管理不全土地管理制度の仕組みと宅建業者が知るべき実務ポイント

管理不全土地管理制度を宅建業者が正しく理解するための完全ガイド

隣地問題が解決するどころか、予納金100万円近くを申立人自身が立て替えることになります。

この記事の3つのポイント
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制度の基本を押さえる

令和5年4月施行の改正民法で新設。所有者が判明していても管理が不適切なら利害関係人が裁判所へ申立て可能。

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費用と申立て手続きの実態

申立手数料は1筆1,000円と低廉だが、予納金は管理業務の内容によって数十万〜100万円近くに達することがある。

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宅建業者が注意すべき落とし穴

管理不全土地管理人は売却に所有者の同意が必須。所有者不明土地管理制度とは異なる重要ポイントを実務目線で解説。

管理不全土地管理制度とは何か:令和5年改正民法による新設制度の概要

 

管理不全土地管理制度は、令和5年(2023年)4月1日に施行された改正民法によって新たに創設された制度です。民法第264条の9以降に規定されており、所有者による土地・建物の管理が不適当であるために他人の権利や法律上保護される利益が侵害され、またはそのおそれがある場合に適用できます。

従来の制度では、こうした問題に対して物権的請求権の行使や不法行為に基づく損害賠償請求訴訟という形でしか対応できませんでした。しかし訴訟によって判決を得ても、その後の継続的な管理ができず、適時・適切な管理措置を講じるのが困難という大きな限界がありました。そこが原則です。

新制度では所有者に代わって「管理不全土地管理人」が裁判所によって選任されます。管理人が継続的に土地や建物の保存・利用・改良行為を行える点が、従来の訴訟対応との決定的な違いです。宅建業者にとっては、隣地や取引対象地の管理問題を解決するための新たな法的手段が加わったと理解してください。

また、同時期に「所有者不明土地管理制度」も施行されています。この2つはよく混同されますが、明確に異なります。所有者不明土地管理制度は「所有者が誰だかわからない」場合の制度であるのに対し、管理不全土地管理制度は「所有者は判明しているが管理が不適切」な場合の制度です。

比較項目 管理不全土地管理制度 所有者不明土地管理制度
所有者の状況 所在は判明している 所在・氏名が不明
申立てできる利害関係人 権利侵害を受けるおそれがある者に限定 より広い範囲の利害関係人
管理人への管理処分権の専属 専属しない(所有者も権限を保持) 専属する
売却時の所有者同意 必須 不要
命令が競合した場合の優先 所有者不明土地管理命令が優先 優先される

この違いを正確に把握しておくことは、宅建業者が依頼者へ適切なアドバイスを行ううえで不可欠です。

三井住友トラスト不動産「管理不全土地管理命令とは」:管理人の権限・義務の概要が簡潔にまとめられています

管理不全土地管理制度の申立て要件:利害関係人と3つの発令条件

管理不全土地管理命令が裁判所に認められるには、3つの要件をすべて満たす必要があります。一つでも欠ければ申立ては却下されます。

① 所有者による管理が不適当であり、他人の権利または利益が侵害されまたはそのおそれがあること

単に土地が荒れているというだけでは不十分です。所有者の管理不全と他人の権利侵害との間に因果関係が必要とされています。具体的には、ひび割れた擁壁を放置して隣地に倒壊するおそれがある場合、ゴミが不法投棄された土地を放置して臭気・害虫による健康被害が生じている場合、屋根や外壁が脱落・飛散して財産上・身体上の被害を及ぼすおそれがある場合などが典型例として挙げられます。

② 申立人が「利害関係人」に該当すること

この要件が宅建業者にとって非常に重要なポイントです。管理不全土地管理制度の「利害関係人」は、所有者不明土地管理制度の場合より範囲が狭く解釈されています。権利侵害を受けるまたはそのおそれがある者に基本的に限定されており、「その土地を取得して適切に管理したい買受希望者」については一律に排除されるわけではありませんが、認められるかどうかは裁判所の判断次第です。つまり、宅建業者が「安くいい土地を取得したいから申立てる」という動機だけでは利害関係人と認定されない可能性が高い点に注意が必要です。

