危険負担と売買契約と宅建と引渡しと特約

危険負担と売買契約と宅建

危険負担を最短で押さえる3点
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原則は「引渡しまで売主負担」

改正民法では危険負担が整理され、引渡し前に当事者双方の責めに帰せない滅失等が起きても、買主は代金支払を拒める方向で組み立てられています。

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条文で見ると「536条」「567条」

双務契約一般の反対給付の履行拒絶(536条)と、売買における危険の移転(567条)を分けて理解すると、宅建の肢の切り分けが速くなります。

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実務は「特約・保険・引渡し定義」で決まる

民法の原則より、契約書で危険の移転時期(引渡し、検査合格、残代金決済、登記など)をどう置くかがトラブルの勝敗を左右します。

危険負担の基本と改正民法の結論(債務者主義)

 

危険負担は、売買などの双務契約が成立した後に、当事者双方の責めに帰することができない事由で目的物が滅失・損傷し、引渡しが履行不能になったときに「リスクを誰が負うか」を決める考え方です。

改正後は、旧民法で問題になっていた「債権者主義(買主が危険を負う)」的な発想が後退し、特定物(不動産の典型)でも売主側がリスクを負う方向に統一された、と説明されることが多いです。

宅建の現場感で言い換えると、「契約したのに物が渡らないのなら、買主は少なくとも代金を払わなくてよい(払わされにくい)」が基本線になります。

ただし注意点として、改正民法は「代金債務が自動的に消滅する」と単純化せず、「反対給付の履行を拒むことができる」という形で規律しています(解除とセットで理解すると事故が減ります)。

参考)【民法改正(2020年4月施行)に対応】 危険負担とは?改正…

この“拒める”設計は、実務で「とりあえず支払拒絶で止血し、解除や精算を交渉する」という動きと相性がよく、宅建でも“拒める/拒めない”の言い回しが狙われます。

危険負担と売買契約の条文整理(536条・567条)

宅建で答案速度を上げるコツは、危険負担を「双務契約一般(民法536条)」と「売買の危険の移転(民法567条)」の2階建てで捉えることです。

民法536条は、当事者双方の責めに帰することができない事由で履行不能になったとき、債権者が反対給付の履行を拒むことができる、という骨格を置きます。

一方、民法567条は、売買の目的物を引き渡した後に当事者双方の責めに帰せない滅失・損傷が起きた場合、買主は追完請求・代金減額・損害賠償・解除ができない、かつ代金支払を拒めない、という「引渡し後は買主側で抱える」ルールを明文化しています。

この2つをつなぐと、試験でも実務でも見通しが良くなります。

  • 引渡し前:買主は代金の支払を止められる側(拒絶しやすい)​
  • 引渡し後:買主は代金の支払を止められない側(危険は買主に移ったと評価されやすい)​

ここでいう「引渡し」は、鍵の引渡し・占有移転・書類交付など、契約書で定義される“実務上の引渡し”とズレると揉めます。契約レビューの際は、引渡しの定義条項と危険負担条項を必ずセットで読みます。

危険負担で実務が揉める場面(引渡し前・滅失・損傷・履行不能)

不動産実務で典型的に揉めるのは「売買契約後〜決済・引渡し前」に、台風・地震・類焼・第三者放火などで建物が滅失・損傷したケースです。

この局面は、売主に帰責事由があるなら債務不履行(履行不能)として解除・損害賠償の話になり、帰責事由がないなら危険負担として“代金をどうするか”が前面に出ます。

改正後の考え方では、帰責事由がない滅失等でも、買主は反対給付(代金)の支払を拒める整理なので、旧来の感覚で「買主が払うのが原則」と覚えていると事故ります。

また、滅失(全部アウト)と損傷(一部ダメージ)を同じノリで処理すると交渉が崩れます。

  • 滅失:履行不能が中心テーマになりやすい(追完不可能)
  • 損傷:補修・代金減額・引渡し可否・保険金の扱いが中心テーマになりやすい

    この切り替えは、契約書の危険負担条項だけでなく、契約不適合責任や引渡し条項、保険条項の有無で結論が変わります。

    参考)https://www.ieuri.com/bible/sell-knowledge/24218/

さらに“意外に見落とされる”のが、「危険負担は民法の規定よりも契約書の規定が優先される」ため、条項次第で買主に不利な合意(実質的に債権者主義っぽい負担)へ戻り得る点です。

