価格査定とは何か
高すぎる査定額が成約率を3割下げる
価格査定の定義と法的根拠
価格査定とは、不動産仲介会社が土地や建物などの不動産をいくらで売却できるかを算出する行為を指します。不動産流通推進センターが提供する「価格査定マニュアル」では、この査定は売り出し価格を設定する際の根拠となるもので、後の売却活動を左右する大切な業務と位置づけられています。
宅地建物取引業法第34条の2第2項では、宅建業者が不動産の価額について意見を述べるときには、その根拠を明らかにしなければならないと定められています。つまり、不動産会社は感覚や勘だけで査定額を出すことは許されず、合理的な根拠に基づいて価格を提示する法的義務を負っているのです。
つまり法律で定められた義務です。
この義務は、売主を保護するための重要な規定です。査定根拠が明示されることで、売主は複数の不動産会社の査定内容を比較でき、より適切な業者選びができるようになります。根拠の明示方法は口頭でも書面でもよいとされていますが、実務では書面で提示するケースがほとんどです。
不動産の査定価格は、おおむね3ヶ月程度で売却できる価格の目安として算出されます。これは不動産流通市場における標準的な売却期間として定着している期間です。この期間設定には合理性があり、あまりに長期化すると物件が「売れ残り」というネガティブなイメージを持たれるリスクがあるためです。
査定価格は3ヶ月が基準です。
公益財団法人不動産流通推進センターの価格査定マニュアルでは、地価公示や都道府県地価調査のデータを内蔵し、簡単な操作で査定価格を算出できるシステムが提供されています。このマニュアルは、不動産会社が査定の根拠を合理的に示す手法として国土交通省も認めているツールです。
価格査定と不動産鑑定の違い
価格査定と不動産鑑定は、どちらも不動産の価値を金額で表すという点では共通していますが、その性質は大きく異なります。最も重要な違いは、実施者と法的な位置づけです。
不動産鑑定は、国家資格を持つ不動産鑑定士のみが行える業務です。不動産鑑定評価基準という厳格な基準に基づいて評価を行い、作成される鑑定評価書には法的な証拠力があります。裁判資料や税務申告、相続時の財産分割など、公的な場面で使用されることを前提としているため、有料で実施されるのが一般的です。
鑑定は国家資格者による有料業務です。
一方、価格査定は宅建業者であれば実施できる業務で、法的拘束力や証拠力はありません。あくまでも売却時の参考価格として算出されるもので、「この金額で必ず売れる」という保証を意味するものではないのです。そのため、査定は基本的に無料で提供されます。
費用面でも大きな差があります。不動産鑑定の費用は物件の種類や規模によって異なりますが、一般的な住宅用地で20万円から30万円程度、マンションで20万円前後が相場です。対して価格査定は無料が原則で、複数の不動産会社に同時に依頼することも可能です。
鑑定は20万円以上かかります。
目的の違いも明確です。不動産鑑定は、客観的かつ公正な不動産の価値を求める場面で利用されます。一方、価格査定は実際に売却活動を行う際の売り出し価格を決定するための参考資料として活用されます。売却を前提としない純粋な資産価値の把握には鑑定が適しており、売却を具体的に検討している場合には査定が実用的な選択肢となります。
不動産鑑定評価基準では「取引事例比較法」「原価法」「収益還元法」という3つの手法を組み合わせて評価を行いますが、価格査定でもこれらの手法を簡略化した形で用いることが一般的です。ただし、査定では鑑定ほど厳密な調査や分析は求められません。
価格査定の3つの算出方法
不動産の価格査定では、主に3つの算出方法が用いられます。物件の種類や用途によって、どの方法を採用するかが変わってきます。それぞれの特徴を理解しておくことで、査定結果の妥当性を判断する材料になります。
取引事例比較法は、最も一般的に使われる査定方法です。査定対象の不動産と条件が似ている物件の過去の成約事例を探し、その取引価格を基準として査定額を算出します。立地、面積、築年数、設備などの条件を比較し、差異を調整して査定価格を導き出すのが特徴です。
