任意的記載事項とは宅建37条書面の全知識

任意的記載事項とは何か、宅建37条書面の基本から実務の注意点まで

「特約を口頭で決めただけ」だと、違約金50万円を請求できなくなる場合があります。

📋 この記事の3つのポイント
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任意的記載事項の本当の意味

「任意」という言葉に惑わされがち。定めがあれば必ず記載しなければならない義務事項です。記載してもしなくても自由、というわけではありません。

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全8項目の記載事項一覧

違約金・危険負担・契約不適合責任など、売買・貸借で異なる記載の要否を一覧で整理。実務で即使える比較表付きで解説します。

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記載漏れが招くリスクと罰則

37条書面の交付義務違反は最大50万円の罰金。また任意的記載事項の記載漏れが、後から大きな金銭トラブルに発展するケースを具体的に説明します。

任意的記載事項とは「定めがあれば必ず書く」事項のこと

「任意的記載事項」という言葉を初めて聞いたとき、多くの方が「記載するかどうか自由に選べる項目」と思い込みます。これが現場でも起きやすい最初の誤解です。

正確に言うと、任意的記載事項とは、宅建業法第37条書面(いわゆる契約内容記載書面)において「当事者間で定めを設けた場合に限り、必ず記載しなければならない事項」のことです。定めを設けていない場合は記載不要ですが、ひとたび契約上の合意があれば省略は許されません。つまり記載するかどうかが「任意」なのではなく、「定めの有無」によって記載義務が生じるかどうかが決まる仕組みです。

これに対して、必ず記載しなければならない「必要的記載事項(絶対的記載事項)」は、当事者間の合意の有無に関わらず常に書面に盛り込む義務があります。たとえば引渡し時期や代金の支払方法などがこれにあたります。

任意的記載事項が法律で設けられているのには、明確な理由があります。契約不適合責任の特約や違約金の定めなど、民法の原則とは異なる合意をした場合、それを書面に残さないと「そんな約束はしていない」というトラブルが後から頻発するからです。月刊不動産(全日本不動産協会)でも「契約で特に定めをした場合は書面に残しておかないと主張の相違によるトラブルになるおそれがある」と明記されています。

定めがあれば必ず記載するのが原則です。

参考:全日本不動産協会「月刊不動産 Vol.67 宅建業法~37条書面の交付」(37条書面の任意的記載事項の考え方と位置づけについて詳しく解説)

任意的記載事項の全8項目一覧と売買・貸借の違い

任意的記載事項は合計8項目あります。これらを正しく把握しないと、実務上の記載漏れに直結します。以下に売買・交換と貸借それぞれの要否もあわせて整理します。

# 任意的記載事項 売買・交換 貸借
代金・交換差金・借賃以外の金銭(手付金敷金等)の額・授受時期・目的
契約解除に関する定めの内容
損害賠償額の予定・違約金の定めの内容
ローンあっせんが不成立のときの措置
天災その他不可抗力による損害の負担(危険負担)の定め
契約不適合責任(担保責任)についての定め・保証保険契約等の措置
宅地・建物に関する租税その他の公課の負担に関する定め
(上記⑥の)責任の履行に関する保証保険等の措置の内容

実務で特に混乱しやすいのは④⑥⑦⑧が「貸借では記載不要」という点です。賃貸仲介を中心に扱っている方が売買の案件を担当したとき、貸借の感覚のまま進めてしまうと記載漏れが生じます。

また⑤の危険負担は貸借でも記載が必要な点が意外と盲点になります。危険負担と契約不適合責任をセットで覚えていると「どちらも売買だけ」と誤解しやすいので注意が必要です。危険負担の特約は貸借でも記載が必要というのが正しい理解です。

もう一つ注意が必要なのが②の「契約解除」です。35条書面(重要事項説明書)では契約解除に関する事項は「必要的記載事項」扱いですが、37条書面では「任意的記載事項」の扱いになります。35条と37条で位置づけが違うので、混同しないようにしてください。

