審査請求の期間と特許を正しく理解し権利を守る方法

審査請求の期間と特許を正しく理解し権利を守る方法

特許出願をしたからといって、自動的に審査が始まるわけではありません。意外と知られていないのが「審査請求をしないと、特許権は永遠に取れない」という事実です。

この記事でわかること

審査請求期間の基本

特許出願日から3年以内に審査請求をしないと「みなし取り下げ」となり、特許権を取得できなくなります。

💰

費用と軽減制度

審査請求料は最低でも142,000円かかりますが、中小企業・スタートアップは最大1/3まで軽減できる制度があります。

🏠

不動産従事者が注意すべき点

不動産テックや建築工法の特許出願後、3年間のうちにいつ審査請求するかのタイミングが権利の強さを左右します。


<% index %>

審査請求とは何か・特許出願との違いを理解する

 

特許出願と審査請求は、まったく別の手続きです。これが基本です。

特許出願とは、発明の内容を特許庁に届け出る手続きのことです。出願した時点では、特許庁の審査官は何も審査を開始しません。審査を開始させるためには、別途「出願審査請求書」を特許庁に提出し、「審査してください」と明示的に依頼する必要があります。この手続きが出願審査請求(審査請求)です。

なぜこのような二段階の仕組みになっているのでしょうか? それは、出願後に「やはり権利化は不要」と判断する案件や、ライバルをけん制するための防衛的な出願なども現実に多く存在するためです。すべての出願を無条件で審査すると、特許庁の審査負担が増大し、本当に審査が必要な案件の処理が遅れてしまいます。そのため、権利化を本当に希望する出願人だけが審査を請求する仕組みが設けられました。

不動産従事者の立場から考えると、たとえば独自開発した内覧システムや建築工法について特許を出願した場合、「出願した=保護された」という誤解が生じやすい場面です。

出願段階では権利は発生していません。審査請求を行い、審査を通過して初めて特許権が成立します。この点は、不動産テック分野や新工法開発を行う会社が知財戦略を立てる上で、絶対に押さえておくべき前提知識といえます。

参考:特許庁による審査請求制度の基本的な説明ページ

初めてだったらここを読む〜特許出願のいろは〜|特許庁

審査請求の期間・3年以内に手続しないと起こること

審査請求には必ず期限があります。

特許法第48条の3第1項に基づき、出願審査請求は「特許出願の日から3年以内」に行う必要があります。この3年という期限は絶対的なもので、1日でも過ぎてしまうと、特許出願は「取り下げたものとみなされる」という処理(みなし取り下げ)が自動的に発生します。

みなし取り下げになると、どれだけ独創的な発明であっても、二度とその出願で特許権を取得することはできません。痛いですね。

ちなみに、かつて日本では審査請求期間が7年でした。平成13年(2001年)10月1日以降の出願からこの期間が3年に短縮されています。国際的な制度調和と、3年間あれば権利化の要否は十分判断できるという考え方が背景にあります。

ただし、一定の例外もあります。分割出願や実用新案登録に基づく特許出願などの場合は、元の出願日から3年が経過していても「新たな出願日から30日以内」に審査請求できます。また、国内優先権主張を伴う出願では、優先権主張後の新しい出願日から3年が起算される点も押さえておきましょう。

不動産テック企業のように継続的に技術開発を行う組織では、複数の出願が並行して進むことも多いです。それぞれの出願日を正確に管理し、3年の期限を見落とさないよう台帳管理を徹底することが実務上の重要ポイントになります。

参考:審査請求期限や例外規定に関する特許庁の実務指針(PDF)

第十二節 出願審査の請求|特許庁

審査請求の費用・請求項の数で変わる料金計算

審査請求にかかる費用は決して安くはありません。これは有料です。

特許庁に支払う審査請求料は、次の計算式で算出されます。

費用の種類 金額
基本料(固定) 138,000円
請求項1項あたり 4,000円
請求項5項の場合の合計 138,000円 +(5×4,000円)= 158,000円
請求項10項の場合の合計 138,000円 +(10×4,000円)= 178,000円

この特許庁への料金に加えて、弁理士事務所に手続きを依頼する場合は代理人費用が別途1〜3万円程度かかります。合計すると、シンプルな出願でも15〜20万円程度の出費になることを念頭に置く必要があります。

これは出願手数料(14,000円)の約10倍以上の金額です。意外ですね。

こうした費用の負担を考慮したうえで、本当に権利化が必要かどうかを慎重に判断してから審査請求を行うことが求められます。

なお、中小企業や個人事業主が出願人である場合、所定の要件を満たせば審査請求料が1/2に軽減される制度があります(スタートアップ・小規模企業等はさらに1/3まで軽減される場合もあります)。不動産業者が自社開発の技術で出願している場合、この軽減制度の活用で費用を大幅に抑えられる可能性があります。費用確認は必須です。

参考:特許庁の産業財産権関係料金一覧(最新の料金表が確認できます)

産業財産権関係料金一覧|特許庁

参考:中小企業・スタートアップ向けの費用軽減制度についての詳細

特許料等の減免制度(2019年4月1日以降)|特許庁

審査請求のタイミングをどう判断するか・早期請求と遅延のリスク

審査請求はできるだけ早く行えばよい、というものではありません。

審査請求を行うタイミングは、出願日から3年以内であればどのタイミングでも構いません。2020年の特許出願データによると、出願と同年に審査請求を行ったのは全体の23.5%、1年目が11.7%、2年目が16.0%、3年目が23.6%となっており、出願人はじっくりとタイミングを見極める傾向があります。

早めに審査請求をした方がよい場面としては、競合他社に対して権利行使を検討しているケース、ライセンス契約や業務提携の交渉を控えているケース、「特許取得済み」という表示を営業ツールとして活用したいケースが代表的です。

