期限の利益喪失と通知が保証人に影響
2ヶ月以内に通知しないと遅延損害金が請求不可になります。
期限の利益喪失における通知義務の基本
2020年4月の民法改正により、債権者が主債務者の期限の利益喪失を知った場合、個人保証人に対して2か月以内に通知する義務が新設されました。期限の利益とは、債務者が支払期限まで債務の履行を猶予される利益のことです。この利益を喪失すると、残債務の全額について即座に支払義務が発生します。
つまり期限の利益喪失とは、分割払いの権利を失い、一括返済を求められる状態になることを意味します。
不動産取引における典型的な場面は、賃貸借契約で入居者が家賃を滞納し続けたケースです。契約書に「3か月以上の家賃滞納があった場合、期限の利益を喪失する」という条項があれば、その時点で残りの賃貸期間すべての家賃を一括で請求できる状態になります。売買契約でも同様で、買主が代金の分割払いを約束していたのに支払いを怠った場合、残金全額の即時支払いを求めることが可能になります。
民法458条の3第1項では「主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から2箇月以内に、その旨を通知しなければならない」と定められています。この規定が適用されるのは保証人が個人である場合に限定されており、法人が保証人の場合には通知義務はありません。
法務省の保証に関する見直し資料では、保証人保護のための情報提供義務の詳細が説明されています
期限の利益喪失の通知を怠った場合の損害
債権者が2か月以内に通知義務を果たさなかった場合、期限の利益喪失時から実際に通知を行うまでの期間に発生した遅延損害金について、保証人に対して請求することができなくなります。これは債権者にとって大きな金銭的損失につながるリスクです。
具体的な金額で考えてみましょう。
賃貸借契約で月額家賃10万円、遅延損害金の利率が年14.6%だったケースを想定します。入居者が3か月滞納して期限の利益を喪失したとします。オーナーがこの事実を知ったのが1月1日だったとして、個人保証人への通知が5か月後の6月1日になってしまった場合を考えます。
期限の利益喪失時の滞納額は30万円(10万円×3か月)です。2か月以内の通知期限は3月1日でしたが、実際の通知は6月1日なので、3か月の遅れが生じています。この3か月間に発生する遅延損害金は約10,950円(30万円×14.6%×90日÷365日)となります。
この約1万円の遅延損害金は保証人に請求できなくなるということです。
さらに深刻なのは、滞納額が大きいケースです。不動産売買で残代金2,000万円を分割払いにしていた買主が支払いを停止し、期限の利益を喪失したとします。債権者が通知を6か月遅らせてしまった場合、2,000万円×14.6%×180日÷365日で約144万円の遅延損害金が請求不可能になります。
請求できない金額がこれほど大きくなります。
不動産業務では取引額が大きいため、通知遅延による損失も比例して膨らみます。特に連帯保証人付きの不動産売買契約や事業用賃貸借契約では、この通知義務を確実に履行するための社内フローの整備が不可欠です。期限の利益喪失を確認したら、速やかに保証人に書面で通知を発送する体制を構築しておく必要があります。
内容証明郵便を利用すれば、通知した事実と日時を客観的に証明できるため、後日のトラブル防止に有効です。
期限の利益喪失における保証人の種類と通知対象
保証人への通知義務が発生するのは、個人が保証人となっている場合のみです。法人保証人に対しては、この通知義務は適用されません。不動産取引では保証人の属性を正確に把握し、適切な対応を取る必要があります。
個人保証人には大きく分けて2つのパターンがあります。1つは主債務者から委託を受けて保証人になった場合、もう1つは委託を受けずに保証人になった場合です。期限の利益喪失の通知義務は、委託の有無にかかわらず、個人保証人すべてに適用されます。
連帯保証人も通常の保証人も区別なく対象です。
賃貸借契約では入居者の親族が個人で連帯保証人になるケースが多く見られます。
この場合は確実に通知義務の対象になります。
一方、家賃保証会社が連帯保証人になっている場合は、保証会社は法人なので通知義務の対象外です。ただし、家賃保証会社の代表者が個人として追加で保証している場合は、その代表者個人に対しては通知義務が発生するため注意が必要です。
不動産売買では、買主の親族や知人が個人で保証人になるケースと、買主が経営する会社が法人保証人になるケースがあります。前者は通知義務あり、後者は通知義務なしとなります。複数の保証人がいる場合、個人と法人が混在していることもあるため、保証人ごとに対応を分ける必要があります。
個人保証人にだけ通知すればOKです。
保証契約書を作成する段階で、保証人が個人か法人かを明記し、個人の場合は住所・氏名・連絡先を正確に記録しておくことが重要です。期限の利益喪失時に連絡先が不明では通知できないため、契約締結時に保証人の連絡先が変更になった場合の届出義務も契約書に盛り込んでおくと安心です。
期限の利益喪失の通知方法と実務上のポイント
通知は書面で行うことが実務上推奨されます。民法では通知方法について特に規定していませんが、後日「通知した・していない」のトラブルを避けるため、配達証明付き内容証明郵便で送付するのが最も確実です。
通知書に記載すべき内容は明確です。まず、主債務者が期限の利益を喪失した事実を具体的に記載します。「令和○年○月○日、賃借人である○○氏が賃料を3か月以上滞納したため、賃貸借契約第○条に基づき期限の利益を喪失しました」といった形で、喪失の日付と理由を特定します。
