執行認諾文言付き公正証書の作り方と不動産実務活用ガイド

執行認諾文言付き公正証書の作り方と手順を徹底解説

公正証書に執行認諾文言を入れても、家賃滞納した入居者を建物から直接追い出すことはできません。

📋 この記事の3ポイントまとめ
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執行認諾文言付き公正証書とは?

相手が金銭債務を履行しない場合に、裁判なしで差押えなどの強制執行ができる特別な公正証書。民事執行法22条5号に根拠を持つ、強力な債権回収ツール。

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作成の基本ステップ

①公正証書原案の作成 → ②公証役場への事前連絡・予約 → ③両当事者が公証役場へ出頭 → ④署名・押印・手数料支払い → ⑤送達・執行文付与、の5ステップが基本流れ。

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不動産従事者が知るべき限界

この証書で強制執行できるのは「金銭債権(未払い家賃等)」のみ。建物の明け渡しには使えず、立退きには別途「即決和解」等の手続きが必要となる。

執行認諾文言付き公正証書とは何か・不動産実務での位置づけ

執行認諾文言付き公正証書とは、債務者が「支払いを怠った場合には直ちに強制執行に服する」という文言を含んだ公正証書のことです。民事執行法22条5号に基づく制度で、確定判決と同等の効力を持つ特別な書面と位置づけられています。

不動産実務の現場では、家賃滞納売買代金の未払い、違約金の回収など、金銭がからむトラブルは日常茶飯事です。通常の賃貸借契約書にどれだけ強い文言を入れても、契約書には「執行力」がありません。相手が支払いを拒んだ場合、原則として訴訟を起こして判決を得なければ、差押えなどの強制執行は行えないのです。

つまり「裁判なし」で動かせる書類という点が原則です。ところが、この公正証書に執行認諾文言を盛り込んでおくと、判決不要で差押えが可能になります。給与・預金口座・動産など、債務者の特定した財産に対して強制執行を申し立てることができる状態になるため、不動産管理の場面でも非常に強力なツールとして知られています。

なお、この証書で強制執行できる対象は「金銭の一定の額の支払い等を目的とする請求」に限られます。建物明渡しの強制執行には、この証書は使えません。この点については後段で詳しく説明します。

参考情報:法務省による「公正証書によって強制執行をするには」のページでは、執行認諾文言の具体的な記載例が掲載されています。

法務省:公正証書によって強制執行をするには

執行認諾文言付き公正証書の作り方・5つのステップ

作成の流れは、大きく5つのステップに分けて理解しておくと実務でも迷いません。

ステップ1:公正証書原案(合意書)の作成

まず、公証役場に持ち込む「公正証書原案」を用意します。これは当事者がどのような内容の公正証書を作りたいかを公証人に伝えるための下書きです。原案には、債権の発生原因・金額・支払期日・遅延損害金・期限の利益喪失条項、そして「強制執行認諾文言」を盛り込む必要があります。

強制執行認諾文言の典型的な記載例は次のとおりです。「債務者は、本証書記載の金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。」この一文が欠けると、公正証書を作成しても差押えはできません。原案作成が、実は最も重要な工程です。

専門家(行政書士・弁護士等)に原案作成を依頼する場合、費用はおおむね3〜10万円程度が目安となります。自分で作成したうえで公証役場の担当者に確認を取る方法も可能ですが、法的に有効な文言かどうかを事前に吟味しておくことが重要です。

ステップ2:公証役場への事前連絡・予約

原案ができたら、最寄りの公証役場に電話して予約を取ります。この時点で原案をFAXやメールで送っておくと、公証人が事前に内容を確認でき、当日の手続きがスムーズになります。公証役場は全国に約300か所あり、どこで作成しても構いませんが、将来的に執行文の再度付与が必要になる可能性を考えると、債権者(貸主側)の最寄りの公証役場で作成しておくのが現実的です。

