寄与分の計算と介護による相続への影響
介護を10年続けても、遺産分割で何も報われないケースが実は7割以上あります。
寄与分とは何か:介護と相続の基本的な関係
寄与分とは、被相続人(亡くなった方)の財産の維持または増加に特別な貢献をした相続人に対して、その貢献分を遺産分割の際に上乗せして認める制度です。民法904条の2に定められており、介護・療養看護はその代表的な類型のひとつです。
不動産業の実務では、相続に絡む物件売却や名義変更の相談を受ける場面が多くあります。そのとき、依頼者から「自分が親の介護をしていたのに、何も評価されない」という声を聞くことは珍しくありません。寄与分の仕組みを理解しておくことは、業務の信頼性を高める重要な知識です。
寄与分が認められる介護の類型には、大きく分けて以下のものがあります。
- 🏥 療養看護型:病気や老齢の親を継続的に介護・看護した場合
- 💼 家業従事型:家業(農業・商売など)に無償または低報酬で貢献した場合
- 💰 財産給付型:被相続人に対して金銭的な援助を行った場合
- 🏠 財産管理型:被相続人の不動産や資産を管理・維持した場合
介護による寄与分が認められるには、単に「面倒を見ていた」だけでは不十分です。「特別の貢献」であることが条件です。
家族として通常期待される程度の援助(たまに食事を持っていく、週1回様子を見にいくなど)は、寄与分として認められません。これが多くの相続争いの火種になっています。
寄与分の計算方法:介護期間と日当額から算出するプロセス
介護による寄与分の計算は、感情論ではなく数字に基づきます。計算が原則です。
最もよく使われる計算式は次の通りです。
寄与分 = 介護の日当額 × 介護日数 × 裁量的割合
「介護の日当額」は、プロの介護士に依頼した場合の費用相当額を基準にします。厚生労働省が定める介護報酬の単価が参考にされることが多く、1日あたりおおむね8,000円〜15,000円の範囲で設定されることが一般的です。
たとえば、1日あたり1万円、介護期間が5年間(1,825日)、裁量的割合を0.7とした場合の計算は次のようになります。
10,000円 × 1,825日 × 0.7 = 12,775,000円
約1,277万円が寄与分として主張できる計算です。これは東京都内の中古マンション1室の価格に相当する水準であり、遺産分割に与える影響は非常に大きいです。
ただし、「裁量的割合」は家庭裁判所の審判官が個別事情を考慮して決定するもので、0.5〜0.8程度が多いとされています。介護の負担度・継続性・専従性などが評価基準になります。
- 📅 介護期間:開始日と終了日の記録が必須(入院記録・介護日誌など)
- 🕐 介護時間:1日あたりの関与時間が専従性の判断に使われる
- 📝 介護内容:入浴・食事・排泄介助など具体的な内容が評価される
- 💡 代替コスト:ヘルパーや施設に依頼した場合の費用相当額
計算の根拠となるデータが揃っているかどうかが、寄与分を認められるかの分岐点です。
寄与分の認定に必要な証拠:介護記録の集め方と実務的注意点
証拠がなければ、どれだけ長く介護しても寄与分はゼロになりえます。厳しいところですね。
家庭裁判所の調停や審判で寄与分を認めてもらうには、客観的な証拠の提出が求められます。主観的な申し立てや「自分が一番面倒を見ていた」という主張だけでは、ほぼ通りません。
有効な証拠として認められやすいものを以下に挙げます。
- 🗓️ 介護日誌・記録ノート:日付・内容・時間を具体的に記した手書きメモでもOK
- 🏥 医療・介護機関の記録:病院の診察記録、ヘルパー事業所の訪問記録など
- 📸 写真・動画:介護の実態が分かるもの(日付入りが望ましい)
- 💳 領収書・家計簿:介護用品・医療費の支出記録
- 👥 第三者の証言:ケアマネージャー、近隣住民、主治医の陳述書
特に効果的なのが、介護保険の「ケアプラン」や「サービス提供記録」です。ケアマネージャーが作成するこれらの書類には、家族の関与度が客観的に記録されていることがあります。
不動産業者として相続物件の相談を受けた際、依頼者がこれらの記録を持っていない場合は、専門家(弁護士・司法書士)への相談を早めに勧めることが重要です。証拠の収集には時間制限がある場合もあります。
特別寄与料との違い:2019年民法改正で広がった請求権の範囲