次に、現在の債務残高と内訳を記載します。元本、利息、既に発生している遅延損害金の額を明示することで、保証人が負担すべき債務の全体像を把握できるようにします。さらに、保証人として今後どのような対応が求められるのか、支払期限や支払方法についても明記します。
通知のタイミングが重要です。
債権者が期限の利益喪失の事実を知った時から2か月以内という期限は、主債務者から報告を受けた日でも、債権者自身が発見した日でも、いずれか早い方が起算点になります。不動産業者が管理を受託している場合、入居者の滞納を確認した時点で速やかにオーナーに報告し、オーナーから保証人への通知を促す必要があります。
実務では、期限の利益喪失の判断基準を契約書に明記しておくことが重要です。「賃料の支払いを2回以上怠ったとき」「売買代金の分割金を1回でも支払期日に支払わなかったとき」など、具体的な条件を定めておけば、喪失の事実と時点が明確になります。
あいまいな条項は避けましょう。
通知を発送したら、その控えと配達証明書を保管しておきます。万が一、保証人から「通知を受けていない」と主張された場合でも、配達証明があれば通知義務を果たしたことを証明できます。不動産取引では契約書類の保管期間が長期にわたるため、通知関連の書類も同様に適切に保管する体制を整えておくことが求められます。
期限の利益喪失と不動産業者の管理業務
不動産管理会社が賃貸物件の管理を受託している場合、オーナーに代わって家賃の集金や滞納者への督促を行います。この立場で期限の利益喪失と保証人への通知義務がどう関わるかを理解しておく必要があります。
管理会社はオーナーの代理人として業務を行いますが、法律上の債権者はあくまでオーナーです。したがって、期限の利益喪失の通知義務を負うのもオーナーということになります。しかし、実務上は管理会社がオーナーの指示に基づいて通知を代行するケースが多いでしょう。
この場合でも責任主体は明確にすべきです。
管理委託契約書の中で、期限の利益喪失時の対応について明記しておくことが望ましいです。「入居者が家賃を3か月以上滞納した場合、管理会社はオーナーに速やかに報告し、オーナーの指示に基づき保証人への通知を行う」といった条項を設けることで、責任分担が明確になります。
管理会社としては、入居者の滞納が期限の利益喪失事由に該当すると判断した時点で、即座にオーナーに報告する義務があります。報告が遅れると、オーナーが保証人への通知を期限内に行えなくなり、遅延損害金を請求できなくなるリスクが生じるからです。オーナーからクレームや損害賠償請求を受ける可能性もあります。
迅速な報告が信頼につながります。
不動産売買の仲介業者の場合も同様です。分割払いの売買契約を仲介した後、買主が支払いを滞らせているという情報を得たら、売主に対して速やかに伝える責任があります。仲介業者自身には通知義務はありませんが、取引の円滑な履行をサポートする立場として、売主が適切に対応できるよう情報提供することが求められます。
管理会社や仲介業者が保証人への通知を代行する場合は、オーナーまたは売主の名義で通知書を作成し、その控えを依頼者に渡しておくことが重要です。後日、通知の有無が争点になった際、誰がいつ通知したのかを証明できる記録が必要になるためです。
期限の利益喪失後の不動産取引における実務対応
期限の利益喪失が発生した後、債権者が取るべき対応は迅速かつ計画的でなければなりません。まず、喪失の事実を確認したら即座に保証人への通知準備を開始します。2か月という期限は意外に短く、社内手続きや書類作成に時間がかかると簡単に過ぎてしまいます。
保証人への通知と並行して、主債務者本人への督促も継続します。期限の利益を喪失したからといって主債務者の支払義務が消えるわけではなく、むしろ一括返済義務が発生しているため、より強く請求すべき状況です。主債務者と保証人の両方に働きかけることで、回収の可能性が高まります。
両面からの回収アプローチが基本です。
不動産取引では、期限の利益喪失後に法的手続きに移行するケースも少なくありません。賃貸借契約であれば明渡請求訴訟、売買契約であれば残代金請求訴訟や契約解除による原状回復請求などが考えられます。訴訟提起の前段階として、内容証明郵便による催告を行う際、保証人への期限の利益喪失通知も兼ねることができます。
ただし、単なる催告書では期限の利益喪失の事実が明確に伝わらない可能性があるため、「期限の利益喪失通知書」として独立した書面を作成するほうが確実です。催告書と喪失通知書を同時に発送することで、法的手続きの準備と通知義務の履行を同時に進められます。
訴訟になった場合、保証人にも訴訟参加を求めることができます。主債務者と保証人を共同被告として提訴することで、判決の効力が両者に及び、執行段階での手続きがスムーズになります。ただし、保証人が個人の場合は財産状況も考慮し、過度な負担を避けるための配慮も必要です。
実効性のある回収計画を立てましょう。
期限の利益喪失後に主債務者や保証人から分割払いの申し出があった場合、債権者としてどう対応するかも重要な判断です。一度喪失した期限の利益は、債権者が同意すれば再度付与することも可能です。現実的な返済計画が提示され、それが債権者にとっても受け入れ可能であれば、柔軟に対応することで最終的な回収額が増える可能性もあります。
ただし、期限の利益を再付与する場合は、その条件を明確にした合意書を作成し、再度の不履行があった場合の対応も定めておくべきです。「今後1回でも支払いが遅れた場合は、再度期限の利益を喪失し、即座に法的手続きに移行する」といった条項を盛り込むことで、債務者側の真剣な履行を促すことができます。
第二東京弁護士会の民法改正解説では、期限の利益喪失における実務上の留意点が詳しく説明されています

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