住宅確保要配慮者とは・定義・範囲・宅建業者の実務対応
子育て世帯を断ったら、障害者差別解消法違反で行政指導を受けるケースがあります。
住宅確保要配慮者とは何か・法律上の定義をわかりやすく解説
「住宅確保要配慮者」とは、住宅の確保に特に配慮を必要とする方々のことです。根拠法は「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」、通称「住宅セーフティネット法」で、2007年(平成19年)に制定されました。
この法律では、対象者の範囲を3つの層で定めています。
まず、法律(住宅セーフティネット法本法)が直接定める者として、①低額所得者、②被災者(発災後3年以内)、③高齢者、④障害者、⑤子ども(高校生相当まで)を養育している者、が挙げられています。次に、国土交通省令で定める者として外国人・DV被害者・犯罪被害者・矯正施設退所者・生活困窮者・ハンセン病療養所入所者・保護観察対象者・困難な問題を抱える女性・東日本大震災等の大規模災害被災者(発災後3年以上経過)などが含まれます。さらに、都道府県や市区町村が「賃貸住宅供給促進計画」で独自に追加できる者として、新婚世帯・LGBTの方・児童養護施設退所者・UIJターンによる転入者なども対象に加えられる場合があります。
つまり「要配慮者」とは固定した属性だけではありません。
地域の計画によって対象範囲が広がる点は、実務では見落としがちな部分です。自社の営業エリアの都道府県・市区町村がどのような計画を定めているかを確認しておくことが、正確な説明につながります。
特に「低額所得者」の定義は具体的な数字で決まっています。月収が15.8万円(収入分位25%)以下の世帯が対象です。これは手取りではなく、公営住宅法の計算に準じた「控除後の月額所得」になります。年収換算でおよそ200万円前後が目安で、いわゆるワーキングプアと呼ばれる層が多く含まれます。月収15.8万円というのは、ちょうど大卒初任給の水準に近い数字です。一般的なサラリーマン家庭よりもかなり低い収入帯であることがわかります。
子育て世帯については、月収21.4万円以下の世帯に対して最大6年間の支援が受けられる家賃低廉化補助の優遇制度もあります。この点は、低額所得者と混同しやすいので注意が必要です。
参考:国土交通省による住宅確保要配慮者の範囲詳細(PDF)
住宅確保要配慮者への対応で宅建業者が知るべき法的リスク
「要配慮者だから断ってもいい」と考えている宅建業者は少なくありません。しかし、その判断は法的リスクを生む可能性があります。
障害者差別解消法は2021年(令和3年)に改正され、2024年(令和6年)4月1日から民間事業者に対しても「合理的配慮の提供」が義務化されました。以前は努力義務だったものが、義務に格上げされたのです。
これが実務に直結します。
不動産業者が障害者への「不当な差別的取扱い」を行った場合、行政指導の対象になります。国土交通省は不動産業向けの「対応指針」を整備しており、障害があることや「客観的に見て正当性のない安全上の懸念」を理由とした入居拒否は、不当な差別的取扱いに当たると明示しています。
では具体的にどのような場面が問題になるのでしょうか?
