限定承認のデメリットと注意点を徹底解説
限定承認の手続きを「とりあえず選んでおけば安全」と思っていると、後で数十万円の追加費用が発生することがあります。
限定承認とは何か:相続における基本的な仕組みと手続き
限定承認とは、被相続人(亡くなった方)の財産と負債を相続する際に、プラスの財産の範囲内でのみ負債を引き受けるという選択肢です。つまり、受け取った財産以上の借金は払わなくてよい、という仕組みです。
通常の相続(単純承認)では、プラスの財産だけでなくマイナスの負債もそのまま引き継ぎます。一方、「相続放棄」はプラスもマイナスもすべて放棄します。限定承認はその中間にある制度です。
手続きは家庭裁判所への申述から始まります。相続人全員が共同で申請しなければならず、一人でも反対する相続人がいると選択できません。これが最初のハードルです。
申述が受理されると、相続財産管理人(通常は相続人の中から選ぶ)が財産を清算し、債権者に対して公告・通知を行います。この清算手続きには数ヶ月以上かかるのが一般的です。
不動産業従事者の立場から見ると、限定承認が絡む物件は登記や権利関係が複雑になりがちです。取引前に必ず確認が必要です。
限定承認の主なデメリット:費用・時間・手続きの負担
デメリットが大きいところですね。まず最も重要なのが費用の問題です。
限定承認の手続きには、家庭裁判所への申述費用(収入印紙800円程度)だけでなく、官報公告費用として約1万5,000円、さらに弁護士や司法書士などの専門家報酬が発生します。専門家費用は案件の複雑さによって異なりますが、20万〜80万円程度が相場です。
不動産が含まれる場合は、さらに費用が膨らみます。競売手続きに伴う費用や、不動産鑑定士の鑑定費用(10万〜30万円程度)が別途かかることもあります。
つまり、総費用が100万円を超えるケースも珍しくありません。
次に時間の問題です。清算手続きが完了するまでに、短くても半年、長ければ1年以上かかることがあります。その間、相続財産は自由に使えません。
相続人が複数いる場合、全員の同意が必須条件です。家族間の意見が割れると、そもそも選択自体ができなくなります。
限定承認で不動産が競売になるリスク:不動産業従事者が特に注意すべき点
不動産業に携わる方にとって、ここが最も重要な点かもしれません。
限定承認を選択した場合、相続財産の中に不動産があると、原則として競売にかけて売却しなければなりません。これは「相続財産の換価処分」と呼ばれるルールで、民法938条以下に定められています。
「家族が住み続けたい」「市場価格で売りたい」という希望があっても、競売手続きに進むことが多く、落札価格は市場価格の50〜70%程度になるケースが一般的です。
ただし、相続人が「先買権(せんばいけん)」を行使すれば、競売前に家庭裁判所が選んだ鑑定人の評価額で買い取ることができます。これは知っておくと得する情報です。
先買権の行使には、鑑定費用(10万〜30万円)と買取費用が必要になります。手元資金の準備が条件です。
不動産業従事者として相続案件に関わる際は、限定承認が選ばれた物件の取引には特別な注意が必要です。所有権の移転タイミングや、清算手続き中の契約の有効性など、確認すべき点が多くあります。
裁判所公式サイト:限定承認の申述手続きの流れと必要書類について
限定承認と相続放棄の違い:どちらを選ぶべきかの判断基準
「限定承認か相続放棄か」は、多くの相続案件で議論になります。判断のポイントを整理しましょう。
| 比較項目 | 限定承認 | 相続放棄 |
|---|---|---|
| 手続きの難易度 | 複雑(全員同意必要) | 比較的シンプル(個人で可) |
| 費用の目安 | 50万〜100万円以上 | 数千円〜数万円 |
| 期限 | 3ヶ月以内 | 3ヶ月以内 |
| プラス財産 | 受け取れる可能性あり | すべて放棄 |
| マイナス財産 | プラスの範囲内で負担 | 一切負担なし |
限定承認が向いているのは、「財産の全体像が不明で、プラスになる可能性がある」「特定の財産(家業の資産など)を手元に残したい」というケースです。
一方、相続放棄は手続きが格段に簡単で、費用も安く済みます。明らかに負債が多い場合は相続放棄の方が合理的です。
これが判断の基本です。
注意が必要なのは、限定承認は一度申述すると取り消せないという点です。手続き後に「やっぱり相続放棄にしたい」は認められません。
限定承認で発生するみなし譲渡所得税:見落とされがちな税務上のデメリット
これは意外ですね。限定承認を選ぶと、相続した不動産や株式などの資産に「みなし譲渡所得税」が課されることがあります。
通常の相続では、被相続人が取得した当時の価格(取得費)がそのまま引き継がれます。しかし限定承認の場合は、相続開始時点の時価で「売却した」とみなされ、取得費からの値上がり分に対して所得税が課税されます(所得税法59条1項1号)。
たとえば、被相続人が2,000万円で購入した不動産が、相続開始時に5,000万円に値上がりしていた場合、差額の3,000万円に対して所得税(最大で約20%)が課税される計算になります。
税額は最大で600万円以上になることもあります。
この税金は相続財産から支払う必要があり、財産によっては清算後に手元にほとんど残らないケースもあります。不動産業従事者が相続案件のアドバイスをする際は、必ず税理士との連携を勧めることが大切です。
みなし譲渡所得税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から4ヶ月以内です。通常の確定申告(翌年2〜3月)とは異なるので注意が必要です。
確認する方法としては、国税庁の「相続開始があった場合の所得税の申告手続き」のページで詳細を確認できます。
国税庁:限定承認時のみなし譲渡所得税(所得税法59条)の取り扱いについて
不動産業従事者が知っておくべき独自視点:限定承認物件の取引リスクと実務対応
ここでは、検索上位の記事にはあまり書かれていない実務目線の話をします。
限定承認の手続き中、相続財産は「相続財産法人」として扱われます。この期間中に締結された売買契約や賃貸借契約は、後から無効になるリスクがあります。
不動産会社が仲介に入る場合、清算手続きが完了していることを登記事項証明書や裁判所の書類で必ず確認してください。確認が条件です。
また、限定承認の手続き中に第三者が当該不動産を取得しようとすると、債権者の異議申し立てによって取引が止まることがあります。これは買主側にとっても大きなリスクです。
実務上は、限定承認が完了した後に「相続人への所有権移転登記」が行われます。登記が完了していない物件の取引には、特別な注意が必要です。
- 📌 取引前に「限定承認の申述受理証明書」の写しを確認する
- 📌 清算手続き完了の裁判所書類を必ず取得する
- 📌 登記事項証明書で仮登記・差押えがないか確認する
- 📌 税理士・弁護士と連携して税務・法務リスクを排除する
- 📌 契約書に「限定承認手続き完了を条件とする」停止条件を入れる
こうした実務上のリスクを事前に排除することで、トラブルを防げます。
不動産業において限定承認絡みの物件は件数自体は多くありませんが、一度トラブルになると解決に1年以上かかるケースもあります。事前の確認作業に時間をかける価値が十分にあります。
不動産適正取引推進機構(RETIO):不動産取引に関するトラブル事例と実務対応の参考情報

Q&A 単純承認・限定承認・相続放棄の法律実務~判断ポイントと事例・書式