ステップ3:両当事者が公証役場へ出頭

原則として、債権者と債務者(または各自の代理人)が揃って公証役場に出頭します。本人が出頭する場合は、運転免許証・マイナンバーカード・パスポートのいずれかと認印を持参すれば、印鑑証明書は不要です。出頭できない場合は代理人に委任することも可能ですが、白紙委任は認められません。委任状には作成する公正証書の具体的な内容を明示し、委任者の実印・印鑑証明書を添付する必要があります。

ステップ4:署名・押印と手数料の支払い

公証人が原案を読み合わせ、内容を確認した上で、各当事者が署名・押印します。同時に公証人手数料を支払います。手数料は法律行為の目的価額によって異なり、例えば目的価額が100万円以下の場合は5,000円、500万円超〜1,000万円以下の場合は17,000円が基本手数料です。これに加え、正本・謄本代(1ページ250円)や送達手数料なども別途かかります。

ステップ5:送達と執行文付与の手続き

公正証書が完成したら、強制執行の準備として「送達」と「執行文付与」の手続きを行います。送達とは、債務者に対して公正証書謄本を公式に届けることで、これが完了しないと強制執行の申立てができません。次に執行文付与(手数料1,700円)を申請し、公証人が正本末尾に「強制執行できる」旨の文言を付記します。この2点が揃ってはじめて、裁判所への強制執行申立てが可能になります。

参考情報:日本公証人連合会による必要書類・手数料の公式説明は以下から確認できます。

日本公証人連合会:必要書類について
日本公証人連合会:手数料について

執行認諾文言付き公正証書で不動産従事者が陥りやすい落とし穴

不動産業に関わる方がこの証書の活用を考えるとき、最も誤解されやすいのが「適用範囲」の問題です。これは知らないと大きな損失につながります。

落とし穴①:建物明渡しには使えない

「公正証書があれば裁判なしで明け渡してもらえる」と思っている方は少なくありません。しかし、執行認諾文言付き公正証書で強制執行できるのは、あくまで「金銭債権」のみです(民事執行法22条5号)。家賃の差押えは可能ですが、「家賃を払わないから部屋を明け渡せ」という強制執行には使えません。

たとえ賃貸借契約書を公正証書で作成し、「明渡しを認諾する」旨の文言を入れたとしても、建物明渡しについては執行証書としての効力が認められていないのです。明け渡しを求めるには、別途、訴訟を提起するか「即決和解(訴え提起前の和解)」という手続きを経る必要があります。この点は全日本不動産協会でも注意喚起されている重要事項です。

全日本不動産協会:賃借人との間の即決和解(明渡しの別手続きについて)

落とし穴②:文言を入れ忘れると効力ゼロ

公正証書を作成したからといって、自動的に強制執行ができるわけではありません。必ず「強制執行認諾文言」が記載されている必要があります。この文言がない公正証書は証拠力こそありますが、執行力はゼロです。原案を急いで作成した結果、この肝心な一文が抜けてしまうケースが実際にあります。公証役場に提出する前に、必ず原案に執行認諾文言が含まれているかを確認してください。

落とし穴③:契約書に書いただけでは無効

通常の賃貸借契約書や個人間の合意書に「強制執行を受け入れる」という文言を入れても、その文書は執行証書になりません。執行認諾文言が法的効力を持つのは、公証人によって作成された公正証書においてのみです。これは基本原則が条件です。「念のため書いておいた」という認識の方も多いのですが、公正証書の形式を経ていない書類には執行力は生まれません。

落とし穴④:債務者の住所変に注意

強制執行を申し立てる際、公証役場が送達できる債務者の現住所が必要です。公正証書作成時と住所が変わっている場合、送達手続きが進まず執行文付与もできなくなります。賃貸管理の現場では、退去後に連絡が取れなくなる入居者のケースもあります。契約時の公正証書に記載した住所と、実際に執行する時点の住所が異なる場合は、事前に住民票等で住所確認をしてから公証役場に出向く必要があります。

