事務所等の定義と専任宅建士の設置義務を正しく理解する
本店登記があるだけでは専任宅建士の設置を免れない場合があります。
<% index %>
事務所等の定義とは:宅建業法第31条の3が基準になる
「事務所等」という言葉は、宅建業法の中でも特に重要な概念の一つです。専任の宅地建物取引士(以下、専任宅建士)を置かなければならない場所を指す言葉として、宅建業法第31条の3第1項に規定されています。
「事務所等」とは、大きく分けて2種類の場所から構成されています。まず一つ目が「事務所」そのもの、そしてもう一つが「事務所以外で専任宅建士を置くべき場所」です。これが合わさった概念が「事務所等」です。
まず「事務所」の定義からおさえましょう。宅建業法施行令第1条の2では、事務所を次の2種類に分類しています。
- 📌 1号事務所:商業登記簿に記載された本店または支店(個人事業主の場合は主たる事務所・従たる事務所)
- 📌 2号事務所:1号事務所以外で、①継続的に業務を行うことができる施設を有し、②宅建業に係る契約を締結する権限を有する使用人(支店長・支配人など)を置く場所
1号事務所のポイントは「商業登記上の本店・支店であること」と「継続的な営業拠点としての実体があること」の両方が必要という点です。つまり、登記されていても実態のないペーパー本店は事務所として認められません。
2号事務所は、登記されていなくても実態として支店長・支配人を置いて継続的な業務が可能な施設であれば「事務所」として扱われます。これが意外と知られていない落とし穴です。
次に「事務所以外で専任宅建士を置くべき場所」ですが、これは宅建業法施行規則第15条の5の2に規定されており、代表的なものとして次の4種類があります。
| 種類 | 具体例 | 条件 |
|---|---|---|
| ①継続的業務施設 | 事務所以外の継続的施設 | 契約の申込み・締結を行う場合 |
| ②一団地分譲の案内所 | 10区画以上または10戸以上の案内所 | 自ら分譲する場合 |
| ③他社分譲の代理・媒介案内所 | 10区画・10戸以上の代理媒介の案内所 | 代理または媒介をする場合 |
| ④催し物会場 | 住宅展示会・不動産フェアの会場 | 契約の申込み・締結を行う場合 |
重要なのは「契約の申込みまたは締結を行う場合」という条件です。単に資料を配布したり案内するだけの場所であれば、専任宅建士の設置義務は発生しません。これが原則です。
参考:宅建業法上の「事務所等」の概念を詳しく解説した弁護士法人の専門記事
【宅建業法の『事務所』の概念(定義・解釈)】|弁護士法人 マネクル
事務所等の定義で注意すべき本店の特別ルール
不動産従事者の中で意外と誤解されているのが、本店の取り扱いです。本店は宅建業を直接営まなくても、宅建業法上の「事務所」に該当します。
これは、本店が支店の業務を統括する立場にあるという考え方から来ています。支店で宅建業を営んでいるなら、本店はその監督責任を担っているとみなされるわけです。つまり本店が「宅建業と無関係」ということにはならないということです。
一方で、支店は扱いが異なります。支店は宅建業を実際に営んでいる場合のみ「事務所」に該当し、宅建業を一切行っていない支店は事務所から除外されます。
- 🏢 本店:宅建業を直接営まなくても「事務所」に該当 → 専任宅建士の設置が必要
- 🏢 支店:宅建業を営む場合のみ「事務所」に該当 → 宅建業を営まなければ対象外
この違いを理解していないと、本店に専任宅建士を置き忘れて宅建業法違反になるリスクがあります。専任宅建士の設置が不十分な状態で宅建業を営むと、100万円以下の罰金に加え、業務停止処分の対象にもなります。
また、専任宅建士が退職・休職などで不足した場合は2週間以内に補充しなければなりません。2週間を過ぎると宅建業法違反として行政指導・業務停止処分の対象になります。厳しいところですね。
事務所ごとの専任宅建士の配置数は「業務に従事する者5人につき1人以上」が基本です。たとえば従業員が6人いる事務所では、最低でも2人の専任宅建士が必要になります。パートやアルバイトも「業務に従事する者」に含まれるため、人数を過小にカウントしないよう注意が必要です。
参考:専任の宅建士の設置義務と不足した場合の対応策を解説