一方、自社物件の隣地が管理不全となって悪臭・倒壊リスクが生じているような場合は、利害関係人と認められる可能性があります。これは使えそうです。

③ 管理人による管理の必要性が認められること

権利侵害の程度が低く、制度を利用する必要性が乏しいと判断された場合には認められません。また、所有者が対象不動産に居住しており、管理人による管理行為を妨害することが予想されるなど、実効的な管理を期待できない場合も申立てが却下されることがあります。

申立てを管轄するのは、対象土地・建物の所在地を管轄する地方裁判所です。東京なら東京地裁、大阪なら大阪地裁という形になります。

谷井綜合法律事務所「令和5年4月施行 民法・不動産登記法3 ~管理不全土地管理制度について~」:制度の要件・申立て流れを弁護士が解説しています

管理不全土地管理制度の申立て手続きと費用:予納金の実態を宅建業者は知っておくべき

申立て費用については、表面的な数字だけを見ると「安い」と感じるかもしれません。申立手数料は対象土地・建物1筆(個)につき収入印紙1,000円、郵便切手が約6,150円分(大阪地裁の場合)で済みます。しかしここに、見落としがちな大きなコストが待っています。

それが「予納金」です。予納金は管理費用・管理人報酬の原資として裁判所に前納する金銭で、その額は管理業務の内容・期間を裁判官が判断して後日通知するものです。実務的には、ゴミの除去・害虫駆除・擁壁補修などの工事費と管理人(弁護士・司法書士等)への報酬を合わせると、数十万〜100万円近くに達することが珍しくありません。

厳しいところですね。

さらに重要なのは、この予納金は「いったん申立人が納付する」という構造です。命令発令後に管理費用・報酬は所有者の負担とされていますが、実際には所有者からの回収が困難なケースも多く、申立人が実質的に負担することになるリスクがあります。

大阪地裁が公表しているQ&Aには「当初の見通しを上回る費用等が必要となった場合等は、予納金の追納をお願いする場合があります」と明記されています。予算は余裕を持って準備するのが基本です。

申立てから管理人選任までの流れは以下の通りです。

  1. 利害関係人が対象不動産の所在地を管轄する地方裁判所に申立て(必要書類一式と印紙・切手を提出)
  2. 裁判所が申立書類を審査し、追加資料の提出を求めることがある
  3. 原則として、裁判所が所有者の陳述を聴取(意見を確認)する
  4. 裁判所から予納金額の通知 → 申立人が予納金を納付
  5. 要件を満たすと判断されれば管理命令を発令し管理人(弁護士・司法書士等)を選任
  6. 管理人が管理業務を開始(保存・利用・改良行為)
  7. 処分(売却等)が必要な場合は管理人が裁判所に「権限外行為許可」を申立て → 許可取得後に実施(売却の場合は所有者の同意も必須)

なお、申立書には「対象不動産の管理処分方針」を具体的に記載することが求められます。管理人にどのような管理を期待するのかを事前に明確にしておくことで、要件充足の判断材料にもなりますし、適切な管理人が選任されやすくなります。宅建業者として物件調査の知見を活かした詳細な方針書を準備することが、申立て成功のカギになります。

大阪地方裁判所第4民事部「管理不全土地・建物管理命令申立てについてのQ&A(令和6年10月改訂)」:申立て費用・手続きの流れが公式に解説されています

管理不全土地管理人の権限と義務:売却に所有者同意が必要という重要な違い

管理不全土地管理人の権限は、「保存・利用・改良行為」と「処分行為(裁判所の許可が必要)」の2段階に分かれています。これは所有者不明土地管理制度と似た構造に見えますが、決定的に異なる点が一つあります。

管理不全土地管理命令では、管理処分権は管理人に専属しません。所有者もなお管理・処分権を持ち続けます。そして売却などの処分を行う場合には、裁判所の許可に加えて「所有者の同意」が民法上必須とされています(民法264条の11第3項)。

