債務不履行と契約解除と宅建
債務不履行の契約解除と重要事項説明の範囲
不動産取引で「債務不履行(契約違反)が起きたら解除できる」と一言で済ませると、現場ではほぼ確実に誤解が生まれます。なぜなら、解除には複数の型があり、型ごとに「できる条件」「必要な手続」「解除した後の精算(手付・違約金・損害賠償)」が変わるからです。重要事項説明で説明すべき「取引条件」の中に、契約の解除(手付解除・違約解除・ローン特約解除等)や、損害賠償額の予定・違約金が含まれるのはこのためです。実務上は、解除の説明を“権利”として語るのではなく、“手続の分岐”として語るのが安全です。
宅建業法35条の趣旨は、買主・借主が重要情報を理解したうえで意思決定できるようにする点にあります。重要事項説明義務は、宅建業者が宅建士に書面を交付して説明させる義務であり、違反すると行政処分の対象となり得るほか、損害賠償請求や契約解除のリスクにもつながると整理されています。さらに注意したいのは「35条1項に列挙されている項目が全部」ではなく、列挙にない事項でも取引判断に影響するなら説明が必要になり得る、という考え方です。つまり、解除に絡む“個別事情”があるなら、テンプレ文言だけでは足りなくなります。
解除説明で現場が詰まりやすいのは、次のような質問が出たときです。
- 「解除できるのはいつまで?」
- 「相手が履行に着手したって、具体的に何をしたら?」
- 「手付を放棄すれば、それ以外の違約金は絶対に払わなくていい?」
- 「解除したのに、損害賠償も別に請求されるの?」
このとき宅建士側で“根拠の置き場所”がないと、説明が感覚論になり、紛争時に会社の防御力が落ちます。まずは解除類型(手付解除/違約解除/特約解除)を切り分け、そのうえで「当社の契約条項ではどれに当たるか」を明確にする説明が必要です。
参考:重要事項説明義務の概要、違反時リスク(行政処分・損害賠償・契約解除)

債務不履行の契約解除と手付解除と履行の着手
売買の解除で最も誤解されやすいのが「手付解除」です。手付解除は、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主は手付放棄、売主は手付倍返しで解除できる、という整理が典型です。しかし「履行の着手」が入った瞬間に、手付解除の道が閉じ、契約違反としての解除(違約解除)や違約金条項の世界に移行するケースが出ます。現場で危ないのは、手付解除できる前提で顧客が資金計画を組み、後から「もう履行の着手があるので違約金が必要」となって揉めるパターンです。
さらに宅建業者が売主になる取引では、手付の性質の扱いが一段変わります。売主が宅建業者の場合、受領した手付がいかなる性質であっても解約手付とみなされ、相手方が履行の着手をするまでは手付解除できる、そしてこれに反する“買主に不利な特約”は無効となる、という整理が示されています。つまり「契約日から1か月で手付解除不可」といった条項があっても、相手方が履行に着手していないなら買主の手付解除余地が残る場面があり得ます。ここは、解除条項を説明するときに“期日特約”だけを強調すると誤認につながりやすいポイントです。
実務の説明では、次の3点を必ず言語化しておくと事故が減ります。
- 「手付解除」は“無条件解除”ではなく、“履行の着手まで”という期限付きの解除。
- 「履行の着手」は、一般の感覚(準備した)ではなく、契約条項・裁判例の射程で争点化する概念。
- 期日特約がある場合でも、宅建業者売主などで無効・修正される余地がある(買主不利特約の無効)。
参考:手付解除と「履行の着手」、宅建業者売主の場合の買主不利特約の無効の整理
債務不履行の契約解除と違約金と損害賠償
債務不履行による契約解除(いわゆる違約解除)を説明する際は、「解除できるか」だけでなく「解除した後の金銭処理」をセットで語らないと、クレームが高確率で発生します。重要事項説明の“取引条件”には、損害賠償額の予定や違約金に関する事項が含まれており、定めがあるなら「額と内容」、定めがないなら「定めがない旨」まで説明対象になり得ます。ここで説明が薄いと、解除局面で「そんなペナルティは聞いていない」が出ます。
違約金と損害賠償の関係は、契約条項の書きぶりで実質が変わります。典型的には、違約金が“損害賠償額の予定”として機能する条項もあれば、「違約金とは別に損害があれば請求できる」と読める設計もあります。現場がやりがちなミスは、条項を精査せずに「違約金=最大額」と断言してしまうことです。断言して外れると、説明義務違反の火種になります。