【2025年最新版】専任宅地建物取引士が退職・不足した場合の対応|リサス
案内所等の定義と専任宅建士の設置・届出ルール
案内所は「事務所等」の中の「事務所以外で専任宅建士を置くべき場所」に該当する場合があります。ただし、すべての案内所が対象になるわけではありません。
案内所のうち、契約の申込みを受けたり、契約を締結したりする場合に限って専任宅建士の設置義務が発生します。資料配布や物件の案内のみを行う場所なら、専任宅建士は不要です。
案内所に専任宅建士が必要になる場合は、業務開始の10日前までに届出を行う義務もあります。届出先は「免許権者(国土交通大臣または都道府県知事)」と「案内所の所在地を管轄する都道府県知事」の2か所です。免許権者と所在地の知事が同一であれば届出は1か所で済みます。
- 📝 届出の期限:業務を開始する日の10日前まで
- 📝 届出先:免許権者 + 案内所所在地を管轄する都道府県知事(最大2か所)
- 📝 届出内容:所在地・業務内容・業務期間・専任宅建士の氏名
ここで特に注意しなければならないのが、案内所に置く専任宅建士の「兼任禁止」のルールです。案内所に設置する専任宅建士は、本店や支店などの事務所に既に登録されている専任宅建士が兼務することはできません。
たとえば本店の専任宅建士を週に何日か案内所に出向かせて「実質的に両方カバーしている」という運用は、法律上認められていません。案内所で業務を行う期間中は、案内所専用の専任宅建士として登録された人物が常駐する必要があります。
これを軽視して人手不足のまま案内所を開設すると、届出義務違反(50万円以下の罰金)と専任宅建士設置義務違反が同時に発生するリスクがあります。
参考:案内所等の設置に伴う届出について実務的に解説
案内所等の設置に伴う宅建業法第50条第2項の届出について|(公財)不動産流通推進センター
「事務所等」の定義はクーリングオフでも登場するが意味が異なる
「事務所等」という用語は、宅建業法の中でもう一か所重要な場面に登場します。それがクーリングオフを定めた宅建業法第37条の2です。
しかし、ここで注意すべき重要な点があります。第31条の3における「事務所等」と、第37条の2における「事務所等」は、同じ言葉でも指す内容が異なります。
第37条の2のクーリングオフでいう「事務所等」とは、買主が冷静な判断のもとで契約申込み・締結をした場所を指し、クーリングオフが適用されない場所として機能します。具体的には次のような場所です。
| 場所の種類 | クーリングオフの適用 |
|---|---|
| 売主業者の事務所(本店・支店) | ❌ クーリングオフ不可 |
| 代理・媒介業者の事務所 | ❌ クーリングオフ不可 |
| 土地に定着した案内所(一定要件を満たすもの) | ❌ クーリングオフ不可 |
| 買主が自分から申し出た自宅・勤務先 | ❌ クーリングオフ不可 |
| 路上・喫茶店・ホテルのロビーなど | ✅ クーリングオフ可 |
第31条の3(専任宅建士の設置)では「テント張りや仮設小屋などの臨時施設は事務所に該当しない」とされています。ところが、クーリングオフのルールでは「土地に定着する施設」であれば案内所として「事務所等」に含まれ、クーリングオフが適用されなくなります。
つまり、専任宅建士の設置義務があるかどうかを判断する「事務所等」と、クーリングオフが適用されるかどうかを判断する「事務所等」は、対象となる施設の範囲が異なるのです。同じ言葉で別の概念です。
この区別ができていないと、重要事項説明の場面でクーリングオフの説明を誤って行うリスクがあります。「ここで申込みをすればクーリングオフできません」という説明が誤っていた場合、後から買主に撤回を主張される可能性があり、トラブルの原因になります。
参考:クーリングオフにおける「事務所等」の定義を詳しく解説
事務所等の定義:不動産開業時に見落としがちな独立性の要件
宅建業の開業を考えている人、または既に開業しているが事務所の認定に不安がある人に向けて、実務上よく問題になる「事務所の独立性」について解説します。
宅建業法施行令第1条の2では、事務所として認められるためには「社会通念上事務所として認識される程度の形態を備えていること」が必要と定めています。これがいわゆる「独立性の要件」です。
