外国籍の相続人が相続放棄する際に必要な手続きと注意点

外国籍の相続人と相続放棄:不動産実務で必ず押さえる手続きと法的注意点

外国籍の相続人であっても、日本の家庭裁判所に相続放棄申述書を提出すれば相続放棄は成立します。

この記事の3つのポイント
🌏

外国籍でも日本の家庭裁判所で手続きできる

外国籍の相続人でも、日本国内に被相続人の最後の住所があれば日本の家庭裁判所に相続放棄を申述できます。国籍は手続き可否に影響しません。

📋

必要書類の準備が最大の難関

外国語の公文書には翻訳文の添付と翻訳者の氏名明記が必須です。国によって書類の形式や認証方法が異なるため、早めの確認が不可欠です。

3ヶ月の熟慮期間は起算点に注意

相続放棄の申述期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」です。海外在住の場合、この起算点の確認が特にトラブルになりやすい点です。

外国籍の相続人が相続放棄できる法的根拠と基本的な考え方

外国籍の相続人が相続放棄をする際、「そもそも日本の手続きが使えるのか」という疑問を持つ実務担当者は少なくありません。結論から言えば、外国籍であることは相続放棄の障害になりません。

日本の民法第938条では、相続放棄は「家庭裁判所に申述しなければならない」と定められています。この規定は相続人の国籍を問いません。被相続人が日本に最後の住所を持っていた場合、日本の家庭裁判所が管轄を持ち、外国籍の相続人も同じ手続きを利用できます。

重要なのは準拠法の考え方です。日本の「法の適用に関する通則法」第36条では、相続は被相続人の本国法によると定められています。しかし、被相続人が日本国籍を持つ場合や日本に常居所があった場合には、日本法が適用されることが原則です。相続放棄の手続き自体は、手続き地である日本の法律(民法・家事事件手続法)に従います。

つまり実務上は「被相続人が日本人で、日本国内に財産がある」というケースが圧倒的に多く、この場合は外国籍の相続人も日本の家庭裁判所で手続きを完結させる必要があります。手続き地の法律が適用されるということです。

不動産取引の現場では、売買や相続登記の前提として相続人全員の意思確認が必要になります。その相続人の一人が外国籍であることを後から発見するケースもあります。早期に国籍・所在を確認しておくことが、後のトラブルを防ぐ実務上の鉄則です。

外国籍の相続人が相続放棄するために必要な書類一覧

書類の準備が最大の壁です。日本人の場合と比べて、外国籍の相続人には追加で必要となる書類があります。

基本的に家庭裁判所へ提出する書類は以下の通りです。

  • 相続放棄申述書(裁判所所定の書式。申述人本人が署名する)
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票(最後の住所確認のため)
  • 被相続人との関係を示す戸籍謄本類
  • 申述人(外国籍の相続人)の在留カードのコピーまたはパスポートのコピー
  • 外国語で作成された公文書には、日本語の翻訳文と翻訳者の氏名・住所の明記が必須

外国語書類の翻訳は、公的な翻訳機関でなくても構いませんが、翻訳者が責任を持って氏名と住所を記載する必要があります。機械翻訳だけで提出しても裁判所に受理されないため注意が必要です。

申述人が海外に居住している場合には、署名に関してさらに問題が生じます。申述書の署名は本人によるものであることの証明が求められる場合があり、在外公館(日本大使館・領事館)での認証手続きや、現地の公証人(ノータリー)による証明を求められるケースがあります。

相続放棄の申述期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」です。この期間は裁判所への申請により延長(熟慮期間の伸長)が認められますが、申請しなければ3ヶ月で期限が来ます。海外在住の相続人に連絡が届いた日と、その方が「知った時」の認定は複雑になりやすいため、早期対応が原則です。

参考:相続放棄申述書の書式と記載例(裁判所公式)

裁判所ウェブサイト:相続の放棄の申述(家庭裁判所)

外国籍の相続人が海外在住の場合の手続き上の注意点

海外在住の相続人が絡む場合、手続きは格段に複雑になります。これは不動産実務の現場で最も時間がかかる場面です。

まず管轄の問題があります。相続放棄の申述は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。申述人(相続放棄をしたい外国籍の人)が海外にいても、申述先は日本の家庭裁判所です。郵送での申述も認められていますが、書類の不備があれば補正を求められ、往復に時間がかかります。

次に署名・印鑑の問題です。日本の相続放棄申述書には申述人の署名(または記名押印)が必要です。外国籍の方が印鑑を持っていないケースも多く、署名による対応が一般的ですが、その署名が本人のものであることを証明するために、現地の日本大使館・領事館でサイン証明(署名証明)を取得する必要が生じることがあります。

在外公館での手続きには数週間かかることがあります。サイン証明の取得だけで熟慮期間の大半を費やしてしまうケースも実際に起きています。3ヶ月という期間は短いです。

熟慮期間の伸長申請(民法第915条1項ただし書)は、この3ヶ月の期間が経過する前に行わなければなりません。海外在住の相続人がいると分かった時点で、ただちに弁護士や司法書士に相談し、伸長申請を検討することが現実的な対策です。