宅建業者の立場では、重要事項説明や契約書チェックの段階で「危険移転の基準時点」「保険金の帰属」「損傷時の精算方法」を明確にしないと、事故後に“どっちの責任でもないのに揉める”典型案件になります。

危険負担を回避する特約・保険の実務(引渡し・決済・登記)

危険負担は、理屈よりも「条項設計」でトラブルが決まります。実務では、危険の移転時期を民法どおり「引渡し時」とするか、買主の検査合格時・残代金決済時などにずらすかが交渉ポイントになります。

特に買主側で検査や現地確認のプロセスがある取引(法人買主、収益不動産、建物状況調査を入れる案件など)では、引渡し前後の事故を誰が負担するかを「検査合格=引渡し完了」と定義して危険移転を後ろ倒しする設計が紹介されています。

保険の扱いも“条項がないと揉める”ポイントです。引渡し前に売主が火災保険等を付保している場合、事故後に保険金が出ても「保険金は誰のものか」「復旧して引き渡すのか、解除して精算するのか」が未整理だと交渉が長期化します。

よくある落とし穴は、

  • 「保険金で直すから引渡す」と売主が言い、買主は「直るまで払わない」と言う
  • 損傷の程度が微妙で、引渡し可能か履行不能かの評価が割れる

    といったケースで、危険負担・同時履行・解除・精算が同時に動き出すことです。

そのため、売買契約の危険負担条項では次のような“決め”を入れるほど、事故対応が早くなります。

  • 引渡しの定義(鍵、占有、書類、検査合格、残代金決済など)
  • 引渡し前の滅失・損傷時の協議期限(何日以内に解除か復旧か決める等)
  • 損傷時の費用負担(売主の復旧、代金減額、保険金充当の優先順位)
  • 保険金の帰属と請求手続(保険会社への連絡主体、必要書類の協力義務)

    こうした条項レビューの観点は、危険負担条項の見直しポイントとして整理されています。

危険負担を武器にする独自視点:説明責任と「引渡し定義」の監査

検索上位の解説は「危険負担=誰が払うか」で止まりがちですが、現場で刺さるのは“引渡しの定義が監査ポイントになる”という視点です。

改正民法では危険の移転時期が「引渡し時」と明文化された整理が語られるため、契約書上の「引渡し完了」定義が曖昧だと、事故後に“引渡し済み/未了”の主張が割れて、危険負担の結論がひっくり返り得ます。

そこで不動産会社側は、重要事項説明で危険負担条項を読むだけでなく、「引渡し」条項(鍵の交付、現況有姿、検査、境界確認、付帯設備表、書類一式の交付など)をセットで点検し、社内チェックリスト化しておくと再発防止に効きます。

加えて、引渡し前の事故は“法務”だけでなく“顧客対応”の品質も問われます。事故連絡の初動が遅れると、買主は「隠していたのでは」と疑い、結果的に解除・損害・風評へ発展します。

危険負担の説明は難解になりやすいので、説明時は次のように図式化すると伝わりやすく、クレームも減ります。

  • 引渡し前:物が渡らないなら、原則として代金は止められる(解除や精算は別途)​
  • 引渡し後:買主の管理領域なので、原則として代金は止められない​

参考:危険負担の基本概念と民法改正(債権者主義の廃止、536条・567条、危険移転時期)の実務的整理

契約ウォッチ|民法改正(2020年4月施行)に対応:危険負担の改正ポイントと条項レビュー

危険負担 (叢書民法総合判例研究)