外国人の不動産取得と規制の全体像を正しく理解する
「外国人でも日本の不動産を自由に買えるのに、なぜか届出を怠ると50万円の過料が科されることがあります。」
外国人の不動産取得規制の基本:日本法における原則と例外
日本の不動産法制において、外国人(外国籍の個人)や外国法人が不動産を取得することは、原則として制限されていません。民法や不動産登記法は国籍を問わず適用されるため、外国人も日本人と同様に土地・建物を購入し、登記を行うことが可能です。これは多くの不動産従事者がすでに現場で体感している事実でしょう。
ただし「取得できる」ことと「何も規制がない」はまったく別の話です。
日本では外国人の不動産取得に関して、主に以下の3つの法令が関係します。まず「外国為替及び外国貿易法(外為法)」、次に「重要土地等調査及び利用規制法(重要土地利用規制法)」、そして「国土利用計画法(国土法)」です。このうち国土法は外国人・日本人を問わず一定面積以上の土地取引に届出を求めるもので、いわゆる「外国人規制」とは性質が異なります。
外為法の観点では、非居住者(国内に住所・居所を有しない外国人)が日本の不動産を取得する場合、原則として取引後20日以内に日本銀行経由で財務大臣への「事後報告」が必要とされています。この手続きを怠ると、外為法第70条により最大50万円の過料が科される可能性があります。過料は刑罰ではありませんが、行政上のペナルティとして実務上無視できない存在です。
外為法が原則です。
不動産取引の現場では、売主・買主の国籍や居住状況を確認するだけでなく、「居住者か非居住者か」という外為法上の区分を把握することが求められます。外為法上の「非居住者」は国籍ではなく「住所・居所が国外にあるかどうか」で判断されるため、日本に長期居住している外国人は「居住者」として扱われ、事後報告義務の対象外になるケースもあります。これが多くの実務者が見落としがちなポイントです。
参考リンク(外為法に基づく不動産取得の届出・報告義務について財務省が公開している情報)。
外国人の不動産取得規制として注目すべき重要土地利用規制法の概要
2022年9月に全面施行された「重要土地等調査及び利用規制法(重要土地利用規制法)」は、外国人の不動産取得規制に関する議論を大きく変えた法律です。この法律は防衛関係施設、海上保安庁の施設、原子力施設、重要インフラ施設の周囲おおむね1km以内の土地・建物を「注視区域」または「特別注視区域」に指定し、そこでの土地取引や利用実態を国が調査・規制できる仕組みを作りました。
特別注視区域に指定された地域では、200㎡以上の土地・建物の売買契約を締結する前に内閣総理大臣への「事前届出」が義務付けられています。届出期間は原則として契約予定日の6週間前までです。これは外国人だけでなく日本人にも適用されますが、安全保障上の懸念が指摘されている外国資本による取得が制度設計の背景にあることは明白です。
厳しいところですね。
届出義務に違反した場合、勧告・命令の対象となり、命令に違反すると2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科される可能性があります。これは外為法の過料とは異なり「刑事罰」です。前科がつく可能性があることを、関係する取引を担当する不動産業者はしっかり認識しておく必要があります。
2025年8月時点で、全国に指定された注視区域・特別注視区域は数百件に上っており、沖縄・北海道・長崎・東京など防衛拠点や離島の多い地域で指定が集中しています。自分が担当するエリアが指定区域に含まれていないか、内閣府のポータルサイトで確認することが実務上必須です。
内閣府ポータルで区域を一度確認しておけばOKです。
参考リンク(重要土地利用規制法の概要・指定区域の検索が可能な内閣府の公式ページ)。
外国人の不動産取得規制における外為法の「居住者・非居住者」区分の実務的な注意点
外為法の届出義務を正確に適用するためには、「居住者」と「非居住者」の区分を正しく理解することが不可欠です。多くの不動産従事者が「外国人=非居住者」と思い込んでいますが、これは誤解です。
外為法上の居住者・非居住者の区分は国籍ではなく「居住実態」で判断されます。
具体的には、日本国内に住所または居所を有する個人(国籍不問)は「居住者」に該当し、国外に住所・居所を有する個人は「非居住者」となります。たとえば日本の永住権を持つ外国人や、就労ビザで長期在住している外国人は「居住者」です。この場合、外為法に基づく不動産取得の事後報告義務は原則として発生しません。
一方、海外に住む外国人が日本の別荘や投資用不動産を購入するケースは「非居住者による不動産取得」に該当し、事後報告が必要です。また、海外に拠点を持つ外国法人の子会社や支店が日本で不動産を取得する場合も、その法人の居住性によって判断が変わります。
どういうことでしょうか?と感じた方は、取引前に依頼者のビザ種別・在留状況・住民登録の有無を必ず確認する習慣をつけることをおすすめします。在留カードの確認だけでなく、住民票の有無や法人の登記所在地の確認が判断の材料になります。
