住型」です。都市部に本拠地を持ちながら、月に数回あるいは週末だけ地方に滞在するライフスタイルです。国土交通省の調査では、二地域居住等を行っている人は全国で約701万人と推計されています。この層は都市の自宅を維持しながら地方にもう1軒の住まいを求めているため、賃貸・売買どちらでも不動産需要を生み出します。
2つ目は「ふるさと回帰型」です。故郷に戻りたい気持ちはあっても、仕事や子どもの教育を理由に完全な移住はできない層です。この人たちは帰省のたびに地元の不動産市況に関心を持ち、将来的な購入・賃借を検討します。ふるさと回帰支援センターへの相談件数は2025年に73,003件となり、2024年比18.3%増と過去最高を更新しています。つまり、この傾向は年々強まっています。
3つ目は「テーマ型関係人口」です。農業体験・古民家再生・地域おこし協力隊OBなど、特定のテーマで地域に関わる人たちです。この層は地域に対して深い愛着があるため、関係が深まると「住まい」を求めるケースが多い。空き家をリノベして工房にしたい、週末の農作業拠点として使いたいといった具体的なニーズを持っています。これは使えそうです。
不動産業者がこの3パターンを把握しておくと、接客時に「お客様はどのタイプの関係人口に近いか」を見極め、適切な物件提案ができます。例えば二地域居住型の顧客に対しては、新幹線や高速道路のアクセス情報を交えながら提案する、テーマ型には改修のしやすさや農地・作業場の有無を優先的に説明するといった対応が有効です。
地方×関係人口の文脈で不動産を語れる業者は、まだ多くありません。この視点を持つだけで、問い合わせ対応のクオリティが大きく変わります。
参考:ふるさと回帰支援センター「2025年移住希望地ランキング・相談件数」

関係人口が増える背景と定住人口・交流人口との違い
関係人口という概念が急速に注目を集めた背景には、いくつかの社会的変化が重なっています。まず前提として、日本では人口減少と地方の高齢化が止まらない状況が続いています。地方自治体は長年、定住人口を増やすための移住促進策に力を入れてきましたが、完全移住へのハードルは高く、劇的な効果は出ていない自治体が大多数です。
そこに追い風となったのが、2020年以降のリモートワーク普及です。会社に毎日通勤しなくてよい働き方が広まったことで、「どこに住んでも働ける」という選択肢が生まれました。都市住民が週3日テレワークできるなら、残り2日の出社日のために都市に部屋を借りつつ、週末は地方に滞在するという二地域居住が現実的になったのです。
定住人口・交流人口・関係人口の違いを整理すると、次のようになります。
| 区分 | 特徴 | 不動産との関係 |
|---|---|---|
| 定住人口 | その地域に継続的に居住する住民 | 賃貸・購入・建築ニーズ(従来型) |
| 交流人口 | 観光・出張などで一時的に訪れる人 | 宿泊施設・民泊程度 |
| 関係人口 | 居住せずとも地域と継続的に関わる人 | 二地域居住・賃貸・空き家活用・将来の移住候補 |
関係人口が将来の定住人口に転換するケースも少なくありません。地域との関わりが深まるほど、「ここに住みたい」という気持ちも育まれます。つまり関係人口は、定住人口の予備軍でもあります。不動産業者はその長い時間軸の中で関係を築くことで、数年後の成約につなげられます。
もう一点、見落とされがちな重要な変化があります。総務省は2025年、「ふるさと住民登録制度」の創設に向けた検討を進めると発表しました。これは住所地以外の地域に継続的に関わる人を登録する仕組みです。制度化が進めば、関係人口は「見えない存在」から「数字で把握できる存在」になります。自治体の施策・予算・支援が集まりやすくなり、不動産業者が活用できる公的支援も拡充されることが見込まれます。
参考:総務省「二地域居住・関係人口ポータルサイト」(ふるさと住民登録制度の検討について)
関係人口と空き家問題の接点、不動産業者が担えるハブ機能
