質権と抵当権の違い|不動産における担保物権の実務選択

質権と抵当権の違い

農地に質権を設定すると農地法の許可が必要になります。

この記事の3ポイント要約
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占有の違いが最大の特徴

質権は債権者が目的物を占有しますが、抵当権は債務者が使用収益を継続できます。不動産実務では抵当権が圧倒的に多く利用されています。

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設定できる目的物の範囲

質権は動産・不動産・権利に設定可能ですが、抵当権は不動産・地上権・永小作権のみに限定されます。火災保険の質権設定は住宅ローンで頻繁に利用されます。

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実行方法と実務上の注意点

不動産質は実務でほとんど使われず、質権が活用されるのは主に火災保険や債権などの権利質です。農地への質権設定には農地法の許可が必要です。

質権と抵当権の基本的な定義と性質

 

不動産取引の現場では、担保物権として「質権」と「抵当権」という2つの選択肢があります。どちらも債権の担保として機能する約定担保物権ですが、その性質は大きく異なっているのです。

質権とは、債権者が債権の担保として債務者または第三者から受け取った物を占有し、債務不履行時にその物を処分して弁済を受ける権利のことです。民法では動産質、不動産質、権利質の3種類に分類されています。質権の最大の特徴は「占有」にあり、債権者が目的物を手元に保管することで債務者に心理的なプレッシャーを与え、弁済を促す留置的効力を持っています。

つまり質権が機能する仕組みですね。

一方、抵当権は不動産・地上権永小作権にのみ設定できる担保物権で、債務者が目的物の占有を継続したまま使用収益できる点が特徴です。住宅ローンを組んだ方が引き続き自宅に住み続けられるのは、この抵当権の性質によるものです。抵当権には質権のような留置的効力はなく、優先弁済的効力のみを有しています。

両者とも担保物権として「付従性」「不可分性」「随伴性」「物上代位性」という共通の性質を持っていますが、実務での使われ方は大きく異なります。不動産を担保とする場合、現代ではほぼ100%抵当権が選択されるのが実情です。

質権の詳細な法的解説(契約ウォッチ)

質権の発生要件、効力の範囲、実行方法について民法の条文に基づいた詳細な解説があります。

質権と抵当権における占有の違いと実務への影響

占有の有無こそが、質権と抵当権を分ける最も本質的な違いです。この違いが不動産実務において決定的な影響を与えているのです。

質権では債権者が目的物を占有する必要があります。不動産質の場合、質権者が不動産を管理し、その使用収益も質権者が行います。例えば賃貸マンションに質権を設定した場合、質権者が家賃収入を得る権利を持ち、その収益を債権の弁済に充当できます。ただし反面として、不動産の管理費用や固定資産税などの負担も質権者が負うことになります(民法357条)。

不動産質では利息が請求できません。

さらに不動産質には特殊なルールがあり、質権者は使用収益から利益を得られる代わりに、債権の利息を請求することができません(民法358条)。使用収益と利息の両方を得られると質権者に有利すぎるため、法律でバランスを取っているのです。

対照的に、抵当権では債務者が目的物の占有を継続します。住宅ローンを組んだ方が引き続き自宅に住み、家賃収入がある投資物件ならその収益も債務者が得られます。債務者にとって生活や事業を継続できるメリットは非常に大きいです。債権者にとっても、債務者が不動産を管理してくれるため管理コストがかからず、登記だけで担保権を確保できる効率性があります。

この占有の違いが、不動産実務で抵当権が圧倒的に選ばれる理由です。債務者は担保に入れた不動産で引き続き生活や事業ができ、債権者は管理の手間なく担保権を保持できる。

双方にとって合理的な選択といえるでしょう。

質権と抵当権で設定できる目的物の範囲

担保として何を対象にできるかという点でも、質権と抵当権は明確に異なります。この違いが実務での使い分けの基準になっているのです。

質権は動産・不動産・権利の3つすべてに設定できる柔軟性があります。動産質では質屋でブランド品を預けるケースが典型例です。不動産質では土地や建物に設定できますが、実務ではほとんど利用されていません。権利質では債権、株式、保険金請求権などの財産権に設定でき、特に火災保険の保険金請求権への質権設定は住宅ローン実務で頻繁に活用されています。

住宅ローンを組む際、金融機関から火災保険への質権設定を求められることがあります。これは建物が火災で失われた場合に、保険金を直接金融機関が受け取れるようにする仕組みです。質権者である金融機関は、債務者に代わって保険金を受領し、住宅ローンの残債に充当できます。債務者にとっては保険金を自由に使えないデメリットがありますが、金融機関にとっては貸し倒れリスクを軽減できるメリットがあるわけです。

抵当権の方が限定的です。

一方、抵当権を設定できるのは不動産・地上権・永小作権のみに限定されています(民法369条)。

動産や権利には抵当権を設定できません。

自動車や建設機械など一部の動産には特別法による抵当権(自動車抵当法、建設機械抵当法など)がありますが、これらは例外的な扱いです。

この目的物の範囲の違いにより、実務では以下のような使い分けがなされています。不動産を担保にする場合は抵当権、動産を担保にする場合は質権または譲渡担保、債権や株式を担保にする場合は質権、といった形です。特に債権譲渡担保と権利質は、企業間取引での資金調達手段として重要な役割を果たしています。

