共同抵当と法定地上権の成立・不成立を正しく理解する

共同抵当と法定地上権の成立・不成立を正しく判断する

共同抵当と法定地上権:3つのポイント
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原則:建物再築で法定地上権は成立しない

土地・建物に共同抵当権を設定後、建物が取り壊されて再築された場合、原則として新建物に法定地上権は成立しない(最判平9.2.14)。

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例外:同順位の共同抵当があれば成立する

新建物が建築された時点で、土地の抵当権者が新建物にも土地と同順位の共同抵当権の設定を受けた場合には、例外的に法定地上権が成立する。

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法定地上権が成立すると土地価値が30〜50%下落

法定地上権が成立した土地は更地価格の30〜50%程度まで価値が下落する。競売評価・担保評価において成否判断は投資の明暗を分ける重大要素。

共同抵当における法定地上権の基本的な成立要件

 

土地と建物に共同抵当権が設定される場面は、不動産融資の現場で日常的に発生します。しかし「共同抵当がある=法定地上権が成立しない」と一律に考えている担当者は、将来大きなリスクを見逃すことになります。

法定地上権の成立には、民法388条が定める4つの要件をすべて満たす必要があります。要件を整理すると次のとおりです。

参考)民法 第388条【法定地上権】

  • ① 抵当権設定時に土地の上に建物が存在していること
  • ② 抵当権設定時に土地と建物の所有者同一人物であること
  • ③ 土地または建物(もしくは両方)に抵当権が設定されていること
  • ④ 競売により土地と建物の所有者が別々になること

4つすべてが揃ったとき、はじめて法定地上権は発生します。 一つでも欠けると成立しません。

共同抵当(土地と建物の両方に設定)は要件③を満たすことになりますが、それだけでは不十分です。残りの要件の有無を必ず確認することが原則です。なぜそれが重要かは、次のH3で詳しく見ていきます。

e-Gov法令検索|民法第388条(法定地上権)の条文全文

共同抵当設定後に建物を再築した場合の法定地上権の成否

共同抵当設定後に旧建物を取り壊して新建物を再築した。この場面で「新建物にも法定地上権が成立する」と判断した場合、その判断は高確率で間違いです。

最高裁判所は平成9年2月14日の判決で、この点について明確な基準を示しました。

参考)【土地・建物への共同抵当権設定後の建物再築と法定地上権の成否…

原則:新建物に法定地上権は成立しない

土地・建物への共同抵当権設定後に建物が取り壊され、新建物が建築された場合、特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しません(最判平9.2.14)。

参考)https://ameblo.jp/micrayh8856/entry-12879688029.html

その理由は「全体価値考慮説」にあります。共同抵当権を設定した抵当権者は、土地と建物の全体の担保価値を把握しています。建物が取り壊された場合には、「更地としての担保価値を確保したい」という抵当権者の合理的意思を尊重したものです。

仮に新建物に法定地上権の成立を認めてしまうと、抵当権者が当初見込んでいた担保価値から、法定地上権相当額だけ価値が減少することになります。これは不測の損害です。痛いですね。

例外:同順位の共同抵当権があれば成立する

ただし、次の「特段の事情」が揃えば、例外的に法定地上権が成立します。

  • 新建物の所有者と土地の所有者が同一であること
  • 新建物の建築時点で、土地の抵当権者が新建物にも土地と同順位の共同抵当権の設定を受けたこと

この例外が認められる理由は明快です。新建物にも同順位の抵当権が設定されていれば、抵当権者の担保価値は再構築されているからです。担保が確保されているなら問題ありません。

みずほ中央法律事務所|土地・建物への共同抵当権設定後の建物再築と法定地上権の詳細解説

共同抵当と法定地上権の関係における例外パターンと判例整理

実務では「原則」だけ押さえれば十分、と考えがちです。しかし例外が複数存在し、それを見落とすと対応を誤ります。

🔑 例外①:同順位の新規共同抵当権設定がある場合

前述のとおり(最判平9.2.14)、再築建物について土地と同順位の抵当権設定を受けた場合は法定地上権が成立します。これが原則です。

ただし注意点があります。「同順位の抵当権設定を受けた」としても、その抵当権より優先する租税債権などが存在する場合は、実質的には1番抵当ではありません。

東京地判平成8年6月11日は、租税債権によって抵当権者に不利益が生じる抽象的可能性がある限り、法定地上権の成立を否定すると判断しました。つまり形式的に「同順位」でも、実質的な優先順位が担保されていなければ例外に当たりません。

🔑 例外②:土地が単独所有・建物が共有のケース

Aが単独で所有する土地の上に、AとBの共有建物がある。AがAの土地に抵当権を設定した。この場合、法定地上権は成立します(最判昭和46年12月21日・民集25巻9号1610頁)。