マンションや住宅地に適しています。
この方法は、特にマンションや住宅地の土地部分の査定に適しています。理由は、類似物件の取引事例が比較的豊富に存在し、市場の実勢価格を反映しやすいためです。レインズ(不動産流通標準情報システム)などのデータベースを活用することで、直近の成約事例を効率的に収集できます。
原価法は、主に一戸建て住宅の建物部分を査定する際に用いられる方法です。対象となる建物を現時点で再建築した場合にかかる費用(再調達原価)を算出し、そこから築年数に応じた減価修正を行って査定価格を求めます。計算式は「再調達原価×(1−築年数÷耐用年数)」が基本となります。
たとえば、再調達原価が3,000万円の木造住宅で築年数が10年、法定耐用年数が22年の場合、「3,000万円×(1−10÷22)」で約1,636万円という査定額が算出されます。この方法は、建物の物理的な価値を重視する点が特徴です。
建物の物理的価値を評価します。
収益還元法は、賃貸マンションや賃貸ビルなど、収益を生む不動産を査定する際に使われる方法です。その不動産から将来得られる収益をもとに、現在の価値を算出します。「直接還元法」と「DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)」の2種類があります。
直接還元法では、1年間の純収益を還元利回りで割って査定額を算出します。たとえば年間純収益が500万円、還元利回りが5%の場合、「500万円÷5%」で1億円という査定額になります。この方法は投資物件の価値を収益性から評価するため、居住用不動産の査定には適していません。
収益物件には収益還元法です。
国土交通省の価格査定マニュアルについての資料では、これらの査定手法を標準化し、宅建業者が消費者に対して価額の根拠を合理的に示すためのツールとして位置づけています。
価格査定における簡易査定と訪問査定
価格査定には、簡易査定(机上査定)と訪問査定という2つのアプローチがあります。売却を検討する段階に応じて、適切な方法を選ぶことが重要です。それぞれの特徴とメリット・デメリットを把握しておくと、効率的に査定を進められます。
簡易査定は、不動産会社が現地を訪問せずに、物件情報や過去の取引事例、公示価格などのデータのみで査定価格を算出する方法です。所在地、面積、築年数、間取りといった基本情報を提供するだけで、早ければ数時間から数日で査定結果を得られます。
現地確認なしで迅速に結果が出ます。
簡易査定の最大のメリットは、手軽さとスピードです。複数の不動産会社に同時に依頼しやすく、大まかな相場感を把握する目的には十分機能します。また、まだ売却を決断していない段階で、とりあえず物件の価値を知りたいという場合にも気軽に利用できます。
ただし、簡易査定には限界もあります。物件の実際の状態、日当たり、眺望、周辺環境の詳細、リフォームの有無、設備の状態などは反映されません。そのため、訪問査定と比べて査定精度は劣り、実際の売却価格との乖離が大きくなる可能性があります。
精度は訪問査定より劣ります。
訪問査定は、不動産会社の担当者が実際に現地を訪れて物件を調査した上で査定価格を算出する方法です。建物の状態、設備の老朽化度、日当たり、騒音の有無、周辺環境など、データだけでは把握できない要素まで総合的に評価します。
訪問査定では、建物の外観や内装の状態を目視で確認するだけでなく、周辺の開発計画や交通の便、学校や商業施設までの距離なども調査対象となります。これにより、簡易査定よりも実際の売却価格に近い精度の高い査定結果が得られるのが特徴です。
より正確な査定額がわかります。
訪問査定のデメリットは、時間と手間がかかることです。現地調査の日程調整が必要で、調査には1時間程度、査定結果が出るまでに数日から1週間程度かかるのが一般的です。また、担当者と直接会うことになるため、営業を受ける可能性もあります。
実務では、まず簡易査定で複数社の査定額を比較し、信頼できそうな不動産会社を2〜3社に絞り込んでから訪問査定を依頼するという流れが効率的です。簡易査定で大まかな相場を把握し、訪問査定で正確な価格を確認するという使い分けが、売却を成功させるポイントになります。
