買受可能価額と売却基準価額の仕組みと入札実務
売却基準価額で入札すれば必ず落札できると思っていると、東京では約70%の物件が売却基準価額の1.5倍以上で落札されて大きな機会損失になります。
買受可能価額の計算方法と売却基準価額との数字の関係
競売に関わる不動産業従事者が最初に押さえるべきは、2つの価額の数字的な関係です。売却基準価額とは、裁判所が不動産鑑定士などの評価人による鑑定評価をもとに決定した、競売不動産の基準となる価額です。 単純に鑑定士の査定額がそのまま使われるわけではなく、物件の特別な事情(占有者の状況など)も加味した上で裁判所が最終的に決定します。chigai-hikaku+1
買受可能価額はその80%、つまり売却基準価額から20%を控除した金額です。 この金額が入札できる最低ラインとなり、それを下回る入札は無効になります。mbp-japan+1
具体的な数字で確認しましょう。
| 売却基準価額 | 買受可能価額(×80%) | 買受申出保証額(×20%) |
|---|---|---|
| 1,000万円 | 800万円 | 200万円 |
| 2,000万円 | 1,600万円 | 400万円 |
| 5,000万円 | 4,000万円 | 1,000万円 |
つまり「売却基準価額の80%が最低入札価格、20%が保証金」が基本です。
参考)競売の売却基準価額と買受可能価額と買受申出保証額|藤本忠昭
さらに、売却基準価額と市場価格の関係も理解しておく必要があります。売却基準価額の算出では「競売市場修正」という減価が加えられるため、通常は市場価格の70%前後が売却基準価額になります。 買受可能価額はその80%なので、市場価格と比べると約56%水準になります。計算上は「安く見える」ということですね。
参考)競売の価格は市場価格の56%なの?|お知らせ・コラム|LIX…
ただし、これはあくまで入札可能な下限の話です。実際にその価格で落札できるかどうかは全く別の問題であり、この点を誤解している業者は少なくありません。
参考:民事執行法第60条「売却基準価額の決定等」に関する公式解説
BIT 不動産競売物件情報サイト(裁判所)-売却基準価額の説明
買受可能価額と実際の落札価格の乖離:不動産業者が見落とすリスク
「買受可能価額付近で入札すれば落札できる」という思い込みは、都市部では特に危険です。東京都で2015年4月〜9月の6か月間に実施された競売817件を分析した調査では、売却基準価額の1.5倍以上で落札された物件が全体の70%以上を占めていました。 さらに売却基準価額の2倍以上で取引された物件も10%超あります。
参考)【800件以上を分析】競売物件の落札価格と、売却基準価格の違…
2019年の横浜地方裁判所の事例では、売却基準価額が641万円の物件が27件の入札を集め、最終落札価格は1,630万円と売却基準価額の約2.54倍に達しました。 需要の高いエリアでは、買受可能価額は「入札のスタートライン」に過ぎないのです。
意外ですね。
一方で、売却基準価額をそのまま「物件価値の基準」として顧客に説明してしまうと、実態との乖離が大きくなりクレームや信頼損失につながります。顧客への説明では次の点を明確に区別することが重要です。
- 📌 売却基準価額:裁判所が設定した競売用の基準価格(≠市場価値、≠落札価格)
- 📌 買受可能価額:入札できる最低ライン(市場価格の約56%水準)
- 📌 実際の落札価格:需要・競合入札者数により大きく変動する
実務での入札戦略を立てる場面では、売却基準価額を0.7で割り戻して市場価値を推定し、そこから諸費用・リフォーム費用・修繕費を差し引いた「自分の上限価格」を先に決めておく方法が実践的です。 これが条件です。
参考:800件超の競売データに基づく売却基準価額と落札価格の分析
競売物件の落札価格と売却基準価格の違いを解説(800件以上分析)
買受可能価額を正しく使う三点セットの活用法
買受可能価額の数字だけを見て入札判断するのは、競売実務では非常に危険です。入札価格の妥当性を検証するためには、裁判所が公開する「三点セット(物件明細書・現況調査報告書・評価書)」を必ずセットで読み込む必要があります。
参考)競売三点セット完全解説|物件明細書・現況調査報告書・評価書の…
3つの書類はそれぞれ異なる情報を担っています。
| 書類名 | 確認できる主な情報 |
|---|---|
| 📄 物件明細書 | 権利関係・占有状況・売却条件などの法的情報 |
| 🔍 現況調査報告書 | 室内外の状態・設備・残置物などの物理的現況 |
| 📊 評価書 | 評価額・近隣取引事例・価格算定の根拠 |
