遺産分割審判の強制執行と費用を徹底解説
不動産の競売申立で予納金が最低50万円かかることを知らずに手続きを進めると、費用不足で執行が止まります。
遺産分割審判の強制執行とは何か:基本の仕組みと不動産業者が知るべき前提
遺産分割審判が確定すると、その審判書は「執行力ある債務名義と同一の効力」を持ちます(家事事件手続法75条)。 これは、裁判所の確定判決と同等の法的拘束力があることを意味し、相手が審判内容に従わない場合には強制執行の申立てが可能になります。daylight-law+1
不動産業者が相続不動産の取引に関わる場面では、この強制執行の存在が取引の可否を左右することがあります。たとえば、遺産分割審判で相続人Aへの土地の帰属が決まったにもかかわらず、相続人Bがその土地を占拠し続けている場合、相続人Aは地方裁判所に「不動産引渡し強制執行」を申し立てることができます。 つまり、登記名義人が審判で確定しても、物理的な占有が別の相続人にある状態が続くことがあり得るのです。
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強制執行には大きく3種類があります。
- 💰 直接強制:預貯金口座や不動産を差し押さえて、強制的に審判内容を実現する
- ⏰ 間接強制:一定期間内に従わなければ制裁金を課すことで、心理的圧力をかけて自発的な履行を促す
- 🔄 代替執行:第三者に審判内容を実現させ、その費用を相手に負担させる
直接強制が原則です。ただし、遺産分割協議書(私文書)だけでは直ちに強制執行はできません。 債務名義となるのは、確定した審判書、調停調書、または執行認諾文言付きの公正証書に限られます。
不動産業者として相続案件に関わる際は、「審判書があるかどうか」「債務名義が確保されているか」の確認が最初のポイントです。
遺産分割審判の強制執行にかかる費用の内訳:申立費用から弁護士費用まで
費用は複数の層に分かれています。順番に確認しましょう。
① 審判申立の実費(裁判所費用)
遺産分割審判を申し立てる際の実費は、収入印紙1,200円+郵便切手数千円〜5,000円程度で、合計5,000円〜1万5,000円前後が相場です。 調停から自動移行した場合は、収入印紙1,200円の追加負担が不要になります。 これは費用面での大きなメリットです。nexpert-law+1
② 強制執行申立の実費
強制執行の種類によって費用は大きく異なります。不動産に対する強制執行(競売申立)の場合、予納金として少なくとも50万円以上が必要です。 物件3筆までで50万円、1筆増えるごとに3万円が加算され、マンション1棟の場合は100万円になります。 一方、預貯金の差押えであれば予納金は3〜4万円程度と、不動産競売に比べて大幅に低くなります。hachiben+1
費用の差は歴然ですね。
| 強制執行の種類 | 予納金の目安 |
|---|---|
| 預貯金差押え | 3〜4万円程度 |
| 不動産競売(3筆まで) | 50万円以上 |
| マンション1棟の競売 | 100万円以上 |
③ 弁護士費用
強制執行を弁護士に依頼する場合、着手金・報酬金がそれぞれ11〜22万円程度かかる事務所が多く、事案の規模や複雑さによって変動します。 預貯金差押え・競売等の執行申立ては1手続き22万円を設定している事務所もあります。 相談料の相場は30分5,500円程度です。legalplus+2
④ 執行費用の回収
執行にかかった費用は、ケースによっては相手方への請求額に上乗せして回収したり、強制執行後に相手方に請求することが可能です。 ただし、これが実際に回収できるかどうかは相手方の財産状況に依存します。
執行費用の自己負担リスクがある点は覚えておく必要があります。
遺産分割審判の強制執行:不動産引渡し手続きの流れと実務上の注意点
不動産業者が最も直面しやすいのが、不動産の引渡しを求める強制執行です。手続きの流れを押さえておくことが重要です。
不動産引渡し強制執行の手順
- 審判書と執行文付き確定証明書を取得する
- 地方裁判所に「不動産引渡し強制執行」を申し立てる
- 裁判所が執行命令を発行し、執行官が現地を確認する
- 相手方に退去命令を発出する
- 相手が退去しない場合、執行官立会いのもとで強制的に明渡しを実施する
執行には「審判書(債務名義)」と「執行文付き確定証明書」の両方が必要です。 どちらが欠けても手続きは進みません。
参考)遺産分割審判における不動産の取扱いとは? – 大田区の相続、…
審判の内容と異なる方法で執行することは認められません。 たとえば代償金の支払いが命じられているのに、代わりに不動産の引渡しを強制執行することは不可能です。
実務上、不動産取引の現場では、強制執行前に相手方との和解交渉を試みることが多いです。 強制執行には費用と時間がかかるため、和解による解決の方がお互いにとってメリットが大きくなるケースも少なくありません。
