元付けと客付けの違い
元付けから報酬ゼロは違法じゃない
元付けの基本的な意味と役割
元付け(もとづけ)とは、不動産の売主や貸主から直接依頼を受けて、物件の販売活動や募集活動を行う不動産会社のことを指します。物件オーナーと直接媒介契約を結び、物件情報を最初に把握・保有している立場にあるのが最大の特徴です。元付け業者は不動産取引の起点となる存在であり、物件の査定、価格設定、広告宣伝、契約書類の準備など多岐にわたる業務を担当します。
売買取引であれば売主から、賃貸取引であれば貸主(オーナー)から直接依頼を受けるため、物件の詳細情報や築年数、設備状況、周辺環境などについて最も正確な情報を持っています。
つまり元付けが基本です。
元付け業者の主な業務内容は、物件調査と査定から始まります。現地調査を行い、登記情報や法規制の確認、周辺相場の調査などを実施して適正な価格を算出します。専任媒介契約または専属専任媒介契約を締結した場合には、レインズ(不動産流通標準情報システム)への登録が法律で義務付けられており、媒介契約締結日から一定期間内に登録しなければなりません。専属専任媒介では5日以内、専任媒介では7日以内という期限が設定されています。
元付けの定義と業務内容の詳細については、ハウスコムの解説記事が参考になります
レインズへの登録後は、全国の客付け業者に対して物件情報が公開され、広く買主や借主を探すことができる仕組みとなっています。元付け業者は登録した物件について、他の不動産会社から物件照会や現地案内の申し込みを受けた際には、正当な理由がない限り拒否してはならないというルールも存在します。これは公正な不動産流通を確保するための重要な規定です。
物件情報の管理も元付け業者の重要な役割です。マイソク(物件募集図面)を作成し、物件の写真、間取り図、設備情報、報酬配分などを記載して他の業者に配布します。賃貸物件の場合、マイソクには「元付0%・客付100%」や「元付50・客付50」といった報酬配分が明記されており、これが客付け業者の営業意欲に大きく影響します。
元付けと客付けの違いと業務フロー
元付けと客付けは不動産取引において対になる概念で、それぞれ異なる立場と役割を持っています。客付け業者とは、購入希望者や入居希望者(買主・借主側)を見つけて元付け業者に紹介する不動産会社のことです。一般的な街の不動産屋さんの多くは、この客付け業務を中心に行っています。
両者の最大の違いは、誰から依頼を受けているかという点です。元付けは売主・貸主から直接依頼を受けるのに対し、客付けは買主・借主から依頼を受けます。この立場の違いが、業務内容や収益構造に大きな影響を与えます。元付け業者は物件の鍵を管理し、内見の手配を行う権限を持っているのも特徴的です。
具体的な業務フローを見てみましょう。元付け業者は媒介契約締結後、まず物件の詳細調査を実施します。登記簿謄本の取得、現地調査、周辺環境の確認、法規制のチェックなどを行い、重要事項説明書の作成に必要な情報を収集します。
つまり調査が起点です。
次に査定価格を算出し、売主や貸主と協議して販売価格や賃料を決定します。
価格が決まれば、レインズへの登録とマイソクの作成を行います。インターネットポータルサイトへの掲載、チラシの配布、新聞広告など様々な広告媒体を活用して物件の露出を図ります。この段階で客付け業者にも積極的に情報提供を行い、広く買主や借主を探します。
一方、客付け業者は自社に来店した顧客や問い合わせのあった顧客に対して、希望条件に合う物件を紹介します。レインズやポータルサイトで物件情報を検索し、条件に合致するものを見つけたら元付け業者に連絡して詳細確認や内見の手配を依頼します。内見当日は、元付け業者が鍵の手配や現地での説明を行うことが一般的です。
購入や入居の意思が固まれば、客付け業者が買主・借主側の条件交渉を行い、元付け業者が売主・貸主と調整します。
両者が合意に至れば、契約締結へと進みます。
契約書の作成や重要事項説明書の準備は主に元付け業者が担当しますが、客付け業者も自社の顧客に対する説明義務を負っています。
