移住体験住宅を無料で活用する方法と不動産への活かし方
「無料」と書いてあるのに、実際は光熱費だけで2万円以上かかることがあります。
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移住体験住宅「無料」の正しい意味と実際にかかる費用
移住体験住宅の「無料」という言葉は、あくまで宿泊費・家賃部分が無料という意味です。光熱費や清掃費、寝具レンタル代などは自己負担となるケースが大半で、実態は「完全0円」ではありません。
一般社団法人移住・交流推進機構(JOIN)が2019年に行った移住体験施設実態調査によれば、1週間(6泊7日)の滞在で発生する光熱費について「実費」と回答した自治体が全体の49.4%に上ります。つまり2軒に1軒は光熱費が別途かかる計算です。冬場の北海道・東北エリアでは暖房費が加算され、北海道別海町のように1日600円の暖房費加算が設定されている自治体もあります。仮に1か月(30日)滞在すれば、暖房費だけで1万8,000円の追加負担です。
実費以外にも注意が必要です。
| 費用項目 | 内容の例 |
|---|---|
| 光熱費 | 実費精算が最多(全体の約5割) |
| 寝具レンタル | 持ち込み不要な施設は少ない |
| 清掃費 | 退去時に別途請求されることがある |
| 食費 | 全額自己負担 |
| 交通費 | 往復の移動費は全額自己負担 |
| 体験プログラム費 | 参加型イベントは有料のものもあり |
顧客を移住体験住宅に案内する際は、「無料だから費用はかかりません」と説明してしまうと後でトラブルになります。「家賃部分は無料ですが、1週間の滞在で光熱費や食費などを含めると5万〜10万円程度の持ち出しが目安です」と、事前にリアルな金額感を伝えることがプロとしての誠実な対応です。これが基本です。
不動産従事者が移住検討者に寄り添う最初のポイントは、”費用の透明性”を担保することにあります。
一般社団法人移住・交流推進機構「2019年度 移住体験施設実態調査 調査研究報告書」|光熱費・利用料金・利用条件など施設の実態データが豊富に掲載されています。
移住体験住宅の自治体制度の種類と利用できる入居条件
移住体験住宅は全国の自治体が運営しており、施設の形態・利用期間・対象者の条件はそれぞれ異なります。JOINの調査では、2019年時点で444自治体が移住体験施設を設置していると回答しており、2015年比で9.4ポイント増加しています。施設の形態別では「民間の住宅(空き家)を活用したもの」が48.6%と最多です。
利用可能な最長日数は「1か月以上半年未満」が55.1%で過半数を超えます。ただし、最短利用可能日数は「1週間未満」が54.6%と多く、1泊2日からOKの施設も存在します。
利用条件に関しては、以下の点を必ず確認する必要があります。
- 移住希望者であること:86.4%の施設がこの条件を設けています。観光目的での利用は不可です。
- 空き家バンクへの利用登録:4.6%の施設が条件に含めています。
- 利用回数の制限:1回のみ利用可能としている自治体が多く、リピート利用は認められないのが一般的です。
入居条件を満たさない場合、申込み後に断られるケースもあります。顧客が「せっかく予定を立てたのに」という状況を防ぐため、事前確認は欠かせません。
具体的な無料・低額体験住宅の事例としては、次のようなものがあります。
- 🏡 京都府福知山市「みわ上川合住宅」:最長1年間利用可能、最初の3か月は無料。ファミリー向けの広さで主要家電付き。
- 🏡 岐阜県揖斐川町:無料、5日以上30日以内、家具・家電完備。
- 🏡 宮城県石巻市:最大7泊8日の滞在費が無料。移住コンシェルジュが同行案内。
- 🏡 佐賀県基山町:賃借料無料で14日以内。福岡に通勤しながら利用可能な立地が特徴。
- 🏡 長野県立科町(楽園信州):6泊7日まで家電等完備で無料。
条件の確認は「各自治体の公式サイトで最新情報を見る」が原則です。
一般社団法人移住・交流推進機構「移住体験住宅の活用」ページ|施設利用料金や利用条件の概要をわかりやすく紹介しています。
移住体験住宅は不動産業者の空き家バンク紹介とどう連携するか
移住体験住宅と不動産業者の業務は、一見すると無関係に思われがちです。しかし実際には、体験住宅を利用した移住検討者が「いよいよ住む家を探す」という段階に来たとき、地元の不動産業者が最初の接点を担うケースが多く見られます。
JOINの調査では、移住体験施設の運営自治体が抱える最大の課題として「移住体験施設の利用者が実際の移住(定住)につながらない」が53.6%と最多でした。逆に言えば、体験住宅の滞在から実際の移住に至る確率は現状かなり低く、その後押しができる存在こそが地域の不動産従事者です。