段階的な使い分けが効率的です。
価格査定で高すぎる査定額が危険な理由
複数の不動産会社に査定を依頼すると、会社によって査定額に大きな差が出ることがあります。このとき、最も高い査定額を提示した会社に飛びつきたくなるのが人情ですが、実はこれが売却失敗の第一歩になることが多いのです。
高すぎる査定額が危険な最大の理由は、「高預かり」という営業手法が存在するためです。これは、不動産会社が媒介契約を獲得する目的で、相場よりも意図的に高い査定額を提示する行為を指します。契約を取った後は、売れない現実を突きつけて段階的に値下げを提案し、最終的には相場並みか相場以下で成約させるという流れになります。
契約獲得のための手法です。
国土交通省の調査データによると、売り出し価格が相場より10%以上高い物件は、問い合わせ件数が通常の物件と比べて約7割減少するという結果が出ています。購入検討者は複数の物件を比較しており、明らかに割高な物件は検討リストにすら入らないのが現実です。
高すぎる価格設定による最大のリスクは、売却期間が無駄に長引くことです。相場からかけ離れた価格では内覧の申し込みすら入りません。時間が経過するほど物件に「売れ残り感」が漂い始め、購入希望者から「何か問題があるのでは」と疑われるようになります。
売れ残り感が出てしまいます。
販売開始から3ヶ月が経過すると、不動産ポータルサイトでは「販売開始からの経過日数」が表示されるケースが増えます。この日数が長くなるほど、買主は「この物件は売れていない理由があるはずだ」と考え、値引き交渉を強気で進めてくる傾向が強まります。結果として、適正価格で売り出していれば得られたはずの金額よりも低い価格での成約を余儀なくされることも少なくありません。
不動産情報サイトによる調査では、査定額と成約価格の乖離率が15%を超える物件の約8割が、当初の査定額が相場より高すぎたことが原因だったと報告されています。つまり、高すぎる査定額を信じて売り出した結果、大幅な値下げを繰り返し、時間と労力を無駄にした上に満足のいく価格で売れないという最悪のパターンに陥っているのです。
8割が高すぎる査定が原因です。
高額査定を提示する不動産会社の中には、査定根拠を曖昧にしたり、「頑張ります」「私に任せてください」といった精神論で説明を済ませたりするケースが見られます。こうした業者は、売主の期待を煽って契約を取ることだけを優先しており、実際の売却活動や成約には責任を持たない姿勢が見え隠れします。
適正な査定を見極めるには、査定額の根拠を具体的に説明できるかどうかを確認することが重要です。近隣の成約事例を複数提示し、対象物件との差異を明確に説明できる業者は信頼性が高いと判断できます。複数社の査定額を比較する際は、平均値に近い査定額を出している会社を中心に検討するのが賢明です。
平均値に近い査定が信頼できます。
価格査定から成約までの価格の流れ
不動産売却では、「査定価格」「売り出し価格」「成約価格」という3つの異なる価格が登場します。これらは全く同じ金額になることは稀で、それぞれ異なる意味と役割を持っています。この流れを正しく理解していないと、売却活動で混乱が生じる原因になります。
査定価格は、不動産会社が「おおむね3ヶ月以内に売却できるだろう」と予想する価格です。過去の成約事例や現在の市場動向、物件の個別要因を総合的に評価して算出されます。あくまでも不動産会社の意見であり、法的拘束力はありません。
売却見込み額の目安です。
売り出し価格は、査定価格を参考にしながら、最終的に売主が決定する価格です。売主の希望や売却の緊急度、同一エリア内での競合物件の状況などを考慮して設定されます。通常は査定価格に対して0〜10%程度上乗せして設定することが多く、これは値引き交渉の余地を残すための戦略的な価格設定です。
たとえば、査定価格が3,000万円の物件を3,200万円で売り出すケースがあります。これは、購入希望者からの値引き要求を想定し、最終的に3,000万円前後で成約することを見越した価格設定です。ただし、あまりに高すぎる売り出し価格は前述のとおりリスクが大きいため、査定価格の±5%以内に収めるのが一般的です。