参考)法定地上権の成立要件とは?競売物件の重要リスクを完全解説

建物共有者でもあるAが土地に抵当権を設定した以上、建物全体(Bの持分を含む)のために土地利用を容認していたとみなされるためです。

🔑 原則の確認:土地が共有・建物が単独所有のケース

A・B・Cで共有する土地の上に、Aが単独で所有する建物がある。土地共有者全員が共同で土地に抵当権を設定した場合は、原則として法定地上権は成立しません(最判平成6年12月20日・民集48巻8号1470頁)。

他の土地共有者(BやC)が法定地上権の発生を「容認していた」と客観的に認められる特段の事情がない限り、成立しないという考え方です。成立するかどうかは個別判断が条件です。

ケース 法定地上権の成否 根拠判例
共同抵当後・建物再築(原則) ❌ 成立しない 最判平9.2.14
共同抵当後・再築建物に同順位の抵当権設定あり ✅ 成立する 最判平9.2.14(例外)
土地単独所有・建物共有(土地所有者が建物共有者) ✅ 成立する 最判昭46.12.21
土地共有・建物単独(建物所有者が土地共有者の一人) ❌ 原則不成立 最判平6.12.20

法定地上権が成立した場合の担保価値・競売評価への影響

法定地上権の成否は、価格評価に直結します。これが実務で最も重要なポイントです。

法定地上権が成立すると、土地の価値は更地価格の30〜50%程度まで下落します(裁判所BIT不動産競売物件情報サイト)。

東京ドームの建設地として知られる後楽園エリアの更地1坪が仮に300万円だとすれば、法定地上権が成立した土地は1坪90〜150万円程度の評価になる計算です。これは非常に大きな差です。

なぜ価値が下落するのか。建物所有者に対して「土地を使用する権利(法定地上権)」が存続するため、土地の自由な利用・処分が大きく制限されるからです。競落人は建物収去や明渡しを請求できません。

地代についても注意が必要です。当事者間で合意できない場合は、裁判所が地代を定めます。裁判例では、固定資産税の3〜4倍程度が多く見られます。 しかし個別事情によって変動するため、「3〜4倍で確定」と思い込むのは禁物です。

競売参加時のチェックリスト

  • 📋 登記簿で抵当権設定日と建物の建築時期を照合する
  • 📋 抵当権設定時の土地・建物の所有者が同一か確認する
  • 📋 土地・建物に共有持分がないか確認する
  • 📋 仮差押えなど先行処分の有無を過去の登記まで遡って確認する
  • 📋 建物再築の有無と再築時の担保設定状況を確認する

これらを怠ると、落札後に「建物を撤去できない」「想定外の地代収入しか見込めない」という事態に直面します。担保評価業務での見落としは、金融機関との信頼関係にも直接響くリスクです。

裁判所BIT不動産競売物件情報サイト|法定地上権価格の算定方法について

不動産実務家が見落としやすい「独自視点」:法定地上権は共同抵当設定で完全には回避できない

「共同抵当を設定しておけば法定地上権リスクはない」。この考え方は現場で広く浸透していますが、実は完全には正しくありません。

共同抵当権の設定は、法定地上権の成立を「回避する目的で使われる」ことが確かにあります。 土地と建物を同時に競売にかけ、同一人が落札すれば所有者が分離しないため、法定地上権が問題になりません。理論上はそのとおりです。

参考)共同担保目録とは?日本一わかりやすく解説します

しかし、すべてのシナリオで回避できるわけではありません。

⚠️ 回避できないケース①:建物が再築された後に同順位の担保設定が行われなかった場合

元の建物が取り壊されて再築されても、新建物に同順位の共同抵当が設定されていなければ、法定地上権は原則不成立です。これは抵当権者に有利な結論ですが、問題は「土地だけが競売にかかるシナリオ」です。土地抵当権者が土地のみの競売を申し立てた場合、建物に抵当権がなければ建物は売れ残ります。建物所有者に別の法的根拠がなければ、結果的に撤去請求が来ます。

⚠️ 回避できないケース②:強制競売・公売のケース

法定地上権は、任意競売だけでなく強制競売(民事執行法81条)や国税滞納による公売(国税徴収法127条)でも成立します。 担保設定の際に共同抵当を組んでいても、税金滞納で公売になれば、土地と建物が別々に落札される事態は起こりえます。共同抵当が机上のリスク管理にとどまるケースがある、ということです。

⚠️ 回避できないケース③:後順位抵当権者が建物のみに設定を受けているケース

土地に先順位の抵当権が設定されている状態で、後から建物だけに抵当権が設定された場合、後順位の建物抵当権者が競売を申し立てれば、先順位の土地抵当権者とは別に、建物のみが競売にかかります。この場合、先順位抵当権の設定時点での要件を基準に法定地上権の成否が判断されます。

これは担保評価の段階から「後순位設定の可能性」まで視野に入れないと見落とすリスクがある点です。

結論はシンプルです。共同抵当は有効な手段ですが、万能ではありません。 建物の再築・共有・強制競売など複合的な事情が絡んだ場合は、必ず専門家への相談を経て個別判断することが、実務上の標準対応といえます。

みずほ中央法律事務所|共有と法定地上権の成否(全体像と共有者全員による抵当権設定)

【 共同抵当の理論と実務