元付けと客付けの業務フローについては、イー・エス・サービスの解説が詳しいです
都市部の不動産業者の多くは客付け業務に特化しており、広く浅く様々なエリアの情報を集めて物件を紹介します。これに対して元付け業者は、担当エリアを限定して深く狭く活動し、物件情報の精度と専門性を高める傾向があります。ただし、実務上は多くの不動産会社が元付けと客付けの両方を行っており、ケースバイケースで役割を使い分けています。
元付けの報酬配分と仲介手数料の仕組み
元付け業者の報酬体系を理解することは、不動産取引の収益構造を把握する上で非常に重要です。報酬配分は取引形態によって大きく異なり、「両手仲介」と「片手仲介」という2つの基本パターンが存在します。
両手仲介とは、元付け業者が自ら買主や借主を見つけて契約を成立させるケースです。この場合、売主・買主の双方から仲介手数料を受け取ることができるため、業者にとっては最も収益性の高い取引形態となります。例えば売買価格4,000万円の物件であれば、売主から約138万円(4,000万円×3%+6万円+消費税)、買主からも同額を受け取れるため、合計約276万円の報酬となります。
これが両手の魅力です。
片手仲介は、元付け業者と客付け業者が分かれて取引を行うケースです。
「分かれ」とも呼ばれます。
この場合、元付け業者は売主または貸主からのみ、客付け業者は買主または借主からのみ仲介手数料を受け取ります。同じ4,000万円の物件でも、元付け業者の報酬は約138万円に留まります。
賃貸取引の場合、報酬の仕組みはやや複雑です。宅建業法では、貸主と借主から受け取れる仲介手数料の合計は「賃料1ヶ月分+消費税」が上限と定められています。原則として、どちらか一方からは賃料の0.5ヶ月分までしか受け取れませんが、依頼者の承諾があれば一方から1ヶ月分を受け取ることも可能です。
ここで重要なのが広告料(AD:Advertisement)の存在です。ADは仲介手数料とは別に、貸主が元付け業者に支払う宣伝費のような性質を持ちます。相場は賃料の0.5ヶ月分から2ヶ月分程度で、閑散期や競争の激しいエリアでは3ヶ月分を超えることもあります。マイソクに「AD1」「AD200%」などと記載されており、これが客付け業者へのインセンティブとなります。
広告料(AD)の相場と効果については、不動産管理の味方の記事が参考になります
報酬配分の表記方法も理解しておく必要があります。「元付0%・客付100%」は、借主から受け取る仲介手数料(賃料1ヶ月分)をすべて客付け業者が受け取り、元付け業者はADのみで収益を得る形態です。「元付50・客付50」は、仲介手数料を半分ずつ分配する形態を意味します。
売買の場合の報酬配分パターンには、「両手」「片手」に加えて「分かれ」という表現が使われます。分かれは、元付け業者が売主から、客付け業者が買主から仲介手数料を受け取る最も一般的な片手仲介の形態です。稀に「あんこ」という中間業者が入るケースもありますが、これは報酬が分散されるため業界では好まれません。
元付け業者としては両手仲介を狙いたいところですが、それが過度になると「囲い込み」という問題が発生します。これは後述する法令遵守の観点で重要な注意点となります。報酬の上限を超えた請求は宅建業法違反となり、行政処分の対象となるため、報酬計算は慎重に行う必要があります。
元付け業務におけるレインズ登録義務
元付け業者には、媒介契約の種類に応じてレインズ(不動産流通標準情報システム)への登録義務が課されています。レインズは全国の不動産業者が物件情報を共有するためのネットワークシステムで、公正な不動産流通を実現するための基盤となっています。
専属専任媒介契約を締結した場合、元付け業者は媒介契約締結日の翌日から5日以内(不動産会社およびレインズの休業日を除く)に物件情報を登録しなければなりません。
専任媒介契約の場合は7日以内となります。
この期限を守らないと宅建業法違反となり、監督官庁から指導や業務停止などの行政処分を受けるリスクがあります。
期限は厳格です。
