ハウジングファースト本が不動産従事者の支援力を変える

ハウジングファーストの本で不動産従事者の支援力を高める

住宅確保が困難な人に物件を紹介した不動産会社が、行政から年間300万円超の業務委託を受けている事例があります。

📚 この記事のポイント
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ハウジングファーストとは何か

「住まいが最優先」という理念と、不動産業界との接点を基本から整理します。

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おすすめ本の選び方

不動産従事者が実務に活かせる視点で、読むべき本を具体的に紹介します。

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実務への活かし方

本で得た知識を現場の賃貸業務・仲介業務にどう落とし込むかを解説します。

ハウジングファーストの基本概念と不動産業界への影響

ハウジングファーストとは、「まず住まいを確保する」ことを支援の出発点とする考え方です。従来の福祉的支援では「断酒できたら、就労できたら住まいを提供する」という条件付きのアプローチが主流でした。ハウジングファーストはその順序を根本から逆転させます。住居の安定を先に確保し、そのうえで生活再建や就労支援を行うという発想です。

この概念はアメリカで1990年代に提唱され、ニューヨーク市で本格的に実証されました。その後カナダ・フランス・フィンランドなど欧米各国に広がり、日本でも2010年代以降、NPOや自治体が試験的な取り組みを開始しています。

つまり「住居が先、支援は後」が原則です。

不動産従事者がこの概念を知っておく必要がある理由は、業務上の接点が想像以上に多いからです。生活保護受給者、DV被害者、高齢の単身者、外国籍の入居希望者など、いわゆる「入居困難者」と呼ばれる層への対応は、現場の賃貸仲介スタッフにとって日常的な課題です。ハウジングファーストの視点を持つことで、こうした入居者に対する接し方や、物件オーナーへの説明の仕方が変わります。

国土交通省の調査によれば、賃貸住宅における入居拒否理由の上位は「外国人」「高齢者」「障害者」「低所得者」の4属性で全体の約7割を占めています。これらは、まさにハウジングファーストが対象とする層と重なります。

国土交通省:住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)の概要

ハウジングファーストを学ぶための本の選び方と読む順番

ハウジングファーストに関する本は、大きく「理念・哲学系」「政策・制度系」「実践・事例系」の3種類に分類できます。不動産従事者が実務に活かすためには、この順番で読むのが最も効率的です。

まず理念系の本で「なぜ住まいが先なのか」という根拠を理解します。次に政策・制度系の本で住宅セーフティネット制度や居住支援法人制度など、法的な枠組みを把握します。最後に事例系の本で「他の不動産会社や支援団体が実際にどう動いているか」を学ぶ流れです。

これは使えそうです。

代表的な文献として、稲葉剛・小川芳範・渡辺芳氏らが編著した『ハウジングファースト—住まいからはじまる支援の可能性』(山吹書店)が挙げられます。この本は日本のハウジングファーストの草分け的存在であるNPO「つくろい東京ファンド」の実践をベースにしており、支援現場の具体的な動きを知るうえで非常に参考になります。

また、支援制度との接続という観点では、居住支援協議会の仕組みや生活困窮者自立支援法との関係を解説した行政刊行物も重要な補足資料です。これらは多くの自治体ウェブサイトから無料で入手可能です。

厚生労働省:生活困窮者自立支援制度について(住居確保給付金含む)

本選びの際は「出版年」にも注意が必要です。住宅セーフティネット法は2017年に改正、さらに2024年に再改正されており、古い情報をそのまま実務に使うと制度との齟齬が生じます。2020年以降に出版された本、または最新の補足情報が掲載されているものを選ぶようにしましょう。

ハウジングファーストの本から得られる不動産仲介の実務知識

ハウジングファーストに関する本を読むことで得られる実務知識は、大きく分けて3つあります。入居審査の考え方、家賃債務保証制度の活用、居住支援法人との連携です。

入居審査については、「リスクがある人を断る」という消極的な発想から「どうすればリスクを軽減して受け入れられるか」という積極的な発想への転換が求められます。ハウジングファーストの実践事例を紹介する本では、NPOや社会福祉法人と連携することで、緊急連絡先の問題や孤独死リスクへの不安を低減させている事例が多数紹介されています。