貸借では④⑥⑦は記載しない、が条件です。

参考:宅建業法解説サイト「37条書面の必要的・任意的記載事項」(各項目の売買・貸借別の要否と35条書面との比較を詳しく解説)

任意的記載事項と必要的記載事項の違いを宅建試験視点で整理する

宅建試験では、任意的記載事項と必要的記載事項の区別が毎年のように問われます。不動産従事者として試験合格を目指している方はもちろん、すでに現場で働いている方も、この区別があいまいだと実務上のミスを招く原因になります。

必要的記載事項(絶対的記載事項)とは、当事者の氏名・住所、物件の特定に必要な表示、代金・支払時期・支払方法、物件の引渡し時期、移転登記申請時期(売買・交換のみ)、既存建物の建物状況調査で双方が確認した事項(売買・交換のみ)の6項目です。これらは「定めがない」という状況自体があり得ない事項で、必ず何らかの内容を記載しなければなりません。

一方で任意的記載事項は、合意がなければそもそも書面に書く必要がない事項です。「定めがない旨を記載する」という行為も不要です。ここが必要的記載事項との大きな違いです。試験でよく出るひっかけのパターンに「天災その他不可抗力による損害の負担に関する定めがないときも、その旨を37条書面に記載しなければならない」という選択肢があります。これは誤りです。定めがない任意的記載事項については、何も書かなくて構いません。

また、宅建試験でもよく問われるのが「35条書面にも記載が必要か、37条書面にだけ記載が必要か」という比較問題です。たとえば「物件の引渡し時期」は37条書面の必要的記載事項ですが、35条書面には記載不要です。このように、35条と37条を対比しながら覚えることが理解を深めるうえで欠かせません。

35条・37条を対比して覚えるのが基本です。

参考:宅建独学サイト「37条書面の任意的記載事項の考え方と語呂合わせ」(8項目の任意的記載事項を語呂合わせで覚える方法と35条との対比を解説)

任意的記載事項の記載漏れが招く実務リスクと金銭トラブルの実態

試験で正答できることと、実務で正しく運用できることは別の問題です。特に任意的記載事項については「定めがあれば必ず記載する」という点を実務でうっかり忘れてしまうと、後から取り返しのつかないトラブルに発展することがあります。

最も深刻な事例の一つが、違約金の特約を口頭で合意したものの37条書面への記載を忘れたケースです。たとえば「売主が解除した場合は手付金の倍返し、買主が解除した場合は手付金没収に加えて代金の20%を違約金として支払う」という合意をしたとします。しかし37条書面にその記載がなければ、いざトラブルになったとき相手方に「そんな約束はしていない」と主張される余地を与えてしまいます。結果として、本来受け取れるはずだった違約金を請求できなくなる可能性があります。

また、宅建業者自身にとっての罰則も見逃せません。37条書面の交付自体を怠った場合、宅建業者は「業務停止処分」という監督処分の対象になり、さらに罰則として「50万円以下の罰金」が科されることがあります(宅地建物取引業法第83条第1項第2号)。これは会社規模に関わらず適用される規定です。

痛いですね。

なお、宅建士個人に対しては37条書面の交付に関する罰則は設けられていません。あくまで交付義務を負うのは宅建業者(法人または個人事業主)です。ただし、37条書面への記名は宅建士の職務であるため、記名を怠った場合は宅建士個人の問題にもなります。

記載漏れは「書けばよかった」では済まない場合があります。契約合意の内容を漏らさず拾い上げ、書面に落とし込む習慣を実務の中に組み込んでおくことが重要です。実務では「チェックリスト形式の確認シート」を使って任意的記載事項の合意有無を契約前に確認している会社も増えています。記載すべき事項を漏れなく洗い出すためのツールとして、自社専用の書式を整備しておくことを検討する価値があります。

参考:東建コーポレーション「契約内容記載書面(37条書面)とは」(37条書面の交付義務違反に対する50万円以下の罰金規定についての解説)

