普通決議の定足数を排除する定款の落とし穴と注意点

普通決議の定足数を排除する方法と定款変更の注意点

定足数を排除した定款があっても、取締役を解任できない総会が実在します。

📋 この記事の3ポイントまとめ
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普通決議の定足数は定款で完全排除が可能

会社法309条1項に基づき、普通決議の定足数は定款の定めにより完全に排除できます。ただし、排除できる範囲には「例外」があるため、定款の書き方が非常に重要です。

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役員選任・解任は定足数を排除できない

会社法341条により、取締役・監査役などの役員選任・解任決議は、定款で定足数を排除しても「議決権の3分の1」が下限として残ります。定款に個別の定めがないと決議取消リスクが生じます。

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普通決議・選任・解任を個別に定款に明記するのが確実

「普通決議の定足数排除」「役員選任の定足数(3分の1)」「役員解任の定足数(3分の1)」をそれぞれ定款に明記しておくことが、決議の有効性を守るための最善策です。


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普通決議の定足数とは何か|会社法309条のしくみ

主総会の決議には、大きく分けて「普通決議」「特別決議」「特殊決議」の3種類があります。このなかで日常的に最もよく使われるのが普通決議です。

会社法第309条第1項では、普通決議の成立要件として「議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数で可決」と定めています。この「出席に必要な最低限の議決権数(割合)」を定足数と呼びます。

つまり定足数が原則です。株主全体の議決権の半数以上を持つ人が出席していなければ、そもそも会議が成立しないというルールです。

不動産会社などの中小企業の場合、株主が少なく族だけで株式を保有しているケースも多いです。そのような場合でも、定足数を満たさないまま決議を行うと、後から「決議取消の訴え」(会社法831条1項1号)を起こされるリスクがあります。

決議の瑕疵は取消対象になります。株主総会の招集手続きや決議方法が「法令または定款に違反」していた場合、株主はその決議の取消を裁判所に申し立てることができます。不動産会社が取締役を選任・交代させたいときに、手続き上のミスで無効になるケースは実務上も起きています。

普通決議の定足数を定款で排除する方法と記載例

会社法309条1項は「定款に別段の定めがある場合を除き」と規定しています。この部分がポイントです。

定款に「別段の定め」を置くことで、普通決議の定足数を引き下げたり、完全に排除したりすることが法的に認められています。これは株主が多い会社では総会の成立を容易にするためですし、小規模な不動産会社でも事務手続きをスムーズにするために広く活用されています。

定足数を完全に排除する場合の定款記載例は次のようになります。

「株主総会の決議は、法令又は定款に別段の定めがある場合を除き、出席した議決権を行使することができる株主の議決権の過半数をもって行う。」

この一文で「出席数の制限(定足数)」は消えます。何人出席していても、出席者の議決権の過半数で決議が成立するということです。

これは使えそうです。特に株主数が少ない会社では、株主全員が出席する前提で動いているため定足数が問題になりにくいですが、将来的に株主が増えたり、株主間の関係が変化した場合に備えて定款を整えておくことが大切です。

公証人連合会の定款記載例にも同様の条文が収録されており、中小企業の多くがこの雛型をそのまま採用しています。日本公証人連合会の公式サイト(https://www.koshonin.gr.jp/format)には各種定款記載例が掲載されています。

ただし、この条文を使う際に気をつけなければならない落とし穴があります。次のセクションで詳しく説明します。

定足数排除の「例外」|役員選任・解任に適用される会社法341条

ここが最も重要な話です。

普通決議の定足数を排除する定款条文を置いていたとしても、役員(取締役・会計参与・監査役)の選任および解任の決議には、その排除の効果が及びません(会社法第341条)。

会社法341条は「第309条第1項の規定にかかわらず」と明記しており、取締役・監査役などの役員選任・解任決議は普通決議の特例として独立して扱われます。この条文により、役員の選任・解任については、定款で定足数を排除しても「議決権の3分の1」が下限として課せられています。

決議の種類 定足数(原則) 定款による排除 下限
普通決議(一般) 議決権の過半数 完全排除〇 なし
役員の選任・解任 議決権の過半数 排除✕(軽減のみ) 議決権の1/3
特別決議 議決権の過半数 排除✕(軽減のみ) 議決権の1/3

不動産会社の実務では、取締役の交代や役員人事の変は決して珍しくありません。そのため「普通決議の定足数は排除している」という認識だけで安心していると、役員選任・解任の場面で思わぬ落とし穴にはまることがあります。

具体的にどういうことでしょうか?

たとえば、発行済株式1,000株の会社で、ある株主が300株(30%)を保有しているとします。この株主が意図的に総会を欠席した場合、残りの700株しか出席していなくても、総議決権1,000株の3分の1(333株)には届かないため、役員選任・解任の定足数を満たせない事態が起こりえます。

これが問題ですね。定足数排除の定款があっても、役員人事が否決ではなく「不成立」になってしまうというリスクです。

実際に、京都地裁(平成20年9月24日判決)では、普通決議一般の定足数を排除する定款があった会社で、取締役解任決議について別段の定款規定がなかったケースにおいて、解任決議には普通決議一般の定款規定は適用されず、会社法341条の原則(過半数)に戻るという判断がなされています。

この判例が示すように、「普通決議」「役員選任決議」「役員解任決議」のそれぞれについて、定款に個別の定足数規定を明記しておくことが実務上の確実な対策です。

👉 普通決議の定足数排除が役員解任決議に及ぶか(legalpluscafe.com)|京都地判の解説と定款の個別規定の重要性を確認できます

定足数を排除すると生じる「1%株主でも総会成立」のリスク

定足数を完全に排除した場合、表面上の手続きはスムーズになる一方、別のリスクも生まれます。

司法書士・汐留パートナーズの解説によれば、株主A(70株)・株主B(29株)・株主C(1株)という構成の会社で、定足数が排除されている場合、C(全体の1%)だけが出席した状況でも株主総会は有効に成立し、Cの賛成だけで議案が可決される可能性があるとされています。