±5%以内が適切な範囲です。
成約価格は、売主と買主が価格交渉を経て最終的に合意した、実際の売買契約における価格です。これが唯一の「確定した金額」であり、不動産市場における真の実勢価格を示すものです。レインズなどの成約事例データベースに記録されるのも、この成約価格です。
公益財団法人東日本不動産流通機構のデータによると、首都圏の中古マンションにおける売り出し価格と成約価格の平均乖離率は約5〜7%程度となっています。つまり、多くの物件が売り出し価格から5〜7%程度値引きされて成約しているということです。
平均で5〜7%値引きされます。
この3つの価格の関係性を理解していないと、「査定価格で必ず売れる」と誤解したり、「売り出し価格が高すぎて売れない」という事態を招いたりします。不動産従事者としては、依頼者にこの違いを明確に説明し、適切な期待値を持ってもらうことが重要な役割となります。
実務では、売り出し後の市場の反応を見ながら、必要に応じて売り出し価格を調整していくことになります。問い合わせや内覧が少ない場合は価格が高すぎる可能性があり、逆に問い合わせが殺到する場合は価格設定が低すぎた可能性があります。このバランス感覚が、売却を成功に導く鍵となります。
市場の反応を見て調整します。
価格査定における業者選びの独自視点
価格査定を依頼する不動産会社選びは、売却の成否を大きく左右します。一般的には「実績が豊富」「大手だから安心」といった基準で選ばれがちですが、不動産従事者の視点からは、もう少し踏み込んだチェックポイントがあります。
まず注目すべきは、査定根拠の説明の具体性です。信頼できる業者は、近隣の成約事例を最低3件以上提示し、それぞれの物件と査定対象物件との差異を明確に説明できます。「このエリアでは最近このような取引がありました」という抽象的な説明ではなく、「〇〇町△丁目の築15年、75平米の物件が2ヶ月前に2,800万円で成約しています。御物件は築12年で条件が良いため、これより約200万円高い評価としています」というレベルの具体性が求められます。
成約事例を3件以上提示します。
次に重要なのが、デメリットも含めた説明をするかどうかです。優良な不動産会社は、物件の良い点だけでなく、市場で不利になる可能性がある要素も正直に指摘します。「この物件は日当たりが良好ですが、前面道路が狭いため駐車が難しく、この点が価格交渉材料になる可能性があります」といった率直な意見を述べる業者は、信頼性が高いと判断できます。
正直にデメリットも伝えます。
また、販売戦略の提案内容も重要な判断材料です。単に「広告を出します」「ネットに掲載します」という漠然とした説明ではなく、「この物件はファミリー層がターゲットなので、学校や公園の近さを前面に押し出したPR戦略を取ります」「購入層を30代後半と想定し、住宅ローンの組みやすさを強調した提案書を作成します」といった具体的な戦略を示せる業者を選ぶべきです。
ターゲット戦略が明確です。
不動産会社の得意分野も見逃せないポイントです。マンション売却に強い会社、戸建てに強い会社、投資物件に強い会社など、それぞれ専門領域があります。過去の取引実績を確認し、査定対象物件と同じタイプの物件の売却経験が豊富な業者を選ぶことで、より精度の高い査定と効果的な売却活動が期待できます。
地域密着型の業者も有力な選択肢です。大手不動産会社は全国的なネットワークと豊富な情報量が強みですが、地域密着型の業者は地元の細かな市場動向や購入希望者層の特性を熟知しているという強みがあります。特に、地方都市や郊外の物件では、地域密着型業者の方が効果的なケースも少なくありません。
地域特性を熟知しています。
最後に、担当者の対応スピードとコミュニケーション能力も重要です。査定依頼後の連絡が遅い、質問への回答が曖昧、説明がわかりにくいといった業者は、売却活動中も同様の対応になる可能性が高いと考えられます。初回の査定依頼から結果提示までの一連の対応を通じて、信頼できるパートナーかどうかを見極めることが大切です。
初回対応で信頼性を判断します。