自宅の一室を事務所として使用する場合、単に部屋の一角にデスクを置いただけでは「事務所として独立した形態」とは認められません。生活空間と業務空間が明確に分離されており、外部の人が訪問してもそこが業務スペースであると認識できる状態が求められます。
独立性が認められるために実務上求められるポイントを以下に整理します。
- 🔑 出入口の独立性:生活空間を通らずに業務スペースへ入れること
- 🔑 業務スペースの明確な区分:パーテーション等で生活空間と明確に仕切られていること
- 🔑 業務用設備の設置:デスク・電話・PCなどの業務機器が整備されていること
- 🔑 使用権限の確保:賃貸借契約書等で宅建業用として使用できる権限があること
また、シェアオフィスやコワーキングスペースを事務所として申請する場合は、各都道府県によって判断が異なります。基本的には「専用スペース」として使用権限を確保できており、他社や他の利用者と完全に区分されている状態が求められます。共有スペースをそのまま事務所として申請しても、多くの場合は認められません。
テント張りの現地販売センターやプレハブの仮設事務所は、「継続的に業務を行うことができる施設」とは認められないため、法律上の「事務所」には該当しません。これは分譲現場に設置される臨時の案内施設などが典型例です。
開業前に事務所の独立性について不安がある場合は、各都道府県の宅建業免許担当窓口に事前相談することをおすすめします。審査基準は都道府県によって細部が異なるため、窓口での確認が最も確実な方法です。
参考:宅建業の事務所の独立性について法的根拠を含めて詳しく解説
宅建業の事務所の独立性とは?自宅開業の要件と法的根拠を徹底解説|Money Forward
事務所等の定義まとめ:不動産従事者が押さえるべき3つの区分
ここまで解説してきた「事務所等」に関する定義を、実務で使えるよう3つの区分に整理します。
第1の区分:宅建業法上の「事務所」(免許・専任宅建士の設置に関する区分)
宅建業法施行令第1条の2に基づく事務所です。1号事務所(商業登記上の本店・支店)と2号事務所(支店長・支配人を置く継続施設)の2種類があります。本店は宅建業を直接営まなくても対象になる点が最重要です。
第2の区分:「事務所等」(専任宅建士の設置義務に関する区分)
宅建業法第31条の3に基づく「事務所等」です。上記の「事務所」に加えて、「事務所以外で専任宅建士を置くべき場所」(契約申込み・締結をする案内所など)が含まれます。案内所の専任宅建士は他の事務所等との兼任が不可という点が実務上の落とし穴です。
第3の区分:「事務所等」(クーリングオフに関する区分)
宅建業法第37条の2に基づく「事務所等」です。専任宅建士の区分とは対象となる施設の範囲が異なります。「土地に定着する案内所」はクーリングオフの適用除外になりますが、テント張りなどの臨時施設では適用除外になりません。
| 区分 | 根拠条文 | 目的 | 主な対象 |
|---|---|---|---|
| 事務所(免許要件) | 施行令1条の2 | 免許・専任宅建士の設置 | 本店・支店・2号事務所 |
| 事務所等(宅建士設置) | 法31条の3 | 専任宅建士の配置義務 | 事務所+契約申込案内所等 |
| 事務所等(クーリングオフ) | 法37条の2 | クーリングオフの適用除外 | 事務所+土地定着案内所等 |
この3つの区分を混同することが、不動産従事者が法令違反を犯してしまう最大の原因の一つです。結論はシンプルです。「事務所等」という言葉が出てきたら、必ず「どの条文に基づく話か」を確認することが重要です。
特に、試験勉強や実務研修で「事務所等 定義」を学ぶ際には、条文番号とセットで覚えることをおすすめします。第31条の3の「事務所等」と第37条の2の「事務所等」は別物だと認識する、これだけ覚えておけばOKです。
宅建業法の条文原文を確認したい場合は、国土交通省が公開している「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」を参照すると、公式の解釈基準をそのまま確認できます。解釈・運用の考え方はまるで法令のように取り扱われており、実務での判断基準として非常に有効です。
参考:国土交通省による宅建業法の公式解釈・運用の考え方(PDF)