さすがに極端な例ですが、論理上は成立します。不動産会社の設立時や事業承継の局面でわずかな持分を譲渡するケースがありますが、定足数が排除されていると、ごく少数の株主が主要株主の欠席中に単独で決議を通してしまうリスクがゼロではありません。

意外ですね。「定足数の排除=手続き簡素化」という認識だけでなく、「少数株主の権限が実質的に拡大する」という側面にも目を向ける必要があります。

一方で、不動産会社のような少人数の同族経営体制では、大株主が常に出席する前提で動いているため実害が出にくいのも事実です。しかし、持分移転・相続・共同経営解消などの際には一気に問題が表面化することがあります。

このような状況への対策として、株主間の意思決定ルールを定める「株主間契約(SHA)」の締結が有効です。株主間契約とは、株主同士が一定の行動を相互に縛る契約で、特定の決議に際して他方株主の同意を必要とする旨を定めることができます。定款の変更が難しい場合でも、当事者間で締結できる点が利便性の高い選択肢です。

マンション管理組合における普通決議と定足数|区分所有法との違いと2026年施行の改正点

ここまで会社法に基づく「株式会社」の話をしてきましたが、不動産業に携わる方がもう一つ押さえておきたいのが、マンション管理組合における普通決議と定足数の扱いです。

区分所有法(建物の区分所有等に関する法律)では、管理組合の集会における普通決議の要件について、「区分所有者の過半数、かつ議決権の過半数」の賛成を必要とすると定めています(区分所有法39条)。

ここで重要な点は、区分所有法の原文では普通決議に定足数の定めがないという事実です。株式会社の会社法とは異なり、区分所有法は「出席者の多数決」を前提としており、何名が出席していれば成立するという定足数の明文規定がもともとありません。

ただし、多くの管理組合は標準管理規約に基づいて独自の定足数規定を設けています。改正前の標準管理規約では「議決権総数の半数以上を有する組合員の出席」を成立要件としていました。

2025年に成立した区分所有法改正(2026年4月1日施行)では、この点に大きな変更が加えられました。

  • 📌 特別決議については新たに「区分所有者総数および議決権総数の各過半数の出席」が定足数として設けられた
  • 📌 普通決議については、改正区分所有法でも定足数の明文規定は設けられていない(出席者の多数決のまま)
  • 📌 改正後の標準管理規約(令和7年版)では、総会の成立要件として「議決権総数の過半数を有する組合員の出席」を推奨

この改正は、管理組合の実態に合わせた見直しです。多くのマンションでは年々総会出席率が低下しており、定足数を満たせずに総会が流会になるケースが増えていました。改正後は、普通決議に関しては出席者が少なくても成立しやすくなる反面、特別決議(大規模修繕・管理規約変更など)には厳格な成立要件が課されることになります。

不動産業者として管理受託業務に関わる場合、自分が担当するマンションの管理規約が旧規約のままかどうかを確認することが急務です。規約が自動更新されるわけではないため、改正区分所有法施行後も古いルールが残っているケースが出てきます。

区分所有法改正への対応が条件です。管理組合の規約改正が遅れると、総会運営に関するトラブルや、決議の効力を巡る法的争いに巻き込まれるリスクが高まります。管理業者として適切なサポートと情報提供を行うことが、信頼関係の構築にもつながります。

👉 令和7年マンション標準管理規約改正の概要(国土交通省)|定足数の見直しと特別決議の成立要件変更の詳細を確認できます

定款変更・定足数排除の実務フロー|不動産会社が取るべき手順

では、実際に定足数の排除や変更を定款に反映させるにはどのような手順が必要でしょうか。定款変更には株主総会の特別決議が必要です(会社法466条)。

特別決議の成立要件は「議決権を行使できる株主の議決権の過半数が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成」です。定足数排除のために定款を変えようとしているのに、まずその変更自体が特別決議で可決されなければならないというわけです。

手順を整理するとこうなります。

  1. 📋 現状の定款確認:現在の定款に普通決議・役員選任・役員解任それぞれの定足数条文があるかを確認する
  2. ✏️ 変更内容の起案:弁護士・司法書士と相談し、3種類の決議について定款条文案を作成する
  3. 📣 株主総会の招集:非公開会社は開催1週間前までに招集通知を発送(会社法299条1項)
  4. 🗳️ 特別決議による承認:定款変更議案を特別決議で可決する
  5. 📂 定款の更新:公証人認証は会社設立時のみ必要なため、変更後は署名・捺印した定款を保管・更新する

1週間前に招集通知を出す必要があります。不動産会社の多くは臨時総会をスムーズに開きにくい体制のことも多いので、定期的な定時株主総会のタイミングで定款見直しを議題に加えるのが現実的です。

なお、定款変更は登記簿への記載事項ではないため(商号・目的・本店所在地等を除く)、法務局への登記申請は原則不要です。ただし、変更後の定款は必ず社内で適切に保管・管理し、株主・役員・顧問弁護士が参照できる状態を整えておくことが大切です。

変更後の定款を社内で確実に共有しておくことが条件です。複数の場所でバラバラのバージョンが管理されていると、実際の総会運営時に混乱のもととなります。クラウドストレージや電子定款管理サービスを活用して一元管理する方法も有効です。

定款変更の実務は司法書士や弁護士との連携が確実です。特に複数の決議類型について条文を整備する場合は、文言の解釈で争いが生じないよう、法律専門家のチェックを受けることを強くおすすめします。

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