評価書の中に売却基準価額の算定根拠が記載されており、「競売市場修正率」の数値を確認することで、その物件の市場価値推定ができます。
郊外の一戸建て(評価書の価額1,200万円)でも、現況調査報告書の写真で残置物多数・天井の雨染みが確認できた場合、撤去費25万円+補修費30万円を差し引いた実質コストを考慮して入札上限を決める必要があります。 これは使えそうです。
また、売却基準価額は鑑定評価をベースにしていますが、占有者の状況によって追加で減価される場合もあります。 占有者がいる物件は、明渡し交渉や法的手続きにかかるコスト(数十万円〜100万円超になることも)も入札価格に反映させるのが実務の鉄則です。
参考:三点セットの読み方と実践活用法の詳細解説
買受可能価額を下回る入札と保証金没収:業者が知るべき法的リスク
入札実務で絶対に押さえておくべきリスクが2つあります。1つ目は、買受可能価額を下回る入札は即時無効になることです。 入札書に記載した金額が1円でも買受可能価額を下回っていれば、その入札は一切有効になりません。入力ミスや単純な計算ミスが原因でも例外はないため、入札書の記入は必ず二重確認が必要です。
参考)不動産競売「売却基準価額」と「買受可能価額」の違いとは?分か…
2つ目のリスクが、保証金の没収です。入札前に売却基準価額の20%相当を保証金として納付しますが、落札後に残代金を期日までに納付できない場合、この保証金は全額没収されます。 売却基準価額1,000万円の物件なら保証金は200万円、これがそのまま消えます。痛いですね。
参考)不動産競売の保証金とは?金額の計算、納付手続きから返還・没収…
さらに、保証金の納付にも細かなルールがあります。
- ✅ 振込名義の統一が必要(名義が異なると入札無効になることがある)
- ✅ 振込証明書を入札書に添付しなければ無効
- ✅ 後から保証金を追加納付することは認められない
- ✅ まれに売却基準価額の20%を超える保証金が設定されるケースもある
売却許可決定前であれば「売却不許可申立」、決定後であれば「売却許可取消申立」という形で手続きを止める方法もあります。 ただし実際に認められるケースは非常に限られており、保証金が戻る保証はありません。法的リスクに注意が必要です。
入札前の資金計画の確認は必須です。落札後に融資が下りない・資金が不足するといった事態を避けるには、入札前に金融機関との事前相談か、自己資金の確保を完了させておくことが唯一の対策です。
参考:保証金の計算・納付・没収条件を詳解した実務解説
不動産競売の保証金とは?金額の計算、納付手続きから返還・没収の条件まで
売却基準価額が下がる再競売の仕組みと買受可能価額の変動
競売で入札者が現れなかった場合、物件は「再競売」にかけられます。このとき売却基準価額は前回の30%減に設定され直します。 買受可能価額もそれに連動して下がるため、結果的に市場価格の4割以下で入札できるケースも出てきます。
参考)競売物件の値下がりについてですが、どの様なタイミングで値下が…
具体的な数字で見てみましょう。
| 競売回数 | 売却基準価額(例) | 買受可能価額(×80%) |
|---|---|---|
| 1回目 | 1,000万円 | 800万円 |
| 2回目(30%減) | 700万円 | 560万円 |
| 3回目(さらに30%減) | 490万円 | 392万円 |
再競売は最大3回程度まで繰り返されるのが一般的です。 「入札者がいない=何か問題がある物件」である可能性も高いため、価格が下がったからといって安易に入札するのは危険です。
売却基準価額が極端に低い物件には、次のような背景が隠れている場合があります。
- ⚠️ 長期占有者がいて明渡しに時間と費用がかかる
- ⚠️ 土壌汚染・建築基準法違反などの物理的・法的瑕疵がある
- ⚠️ 再建築不可や接道義務未履行で再活用が難しい
- ⚠️ 競売市場修正率が特に高く設定されており、実質的な利用価値が低い
再競売物件を検討する場合は、なぜ前回入札がなかったのかを三点セットで徹底的に確認することが前提になります。売却基準価額が下がったという事実は、その物件の市場価値が低いことを裏付けるシグナルでもあるのです。
不動産業従事者として顧客に競売参加を提案する場面では、「再競売で価格が下がった物件=お得」という認識は持たせないよう注意が必要です。リスクの説明責任は業者側にあります。
参考:競売の価格の仕組みと市場価格56%の根拠
競売の価格は市場価格の56%なの?|東京エステート

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