一般媒介契約の場合はレインズへの登録義務がありません。売主が複数の不動産会社に売却を依頼できる契約形態のため、各社の判断で登録の有無を決めることができます。ただし、より多くの買主候補にリーチするため、任意で登録する業者も少なくありません。
レインズに登録すると、登録証明書が発行されます。元付け業者はこの登録証明書を売主に交付する義務があり、売主は証明書に記載されたIDとパスワードを使って自分の物件情報がレインズに正しく掲載されているか確認できます。2025年の法改正により、登録証明書には二次元バーコードが追加され、売主がよりアクセスしやすくなりました。
登録する情報には、物件の所在地、面積、価格、取引条件、写真、図面などが含まれます。
特に重要なのが「取引状況」の項目です。
「公開中」「書面による購入申込あり」「売主都合で一時紹介停止中」などのステータスを正確に更新する必要があります。
レインズ登録に関する会員の義務については、西日本レインズのFAQが詳しいです
2025年1月から施行された宅建業法施行規則の改正により、取引状況の更新義務が厳格化されました。購入申込を受けたにもかかわらず「公開中」のまま放置することは、囲い込みとみなされ行政処分の対象となります。元付け業者は状況の変化に応じて速やかにステータスを更新しなければなりません。
レインズに登録された物件について、他の不動産会社から問い合わせや内見申込があった場合、元付け業者は正当な理由なく拒否することができません。「既に申込が入っている」「売主が現在検討中」といった虚偽の理由で断ることは禁止されています。これは客付け業者の活動機会を不当に奪わないための規定です。
成約した際の登録も重要です。売買契約が成立したら、元付け業者は削除ではなく「成約登録」を行う必要があります。成約価格や成約日などの情報を入力することで、レインズは市場動向の統計データとして活用され、不動産市場全体の透明性向上に貢献します。成約登録を怠ると、レインズ諸規程違反として取り扱われます。
元付け業務で注意すべき囲い込みリスク
囲い込みとは、元付け業者が両手仲介を狙うあまり、物件情報を独占したり他社からの問い合わせを不当に拒否したりする行為を指します。これは売主の利益を損なう可能性が高く、不動産業界における深刻な問題として認識されています。
具体的な囲い込みの手口としては、レインズに登録しても「商談中」「一時紹介停止」などの虚偽のステータスを設定して他社を排除するケースがあります。あるいは客付け業者から問い合わせがあっても「既に申込が入っている」「売主が検討中」と虚偽の回答をして内見を拒否するパターンもあります。
これらは明確な違反行為です。
囲い込みによる具体的な問題点は主に2つあります。
第一に売却期間の長期化です。
本来であれば全国の客付け業者を通じて多数の買主候補にアプローチできるはずが、元付け業者の顧客だけに限定されるため、買主が見つかるまでの時間が長くなります。例えば1社あたり100人の顧客がいるとすると、レインズで全国数千社に公開すれば数十万人にリーチできるところ、囲い込みでは100人にしか届きません。
第二に不必要な値引きです。売却期間が長引くと、元付け業者は売主に対して「この価格では売れない」と値下げを提案します。本当は適正価格であっても、囲い込みによって人為的に売れにくい状況を作り出しているだけなのに、売主は市場価値が低いと誤解してしまいます。結果として、本来得られたはずの売却益を失うことになります。
囲い込みの具体例と対処法については、松屋不動産の解説記事が参考になります
囲い込みを見抜く方法として、売主自身ができる対策があります。レインズの登録証明書を受け取ったら、必ず自分で物件情報を確認することです。取引状況が「公開中」になっているか、写真や図面が適切に掲載されているかをチェックします。友人や知人に別の不動産会社から問い合わせてもらい、元付け業者の対応を確認するという方法も有効です。