不動産従事者向けに実務で効くポイントは次の通りです。
- 解除条項を読むときは「解除権(要件)」「精算(手付・違約金・原状回復)」「追加請求(損害賠償)」に分解する。
- “違約解除”の説明は、相手の心理的反発が強いので、図(時系列)と数値例(手付○円、違約金上限○%等)で伝える。
- 電話口の口頭説明だけで済ませず、重要事項説明書・契約書の該当箇所に付箋やチェック欄を作り、説明した証跡を残す。
意外と知られていないのは、解除・違約金そのものより「説明の仕方」が紛争コストを決める点です。例えば、違約金の条項を読み上げるだけだと相手は理解しませんが、「いつ」「どんな不履行が起きたら」「どの通知で」「どの金額が」「どのタイミングで」動くかを時系列で説明すると、解除局面の感情的対立が弱まります。重要事項説明が“説明会”である以上、条項の朗読ではなく、当事者の意思決定に役立つ形に変換することが求められます。
債務不履行の契約解除と賃貸と催告と明渡
売買と違い、賃貸では「家賃滞納=即解除」と短絡すると危険です。実務では、滞納がある場合でも直ちに解除できるとは限らず、催告を含む手続や、信頼関係が破壊されたといえる程度かどうかが争点になります。実際、家賃滞納を理由に解除が認められるには、賃貸人との信頼関係が破壊されたといえる程度の滞納が必要だ、とする説明が一般向けにも整理されています。
ここで不動産管理会社・仲介会社がやりがちな落とし穴は、「内容証明を送ればOK」と思い込むことです。解除通知は重要ですが、賃料の滞納額、支払期限、期限までに支払がなければ解除する旨など、通知の中身(具体性)が弱いと後で争いになります。また、現場では“少額滞納が続くタイプ”が最も揉めやすく、月内に一部入金してくる入居者ほど、管理側の記録が荒いと解除の正当性が揺らぎます。
賃貸の債務不履行対応で、宅建士・実務担当が押さえるべき「証跡」は次の通りです。
- 滞納の発生日と金額(家賃・共益費・駐車場代など内訳)。
- 催告(支払請求)の発送日、到達日、支払猶予期間。
- 入金があった場合の充当関係(どの月分に充当したか)。
- 解除通知の発送日、到達日、解除日。
- 交渉経過(分割合意をしたか、合意書があるか)。
「解除できるか」は法的評価ですが、「解除できる状態を作ったか」は運用設計で決まります。賃貸は特に、書面の作り方・帳票の整備・滞納管理の運用で勝敗が決まる領域です。
債務不履行の契約解除と宅建士の説明の型(独自視点)
検索上位の多くは、手付解除・違約解除・ローン特約など“制度の解説”に寄りますが、現場で差が出るのは「説明の型(テンプレ)」の設計です。宅建士が同じ説明をしているつもりでも、顧客が理解していないなら説明したことにならない、という現実があります。そこで、債務不履行・契約解除の説明は、次の“3枚構成”にすると再現性が上がります。
- 1枚目:解除の地図(類型マップ)
- 手付解除(履行の着手まで)
- 違約解除(債務不履行・催告・解除通知)
- 特約解除(ローン特約等)
この時点で「今回の契約はどれが想定されているか」を指差しで共有します。
- 2枚目:時系列(いつ何をするか)⏳
- 申込金(返還可否の扱い)
- 契約締結
- 履行の着手の例(契約条項に結びつける)
- 不履行発生→催告→解除通知→精算
“言葉”でなく“順番”で理解させるのがコツです。
- 3枚目:お金の表(最終精算の分岐)💰
- 解除類型別に、手付金・違約金・損害賠償・原状回復の可能性を並べます。
顧客はここだけを見返して判断できるようになります。
この型が効く理由は、解除局面のトラブルが「記憶違い」と「期待値のズレ」から生まれるからです。たとえば“手付放棄で終わると思っていた”という期待値が、実は履行の着手後で違約金条項に移っていた、というズレは典型です。重要事項説明書・契約書の条項番号をこの3枚に紐付け、顧客のサイン(またはチェック)を取っておくと、後で「説明されていない」リスクが大幅に下がります。
最後に、宅建士個人のリスクにも触れておきます。重要事項説明義務に違反すると、宅建士が指示処分や事務禁止等の対象となり得ると整理されています。だからこそ、解除説明は“話す技術”ではなく“残す技術”として磨くのが、不動産会社の実務として最も費用対効果が高い対策です。
- 解除類型別に、手付金・違約金・損害賠償・原状回復の可能性を並べます。