また、外国籍の相続人に日本語が通じない場合、申述書の記載内容や手続きの意味を正確に理解してもらうための通訳・翻訳サポートも現実的に必要になります。言語の壁が手続きの遅延に直結します。

外国籍の相続人が相続放棄しないと不動産実務はどう滞るか

外国籍の相続人が相続放棄の意思を明確にしない場合、不動産の相続登記や売買に実質的な支障が生じます。これは不動産従事者として最も影響を受ける局面です。

相続登記(2024年4月1日から義務化)を行うためには、相続人全員が特定されている必要があります。その上で、相続人全員の合意による遺産分割協議書、または相続放棄申述受理証明書の取得が前提になります。外国籍の相続人が手続きを放置している間は、この証明書が出せません。

2024年4月施行の改正不動産登記法では、相続を知った日から3年以内に相続登記をしないと10万円以下の過料が科される可能性があります。これは相続人全員に課される義務です。外国籍の相続人が手続きに非協力的な場合でも、他の相続人がペナルティを受けるリスクがあります。痛いですね。

さらに、外国籍の相続人が存在する中で不動産を売買しようとする場合、買主側の司法書士や金融機関も書類の確認に時間をかけます。決済のスケジュールが大幅に後ろ倒しになることも珍しくありません。

「相続人の所在が不明」「署名が取れない」「書類の翻訳が間に合わない」といった理由で、実際の不動産売買が数ヶ月単位で止まった事例は多数報告されています。外国籍の相続人の存在が判明した時点で、早期に専門家(弁護士・司法書士)を交えたチームを組むことが、取引の遅延を最小化する現実的な方法です。

参考:相続登記の義務化に関する法務省公式情報

法務省:相続登記の申請義務化について

外国籍の相続人が相続放棄した後の不動産登記の流れと実務ポイント

相続放棄申述受理証明書が取得できたら、不動産の相続手続きを前進させることができます。この証明書が「手続き完了の証拠」になります。

相続放棄申述受理証明書は、家庭裁判所が相続放棄を受理した後に発行します。申請から取得まで通常1~2週間程度かかります。この書類は、相続登記の申請や遺産分割協議において「この相続人は相続を放棄した」ことを第三者(法務局・金融機関・他の相続人)に証明するための公文書です。

外国籍の相続人が相続放棄をした後の登記申請では、この証明書を添付書類として法務局に提出します。他の相続人が法定相続分通りに相続するのか、遺産分割協議を行うのかによって、提出書類の構成が変わります。それが条件です。

外国語が含まれる書類(翻訳文など)は、法務局にも同様に提出が必要な場合があります。法務局によって対応が若干異なるため、事前に管轄の法務局に確認することを強くお勧めします。

また、税務面では相続放棄をした人は相続税の納税義務者から外れますが、生命保険の死亡保険金や退職手当金などは「みなし相続財産」として扱われ、相続放棄をしても受け取れる場合があります。この点は税理士への確認が必要です。外国籍の方が受け取る場合、日本と居住国との租税条約の有無によって課税関係が複雑になることもあります。

不動産従事者としては、相続放棄済みであることの確認→証明書の取得確認→登記申請書類の整備という流れを、チェックリスト化しておくことが実務上の効率化に直結します。

外国籍の相続人の相続放棄で見落とされやすい「準拠法」の問題と最新動向

これは検索上位の記事ではあまり掘り下げられない独自視点のトピックです。実務担当者が見落としやすい「準拠法」の問題は、外国籍の相続人が絡む案件では特に重要です。

「法の適用に関する通則法」第36条は「相続は、被相続人の本国法による」と定めています。つまり、相続人ではなく被相続人の国籍が基準になります。被相続人が日本国籍であれば日本法が適用されますが、被相続人も外国籍だった場合には、その国の法律が原則として相続に適用されます。

例えば、被相続人がアメリカ国籍で日本に不動産を持っていた場合、相続の準拠法は原則としてアメリカ法(さらに言えば州法)になりますが、日本の不動産については「不動産所在地法主義」を採るEU規則(ブリュッセルⅣ規則)のような考え方もあり、国際相続の準拠法は非常に複雑です。意外ですね。

日本の実務では、当事者間で合意があれば遺産分割協議書を作成することは可能ですが、外国法に基づく相続放棄の有効性が争われた場合、日本での手続きだけでは不十分になることがあります。この場合、相手国でも別途手続きが必要になることがあります。

2025年前後の実務では、在日外国人の増加と国際結婚の増加により、このような複雑な国際相続案件が増えています。法務省や日本弁護士連合会もこの領域のガイドライン整備を進めています。

不動産従事者としては、被相続人・相続人の双方の国籍を早期に確認し、外国籍が関係する案件では必ず国際相続に精通した弁護士を関与させることが、最大のリスクヘッジになります。準拠法の問題は手続きの根幹に関わります。

参考:国際私法(準拠法)に関する基礎知識

法務省:法の適用に関する通則法について