外為法の居住性判断が条件です。
また、法人取引の場合はさらに複雑になります。外国法人が日本に設立した100%子会社(日本法人)が不動産を取得する場合、その日本法人は「居住者」扱いになるため外為法上の事後報告は不要とされています。しかし、その日本法人の議決権の過半数以上を外国人・外国法人が保有している場合、「対内直接投資」として別の外為法上の規制(事前届出)が適用される可能性があります。これは完全に別の手続きなので、混同しないよう注意が必要です。
外国人の不動産取得規制に関する不動産業者の説明義務と業務上のリスク管理
不動産業者にとって、外国人顧客との取引における最大のリスクの一つが「説明義務の範囲」をめぐる問題です。宅地建物取引業法(宅建業法)は、重要事項説明において物件に関する事実を説明する義務を定めていますが、外為法や重要土地利用規制法上の届出義務については、現状では宅建業法上の重要事項説明の「法定記載事項」として明文化されていません。
これは使えそうです。
しかし、トラブル防止の観点からは、法定外であっても関連する届出義務を顧客に説明・案内しておくことが実務上の「善管注意義務」の一環として求められる場合があります。特に特別注視区域内の物件については、事前届出なしに契約を進めると後から刑事罰の対象になりうるため、業者として事前に把握し適切に案内することが不可欠です。
現場での対応フローとしては、以下の確認手順が有効です。まず取引対象物件が重要土地利用規制法の注視区域・特別注視区域に含まれているかを内閣府ポータルで確認します。次に売主・買主が外為法上の非居住者に該当するかを在留カード・住民票・パスポートなどで確認します。そして必要な届出がある場合は、司法書士や税理士・行政書士と連携して手続きを進める体制を整えます。
確認→連携が基本です。
外国人顧客が増加している都市部・観光地・リゾートエリアの業者ほど、この確認フローを標準化しておくことでトラブルを未然に防ぐことができます。なお、外為法の届出に関しては日本銀行の「国際収支統計ホームページ」でも手続き案内が公開されているため、参考にすると良いでしょう。
参考リンク(日本銀行が公開している外為法に基づく報告・届出手続きの案内ページ)。
外国人の不動産取得規制が今後強化される可能性と不動産従事者が備えるべき独自視点
ここでは、検索上位の記事ではあまり取り上げられていない「今後の規制強化の方向性」と「不動産従事者がいま準備すべき実務知識」について掘り下げます。
2024年から2025年にかけて、重要土地利用規制法に基づく注視区域の指定数は急速に増加しています。当初は「防衛省管轄の自衛隊基地周辺」が中心でしたが、その後「海上保安庁の施設」「国境離島」「重要インフラ(通信・電力・水道)」などに対象が拡大されており、都市部の物件でも指定区域に含まれるケースが増えつつあります。東京都内でも一部のエリアが注視区域に指定された実績があり、「地方の話」とは言えなくなってきています。
意外ですね。
さらに注目すべきは、現行の重要土地利用規制法には「取得を禁止する」条文が存在しないという点です。あくまで「調査・勧告・命令」の仕組みであり、強制的に取得を止める手段は現行法上は限定的です。これは「規制がある=外国人は買えない」という誤解を生みやすい部分であり、正確な説明が求められます。実際には、利用状況に問題がなければ取得・保有自体は認められているのが現状です。
一方で、国際情勢の変化を受けて「より実効的な規制の導入」を求める声が政治の場でも出ており、今後数年で法改正が行われる可能性は十分あります。不動産業者としては、法改正の動向をウォッチするための情報ソースを確保しておくことが重要です。国土交通省・内閣府・財務省のメールマガジンや官報への登録、業界団体(全宅連・全日本不動産協会など)からの情報提供ルートを整備しておくと、いち早く変化に対応できます。
業界団体の情報を定期確認が条件です。
また、外国人顧客の増加に伴い「多言語対応の重要事項説明書」や「外国語対応可能な宅建士の配置」を整備している事業者が競合優位性を持つようになっています。国土交通省は多言語版の重要事項説明書のひな型を公表しており、英語・中国語・韓国語などのバージョンが無料でダウンロードできます。顧客対応の品質を高めるうえで、活用を検討する価値があります。
参考リンク(国土交通省が提供している外国人向け不動産取引に関する多言語対応ガイドライン・ひな型)。
国土交通省:外国人の不動産取引に関する多言語対応ガイドライン
最後に、この分野はルールが短期間で変化しやすいため、一度調べて終わりにせず、年1回以上は最新情報を確認するサイクルを業務フローに組み込むことをおすすめします。法的リスクを避けつつ、外国人顧客からの信頼を得られる不動産業者になるために、正確な知識のアップデートを続けることが何より重要です。
![]()
【中古】(非常に良い)エッジワイズなコミュニティ: 外国人住民による不動産取得をめぐるトランスナショナルコミュニティの存在形態 -単行本 大倉 健宏