求償権の時効起算点
代位弁済日を起算点と思うと5年分の回収を失います
求償権の時効起算点は免責行為をした日の翌日
求償権の時効起算点は、保証人や連帯保証人が代わりに弁済した日の翌日からスタートします。民法166条1項の規定により、消滅時効は「権利を行使することができる時から進行する」とされており、求償権の場合、この権利を行使できる時は免責行為をした時点です。
つまり、代位弁済日の翌日が起算点です。
不動産賃貸で家賃保証会社が滞納家賃を代位弁済した場合、その代位弁済日の翌日から時効期間が進行します。例えば、2020年4月1日に保証会社が貸主に代わって滞納家賃50万円を支払った場合、2020年4月2日から時効期間がカウントされ、2020年4月以降に発生した求償権であれば2025年4月2日に時効が完成することになります。
ここで重要なのは、最初の債権者への最終取引日ではなく、代位弁済があった日が起算点になるという点です。債務者が銀行に最後に返済したのが2015年だったとしても、保証会社が2020年に代位弁済すれば、求償権の時効は2020年から進行します。代位弁済により新たな債権が発生しているためです。
不動産業の実務では、賃貸物件の連帯保証人や家賃保証会社との取引で求償権が発生するケースが頻繁にあります。退去後の原状回復費用や滞納家賃を連帯保証人が支払った場合、その支払日の翌日から時効がスタートします。連帯保証人から「いつまで請求できますか」と相談を受けた際は、この起算点をもとに時効完成日を計算することが必要です。
鹿児島大学の法学論集「求償債権等の消滅時効の起算点」では、保証人の求償権の時効起算点について詳細な判例分析が掲載されています。
求償権の時効期間は5年が基本だが例外あり
2020年4月の民法改正により、求償権の時効期間は原則として5年になりました。改正民法166条1項により、債権者が権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年のいずれか早い方で時効が完成します。求償権の場合、代位弁済した時点で権利を行使できることを知っているため、実質的には5年が基本です。
ただし、2020年3月31日以前に発生した求償権については、改正前の民法が適用されます。改正前は一般の債権について10年の時効期間が適用されていたため、それ以前の求償権は10年で時効となります。不動産業で過去の滞納案件を扱う際は、発生時期によって時効期間が異なることを認識しておく必要があります。
商事債権に該当する場合は5年の時効期間が適用されます。商法522条により、商行為によって生じた債権は5年間行使しないときは時効により消滅します。例えば、事業者である賃借人の委託を受けて保証した場合の求償権は商事債権となり、改正前でも5年で時効となります。
信用保証協会の求償権は例外的に10年です。最高裁昭和60年2月12日判決により、信用保証協会は商人ではないとされているため、通常の債権と同様に10年の時効期間が適用されます。ただし、商人である主債務者の委託に基づいて保証した場合は、求償権が商事債権となり5年の時効期間になります。これは最高裁昭和42年10月6日判決で示された判例です。
つまり、保証協会が個人事業主などの商人から委託を受けて保証した場合は5年、商人ではない一般個人の委託に基づく場合は10年です。不動産賃貸では事業用物件と居住用物件で扱いが異なるため、契約内容を確認することが重要です。
求償権の時効起算点で注意すべき事前求償権の扱い
事前求償権とは、保証人が実際に代位弁済する前に主債務者に請求できる権利です。民法460条により、委託を受けた保証人は一定の要件のもとで、弁済前でも主債務者に対して求償権を行使できます。具体的には、主債務者が破産手続開始決定を受けたとき、担保を滅失・減少させたとき、債務の弁済期が到来したときなどです。
ここで実務上よく混乱するのが、事前求償権を取得した場合の時効起算点です。事前求償権を取得した時点から時効が進行すると考えがちですが、判例では異なる見解が示されています。最高裁の判断では、事前求償権を取得した場合であっても、事後求償権の消滅時効の起算点は実際に免責行為をした時とされています。
つまり、保証人が事前求償権の要件を満たして請求権を取得したとしても、実際に代位弁済するまでは時効は進行しないということです。これは事前求償権と事後求償権が法的性質の異なる別個の権利であることに由来します。事前求償権は将来発生する損害に備えた担保取得のための権利であり、実際の損害填補を求める事後求償権とは異なります。
不動産賃貸の連帯保証人が「主債務者が破産したので今すぐ請求したい」と相談してきた場合、事前求償は可能ですが、時効の起算点は実際に代位弁済した日からとなります。事前に請求したからといって時効が早く進行するわけではありません。この点を理解していないと、時効管理で重大なミスを犯す可能性があります。
