従業者名簿の保存期間と宅建業法の義務を正しく理解する

従業者名簿の保存期間と宅建業法の義務を正しく理解する

名簿を5年で廃棄すると、業務停止処分を受けることがあります。

この記事の3つのポイント
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保存期間は「最終記載日から10年」

従業者名簿の保存期間は帳簿の5年と異なり、最終の記載をした日から10年間です。帳簿と混同すると違反になります。

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備付義務違反は業務停止+50万円以下の罰金

従業者名簿の備付義務違反は、帳簿違反よりも重い処分(業務停止処分)の対象となります。早期廃棄は厳禁です。

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令和7年4月1日改正で記載事項が変わった

令和7年4月1日施行の改正により、従業者名簿から「性別」と「生年月日」の記載欄が削除されました。様式の差し替えが必要です。

従業者名簿の保存期間が「10年」である宅建業法上の根拠

従業者名簿の保存期間は、宅地建物取引業法第48条第3項および同施行規則第17条の2に基づき、最終の記載をした日から10年間と定められています。この「最終の記載をした日」という基準は少しクセがあります。

重要なのは「その行を記載した日」ではなく、名簿全体として最後に何らかの記載をした日を起点とする点です。つまり、10人のうち1人について退職年月日を追記した場合、その日が名簿全体の保存期間の起算点となります。10年カウントが全体としてリセットされる、というイメージです。

この規定の根拠条文は以下のとおりです。

  • 宅地建物取引業法 第48条第3項:事務所ごとに従業者名簿を備え、所定の事項を記載しなければならない
  • 宅地建物取引業法施行規則 第17条の2:従業者名簿の記載事項および保存期間(最終記載日から10年)を規定

参考リンク(宅建業法における従業者名簿の法的根拠・条文全文)。

宅地建物取引業法 – e-Gov 法令検索

よく混同されるのが、帳簿(取引台帳)の保存期間です。帳簿は各事業年度の末日に閉鎖し、閉鎖後5年間保存が原則となっています(宅建業者自ら売主となる新築住宅に関しては10年)。従業者名簿は10年、帳簿は5年が基本です。

この違いを知らずに名簿を5年で廃棄するケースが後を絶ちません。5年で廃棄してしまうと宅建業法違反となります。数字だけ見ると似ているようで、業法上の扱いはまったく別物です。

書類の種類 保存期間の起算点 保存期間 閲覧義務
従業者名簿 最終の記載をした日 10年間 あり(取引関係者の請求時)
帳簿(取引台帳) 各事業年度の末日に閉鎖 閉鎖後5年間 なし
帳簿(自ら売主・新築) 各事業年度の末日に閉鎖 閉鎖後10年間 なし

10年が基本です。この数字を真っ先に覚えてください。

従業者名簿の保存義務違反は宅建業法の中でも重い処分になる

従業者名簿に関する義務違反がどれほど重いか、具体的に確認しておきましょう。帳簿の備付義務違反とは異なる重さがあります。

宅建業法上の違反と処分の対応関係は下表のとおりです。

違反内容 行政処分 刑事罰
帳簿の備付義務違反・記載不備 指示処分 50万円以下の罰金
従業者名簿の備付義務違反・記載不備・虚偽記載 業務停止処分(または指示処分) 50万円以下の罰金

従業者名簿の違反は業務停止処分の対象です。帳簿違反が「指示処分」どまりなのに対し、従業者名簿は業務停止処分まで発展し得ます。業務停止とは、最長1年間、営業の全部または一部を禁じられる処分です。不動産会社にとって1年の業務停止は経営に直結する打撃となります。

50万円以下の罰金は両者に共通していますが、行政処分の重さが違います。これは厳しいところですね。

保存期間を過ぎていないのに名簿を廃棄したり、記載事項の一部を省略したりしているだけでも、この違反に問われるリスクがあります。「書き漏れ」や「古い様式のまま使用」なども記載不備に該当する可能性があります。

参考リンク(宅建業者に対する監督処分・罰則の基準)。

宅地建物取引業者の違反行為に対する監督処分の基準(国土交通省)

処分を避けるには、保存期間中の名簿を適切に管理し、様式変更への対応も欠かさないことが条件です。特に後述する令和7年改正への対応は急務といえます。

従業者名簿の記載事項と令和7年4月改正の変更点

従業者名簿に記載すべき事項は、宅地建物取引業法施行規則第17条の2(様式第8号の2)で定められています。令和7年4月1日の施行規則改正により、記載事項が変わりましたので現在の内容を整理します。

令和7年4月1日以降の記載事項(現行)

  • 従業者の氏名(旧姓の併記も可)
  • 従業者証明書の番号
  • 主たる職務内容
  • 宅地建物取引士であるか否かの別
  • 当該事務所の従業者となった年月日
  • 当該事務所の従業者でなくなったときは、その年月日