たとえば「精神障害者の方は近隣トラブルが心配」という理由だけで仲介を断ったり、申込書の提出自体を拒んだりするケースがリスクになります。もちろん、合理的な理由があれば断ることはできますが、「要配慮者だから」という理由だけでの一律拒否は法的にアウトです。
また、住宅セーフティネット法の枠組みの中でも、仲介業者が登録住宅について虚偽の説明をしたり、正当な理由なく要配慮者への紹介を怠ったりする行為は、宅建業法の規制とも絡む問題になりえます。重要事項説明義務との関係でも、物件がセーフティネット登録住宅であることはお客様に伝えるべき情報です。
法的リスク回避のためには、社内マニュアルの整備が基本です。属性ではなく「客観的な審査基準」に沿って判断できる体制を整えておくことが求められます。
参考:不動産取引における障害者差別解消法の対応について
不動産流通推進センター「不動産取引における障害者差別解消法上の合理的配慮の提供等」(PDF)
住宅確保要配慮者と住宅セーフティネット法改正(2025年)の実務ポイント
令和7年(2025年)10月1日に、改正住宅セーフティネット法が施行されました。宅建業者にとって実務に直結する変更点が複数あります。
改正の柱は4つです。①終身建物賃貸借の認可手続の簡素化、②残置物処理ルールの明文化、③家賃債務保証制度の新設(認定制度)、④居住サポート住宅制度の創設——これらが今回の改正の骨格です。
まず「終身建物賃貸借」の変化が大きいです。
これまでは住宅1件ごとに行政の認可が必要でした。改正後は「事業者単位」での認可に変わったため、複数の物件を一括で対応できるようになりました。単身高齢者のお客様を多く扱う事務所では、この変更によって終身賃貸の提案がぐっとしやすくなります。
残置物の問題は多くの仲介業者が頭を悩ませてきた課題です。入居者が亡くなった後の家財道具をどうするかについて、これまで明確なルールがなく、大家と遺族の間でトラブルになるケースが続いていました。改正後は、居住支援法人の業務として「残置物処理」が正式に位置づけられ、モデル契約条項も整備されました。入居申込時に同意書をセットで準備しておくことで、退去時の混乱を防ぐ効果が期待できます。
家賃債務保証については、国土交通大臣が認定する「認定家賃債務保証業者制度」が2025年7月1日から申請受付を開始しました。原則として連帯保証人を不要とする設計です。高齢者や生活保護受給者など、従来の民間保証会社の審査が通りにくかった方々への対応において、大きな武器になります。
居住サポート住宅については、安否確認(1日1回以上)、見守り(月1回以上)、福祉との連携という3点を備えた住宅を自治体が認定する仕組みです。最低面積は原則25㎡ですが、既存物件は18㎡、共用部の活用があれば13㎡でも可能とされています。物件の空室対策と合わせて検討する価値があります。
参考:改正住宅セーフティネット法の概要
国土交通省「住宅セーフティネット法等の一部を改正する法律について」
セーフティネット住宅への登録と補助金の活用方法
宅建業者やオーナーにとって、セーフティネット住宅への登録は「社会貢献」だけではありません。補助金活用という実利があります。これは意外と知られていないポイントです。
登録の基本的な要件は、①耐震性を有すること、②住戸面積が原則25㎡以上であること(既存物件は特例あり)、③設備・構造が入居に支障のないものであること、の3点です。登録は都道府県・政令市・中核市が窓口になります。
登録後に受けられる主な支援は2種類あります。
まず「改修費補助」です。バリアフリー改修(手すり設置や段差解消)、耐震補強、省エネ設備導入、間取り変更、見守りセンサー設置などに対して補助金が交付されます。2025年度の公募期間は4月から12月中旬頃が予定されており、早めの申請準備が必要です。
次に「家賃低廉化補助」です。登録住宅に入居した月収15.8万円以下の低額所得者の家賃を、市場家賃より低く設定した場合、その差額分を国と自治体が最大月4万円まで補填します(国1/2・地方1/2)。大家にとっては収入が減らず、入居者は安く住める仕組みです。
自治体によっては独自の上乗せ制度もあります。
東京都では「東京ささエール住宅」として、耐震改修・設備改善・見守り機器・少額短期保険料の各補助をパッケージで提供しています。横浜市では家賃の差額を最大月8万円まで補助し、家賃債務保証料や孤独死等保険料も初回に限り合算上限6万円/年で支援しています。