質権と抵当権における農地法の取扱いの違い

農地を担保にする際、質権と抵当権では農地法上の取扱いが大きく異なります。この違いを知らないと、手続きの段階で思わぬ障害に直面することがあるのです。

農地に質権を設定する場合、原則として農地法第3条の許可が必要になります。なぜなら質権者は質物である農地を使用収益できるため、実質的に農地の利用権を取得することになるからです。農地法は農地の所有権だけでなく、地上権、永小作権、質権、使用貸借権、賃貸借権といった使用収益権の設定にも許可を求めています。

質権設定で農業委員会の許可が要ります。

ただし例外的に、質権者に使用収益権がない特約をした場合は、農地法の許可が不要になることがあります。しかしこのような特約をすると質権の本質的な機能が損なわれるため、実務上はほとんど利用されていません。農地に担保を設定したいが農地法の許可を避けたいという場合、質権ではなく抵当権を選択するのが一般的です。

対照的に、抵当権の設定には農地法の許可は不要です。抵当権は「その他の使用収益権」に該当せず、債務者が引き続き農地を使用収益できるため、農地法の規制対象外とされているのです。農地を担保にした融資では、この点が抵当権を選択する大きな理由になっています。

農地転用を伴う場合はまた別の話になります。農地を宅地などに転用する目的で権利を移転する場合は、農地法第5条の許可が必要です。市街化区域内の農地については事前届出で済みますが、市街化区域外では都道府県知事の許可が必須です。不動産業務で農地を扱う際は、このような農地法の規制を十分に理解しておく必要があるでしょう。

質権と抵当権の実行方法と登記費用の違い

担保権を実際に行使する段階での手続きや、設定時の登記費用にも違いがあります。これらの実務的なコストと手間も、担保物権を選択する際の判断材料になります。

質権の実行方法は目的物の種類によって異なります。動産質は動産競売(民事執行法190条)によって実行するのが原則ですが、正当な理由がある場合は鑑定人の評価に従って直ちに弁済に充てることを裁判所に請求できます。不動産質は担保不動産競売(民事執行法180条1号)により実行します。権利質の場合は質権の目的である債権を直接取り立てることができ、より簡便な手続きです。

抵当権は一本化された実行手続きです。

抵当権の実行は担保不動産競売による方法が中心で、手続きが統一されています。抵当権者は地方裁判所に競売を申し立て、裁判所が売却手続きを進めます。実務では多くの金融機関が経験を蓄積しており、手続きの流れが確立されているため、質権の実行よりも予測可能性が高いといえます。

登記費用についても違いがあります。不動産質権の登記には、債権金額の1000分の4の登録免許税がかかります。抵当権の設定登記も同様に債権金額の1000分の4(0.4%)です。例えば3000万円の債権なら12万円の登録免許税です。ただし住宅ローンの抵当権設定には軽減税率が適用され、1000分の1(0.1%)に下がります。司法書士報酬は案件により異なりますが、5万円から10万円程度が一般的です。

質権の場合、被担保債権の範囲を登記事項として明示する必要があり、抵当権よりも登記事項が複雑になります。質権では「この費用まで含む・含まない」を細かく合意し登記することが実務的に求められるのに対し、抵当権では被担保債権の範囲が法定されているため登記事項としません(民法346条)。この登記の複雑さも、不動産質が実務で敬遠される一因となっています。

質権が実務で活用される場面と抵当権との使い分け

不動産質が現代の実務でほとんど使われない一方で、質権そのものが完全に廃れたわけではありません。特定の場面では質権が今でも重要な役割を果たしているのです。

火災保険の質権設定は現在でも広く利用されています。住宅ローンを組む際、金融機関が火災保険の保険金請求権に質権を設定するケースは珍しくありません。これは権利質の一種で、建物が火災などで失われた場合に保険金を直接金融機関が受け取れる仕組みです。債務者にとっては保険金を自由に使えないデメリットがあり、また保険契約の変更や解約に質権者の同意が必要になる不便さがあります。

株式への質権設定も企業間取引で活用されます。

株式を担保にする場合も質権が利用されます。株式には抵当権を設定できないため、担保として活用するには質権または譲渡担保を選択することになります。上場株式なら換金性が高く担保価値があるため、金融機関や取引先が株式に質権設定を求めるケースがあるのです。質権設定には株式発行会社の承諾が必要な場合があり、定款や株主間契約での規定を確認する必要があります。

債権質も企業の資金調達で重要です。売掛債権や貸付債権に質権を設定することで、その債権を担保に融資を受けることができます。債権譲渡担保と比較して、質権は債権の帰属が移転しないため、取引先への説明や承諾取得の点で有利な場合があります。

不動産を担保にする場合は抵当権が選ばれます。債務者が物件を使い続けられる利便性、債権者が管理コストを負担しなくて済む効率性、登記による対抗要件の明確性、実行手続きの確立など、あらゆる点で抵当権が優れているためです。不動産質が実務でほとんど見られないのは、抵当権という優れた代替手段があるからに他なりません。

動産を担保にする場合は、質権か譲渡担保かの選択になります。質屋のように債権者が動産を占有できる場合は動産質が適していますが、債務者が動産を使い続けたい場合は譲渡担保や最近導入された動産担保法制が選択肢になるでしょう。

不動産業従事者として、それぞれの担保物権の特性を理解し、顧客の状況に応じた適切な助言ができることが重要です。


電話質権制度の解説 (1963年)