物上保証人求償権条文の規定
委託を受けた物上保証人なら事前求償できると思っていませんか。
物上保証人の求償権を定める民法351条の内容
民法351条は物上保証人の求償権について、質権を設定した者の権利を規定している条文です。この規定によれば、他人の債務を担保するために自己の財産に質権を設定した者は、その債務を弁済したり質権の実行により質物の所有権を失ったときに、保証債務に関する規定に従って債務者に対し求償権を有することになります。
条文の構造を見ると、物上保証人の求償権は直接的に詳細を定めるのではなく、保証債務の規定を準用する形式になっています。つまり民法351条が基本となりますが、実際の求償権の範囲や内容は民法459条以下の保証債務の規定を参照することになるのです。この仕組みは、保証人と物上保証人が担保的機能において共通する点を考慮した立法技術といえます。
不動産実務では抵当権が圧倒的に多く利用されますが、民法351条は質権についての規定であることに注意が必要です。抵当権については次に説明する民法372条によって準用される形で適用されます。つまり抵当権を設定した物上保証人も、質権の場合と同様に求償権を取得するということですね。
この求償権の発生要件は2つあります。1つ目は物上保証人自らが債務を弁済した場合、2つ目は担保権が実行されて担保物の所有権を失った場合です。不動産業務では後者のケース、つまり競売や任意売却により不動産の所有権を失うケースが実務上多く見られます。
民法351条の条文解説と物上保証人の基本的権利について詳しく説明されています
物上保証人の求償権に民法372条が準用される理由
民法372条は抵当権についての準用規定であり、留置権や物上代位とともに民法351条の物上保証人の求償権を準用しています。この条文により、質権だけでなく抵当権を設定した物上保証人も求償権を取得できることが明確になっているのです。
不動産取引の現場では、質権よりも抵当権が圧倒的に多く利用されています。土地や建物を担保に提供する場合、占有を移転せずに担保設定できる抵当権が実務上便利だからです。民法372条がなければ、抵当権による物上保証人の求償権は条文上の根拠を欠くことになってしまいます。
厳しいところですね。
この準用規定の存在により、質権設定者と抵当権設定者は同じ取扱いを受けることになります。つまり委託を受けたか受けないかによって求償権の範囲が異なること、保証債務の規定が適用されることなど、基本的な法的枠組みは共通しています。実務上は抵当権のケースがほとんどですから、民法372条を経由して351条が適用されると理解しておけば十分です。
準用という法技術を用いることで、立法者は条文の重複を避けつつ、異なる担保権について統一的な取扱いを実現しています。不動産業務に携わる方は、民法351条だけでなく372条の存在も押さえておく必要があります。両方の条文がセットになって初めて、抵当権による物上保証の求償権が完全に理解できるということですね。
物上保証人が求償できる範囲と委託の有無による違い
物上保証人の求償権の範囲は、債務者から委託を受けて担保を設定したか、委託を受けずに設定したかによって大きく異なります。この違いは保証人の場合と同じ扱いであり、民法459条や462条の規定が準用される形で決定されます。
委託を受けた物上保証人の場合、求償できる範囲は非常に広くなります。まず基本的な部分として、債務消滅のために支出した財産の額、つまり失った財産の価額全額を求償できます。ただしその額が消滅した債務の額を超える場合には、消滅した債務の額が上限となります。さらに民法459条2項により、担保権実行以後の法定利息、避けることができなかった費用、その他の損害賠償も求償権の範囲に含まれるのです。
特に注目すべき点は、競売減価も求償権に含まれるという解釈です。担保物件が競売にかけられると、一般的な市場価格よりも2割から3割程度安く売却されることが多くあります。この時価と競売代金額との差額は「避けることができなかった損害」として、求償権の範囲に含まれると考えられています。結果として消滅した債務の額を超える求償権が認められることになります。
一方、委託を受けない物上保証人の求償権は制限されます。債務者の意思に反していない場合は、担保権実行当時に債務者が利益を受けた限度で求償できます。債務者の意思に反している場合は、さらに厳しく求償請求の時点で現に債務者が利益を受けている限度でしか求償できません。利息や損害金の請求も認められないため、委託の有無は実務上極めて重要な区別となります。
不動産業務で担保設定を受ける際は、必ず債務者からの委託を書面で明確にしておくべきです。委託の有無で求償権の範囲が数百万円、場合によっては数千万円単位で変わる可能性があるからです。
これは使えそうです。
物上保証人の求償権の範囲について委託の有無による違いを詳しく解説しています
物上保証人に事前求償権が認められない理由
保証人には事前求償権が認められているのに対し、物上保証人には事前求償権が認められません。この違いは平成2年12月18日の最高裁判決で明確に示されており、不動産実務において重要な注意点となっています。
保証人の場合、民法460条により、委託を受けた保証人は弁済期が到来したときや主債務者が破産手続開始決定を受けたときなどに、実際に弁済する前であっても債務者に対して求償権を行使できます。これは保証人が将来確実に負担することになる支払いについて、早期に債務者から回収できるようにする制度です。
しかし物上保証人にはこの事前求償権が認められていません。理由は物上保証人の責任が提供した担保物の価値に限定されているという点にあります。保証人は全財産を債権の引当とする無限責任を負うのに対し、物上保証人は特定の財産のみを提供する有限責任です。この責任の違いから、保証人ほど早期の保護が必要ないと判断されているのです。
実務上の影響は小さくありません。たとえば主債務者の経営状態が悪化して弁済期が到来しても、物上保証人は実際に担保権が実行されるまで求償権を行使できません。その間に主債務者の資力がさらに悪化すれば、後で求償権を行使しても回収できない可能性が高まります。
痛いですね。
不動産業者として顧客に物上保証を提案する際は、この事前求償権がない点を必ず説明すべきです。保証人と混同して「弁済期が来たら先に請求できる」と誤解している物上保証人も少なくありません。正確な法的知識を伝えることで、後のトラブルを防ぐことができます。
物上保証人の求償権が実務で回収困難な実態
法律上は物上保証人に求償権が認められていますが、実務ではこの求償権がほとんど行使されず、回収もほぼ不可能というのが現実です。この実態を理解しておくことは、不動産業務における重要なリスク管理につながります。
担保権が実行される状況を考えてみると、そもそも主債務者が債務を返済できないからこそ物上保証人の担保物が競売にかけられるのです。主債務者に十分な支払能力があれば、わざわざ担保権を実行する必要はありません。つまり担保権実行の時点で、主債務者はすでに無資力または資力が著しく低下している可能性が極めて高いということですね。
このような状況で物上保証人が求償権を行使しても、主債務者から実際に金銭を回収できるケースはほとんどありません。仮に訴訟を起こして判決を得たとしても、差し押さえるべき財産が主債務者に残っていないことが大半です。法律上の権利があっても、経済的には無価値になってしまうのです。
実務上の統計データは公表されていませんが、弁護士や不動産業者の経験則として、物上保証人が求償権を実際に回収できる確率は5%にも満たないと言われています。数百万円から数千万円の不動産を失った物上保証人が、その損失を主債務者から取り戻すことは事実上不可能に近いということです。
厳しいですね。
不動産業務では、顧客が物上保証人になることを検討している場合、この回収困難性を明確に説明する義務があります。「法律上は求償権があるから後で取り戻せる」という楽観的な説明は、後に重大な損害賠償責任につながる可能性があります。物上保証は担保物を失うリスクを覚悟する必要があると、率直に伝えることが誠実な対応です。