このような自治体独自の支援を把握しておくと、オーナーへの提案力が格段に上がります。営業エリアの自治体サイトで「セーフティネット住宅 補助金」で検索するのが手っ取り早い確認方法です。
空き家・空室対策として登録を検討しているオーナーに制度を紹介するだけでも、宅建業者としての提案の幅が広がります。補助金申請は、まず物件の登録手続きから始めましょう。
参考:国土交通省のセーフティネット住宅制度概要ページ
国土交通省「住宅セーフティネット制度 ~誰もが安心して暮らせる社会を目指して~」
居住支援法人・居住支援協議会との連携で仲介業務を強化する方法
宅建業者が住宅確保要配慮者への対応を一人で抱え込もうとすると、確実に限界がきます。実務的な解決策は「居住支援法人」との連携です。
居住支援法人とは、都道府県が指定する法人で、住宅確保要配慮者に対して①家賃債務保証の提供、②賃貸住宅の入居に関する情報提供・相談、③見守りなどの生活支援——を行う機能を持っています。社会福祉法人やNPO法人が多く、全国各地に存在します。
居住支援協議会は、これとは別の組織です。
居住支援協議会は、地方公共団体・不動産関係団体・家賃債務保証業者・居住支援法人・学識経験者などが構成員となる「協議の場」です。宅建業者もここに参加することが想定されており、地域の居住支援ネットワークの中で重要な役割を担います。
宅建業者にとっての実務上のメリットは明確です。
居住支援法人と連携することで、高齢者や障害者のお客様の入居後の見守り体制を外部に委ねることができます。大家が「何かあったときの対応が心配」という理由で入居を渋っている場面でも、「見守りは居住支援法人が担う体制があります」と説明できれば、入居拒否を減らす大きな交渉材料になります。
また、生活保護受給者や矯正施設退所者など、審査でつまずきやすい方への対応も、居住支援法人と行政の福祉部門と連携することでスムーズになります。単独で抱え込まないことが原則です。
実際に全国宅地建物取引業協会(全宅連)の調査でも、「宅建協会や宅建業者が果たすべき役割は大きい」と明記されており、業界全体でこの問題への関与が求められています。
連携のファーストステップとして、まず営業エリアの居住支援法人を1件確認して連絡先をメモしておくことを推奨します。国土交通省の指定法人リストで検索できます。
参考:居住支援法人の指定制度について
宅建業者が誤解しがちな住宅確保要配慮者対応の落とし穴
現場で起きやすい誤解や、見逃しやすい落とし穴を整理します。宅建業者だからこそ知っておくべき、独自視点の注意点です。
「高齢者=公営住宅を案内すればいい」は間違い
公営住宅への入居は抽選制で、申込から入居まで数か月から1年以上かかるケースもあります。緊急度の高い方や抽選に外れた方には、セーフティネット登録住宅や居住サポート住宅が現実的な選択肢です。宅建業者が「公営住宅があります」で終わらせると、結果的にその方の住まいが確保されないまま放置されてしまいます。民間賃貸との組み合わせを提案できるのが、宅建業者の強みです。
「要配慮者は賃料滞納リスクが高い」は正確ではない
確かに低額所得者には家賃支払い能力の面での懸念があります。ただ、生活保護受給者の場合は「住宅扶助」として自治体から家賃が直接送金される仕組みがあるため、一般入居者よりも滞納リスクが低いケースもあります。一律に「リスクが高い」と判断せず、個別の支払い手段を確認することが大切です。
「外国人=要配慮者ではない」という思い込み
外国人は国土交通省令で定める住宅確保要配慮者です。条約や他法令において居住の確保に関する規定のある方が対象とされており、在留資格のある外国人も広く含まれます。外国人対応を「専門外」と切り捨てず、言語サポートができる居住支援法人を把握しておくと対応の幅が広がります。
入居中の支援が終わると責任が終わるわけではない
仲介契約は締結後に終了しますが、居住支援協議会や居住支援法人と連携して、入居後のフォロー体制を案内しておくことで、大家との信頼関係が継続します。入居後トラブルを「仲介業者には関係ない」と放置すると、大家との取引関係が壊れるリスクがあります。
居住サポート住宅は新築でなくてもよい
既存の物件でも、最低面積18㎡(共用部活用なら13㎡)を確保し、安否確認と見守りの体制を整えれば認定対象になりえます。ワンルームマンションや古い物件でも検討できるため、空室対策と組み合わせてオーナーに提案できる選択肢です。
現状を正確に理解していれば、対応できる案件が確実に増えます。制度全体の知識が宅建業者としての提案力に直結するのが、この分野の特徴です。
参考:不動産会社が意識すべき住宅確保要配慮者への対応ポイント