免税事業者との取引で消費税の仕訳を正しく処理する方法

免税事業者との取引・消費税の仕訳で損しない完全ガイド

簡易課税を選んでいる不動産会社は、免税事業者からの仕入れで一切消費税が増えません。

📋 この記事の3つのポイント
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仕訳の基本:全額を費用計上

免税事業者への支払いは、インボイスなしのため仮払消費税を立てず、支払金額の全額を費用・仕入として処理するのが原則です。

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経過措置:2026年10月に控除率が変わる

2026年9月30日まで消費税相当額の80%控除が可能ですが、2026年10月1日以降は令和8年度税制改正により70%へ変更される見込みです。仕訳方法も切り替えが必要です。

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不動産業の注意点:取引先に免税業者が多い

清掃・修繕業者など小規模な外注先は免税事業者のケースが多く、仕入税額控除できない消費税が積み重なると年間の税負担が大きく膨らみます。

免税事業者との取引で消費税の仕訳が変わった背景

2023年10月1日にインボイス制度(適格請求書等保存方式)が開始されたことで、免税事業者との取引における消費税の仕訳は大きく変化しました。つまり、制度以前の常識がそのまま通用しなくなったということです。

インボイス制度以前は、課税事業者が誰から仕入れを行っても、請求書さえあれば仕入税額控除を受けることができました。しかし制度導入後は、適格請求書(インボイス)の保存がなければ原則として仕入税額控除が認められません。免税事業者はそもそも適格請求書を発行できないため、免税事業者への支払いは全額が買い手負担になるのが原則です。

不動産業に置き換えると、修繕工事を依頼している個人の大工さん・外壁塗装業者・清掃会社などが免税事業者のケースは珍しくありません。こうした外注先からの請求書が課税事業者であれば問題ないのですが、免税事業者だった場合、払った消費税を控除できなくなります。

たとえば年間で免税業者への外注費が500万円(消費税50万円相当含む)ある不動産会社の場合、制度前なら50万円を仕入税額控除できていたものが、インボイス制度導入後は控除できなくなります。これは年50万円の納税増を意味します。影響は決して小さくありません。

ただし、完全にゼロになるわけではなく「経過措置」があります。経過措置が条件です。次のセクションから、この経過措置の仕組みと正しい仕訳方法を順番に解説します。

国税庁 インボイス制度の概要(公式)

免税事業者との取引における消費税の仕訳・基本パターン

免税事業者から仕入れや外注を行った場合、会計処理は「税抜経理方式」を採用している事業者でも、原則として仮払消費税を計上せず、支払金額の全額を費用(仕入・外注費・修繕費など)として処理します。仮払消費税は使わないが基本です。

具体的な例で確認しましょう。免税事業者の清掃業者に清掃費用として55,000円(消費税相当5,000円を含む)を支払った場合の仕訳は以下の通りです。

借方 金額 貸方 金額
外注費 55,000円 普通預金 55,000円

消費税相当の5,000円も含めて全額を「外注費」として処理します。仮払消費税を使わない理由は、免税事業者が納付する義務を持つ消費税が存在しないからです。法律上、免税事業者への支払いに含まれる消費税相当額は「消費税」ではなく、単なる価格の一部とみなされます。

一方、同じ55,000円の支払いでも、相手が課税事業者(インボイス発行事業者)の場合の仕訳は次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
外注費 50,000円 普通預金 55,000円
仮払消費税等 5,000円

この違いが重要です。課税事業者への支払いなら5,000円の仮払消費税が立ち、後に納付消費税から差し引けます。しかし免税事業者への支払いでは、仮払消費税ゼロのまま55,000円が全額費用に入ります。実質的に5,000円分多く費用を計上することになり、その分が損金算入されるという一面もあります。意外ですね。

摘要欄への記載も大切です。帳簿には「免税事業者からの仕入」などと明記しておくことで、後で経過措置適用の仕訳を整理しやすくなります。これは必須です。

免税事業者との消費税・経過措置の仕訳例(令和8年度改正対応)