一方で、審査請求を急ぎすぎると思わぬ損失につながることもあります。出願後1年以内は「国内優先権主張」という制度を活用して、改良点や漏れた内容を追加した新たな出願をすることができます。しかし、早期に審査請求を行い、特許査定など審査結果が確定してしまうと、この国内優先権主張はできなくなります。

国内優先権を使えなくなるのはデメリットです。

不動産テック分野では、開発当初の技術仕様が1年以内に大きく改良されるケースが珍しくありません。たとえば、内覧・物件管理のソフトウェアや、エネルギー効率を高める建材・設備の工法などは、実用化の過程で大幅なバージョンアップが行われます。そのような状況では、出願直後に審査請求を急ぐよりも、1年程度の猶予を設けて改良点を追加した上で審査請求することが、より強固な権利取得につながります。

また、早期審査制度を活用すれば、審査結果の最初の通知までの期間を通常の平均10.1か月から平均2.3か月程度まで短縮することが可能です。この制度は中小企業であれば特許庁への追加手数料なしで申請でき、不動産業者が知財を経営戦略に活かす際の有力な選択肢となります。これは使えそうです。

参考:審査請求のタイミングの考え方を解説した弁理士解説記事

審査請求の時期を検討する際の考慮要素|みなとみらい特許事務所

不動産従事者が見落としやすい審査請求の注意点・先使用権と第三者請求

審査請求にはあまり知られていない落とし穴が2つあります。

1つ目は「審査請求は自分以外の第三者でも行える」という点です。特許法の規定により、出願人以外の第三者でも審査請求を行うことができます。つまり、競合他社が自社の特許出願に気づき、その他社が先に審査請求を行うという事態も起こりえます。この場合、審査の結果として特許権が成立しても、その権利は出願人(自社)のものになります。ただし、競合他社からすれば「早めに権利の有無を確定させたい」という動機で行われることが多く、不動産テック系の出願には特に注意が必要です。

2つ目は「審査請求を一度行ったら取り下げができない」という点です。審査請求を行った後に、事情が変わって「審査してほしくない」と思っても、審査請求自体の取り下げは法律上認められていません(特許法第48条の3第3項)。もし権利化を断念したい場合は、出願そのものを取り下げるか放棄することになります。

ただしその場合、審査着手前であれば審査請求料の半額が返還される「審査請求料返還制度」を活用できます。条件は次のとおりです。

  • ✅ 特許庁が審査に着手する前(拒絶理由通知が来る前)に出願を取り下げまたは放棄すること
  • ✅ 取り下げまたは放棄をした日から6か月以内に返還請求書を提出すること
  • ✅ 出願審査請求手数料返還請求書を特許庁に提出すること

たとえば審査請求料が158,000円であれば、条件を満たせば79,000円が返ってくる計算になります。事業方針が変わった際や、権利化コストが見合わなくなった際には、この制度の存在を忘れないようにしましょう。

また、審査請求を行わずみなし取り下げになったとしても、出願から1年6か月後には内容が公開特許公報として公開されます。公開された出願は、その後に類似技術で出願した他社の審査において「先行技術」として機能するため、防衛的な観点からはあえて審査請求せずに公開させておくという戦略もあります。結論は、目的次第です。

参考:審査請求料返還制度の詳細と手続き方法

審査請求料返還制度について|特許庁

不動産従事者が実践すべき審査請求の期間管理と知財戦略

特許の審査請求は、出しただけで終わりにしてはいけません。継続的な管理が必要です。

不動産従事者が複数の開発プロジェクトや新技術導入を並行して進めている場合、複数の特許出願が同時進行していることもあります。出願ごとに審査請求期限(出願日から3年)が異なるため、一元管理のしくみを整備しないと、気づかぬうちに期限を超過してしまうリスクがあります。

特許庁のウェブサービス「J-PlatPat」では、自社出願の経過情報を出願番号で検索して確認することができます。また、特許庁のホームページでは「特許審査着手見通し時期照会」サービスも提供されており、審査着手の目安時期をオンラインで確認できます。これらのツールを日常の業務フローに組み込んでおくと、期限管理の漏れを防ぎやすくなります。

チェックポイント 内容
📅 審査請求期限 出願日から3年以内。分割出願は新出願日から30日以内も可
💡 早期審査 中小企業・スタートアップは無料で申請可。平均2.3か月で初回通知
💴 費用軽減 中小企業は審査請求料が1/2〜1/3に軽減される制度あり
🔄 国内優先権 出願日から1年以内・査定確定前であれば改良内容を追加した再出願が可能
↩️ 返還制度 審査着手前に出願取り下げ+6か月以内申請で審査請求料の半額が戻る

知財戦略は「出願」で完結するのではなく、審査請求のタイミングや費用管理、早期審査の活用まで一連の流れとして設計することが重要です。不動産業界においても不動産テックや独自工法・サービスの特許化ニーズは高まっており、審査請求に関する正確な知識を持つことが競争優位につながります。

知財全般の管理を体系化したい場合は、弁理士法人への相談や、特許庁が運営する知財相談窓口(INPIT:工業所有権情報・研修館)の無料相談サービスを活用することも一つの手段です。手軽に始めるなら、まずINPITの相談窓口に問い合わせてみましょう。

参考:特許審査着手見通し時期を確認できる特許庁サービス

特許審査着手見通し時期照会|特許庁

参考:中小企業向け知財支援制度の概要(弁理士会東海支部による解説)

知っておくべき!中小企業向け知財支援制度|日本弁理士会東海支部

不動産登記における登記官の却下処分に対する審査請求事件処理上の問題点 (1976年) (法務研究報告書〈第60集 第5号〉)