具体的には見守りサービスの利用、定期訪問の仕組み、家賃代理納付制度の活用などです。これらをパッケージとして物件オーナーに提示できれば、従来は断っていた入居希望者の受け入れが可能になります。

家賃債務保証については、全国住宅セーフティネット制度の登録住宅における家賃低廉化補助や家賃債務保証料の補助が活用できる場合があります。補助額は地域によって異なりますが、東京都では1戸あたり年間最大240,000円の家賃低廉化補助を受けられる仕組みがあります。

数字が具体的なので確認が必要ですね。

居住支援法人との連携は、不動産会社にとって実質的に「営業ネットワークの拡大」にもなります。居住支援法人は入居困難者の相談窓口として機能しており、そこに物件情報を提供できる不動産会社として登録されることで、安定した入居希望者の紹介を受けられる可能性があります。

国土交通省:居住支援法人について(都道府県別指定一覧含む)

ハウジングファーストの本が示す「支援付き住宅」という新ビジネスモデル

ここは独自の視点になりますが、ハウジングファーストに関する文献が示す最も重要な示唆の一つが「支援付き住宅」というビジネスモデルの可能性です。これは不動産管理業務に福祉的支援を付加した複合型サービスであり、一般的な賃貸管理会社ではまだほとんど取り組まれていない領域です。

支援付き住宅とは、入居者に対して定期的な見守りや生活相談、緊急時の対応などをセットにした賃貸物件のことです。高齢単身者や障害者、生活保護受給者など、通常の賃貸市場では入居が難しい層をターゲットにしています。

結論はニッチな市場に安定収益の可能性があるということです。

この分野の先行事例として参考になるのが、大阪府を拠点に活動する一般社団法人「おてらおやつクラブ」や、東京都内で活動する「つくろい東京ファンド」の連携住宅事業です。これらのNPOと協働することで、空き家や低稼働物件を社会的弱者向けの住まいとして活用し、一定の賃料収入を得ながら社会貢献も実現しているケースがあります。

重要なのは、これが慈善事業ではなく持続可能なビジネスとして設計されている点です。居住支援法人として指定を受けた不動産会社は、自治体から業務委託を受けることができます。冒頭で触れたように年間300万円超の委託実績を持つ不動産会社も存在し、通常の仲介手数料収入とは別の安定した収益源になり得ます。

ハウジングファースト関連の本や文献にはこうしたビジネスモデルのヒントが多数含まれており、単なる「勉強用の本」ではなく「新規事業の教科書」として活用できます。

ハウジングファーストの本を読んだ後に取り組むべき具体的な行動

本を読んで終わりにしないための、実務レベルでの具体的なアクションを整理します。

まず最初に取り組めるのは、自社が拠点とする地域の居住支援協議会への参加です。全国すべての都道府県に設置が義務付けられており、不動産会社が会員として参加することで行政・福祉機関とのネットワークが構築できます。参加費用は多くの協議会で無料または年間数千円程度です。

次に、住宅確保要配慮者の専用ウェブサイト「セーフティネット住宅情報提供システム(SNB)」への物件登録があります。登録は無料で、生活保護受給者や障害者などの入居を受け入れる意思のある物件をリスト公開できます。これは行政や居住支援法人の担当者が定期的に参照するシステムであり、問い合わせにつながります。

登録自体は無料です。

さらに一歩進めるなら、居住支援法人の指定申請です。都道府県知事から指定を受けた居住支援法人は、行政の住宅確保支援事業のパートナーとして位置づけられます。申請要件は都道府県によって異なりますが、基本的に「住宅確保要配慮者の支援に取り組む法人」であることが条件です。

指定取得後は、入居者の相談支援に対する補助金、家賃債務保証への公的支援、見守りサービスへの補助など、複数の財源を活用できるようになります。不動産会社としての本業を維持しながら、支援事業という新しい柱を加えるための制度的な足がかりになります。

ハウジングファーストに関する本が示す知識は、単に「入居困難者を断らない」という消極的な話ではありません。それは新たなビジネス機会を掘り起こすための知識体系です。制度を理解した上で動ける不動産従事者と、知らないまま従来通りに断り続ける担当者では、3〜5年後の業務量と収益に明確な差が生まれることになります。

国土交通省:セーフティネット住宅情報提供システム(SNB)— 物件登録・検索の公式サイト