「全額控除できない」と聞くと損した気分になりますが、インボイス制度には経過措置があります。一定期間は免税事業者からの仕入れについても消費税相当額の一部を仕入税額控除できる特例が設けられているのです。

令和8年度税制改正大綱(2025年12月発表)により、経過措置の控除割合と適用期間が見直されました。改正後の経過措置は以下の通りです。

適用期間 控除できる割合
2023年10月1日 〜 2026年9月30日 消費税相当額の 80%
2026年10月1日 〜 2028年9月30日 消費税相当額の 70%(改正後)
2028年10月1日 〜 2030年9月30日 消費税相当額の 50%(改正後)
2030年10月1日 〜 2031年9月30日 消費税相当額の 30%(改正後)
2031年10月1日以降 控除ゼロ

当初の予定より適用終了が約2年延長され、段階的に控除率が下がっていく形に緩和されました。不動産業者にとっては、外注先の免税事業者への対応を検討する時間が少し増えたといえます。これは使えそうです。

ただし、経過措置を適用するには条件があります。①免税事業者から受領する請求書に区分記載請求書と同等の記載があること、②帳簿に「経過措置対象の課税仕入れである旨(例:80%控除対象)」を記載して保存すること、この2点が条件です。

では、2026年3月(現在)に免税事業者の修繕業者へ110,000円(消費税相当10,000円含む)を支払った場合の仕訳を見てみましょう。経過措置80%が適用されます。

【方法①:取引時に控除分を仮払消費税として計上する方法】

借方 金額 貸方 金額
修繕費 102,000円 普通預金 110,000円
仮払消費税等 8,000円

✅ 消費税相当10,000円のうち80%(8,000円)を仮払消費税として計上し、残り20%(2,000円)は修繕費に含めます。

【方法②:取引時は通常どおり処理し、決算時に差額を雑損失で調整する方法】

取引時。

借方 金額 貸方 金額
修繕費 100,000円 普通預金 110,000円
仮払消費税等 10,000円

決算時。

借方 金額 貸方 金額
雑損失 2,000円 仮払消費税等 2,000円

✅ 控除できない20%分(2,000円)を決算時に雑損失として調整します。

どちらの方法でも最終的な損益は同じです。自社の会計方針にあわせて選択してください。ただし一度選んだ方法は、期内で統一することが求められます。

国税庁 免税事業者等からの課税仕入れの経理処理に関する通達(PDF)

不動産業で特に注意すべき免税事業者との取引パターン

不動産業は、免税事業者との接点が他業種より多い業種のひとつです。特に注意が必要です。

まず、賃貸管理会社と清掃・修繕業者の関係です。管理会社が発注する清掃・草刈り・小修繕などの業務は、個人事業主や小規模業者が請け負うことが多く、売上1,000万円以下の免税事業者であるケースが少なくありません。1棟のマンションで年間10件の修繕依頼があり、1件あたり平均11万円(消費税1万円含む)とすると、消費税相当は年10万円になります。

経過措置80%が適用されても控除できない2万円(20%分)が課税事業者の管理会社の負担となり、物件数が増えれば増えるほど積み上がっていきます。これは痛いですね。

次に、不動産仲介と仲介手数料の取り扱いです。宅建業者(仲介業者)が免税事業者のままであった場合、仲介手数料を受け取る相手(買い手・借り手が課税事業者)は仕入税額控除を受けられません。そのため「インボイス未登録の仲介業者には仕事を依頼しない」という動きが加速しています。特に法人テナントや社宅代行会社との取引では、インボイス登録の有無を最初に確認されることが増えています。

また、賃貸オーナー(個人)との取引も確認が必要です。店舗や事務所を借りている課税事業者のテナントが家賃を支払う場合、家賃には消費税が課税されています。オーナーが免税事業者の場合、そのオーナーからはインボイスが発行されません。仮に月額家賃11万円(消費税1万円含む)なら年間12万円の消費税が控除できない可能性があります。

さらに見落とされがちな点として、駐車場代があります。駐車場の賃貸は消費税の課税取引です。法人や個人事業主が月極駐車場を借りている場合、オーナーが免税事業者であれば仕入税額控除が使えません。駐車場代は金額が小さく見えても、複数台・複数拠点での積み上げると無視できない金額になります。

