個人根保証の極度額を正しく設定し契約書を守る方法

個人根保証の極度額が契約の有効性を左右する

極度額を書面に記載しなければ、保証契約そのものが無効になります。

この記事の3つのポイント
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極度額の書面記載は必須

2020年改正民法により、個人根保証契約で極度額を書面に明示しない場合、その保証契約は無効となります。口頭での合意は一切認められません。

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極度額の金額設定に法定上限なし

法律上は極度額の上限金額は規定されていませんが、賃貸借契約では家賃の24〜36か月分が実務上の目安として定着しています。

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保証人が個人か法人かで適用が異なる

極度額規制は「個人」が保証人となる場合にのみ適用されます。法人保証・連帯保証人が法人である場合は、この規制の対象外となります。

個人根保証契約と極度額の基本的な意味

「根保証」という言葉は、日常業務でも意外と混乱を招きやすい用語です。通常の保証契約は特定の1つの債務を対象としますが、根保証とは「一定の範囲に属する不特定の債務」をまとめて保証する契約のことを指します。賃貸借契約における連帯保証がその代表例で、入居期間中に発生する賃料不払い・原状回復費用・違約金などを包括的にカバーする形になっています。

根保証が問題になるのは、保証人の責任範囲が契約時点では確定していない点にあります。つまり、保証人は将来どれだけの金額を背負うことになるか、契約時にはわからないまま署名させられる構造です。これが「無限責任」に近い状態を生むとして、社会問題になっていました。

そこで2020年(令和2年)4月施行の改正民法(民法第465条の2)により、個人が保証人となる根保証契約では「極度額」の書面明示が義務化されました。極度額とは保証人が負う最大限度の金額のことです。

極度額が明示されていないと無効です。

具体的には、「この保証人は最大〇〇円までしか責任を負わない」という上限を契約書に明確に記載しなければなりません。これにより保証人は自分のリスクを事前に把握でき、過大な負担を防ぐことができます。宅建業務においては賃貸借契約書の作成時に、この極度額の記載を確認することが実務上の最重要チェックポイントの一つです。

参考:e-Gov法令検索「民法(第465条の2:個人根保証契約の保証人の責任等)」

上記リンクでは、極度額義務付けに関する民法の条文原文を直接確認できます。法的根拠を押さえておくと、お客様や契約相手への説明時に説得力が増します。

個人根保証の極度額の設定相場と具体的な金額の考え方

実務上、最も多く聞かれる疑問が「極度額はいくらに設定すればいいのか?」という点です。法律上は金額の上限規定がないため、貸主側が自由に設定できます。ただし、現実には相場観があります。

国土交通省が2020年に示したガイドラインでは、「賃料の2年分(24か月分)」を一つの目安として提示しています。たとえば月額賃料が8万円の物件であれば、極度額は8万円×24か月=192万円が目安の水準です。ただし、これはあくまで目安であり、法的拘束力はありません。

実務では24か月分〜36か月分の範囲で設定するケースが多いです。

なぜ24か月分が目安になるかというと、賃料の滞納が長期化した場合に想定される損害の実態に基づいているためです。賃料12か月分の滞納+原状回復費用+違約金などを合算すると、概ね24か月分前後に収まることが多いとされています。36か月分に設定するケースは、建物の損傷リスクが高い物件や、敷金なしの物件などで余裕を持たせるために選ばれます。

一方で、極度額を高く設定しすぎると保証人候補者が断るリスクがあります。保証人にとって極度額は「最悪の場合にこれだけ払わされる」という数字ですから、現実離れした高額設定は心理的負担を与え、契約締結の妨げになることがあります。貸主の保護と保証人のなり手確保のバランスを取ることが、宅建業者として大切な視点です。

月額賃料 24か月分(最低目安) 36か月分(余裕目安)
6万円 144万円 216万円
8万円 192万円 288万円
10万円 240万円 360万円
15万円 360万円 540万円

賃料に応じた極度額の目安として上表を参考にしてください。契約書作成前に物件の賃料条件と照らし合わせて確認しておくと、後のトラブル防止につながります。

参考:国土交通省「賃貸住宅標準契約書(連帯保証人型)の改訂について」

こちらのリンクでは、国土交通省が提示する賃貸住宅標準契約書における極度額の取り扱い方針を確認できます。実際の契約書作成の参考資料として有用です。

個人根保証の極度額が無効になるケースと宅建業者が注意すべき落とし穴

極度額の設定ミスや記載漏れは、保証契約全体を無効にします。これは宅建業者にとって見過ごせないリスクです。具体的にどのような場合に無効となるのか、実務上の落とし穴を整理しておきましょう。

まず最も多いのが「極度額の記載がない」ケースです。契約書に「連帯保証人として一切の債務を保証する」とだけ記載して極度額の金額がない場合、その個人根保証契約は民法第465条の2第2項により無効となります。無効になると、貸主は保証人に対して一切の請求ができなくなります。痛いですね。

次に多い問題が「口頭での極度額の合意」です。「100万円までなら保証しますよ」と口頭で合意したとしても、書面に記載されていなければ法的効力はありません。書面主義は絶対です。