事前求償権を被保全債権とする仮差押えは、事後求償権の消滅時効をも中断する効力を有するとされています。最高裁平成26年12月18日判決では、事前求償権を保全するための仮差押えが事後求償権の時効中断効を持つことが認められました。これにより、保証人は代位弁済前に仮差押えをしておくことで、将来の求償権の時効を有利に管理できます。
国立国会図書館デジタルコレクション「事前求償権と消滅時効」には、事前求償権と事後求償権の関係について詳細な法律論が展開されています。
求償権の時効完成を阻止する方法と起算点への影響
求償権の時効完成を阻止するには、時効の更新(旧法の中断)または完成猶予の措置を取る必要があります。時効の更新とは、時効期間をゼロにリセットして再スタートさせることです。完成猶予とは、一定期間時効の完成を先延ばしにすることです。
裁判上の請求により時効は更新されます。保証人が債務者に対して求償金の支払いを求める訴訟を提起した場合、裁判が確定するまで時効の完成が猶予され、勝訴判決が確定した時点で時効が更新されます。しかも、判決で確定した債権は民法169条1項により時効期間が10年に延長されます。
例えば、2020年4月1日に代位弁済して求償権を取得した保証人が、2024年3月1日に訴訟を提起し、2025年1月1日に判決が確定した場合を考えます。本来なら2025年4月1日に時効が完成するはずでしたが、訴訟提起により完成が猶予され、判決確定日の2025年1月1日から新たに10年の時効期間がスタートします。
つまり2035年1月1日まで時効は完成しません。
債務者による承認も時効の更新事由です。債務者が求償債務の一部を支払った場合や、支払いを猶予してほしいと申し出た場合などは承認にあたり、その時点で時効が更新されます。不動産賃貸で退去した賃借人が「来月から少しずつ返します」と言ってきた場合、これは債務の承認となり時効はリセットされます。
催告による完成猶予は6か月間です。内容証明郵便などで支払いを求める催告をした場合、催告から6か月間は時効の完成が猶予されます。ただし、この6か月以内に裁判上の請求などの措置を取らなければ、6か月経過後に時効が完成します。時効完成が間近に迫っている場合の応急措置として有効です。
協議による完成猶予という制度もあります。債権者と債務者が書面または電磁的記録で合意すれば、1年間時効の完成を猶予できます。さらに更新も可能で、最長5年まで延長できます。不動産取引で分割返済の協議をする際は、この制度を利用して時効管理をすることが賢明です。
求償権の時効起算点に関する不動産業特有の実務ポイント
不動産賃貸業では家賃保証会社との取引が一般的になっており、求償権の時効管理が重要です。家賃保証会社が代位弁済した場合、その求償権の時効は代位弁済日の翌日から5年です。ただし、保証会社が営利法人である場合は商事債権として5年ですが、非営利の保証機関の場合は扱いが異なる可能性があります。
連帯保証人が複数いる場合の求償権にも注意が必要です。連帯保証人Aが全額を弁済した場合、AはBに対して負担部分について求償できます。このAのBに対する求償権の時効起算点も、Aが代位弁済した日の翌日です。債務者への求償権とは別個の権利として時効が進行します。
物上保証人の求償権も同様の扱いです。他人の債務のために自己の不動産に抵当権を設定した物上保証人が、競売により債務を弁済した場合、競売による配当がなされた日の翌日が求償権の時効起算点となります。不動産売買の仲介で物上保証が関係する案件では、この点を理解しておく必要があります。
原状回復費用の求償権については、退去時に連帯保証人が支払った日が起算点です。賃貸借契約終了後に発生した原状回復債務について連帯保証人が2021年6月1日に支払った場合、2021年6月2日から時効が進行し、2026年6月2日に時効が完成します。退去から数年経過してから原状回復費用を請求する場合は時効に注意が必要です。
不動産取引では債権譲渡も頻繁に行われます。求償権が譲渡された場合でも、時効の起算点は変わりません。保証会社から債権回収会社に求償権が譲渡されても、起算点は当初の代位弁済日の翌日のままです。債権譲渡通知を受けた時から時効が進行すると誤解しないよう注意してください。
信用保証協会付き融資を扱う不動産業者は、保証協会の求償権が10年である点を覚えておくべきです。事業用不動産の売買で融資を受ける際、信用保証協会の保証を利用することがありますが、万が一代位弁済となった場合の求償権は10年間存続します。
ただし商人の委託に基づく場合は5年です。
グリーン司法書士法人の「求償権の時効は5年!請求を無視されるときの対処法」では、求償権の時効について実務的な解説がなされており、不動産業従事者にとって参考になる情報が豊富です。
不動産業において求償権の時効起算点を正確に理解することは、債権管理の基本です。代位弁済日の翌日という原則を押さえたうえで、信用保証協会の10年ルールや商事債権の5年ルール、判決確定後の10年延長など、例外的な扱いを把握しておくことで、適切な権利行使と時効管理が可能になります。時効完成間際の案件では内容証明による催告や訴訟提起のタイミングが重要となるため、余裕を持った時効管理を心がけましょう。