つまり、所有者が売却を拒否すれば、管理人は絶対に土地を売ることができません。管理人への権限専属が原則です。

この点は宅建業者が関与する際に極めて重要です。「管理不全土地管理命令が出れば、隣のゴミ屋敷を強制的に処分できる」と思い込んでいるケースが見受けられますが、それは正確ではありません。保存・利用・改良の範囲内(ゴミ撤去・害虫駆除・擁壁補修等)の対応は管理人の判断で行えますが、売却・取壊しについては所有者の同意がなければ実現しないのです。

管理人が持つ主な権限と義務を整理すると以下の通りです。

  • 🔧 保存行為・利用行為・改良行為(単独可):ひび割れた擁壁の補修、ゴミの撤去、害虫の駆除、雑草の除去など
  • 🔑 処分行為(裁判所の許可+所有者の同意が必要):土地・建物の売却、建物の取壊し
  • 📋 善管注意義務:善良な管理者の注意をもって権限を行使する義務
  • 🤝 公平誠実義務(共有の場合):共有者全員のために誠実かつ公平に権限を行使する義務
  • ⚖️ 訴訟当事者にはなれない:管理不全土地管理人は訴訟の当事者にはなれません(所有者不明土地管理人との相違点)

なお、管理人報酬は管理不全土地等から支払われ、最終的には所有者が費用・報酬を負担する建て付けになっています。しかし、管理対象の土地・建物に資産価値が乏しい場合は、所有者からの費用回収ができずに申立人が負担したままとなるリスクがある点も、実務上の注意点です。

ネクスパート法律事務所「管理不全土地建物管理制度とは?制度の概要と疑問点について解説」:管理人の権限・義務・FAQが詳しく解説されています

宅建業者が知っておくべき管理不全土地管理制度の独自活用と実務上の注意点

この制度は「隣地の管理不全で困っている人が申立てる」という受け身の使い方だけではありません。宅建業者の実務目線で見ると、もう一つの活用法があります。それは「所有者への交渉カード」として使うことです。

所有者が判明していて連絡は取れるものの、対応が場当たり的・不十分な場合に、この制度の存在を所有者に説明し「管理人が選任されると費用負担が発生し、管理人との連絡対応も生じる」と伝えることで、自主的な管理改善や問題解決交渉につながるケースがあります。適切な管理が条件です。

また、令和6年末〜令和7年にかけてすでに実務事例も出てきています。東北地方の宅建業者が所有者不明土地管理制度(管理不全土地管理制度と隣接する制度)を活用し、固定資産税評価額の半額以下で複数の好立地物件を取得したという事例が報告されています。買受価格の物件代金以外に100万円弱の費用(弁護士費用・予納金・登録免許税等)がかかりましたが、取得後の想定利回りは40%超という高収益物件になったとのことです。これは使えそうです。

ただし、実務上の注意点も複数あります。

🚨 宅建業者が見落としやすいポイント

  • マンション区分所有建物)の専有部分共用部分には管理不全建物管理制度は適用されません(区分所有法6条4項)。連棟長屋(棟割長屋)が区分所有建物に該当する場合も同様です。
  • 管理不全土地管理命令が発令された後に所有者不明土地管理命令が発令されると、管理不全土地管理命令は取り消されます。両命令が競合した場合は所有者不明土地管理命令が優先されます。
  • 申立書に管理人の候補者を記載することは一般的に可能ですが、裁判所は「公平かつ中立」な管理人を選ぶ必要があるため、申立人の推薦を原則として受け付けない裁判所もあります(大阪地裁)。
  • 制度施行からまだ間もないため、裁判所による運用が十分に固まっていません。裁判官によって判断が異なるケースや、地域による運用の差異が生じる可能性があります。
  • 市区町村長が申立人となる場合は、空家等対策の推進に関する特別措置法など別の根拠法が適用されるため、要件等が異なります。依頼者から「市役所を通じて申立てできないか」と相談を受けた場合は、担当部署に確認を促しましょう。

制度の活用にあたっては、弁護士・司法書士との連携が欠かせません。宅建業者として物件査定・現況調査・管理方針の立案という点では価値を発揮できますが、申立て手続き・所有者調査・管理人との交渉は法律専門家のサポートが不可欠です。不動産査定書も、自前のものは信頼性が低いと判断される可能性があるため、第三者機関への依頼を前提にしておくことをおすすめします。

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