弥生・不動産管理に関するインボイス制度の影響と対応解説

免税事業者との消費税取引で独占禁止法・下請法に注意すべき理由

インボイス制度への対応を進める中で、「免税事業者だから取引価格を下げよう」「登録しなければ取引をやめる」と考える方もいるかもしれません。しかし、これは法的リスクがあります。

公正取引委員会と中小企業庁が合同で公表している指針では、インボイス制度を理由とした取引条件の一方的な見直しについて、独占禁止法や下請法に抵触する可能性がある行為を具体的に示しています。

特に注意が必要なのは以下の行為です。

  • 取引価格の一方的な引き下げ:免税事業者が仕入税額控除できないことを理由に、交渉なしで取引価格を引き下げることは独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に当たる可能性があります。
  • 消費税相当額の全部または一部の不払い:免税事業者であることを理由に消費税相当額を支払わない行為は、下請法で禁止されている「下請代金の減額」に該当します。
  • 一方的な取引打ち切り通告:「インボイスに登録しなければ取引を打ち切る」と一方的に通告することは下請法・独占禁止法に抵触する恐れがあります。
  • 課税事業者への転換後も価格を据え置く:下請事業者が免税から課税へ転換したにもかかわらず、価格交渉に応じないことは「買いたたき」に該当します。

「双方が納得した上での価格交渉」であれば問題ありませんが、力関係を利用した一方的な押し付けはNGです。不動産管理会社が多数の個人業者に発注する立場にある場合、優越的地位の問題が生じやすい構造になっています。

もし取引先との価格・条件交渉をするなら、まずは「なぜ見直しが必要か」の事情を丁寧に説明し、合意形成のプロセスを文書で残すことが重要です。交渉の記録を残すが原則です。

公正取引委員会 免税事業者等のインボイス制度対応に関するQ&A

簡易課税を選んでいる不動産会社は免税事業者との取引で消費税が増えない

ここで、多くの不動産従事者が意外に知らないポイントをお伝えします。それが「簡易課税制度を選択している課税事業者は、免税事業者からの仕入れによる消費税の増加がゼロ」という事実です。

簡易課税制度とは、課税売上高が5,000万円以下の事業者が選べる消費税の計算方法で、受け取った消費税から「みなし仕入率」をかけた金額を差し引いて納税額を計算します。仕入れにかかった実際の消費税額は関係ありません。不動産賃貸業(第6種事業)のみなし仕入率は40%です。

つまり、簡易課税を選択している不動産管理会社は、外注先が免税事業者であってもインボイスがあっても、消費税の計算結果は変わりません。適格請求書の保存も、免税事業者からの仕入れに関する経過措置の記録も、簡易課税を選んでいる事業者には不要です。これなら問題ありません。

ただし、簡易課税が有利かどうかは業種と売上構成によって異なります。たとえば修繕費などの課税仕入れが多い事業者は、原則課税の方が実際の仕入税額控除を多く受けられる場合があります。一方、賃貸収入が主で住宅家賃(非課税)が多い場合は、そもそも仕入税額控除の効果が限られます。

自社の状況に応じた判断が必要なため、消費税の課税区分や仕入状況を整理した上で、税理士への相談をひとつの選択肢として検討することを推奨します。確認するのが条件です。

項目 原則課税 簡易課税
免税事業者からの仕入れによる影響 あり(控除できない) なし(影響ゼロ)
適格請求書の保存義務 あり なし
経過措置の記録管理 必要 不要
適用できる売上の上限 上限なし 課税売上5,000万円以下
不動産賃貸業のみなし仕入率 40%

簡易課税を選んでいる事業者にとって、免税事業者との取引における仕訳は「支払全額を費用計上するだけ」という非常にシンプルな処理で済みます。ただし簡易課税を選ぶには事前の届出が必要です。課税期間が始まる前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出しなければなりません。期限があります。

国税庁 2割特例・インボイス制度の概要パンフレット(PDF)