遺産分割協議書のひな形と国税庁の記載例を正しく活用する方法
国税庁のひな形だけで不動産相続登記を申請すると、法務局に却下されて手続きがやり直しになります。
遺産分割協議書のひな形を国税庁が公開している背景と目的
国税庁は毎年、相続税申告の手引きをPDFで公開しており、その中に「(参考)遺産分割協議書の記載例」としてひな形が掲載されています。これはあくまで相続税申告書の添付書類として想定されたサンプルです。つまり「税務署への提出」を前提に作られたものであり、不動産登記や金融機関の名義変更手続きを想定したものではありません。
不動産業に携わっていると、お客様から「国税庁のひな形をそのまま使えばいいですよね?」と聞かれることがあります。結論から言うと、目的次第です。
相続税申告だけが目的であれば、国税庁のひな形は有効なテンプレートになります。ただし書式が縦書き・漢数字表記という特徴があり、現代の実務では「古めかしくて使いにくい」と感じる方も少なくありません。国税庁のひな形は無料かつ個人情報の入力不要でダウンロードできる点はメリットです。
遺産分割協議書の必須記載事項と不動産登記に必要な追記ポイント
遺産分割協議書には、法律上「この書式でなければならない」という決まりはありません。ただし、実務で通用させるためには最低限の記載事項が必要です。
基本的な必須項目は以下のとおりです。
- 🏷️ 被相続人(亡くなった方)の氏名と死亡年月日
- 🏠 被相続人の最後の住所
- 👤 相続人全員が誰が何を相続するかの明記
- 📅 協議が成立した年月日
- 🖊️ 相続人全員の署名と実印による押印
不動産が相続財産に含まれる場合は、登記簿謄本に記載された情報をそのまま転記することが絶対条件です。「〇〇さんの家」という表現は通用しません。「〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番地の土地及び同番地に存する家屋(家屋番号〇〇)」のように、登記情報と一字一句合わせる必要があります。
曖昧な記載が原則禁止です。
国税庁のひな形は土地・建物以外の財産(預貯金・有価証券など)も含めて縦書きで記載できる設計になっています。一方、法務局が公開するひな形は横書きで、不動産の記載に特化しており相続登記の実務に向いています。不動産業従事者としては、この2つの違いを押さえておくことが実務上の必須知識です。
参考:法務局が公開する相続登記用の遺産分割協議書ひな形(11ページ目に記載例あり)
法務局:不動産登記の申請書様式について(遺産分割協議書の記載例含む)
遺産分割協議書ひな形の国税庁版と法務局版の違いを徹底比較
不動産業の現場では「どちらのひな形を使えばいいのか」という混乱が起きやすいです。2つの機関のひな形は、それぞれの目的が根本的に異なります。
| 比較項目 | 国税庁のひな形 | 法務局のひな形 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 相続税申告書の添付 | 相続登記の申請 |
| 書式 | 縦書き・漢数字 | 横書き・算用数字 |
| 対象財産 | 不動産+金融資産など全般 | 主に不動産 |
| 実務での主流 | 税理士事務所向け | 司法書士・不動産業者向け |
| 入手方法 | 国税庁HPからPDF | 法務局HPからPDF |
これが実務の使い分けの基本です。
不動産業従事者が相続案件に関わる場合、多くのケースで「相続登記」が発生します。2024年4月1日以降、相続登記は法律上の義務となり、相続を知った日から3年以内に申請しなければ10万円以下の過料が科される可能性があります。この点からも、法務局のひな形を軸に実務を組み立てることが現実的です。
相続登記の義務化については、法務省の公式ページで詳細な情報が確認できます。
法務省:相続登記の申請義務化について(2024年4月1日施行)
不動産を含む遺産分割協議書の作成で不動産業従事者が見落としやすい3つのミス
相続案件に慣れていないと、ひな形を埋めるだけで完成と思いがちです。しかし現場では書類不備による差し戻しが多発しています。
よくある3つのミスを具体的に紹介します。
❌ ミス①:不動産の表記が登記簿と一致していない
「所在:東京都〇〇区〇〇町1丁目1番」と「所在:東京都〇〇区〇〇町1-1」は同じ場所でも、登記簿上は別物として扱われるリスクがあります。必ず登記事項証明書(登記簿謄本)を手元に置いて転記してください。登記事項証明書はオンライン申請なら手数料334円、法務局窓口なら600円で取得できます。
❌ ミス②:相続人の一人が署名・押印していない
遺産分割協議書は相続人「全員」の合意が必要です。1人でも欠けた場合、書類全体が無効になります。海外在住の相続人がいる場合は、在外公館でのサイン証明(署名証明)が必要になるケースもあります。全員確認が条件です。
❌ ミス③:「その他の財産は〇〇が相続する」という包括条項を入れ忘れる
協議書作成後に未知の遺産(古い口座や株式など)が発覚した場合、包括条項がないと再度全員で協議し直す必要があります。「本協議書に記載のない財産については、相続人〇〇が取得する」という一文を入れておくだけで、将来のトラブルを防止できます。これは使えそうです。
実務上、遺産分割協議書の作成・確認は司法書士や税理士への依頼が最もトラブルを少なくする方法です。不動産業者として案件を紹介する際にも、専門家と連携する体制を整えておくと顧客満足度が上がります。
遺産分割協議書が不要なケースと不動産業従事者が知っておくべき例外パターン
遺産分割協議書が「必ず必要」というわけではありません。これは意外なポイントです。
以下のケースでは、遺産分割協議書の作成が不要または代替書類で対応できます。
- 📜 遺言書がある場合:有効な遺言書(公正証書遺言・自筆証書遺言)があれば、原則として遺産分割協議書は不要です。遺言の内容に従って相続手続きが進みます。
- 👤 相続人が1人だけの場合:「協議」する相手がいないため、協議書は作成不要です。
- 🏦 法定相続分どおりに相続する場合:法定相続分(例:配偶者1/2・子1/2)どおりに分割するならば、協議書なしでも金融機関手続きができる場合があります。ただし不動産登記には協議書が必要なケースが多いため、個別確認が必須です。
不動産業者が実務で覚えておくべきなのは「相続登記においては、遺言書があっても登記申請に必要な書類がある」という点です。遺言書の種類(公正証書遺言か自筆証書遺言か)によって必要書類が異なります。自筆証書遺言の場合は家庭裁判所での「検認」手続きが必要であり、その期間(通常1〜2ヶ月)分だけ登記が遅れます。期限には注意が必要です。
相続登記の義務化(3年以内)と組み合わせると、遺言書があっても早めに動くことが損失回避につながります。顧客へのアドバイスとして「遺言書があるから安心」ではなく「遺言書の種類を確認して早めに司法書士に相談する」という案内が正確です。
参考:国税庁の相続税申告の手引き(遺産分割協議書の記載例が掲載されている公式PDF)
国税庁:相続税の申告のしかた(遺産分割協議書の記載例・36ページ)

遺産の相続手続きあんしんガイド [注文番号] 相続15