2025年1月の宅建業法改正により、囲い込みに対する規制が大幅に強化されました。取引状況の虚偽登録や不当な紹介拒否は、国土交通省による是正指示や業務停止命令の対象となります。悪質なケースでは宅建業免許の取消処分もあり得るため、業者としては絶対に避けるべき行為です。
元付け業者としては、両手仲介を目指すこと自体は違法ではありませんが、そのために他社の活動を妨害することは許されません。自社でも積極的に買主を探しつつ、他社からの問い合わせにも誠実に対応するというバランスが求められます。
透明性が鍵です。
調査義務についても注意が必要です。元付け業者だけでなく、客付け業者にも独自の調査義務があります。「元付けが調査したから大丈夫」と安易に考えて調査を怠ると、後にトラブルが発覚した際に客付け業者も損害賠償責任を負う可能性があります。実際の裁判例では、賃貸物件の重要な登記情報の調査を怠った客付け業者が、裁判で損害賠償を命じられたケースがあります。
元付け業務の実務ポイントと収益向上策
元付け業務で成功するためには、売り物件の継続的な確保が最重要課題となります。客付けは来店客や問い合わせ客に対応する受動的な側面が強いのに対し、元付けは自ら売主や貸主を開拓する能動的な営業力が求められます。
物件確保の手法としては、地域密着型の営業活動が基本です。担当エリアを絞り込み、そのエリアの物件情報や市場動向を深く理解することで、売主から信頼を得られます。例えば特定の駅から徒歩圏内、特定の町丁目に特化するなど、範囲を限定して専門性を高めるアプローチが効果的です。
範囲を絞るのが秘訣です。
既存の売主や大家との関係維持も重要な収益源となります。一度取引した顧客に対して、定期的な市場情報の提供や物件管理のアドバイスを行うことで、次の売却や新規物件の紹介につながります。相続が発生した際の不動産売却、所有物件の買い替え、投資用物件の追加購入など、継続的なビジネスチャンスが生まれます。
元付け業務における収益構造を理解することも大切です。両手仲介を実現できれば収益は2倍になりますが、そればかりを追求すると囲い込みの誘惑に負けるリスクがあります。健全な営業姿勢としては、自社でも積極的に買主を探しつつ、他社からの紹介も歓迎するというオープンな姿勢が長期的には信頼獲得につながります。
専任媒介契約を獲得することで、レインズ登録による全国ネットワークの活用と、自社での独占販売権のバランスを取ることができます。売主に対しては2週間に1回以上の販売状況報告義務があるため、これを丁寧に履行することで売主との信頼関係を強化できます。
報告が信頼を生みます。
マイソクの作成品質も成約率に大きく影響します。写真の質、間取り図の見やすさ、物件の魅力を伝える文章表現など、細部にこだわることで客付け業者からの問い合わせ数が変わります。報酬配分を明確に記載し、ADを設定することで客付け業者の営業意欲を高める工夫も有効です。
賃貸物件の場合、元付けとして大家との関係構築が継続収益の鍵となります。入居者募集だけでなく、入居後のトラブル対応、退去時の立会い、原状回復工事の手配、次の入居者募集という一連の管理業務を引き受けることで、長期的な収益が見込めます。管理業務まで受託できれば、毎月の管理手数料(賃料の5%程度が相場)も得られます。
元付け営業を成功させるスキルについては、LIFULL HOME’Sのコラムが詳しいです
内見対応の質も重要なポイントです。元付け業者は物件の鍵を管理しているため、客付け業者から内見依頼があった際の対応スピードが成約率に直結します。迅速な鍵の手配、現地での丁寧な物件説明、周辺環境の案内など、買主や借主に好印象を与える対応を心がけることで、客付け業者からの評価も高まり、次の物件でも優先的に紹介してもらえるようになります。
価格設定の適正化も元付け業務の腕の見せ所です。売主の希望価格が相場より高すぎる場合、長期間売れ残るリスクがあります。周辺の成約事例やレインズの統計データを活用して、根拠ある査定価格を提示し、売主を説得する交渉力が求められます。逆に安売りしすぎても売主の利益を損なうため、適正価格の見極めが大切です。