執行認諾文言付き公正証書を不動産賃貸で活用する実践的な使い方

ここでは、不動産賃貸の現場で本当に役立つ活用シナリオを整理します。これは使えそうです。

活用シーン①:滞納家賃の給与差押え

賃貸借契約を公正証書で作成し、執行認諾文言を盛り込んでおけば、入居者が家賃を滞納した際に裁判を経ずに給与や預金口座を差し押さえることができます。通常の明渡し訴訟では、滞納開始から強制執行完了まで最低でも11か月〜1年以上かかると言われます。一方、執行認諾文言付き公正証書があれば、執行文付与・送達証明を取得した後、数日〜数週間での差押え申立てが可能です。時間コストの圧縮が最大のメリットです。

ただし、賃貸借契約そのものを公正証書形式で締結するためには、入居者(債務者となる側)にも公証役場への出頭を求める必要があります。入居希望者がそれを拒む場合も現実にはあるため、入居申込みの段階で事前説明をしておくことが重要です。

活用シーン②:売買・仲介取引後の違約金回収

冒頭のコラムで紹介された事例のように、不動産売買取引で買主が契約を不履行にした場合、違約金に関する債務弁済公正証書を執行認諾文言付きで作成しておくことで、裁判なしに違約金回収への道が開けます。売買代金の2割相当(例:1億円の物件なら2,000万円)といった高額の違約金でも、公正証書があれば素早く動けます。

活用シーン③:保証人との間での補完的活用

連帯保証人が法人ではない個人の場合(民法465条の6の要件に該当する場合)、極度額等を定めた上で保証契約公正証書を作成し、執行認諾文言を盛り込むことが考えられます。主債務者が支払いを止めた場合、保証人の財産にも速やかにアプローチできる体制を事前に整えておくことが重要です。

参考情報:賃貸管理における強制執行や差押えの実態については、以下の専門サイトが詳しく解説しています。

公益財団法人不動産流通推進センター:建物賃貸借における明渡しの強制執行までの手順と留意点

執行認諾文言付き公正証書の費用の全体像と専門家費用の目安

実際にかかる費用を整理しておきましょう。費用の全体像を把握しておくことは原則です。

公証役場に支払う費用の構成は次の4項目です。

費用項目 金額の目安
公証人基本手数料(目的価額500万〜1,000万円の場合) 17,000円
正本・謄本代(1ページ250円×ページ数×通数) 3,000〜6,000円程度
特別送達手数料+切手代 1,400円+切手代
執行文付与(単純執行文) 1,700円
送達証明書 250円

公証役場への費用だけで見れば、目的価額が500万円程度の案件でも合計3〜4万円前後に収まります。これは東京地裁に訴訟を起こした場合の印紙代(例:500万円の請求なら約5万円)と比べると割安感があります。

専門家費用については、行政書士に公正証書原案の作成を依頼する場合は3〜5万円程度、弁護士が代理で一連の手続きを行う場合は10〜30万円程度が相場の目安です。費用対効果を考えるなら、複雑な条件がない場合は行政書士への依頼から始めてみる選択肢が現実的です。

また、入居者の目的価額(賃料総額)に基づく手数料計算も注意が必要です。土地賃貸借契約公正証書の場合、目的価額は「賃貸期間中の賃料総額の2倍」で計算されるケースがあり、長期契約ほど手数料が高くなることがあります。実際の費用は事前に公証役場に確認することを推奨します。

一方で、強制執行まで自分で対応するのが難しいと感じる場面では、弁護士に依頼することも選択肢に入ります。執行文付与・差押え申立てを代理してもらう場合の費用は事案によって変わりますが、回収できる金額と費用のバランスで判断することが大切です。

参考情報:公正証書全般の作成方法・費用について詳しい解説があります。

公正証書作成の手引き(作り方・費用・必要書類等を徹底解説)