また注意が必要なのが「極度額の記載があいまいな場合」です。「賃料数か月分」「相当額」「別途協議の金額」といった表現では具体的な金額を確定できないため、法的に有効な極度額の記載とは認められない可能性があります。必ず「金〇〇〇万円」というように具体的な数字で記載することが必要です。

さらに「法人が保証人の場合は極度額が不要」という点も、誤解から問題が生じることがあります。たとえば保証会社(法人)が保証人となる場合には極度額の規制が適用されませんが、個人が1人でも保証人に含まれる場合は規制対象です。個人と法人が連名で保証人になるケースでは、個人分については極度額の記載が必要になります。

  • 📌 極度額の記載なし → 保証契約が無効(請求不可)
  • 📌 口頭での合意のみ → 書面がなければ効力なし
  • 📌 「相当額」などのあいまい表記 → 具体的な金額が必要
  • 📌 個人・法人の混在 → 個人分には極度額記載が必要

これらの確認は、契約書の最終チェックリストに組み込むのが最も確実な方法です。自社のチェックリストを見直し、「極度額の金額・書面記載の確認」を独立した項目として設けておきましょう。

個人根保証の極度額と改正民法が賃貸実務に与えた変化(宅建業者の独自視点)

2020年の改正民法施行以降、賃貸実務の現場では保証人候補者の確保が以前より難しくなったという声が増えています。これは一見デメリットのように見えますが、構造を整理すると宅建業者にとって新たな営業機会にもなっています。

改正前は保証人の責任に上限がなかったため、「保証人になれば何でも全部払う」という無限責任に近い状態でした。改正後は極度額という上限が明示されるため、保証人候補者にとっては「最大でもこの金額までしか払わなくていい」という安心感が生まれました。つまり極度額の明示は保証人にとってメリットです。

しかし一方で、極度額が明示されることで「これだけのリスクを背負うのか」と現実を認識し、保証を断るケースも増えています。従来は漠然とした連帯保証に署名していたところが、明確な金額(たとえば240万円など)を見ることで躊躇する人が増えているのです。

この流れを受けて、家賃債務保証会社(保証業者)の利用が急速に普及しました。一般社団法人全国賃貸保証業協会(LICC)の調査によると、2023年度の保証会社利用率は全国平均で約80%に達しているとされています。個人保証人が不要になる代わりに保証会社が保証人となる仕組みは、貸主・借主・宅建業者の三者にとって実務上のリスクを大幅に軽減しています。

保証会社の利用が原則です。

宅建業者としては、個人根保証のトラブルリスクを避けるために、保証会社を活用したスキームを入居申込の段階から提案できると、後々のトラブル対応コストを減らすことができます。なお保証会社を利用する場合でも、個人を連帯保証人として追加する際には極度額の記載が依然として必要です。この点は見落とされやすいので注意が必要です。

参考:一般社団法人全国賃貸保証業協会(LICC)公式サイト

LICCのサイトでは、加盟保証会社の一覧や保証制度の概要を確認できます。保証会社選定の際の参考資料として活用できます。

個人根保証の極度額に関する宅建業者の実務チェックリストと対応手順

実務でミスを防ぐためには、チェックリストの標準化が最も効果的です。以下に、宅建業務の現場で使えるチェック項目をまとめました。

まず契約書作成の段階では、保証人が個人か法人かを確認することが最初のステップです。個人であれば必ず極度額の記載が必要であり、金額は具体的な数字(〇〇〇万円)で記載します。賃料の24〜36か月分を基準にしながら、物件のリスク特性に応じて調整します。

次に、記名・捺印の確認段階で保証人本人に極度額の説明を行うことが重要です。「最大でこの金額までが保証の限度です」という点を口頭でも伝え、保証人の理解を得た上で署名させることが、後のトラブル防止につながります。説明と同意の記録を書面に残しておくとより安全です。

また、契約更新時にも注意が必要です。賃貸借契約を更新する際、保証契約の内容(特に極度額)を見直すことを忘れないようにしましょう。賃料が改定された場合には極度額の基準も変わる可能性があります。更新時には保証人への再同意を取ることがリスク管理として有効です。

  • ✅ 保証人が個人か法人かを確認する
  • ✅ 個人保証人の場合は極度額を具体的な金額で記載する
  • ✅ 極度額の金額を賃料の24〜36か月分を基準に設定する
  • ✅ 保証人への極度額の説明と理解確認を行う
  • ✅ 個人・法人混在の場合は個人分の極度額を忘れずに記載する
  • ✅ 契約新時に極度額の見直しを検討する
  • ✅ 保証会社利用時も個人追加保証人がいれば極度額記載を確認する

これらが原則です。

日常業務の中では、書類チェックのルーティン化が最も確実な対策です。自社の契約書テンプレートを今一度見直し、極度額の記載欄が設けられているかどうかを確認してください。もし古いテンプレートを使い続けている場合は、改正民法に対応したものへの更新が必要です。

国土交通省が公開している「賃貸住宅標準契約書」は改正民法対応済みのひな形として活用でき、極度額の記載欄も設けられています。ひな形を参考に自社テンプレートを整備することを検討してみてください。

参考:国土交通省「賃貸住宅標準契約書について」

こちらのページでは、国土交通省が公開している賃貸住宅標準契約書のひな形(連帯保証人型・保証会社型)をダウンロードできます。極度額の記載方法の参考として、すぐに実務に活かせます。