参考)遺産分割審判に従わない相続人への対処法──強制執行の実務を弁…
これは使えそうです。特に複数の相続人が絡む複雑な案件では、強制執行の申立て前に弁護士を交えた和解交渉を試みることで、50万円以上の予納金や数ヶ月の時間を節約できる場合があります。
遺産分割審判の強制執行が長期化する原因と費用増大リスク
遺産分割審判から強制執行まで、なぜここまで費用と時間がかかるのか。その構造的な理由があります。
まず、審判確定までの期間の問題があります。遺産分割審判は平均4〜5回の審判期日が設けられ、申立から審判確定まで平均1年〜1年半を要します。 相続人が多く主張が激しく対立するケースでは20回以上の期日が開かれ、3年以上かかる場合もあります。
厳しいところですね。
この間に発生する弁護士費用(日当1日3〜5万円程度、実費別途)が積み重なります。 また、相続不動産の維持費や固定資産税も審判が確定するまでの間は支払い続ける必要があります。 不動産業者が仲介案件として関与している場合、このタイムラグが契約の見直しや成立遅延につながるリスクがあります。nexpert-law+1
費用増大を招く主なケース
- 📌 審判期日が長期化し弁護士費用の日当・実費が積み重なるケース
- 📌 相手方が即時抗告(2週間以内が期限)を申立て、高等裁判所での再審理が始まるケース
- 📌 強制執行を申し立てた後に相手が財産を隠匿し、差し押さえる財産が見つからないケース
- 📌 不動産競売で落札価格が低く、執行費用を差し引くと実質的な回収額が少ないケース
費用対効果を踏まえた判断が重要です。遺産の価値と執行費用の比率を事前に試算しておくことで、強制執行を進めるべきか、和解を優先すべきかの判断材料になります。
遺産分割審判の強制執行:不動産業者が見落としがちな実務チェックポイント
不動産のプロとして相続絡みの取引に携わる際、見落とすと後から大きなトラブルになるポイントが複数あります。
チェックポイント1:遺産分割協議書の効力を過信しない
当事者間で作成した私文書の遺産分割協議書は、債務名義にはなりません。 そのため、売買を仲介する場合に「遺産分割協議書があるから大丈夫」と判断すると痛い目を見ます。公正証書として作成されていても、強制執行認諾文言がなければ直ちに強制執行することはできません。 確認すべきは「どの種類の書類か」という点です。office-kon-saitou+1
チェックポイント2:審判書と登記のタイムラグに注意
2024年4月1日からの法改正により、相続による不動産取得を知った日から3年以内に相続登記をしなければなりません。 審判が確定しても、すぐに登記が完了しているわけではありません。取引の前に登記簿を最新状態で確認することは必須です。
登記が条件です。
チェックポイント3:審判内容と異なる強制執行を求めていないか確認
審判で決まった内容と異なる形での強制執行は認められません。 代償金の支払いが審判内容であれば、それに基づく差押えのみが可能で、不動産の引渡しを求めることはできません。案件に関わる際は審判書の内容を弁護士と一緒に確認することをお勧めします。
チェックポイント4:強制執行費用は事前に確保しておく
不動産競売の申立てでは、少なくとも50万円以上の予納金を先払いする必要があります。 この費用は最終的に相手方に請求できる可能性がありますが、確実ではありません。費用の立替が必要になることを前提に、資金計画を立てておくことが現実的です。
参考)https://www.courts.go.jp/oita/vc-files/oita/2024/kitte20241001/minji_sikkou1.pdf
チェックポイント5:強制執行よりも事前の公正証書化が有効
遺産分割協議の段階で代償金等の支払いに合意できている場合、執行認諾文言付きの公正証書として作成しておくと、後から裁判所の審判や調停を経ずとも強制執行が可能になります。 弁護士や司法書士と連携して公正証書化を勧めることが、長期的なトラブル防止につながります。
参考)【司法書士監修】代償分割で「現金がない」と言わせない方法や注…
以下のリンクには、遺産分割審判後に相手が従わない場合の対処法と強制執行の実務について、弁護士監修のもと詳細な解説があります。
遺産分割審判後に従わない相続人がいる場合の対処法(弁護士解説)
不動産に対する強制執行申立時の予納金額の詳細については、裁判所の公式資料が参考になります。
遺産分割後の強制執行の種類(直接強制・間接強制・代替執行)の詳細解説はこちらです。
相続・遺産分割後の強制執行【弁護士解説】(デイライト法律事務所)

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