宅建業法改正後の37条書面の変更点と任意的記載事項への影響

2022年5月に施行されたデジタル社会形成整備法に伴う宅建業法改正は、37条書面の取り扱いにも直接影響しています。現場で働く不動産従事者なら必ず把握しておかなければならない変点です。

改正前は、37条書面への記名と押印の両方が宅建士に求められていました。しかし改正後は「記名のみ」で足りることになり、押印は不要になりました。これは35条書面重要事項説明書)も同様です。なお「押印が不要」というのは義務がなくなったということであり、押印すること自体は問題ありません。

もう一つの大きな変更点が、電磁的方法による交付が可能になったことです。改正前は紙の書面を物理的に交付することが原則でしたが、相手方の承諾を得た場合に限り、電子データでの交付も認められるようになりました。この点は任意的記載事項の中身そのものには変化はありませんが、書面のフォーマットや運用フロー全体に影響する変更です。

これは使えそうです。

ただし電子交付を導入する場合には、「相手方の承諾」というプロセスをきちんと証跡として残すことが必要です。また電子契約サービスを利用する際は、その契約書に37条書面の必要的・任意的記載事項が網羅されているかどうかを確認しなければなりません。実務上、売買契約書と37条書面は一体として作成されるケースが多く、売買契約書の内容が37条書面の要件を満たしていれば別途37条書面を交付する必要はないとされています。

電子化を進める際は記載事項の網羅性確認が条件です。

参考:クラウドサイン「不動産取引書類の電磁的記録が可能に?37条書面について解説」(2022年改正による押印廃止・電子交付に関する要件と実務対応方法を詳しく解説)

不動産実務での独自視点:任意的記載事項の「抜け漏れゼロ」チェック習慣の作り方

宅建の試験では正答できても、実際の業務では記載漏れが起きやすいのが任意的記載事項です。現場では次から次へと案件をこなす中で、特約の有無や合意内容を確認しきれないまま書面を作成してしまうリスクが常にあります。ここでは試験知識を実務に接続するための習慣づくりについて、独自の観点から整理します。

まず意識しておきたいのは、任意的記載事項の8項目は「特約が生まれやすい場面」と直結しているという点です。たとえば「ローンが通らなかったらどうするか」を決めていれば④のローンあっせん不成立時の措置が記載対象になりますし、「地震があったら誰が責任を負うか」を決めていれば⑤の危険負担が記載対象になります。つまり、商談・交渉の段階で合意された内容を一つひとつメモしておき、それが8項目のどれに該当するかを照合するというルーティンが有効です。

実際、記載漏れのほとんどは「特約の合意はあったが書面に反映し忘れた」という単純なケースから発生しています。これは担当者の知識不足というよりも、確認プロセスの設計不足が原因です。

一つ具体的な対策として、契約書作成時に使う「任意的記載事項確認チェックシート」を自社で用意する方法があります。8項目それぞれについて「定めあり・なし」を確認するシンプルな一覧表を用意し、担当者が契約前に必ず確認してから書面を作成するフローを作るだけで、記載漏れのリスクを大きく下げられます。

記載すれば守られる権利が、記載しないだけで消える場合があります。口頭合意の内容を書面に落とし込む最後の砦が37条書面です。その一行を加えるかどうかが、後から数十万円・数百万円単位の金銭紛争を回避できるかの分岐点になるのです。

また、実務経験が浅いうちは「定めがある任意的記載事項」の存在に気づかないケースがあります。売主と買主が口頭で「固定資産税の負担は引渡し日を基準に日割りにする」と合意していたとしても、それを担当者が把握していなければ⑦の公課の負担に関する定めが漏れてしまいます。契約後に両当事者へのヒアリングを再確認するタイミングを設けることも有効です。

口頭合意を拾い上げる仕組みが実務の要です。

任意的記載事項を正しく運用するためには、まず8項目を頭に入れ、次にそれぞれの「定めがあるか否か」を契約ごとに確認する習慣を作ることが重要です。知識として知っているだけでなく、業務フローとして組み込んでおくことが、プロとしての信頼と法的リスクの回避につながります。