自治体の担当者だけでは対応しきれない「物件の具体的な案内・内見」「賃貸・売買の手続き」「リフォーム業者の紹介」などは、不動産業者が担う現実的な役割です。これは使えそうです。
空き家バンクとの連携という観点でも、近年は変化が起きています。岐阜県中津川市では「市内の協力不動産業者と連携し、不動産所有者と移住・定住希望者をつなぐ」仕組みを空き家バンクに組み込んでいます。和歌山県では2024年度の空き家バンク登録数が過去最高を更新しており、県宅地建物取引業協会と連携した取り組みが背景にあります。
体験住宅の滞在者を「温かいリード」として捉え、自治体と協力する形で物件案内のタイミングを設けることが、移住後の成約につながる現実的な動きです。
岐阜県中津川市 空き家バンク物件一覧|不動産業者との連携のもと、移住希望者と空き家所有者をつなぐ具体的な仕組みが確認できます。
移住体験住宅の利用者が実際の移住に至る割合とその現実
「体験住宅を利用すれば移住が決まる」と思っている不動産従事者は少なくありません。しかし、データはそれとは異なる現実を示しています。
JOINの調査(2019年)によれば、移住体験施設利用者のうち実際の移住につながった人数について、「5名以下」と回答した自治体が全体の70.3%に上ります。延べ利用者数を見ると「1〜20名」が38.5%と最多ですが、移住数はわずか5名以下にとどまるケースが圧倒的多数です。東京ドーム(収容5.5万人)に例えるなら、スタンドがほぼ満員でも、実際にその地に移り住む人はほんの一握りという状況です。
体験住宅に滞在したからといって、自動的に移住・成約に直結するわけではない、ということですね。
では、移住に至らない理由は何でしょうか。主なものを整理します。
- ⚠️ 1回の利用制限があるため、判断しきれないまま終わってしまう
- ⚠️ 体験後のフォローアップ体制が自治体側に整っていない
- ⚠️ 仕事や子どもの学校などの生活設計が未解決のまま体験が終わる
- ⚠️ 「いい場所だな」と感じても、具体的な物件情報を誰もつないでくれない
この「情報の空白」こそが、不動産従事者にとっての参入ポイントです。
体験住宅の滞在中またはその後に、自治体の移住担当者と連携して「地域の物件情報を案内できる不動産業者として紹介してもらう」という動きをとることで、体験住宅利用者の移住成約率を引き上げる可能性があります。移住後の成約数を増やしたい場合は、自治体の移住担当窓口への挨拶から始めてみましょう。
JOIN「移住体験施設実態調査」移住人数データ(13ページ)|体験施設利用者のうち実際に移住に至った人数の実態が数値で確認できます。
不動産従事者が移住体験住宅を顧客案内に活かす独自の視点
移住体験住宅の「無料制度」は移住検討者が使うものであり、不動産業者には関係ないと思われがちです。しかしこれは大きな機会損失につながっています。
体験住宅の滞在者は「いずれ住む家を探す可能性が高い潜在顧客」です。この層は、すでに移住意欲が一定以上あり、地域に足を踏み入れた経験を持ちます。いわゆる「温度の高いリード」であり、飛び込み営業よりはるかに成約に近い存在です。
不動産従事者が取るべき具体的な動きは3つに集約されます。
まず1つ目は「自治体の移住担当者と関係を築くこと」です。体験住宅を管理・運営しているのは自治体の担当部署であり、そこに顔を出し「地域の物件案内ができる業者として連携したい」と伝えるだけで、顧客の流れが変わります。体験住宅の入居者に対し、自治体担当者が地元業者を自然に紹介するルートが生まれるためです。
次に2つ目は「空き家バンクへの登録物件を増やすこと」です。体験住宅の滞在後に空き家バンクの物件を見て本格移住を決める流れは一定数存在します。空き家バンクに掲載できる物件を積極的に発掘・登録することで、その流れを自社に取り込むことができます。
3つ目は「体験住宅利用者向けの物件資料を準備しておくこと」です。滞在中に「物件が見たい」と思ったとき、すぐに対応できる準備があるかどうかが分かれ目です。「移住を考えている方向けに1〜3LDKの物件情報をまとめた資料」を用意しておき、自治体窓口に預けておくと自然な形で手に取ってもらえます。
体験住宅への滞在は「興味」から「行動」への最大の転換点です。
この転換点に不動産従事者がいるかいないかで、地域の移住成約数は大きく変わります。移住体験住宅の「無料制度」を、自分ごととして捉え直すことが第一歩です。
アットホーム 空き家バンク 移住体験・お試し移住の特集|全国の移住体験住宅事例が集約されており、物件案内の参考情報として活用できます。