2019年7月の民法改正により、相続人でない人でも介護の貢献を金銭で請求できるようになりました。これは使えそうです。
改正前は、寄与分を主張できるのは「相続人」に限られていました。そのため、長男の嫁が何年も義親の介護をしても、相続財産から何も受け取れないという不公平な状況が続いていました。
「特別寄与料」制度の新設によって変わったことは以下の通りです。
- 👰 請求できる人:相続人以外の被相続人の親族(6親等内の血族、3親等内の姻族)
- 💬 請求方法:まず相続人全員と協議、まとまらなければ家庭裁判所に申立て
- ⏰ 請求期限:相続開始を知った日から6か月以内、または相続開始から1年以内
- 💴 請求内容:金銭のみ(寄与分のように遺産そのものの取り分増加ではない)
期限は厳格です。6か月という期間は、相続開始(死亡)を知った日からカウントされます。不動産の相続手続きを依頼してきた顧客が「特別寄与料」の対象になりうると気づいた場合、この期限を見逃さないよう注意喚起できることが、不動産業者としての付加価値になります。
なお、特別寄与料として認められる金額は、寄与分と同様に「療養看護の日当額×日数×裁量割合」で算出されます。つまり計算の考え方は同じです。
参考:特別寄与料制度の詳細(法務省)
不動産評価と寄与分計算の交差点:実務で見落とされがちな注意点
遺産に不動産が含まれる場合、評価額の算定方法によって寄与分の「実質的な価値」が大きく変わります。意外ですね。
寄与分の金額は遺産総額から算出されます。たとえば遺産総額が5,000万円で寄与分が1,000万円なら、「みなし相続財産」は4,000万円(5,000万円 − 1,000万円)となり、この4,000万円を他の相続人で按分します。
不動産評価の方法には主に3種類あり、どれを採用するかで総額が変わります。
たとえば、同じ不動産でも路線価なら3,000万円、時価なら4,200万円と評価される場合があります。どちらで計算するかによって、寄与分の主張額が数百万円単位で変わる可能性があります。
遺産分割協議では、不動産の評価方法について合意が得られないことがあります。その場合、不動産鑑定士への依頼が有効な解決策になります。不動産業者としては、鑑定士との連携体制を整えておくことで、相続案件での信頼度が格段に上がります。
また、評価時点についても注意が必要です。相続開始時点(死亡日)の評価額を基準とするのが原則であり、遺産分割協議が長引いた場合でも、評価時点は遡及されることが多いです。評価時点が原則です。
寄与分をめぐる相続争い:不動産業者が知っておくべき調停・審判の流れ
寄与分について相続人間で合意できない場合、家庭裁判所による解決手続きに移行します。その流れを把握しておくことは、依頼者のサポートに直結します。
手続きの流れは次の順序です。
- 遺産分割協議(当事者間):まず相続人全員での話し合いが前提
- 家庭裁判所への調停申立て:協議がまとまらない場合、調停委員が間に入る
- 審判移行:調停でも解決しない場合、裁判官が審判を下す
- 即時抗告(不服申立て):審判に不服がある場合、高等裁判所へ申立て可能
調停・審判の平均期間は、1年〜2年以上かかることも珍しくありません。その間、不動産の名義変更や売却は原則として凍結状態になります。
これが実務上の大きな問題点です。相続物件の売却を急ぐ依頼者にとって、寄与分争いは「時間とお金の損失」に直結します。
早期解決のために、不動産業者として以下のアドバイスができます。
- ⚡ 弁護士や司法書士への早期相談を勧める:証拠収集や協議の進め方でプロのサポートが有効
- 📋 不動産評価を早めに取得させる:評価額の共有が協議の土台になる
- 🤝 調停外での合意形成を支援する:感情的対立を早めに和らげることが大切
不動産売却の依頼を受けた段階で相続登記が未完了であれば、寄与分問題が潜在している可能性を疑うことも重要です。結論は「早期介入が損失を防ぐ」です。
参考:家庭裁判所の遺産分割調停の手続き(裁判所公式)
参考:相続における寄与分の考え方(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4158.htm

遺産分割における「介護」の取扱い-寄与分・特別寄与料・使途不明金・介護負担の不履行等-