令和7年4月1日改正で削除された項目

  • 性別
  • 生年月日

なお平成29年度改正ですでに「住所」の記載も除かれています。意外ですね。現在は住所の記載は不要です。

令和7年改正のポイントは個人情報保護の観点からの見直しです。性別・生年月日という個人情報を名簿から削除することで、取引関係者への閲覧対応時のプライバシーリスクを軽減する目的があります。

参考リンク(令和7年4月施行の様式変更内容の詳細)。

【令和7年4月1日~】従業者名簿・標識(宅地建物取引業者票)の様式変更

この改正後の様式は全宅連のホームページ「ハトサポ」からもダウンロードできます。古い様式をそのまま使い続けている場合は、記載不備とみなされる可能性があります。今すぐ確認することをお勧めします。

まとめると、現行の従業者名簿には住所・性別・生年月日を書く欄はないということです。旧様式を使い続けることは、記載事項の誤りにつながりかねません。

従業者名簿の「誰を記載するか」の判断基準と見落としやすいケース

従業者名簿に誰を記載するかは、実務上でも迷うポイントです。判断を誤ると「記載漏れ」として指摘される可能性があります。

宅建業のみを営む業者の場合の記載対象

  • 代表者(社長・個人業者本人)
  • 常勤の役員(専務・常務などの常勤取締役)
  • 正社員(営業職・事務職・管理職すべて)
  • パート・アルバイト(一時的な補助者も含む)
  • 非常勤の役員(→ 記載対象外
  • 監査役・監事(→ 記載対象外)

アルバイトも記載対象という点が見落とされがちです。「短期のアルバイトだから不要」という思い込みは禁物です。一時的に事務補助をするアルバイトも「従業者」に該当します。

ただし、非常勤役員と監査役は対象外です。この違いだけは覚えておけばOKです。

宅建業以外を兼業している場合の注意点

宅建業以外の事業を兼業している業者では、宅建業に従事していない部門の従業員は名簿に記載不要です。例えば、総務・経理など宅建業にも関わる一般管理部門のスタッフは記載が必要ですが、宅建業とは全く無関係な製造部門の従業員などは対象外となります。

参考リンク(従業者名簿の記載対象と書き方の実務的解説)。

【宅地建物取引業】従業者名簿の書き方と注意点について解説(相川行政書士事務所)

また、従業者でなくなった(退職した)人物の情報も、保存期間内は名簿から削除できません。従業者名簿には「従業者でなくなった年月日」を記載する欄があり、退職後も一定期間は記録として保持し続ける義務があります。退職者の情報を名簿から消してしまうと、「記載不備」として違反に問われる可能性があります。これは意外と知られていないルールです。

従業者名簿は「取引関係者」に閲覧させる義務がある実務上の注意点

従業者名簿には、取引の関係者から請求があった場合に閲覧させる義務があります(宅建業法第48条第4項)。帳簿には閲覧義務がない点と比べると、従業者名簿は対外的な開示義務を伴う書類です。

「取引関係者」とは、宅建業者と何らかの取引関係にある顧客・売主・買主・借主・貸主などを指します。従業員やその家族ではありません。取引関係者からの求めがあれば、閲覧に応じる義務が生じます。

この閲覧対応について、重要なポイントが2つあります。

  • ✅ 紙での閲覧だけでなく、パソコンのディスプレイ画面上で表示する方法でもOK
  • ✅ 電磁的方法(Excel・PDF等のデジタルデータ)での保存・管理も認められている

電子データで管理してもよい、ということですね。実務では、Excelなどで名簿を管理し、いつでも画面表示や印刷ができる状態にしておけば、法的要件を満たします。「すぐにプリントアウトできる環境」が整っていることが条件です。

閲覧の可否 帳簿(取引台帳) 従業者名簿
取引関係者への閲覧義務 ❌ なし ✅ あり
電磁的方法での保存 ✅ 可 ✅ 可
事務所ごとの備付 ✅ 必要 ✅ 必要
案内所への備付 ❌ 不要 ❌ 不要

案内所には従業者名簿の備付義務はありません。あくまで「事務所ごと」の備付です。案内所には帳簿も名簿も不要という点はセットで覚えておいてください。

なお、取引関係者から名簿の閲覧を求められたにもかかわらず、これを断ったり見せられない状態だった場合は、業務停止処分の対象となり得ます。日ごろから名簿を即時閲覧できる状態に保つことが、リスク管理の基本です。

参考リンク(従業者名簿の閲覧義務・電磁的保存を含む実務解説)。

標識の掲示、帳簿の備付け、従業者証明書の携帯など(神奈川県)