日本の空き家数は2023年時点で約900万戸、空き家率は13.8%と過去最高を更新しています。この問題と関係人口は、実は深く絡み合っています。近畿大学講師・野田満氏(農村計画学・地域デザイン学)は「田舎の空き家問題は、単なる不動産や制度の問題ではなく、人の問題、地域そのものの問題だ」と指摘しています。
空き家活用が難しい最大の理由は「人のつながり」の問題にあります。地方では、空き家が一般市場や空き家バンクに出回る前に、「知り合いの知り合いで空いている家がある」といった非公式なルートで譲渡先が決まるケースが多いのです。価格も「お世話になっているから安くする」という義理の論理で決まることがあり、市場原理だけでは動かない特殊な事情があります。
ここで重要なのが、関係人口を取り込んだ不動産業者の役割です。地域に継続的に関わる関係人口は、地元住民との信頼関係を徐々に築いています。空き家の所有者が「あの人なら家を譲ってもいい」と思うかどうかは、まさにその信頼関係にかかっています。
つまり不動産業者が関係人口と早い段階でつながり、物件情報・補助金情報・地域の文脈を丁寧に提供することで、成約の確率が上がります。地域と人をつなぐ「ハブ」としての機能を担えるかどうかが、今後の差別化ポイントです。関係人口がスキルを持ち寄れば、設計・リフォーム・登記といった不動産流通に必要な各プロセスをつなぐ人材ネットワークも自然に形成されていきます。
空き家バンクに関するデータも、この視点の重要性を裏付けています。賃貸物件は売却物件よりも成約率が2.13倍高く、登録から10ヶ月が経過すると生存率(成約せずに残っている確率)が50%まで下がるという分析結果があります。早い段階で関係人口に情報を届け、賃貸として提案することが、双方にとって最善策といえます。これが原則です。
参考:アルバリンク「関係人口と地域づくりの本質とは?空き家問題の解決に向けて(近畿大学・野田満氏インタビュー)」

関係人口を活かした不動産ビジネスの独自戦略、地方×関係人口マーケの開拓
ここまで関係人口の定義・背景・空き家との関係を見てきましたが、最後に不動産業者が「関係人口市場」を実際の業務に組み込む方法を考えてみましょう。
まず手始めに取り組めるのが、地元自治体や空き家バンクとの連携強化です。2024年には「特定居住支援法人」の市町村指定制度が創設されました。この制度では、二地域居住希望者と地域のニーズをマッチングする法人が自治体に指定される仕組みです。不動産業者がこの支援法人として登録できれば、自治体の施策と連動した集客ルートを確保できます。
次に重要なのが、SNSや地域メディアを活用した「関係人口との接点づくり」です。関係人口は都市に居住しながら特定の地域に関心を向けている層です。当然ながら、インターネットを通じて情報収集しています。地域の暮らしや空き家活用の成功事例をSNSで発信し続けることで、関係人口との接点が増え、問い合わせへとつながります。
さらに意外と見落とされがちな戦略として、「二地域居住向けの物件提案」があります。東京や大阪などの大都市圏に住みながら地方にも拠点を持ちたい層には、月額5万円前後の低コスト賃貸や古民家シェアオフィスへの関心が高い傾向があります。こうした物件情報を都市部の関係人口コミュニティや、ふるさと回帰支援センターと連携して発信することが有効です。
最後に、「10年単位の関係構築」という発想が不可欠です。関係人口は今すぐ物件を買う人とは限りません。今日の関係人口が、3年後・5年後に移住を決断したとき、最初に連絡をくれる不動産業者になれるかどうかが勝負です。メルマガや地域イベントへの参加招待など、長期的な接点維持の仕組みを持っておくことが、将来の成約に直結します。
地方の不動産市場は、関係人口を制した業者が制するといっても過言ではありません。関係人口という視点を持つだけで、接客・提案・情報発信のすべてが変わります。関係人口の理解が、あなたのビジネスの幅を広げる鍵です。
参考:国土交通省「二地域居住等関連施策一覧」(特定居住支援法人の創設について)