失踪宣告で死亡とみなされる日と裁判確定日の違いと不動産実務への影響
審判が確定した日から遡ること最大7年以上、あなたが知らないうちに所有権が移転している物件が存在します。
失踪宣告とは何か:不動産業従事者が押さえるべき基本
失踪宣告とは、生死が不明の者に対して法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度です。 不動産業に携わっていると、所有者や相続人が行方不明というケースに直面することがあります。そのまま放置すると売買・登記・相続手続きが一切進まなくなるため、この制度の正確な理解が実務上不可欠です。
参考)失踪宣告とは|申し立てや官報公告、7年以上生死不明の場合の解…
失踪宣告には2種類あります。
参考)失踪宣告による死亡日はいつなのか|相続発生日となるので重要
- 🔵 普通失踪:生死不明になってから7年以上経過した場合に申立てが可能
- 🔴 特別失踪(危難失踪):戦争・遭難・震災などの危難に遭遇して行方不明になり、危難が去ってから1年以上経過した場合に申立てが可能
申立てができる人は、不在者の配偶者・相続人・受遺者・財産管理人などの利害関係人、または検察官です。 不動産業者が直接申立人になることはありませんが、売買や相続手続きを進めるうえで、申立人である相続人をサポートしながら手続きを把握しておく必要があります。
手続きは家庭裁判所への申立てから始まり、官報・裁判所掲示板への公示催告(3か月以上)を経て審判に至ります。 つまり、申立てから審判確定まで最低でも半年〜1年以上はかかる長期戦です。shimizulawregister+1
失踪宣告で死亡とみなされる日:普通失踪と特別失踪の計算方法
死亡とみなされる日の計算は、失踪の種類によって明確に異なります。これは不動産実務でも最重要の数字です。
普通失踪の場合:
死亡日は「最後に生存が確認できた日から7年が経過した日」です。 申立てを令和7年に行ったとしても、死亡日は行方不明になった時から7年後に遡ります。
具体例で確認しましょう。
| 項目 | 日付の例 |
|---|---|
| 行方不明日 | 平成13年9月11日 |
| 申立日 | 令和7年1月6日 |
| 死亡とみなされる日 | 平成20年9月11日 |
| 裁判確定日 | 令和7年(申立から半年〜1年後) |
この例では、裁判確定日より約16〜17年も前が死亡日になります。 申立日や確定日を「死亡日」と思い込んで相続手続きを進めると、相続税の申告期限や遺産分割協議の時効計算がすべて狂います。
特別失踪の場合:
死亡日は「危難が去ったとき」です(民法第31条)。 申立要件は「危難が去ってから1年以上経過」ですが、死亡日はあくまで危難が去った日そのものです。申立要件と死亡日は別の概念である点に注意が必要です。vs-group+1
たとえば船舶沈没により行方不明になった場合、船が沈没した日が死亡日となり、その日から1年以上経過して初めて申立てができます。
失踪宣告の裁判確定日とは:死亡とみなされる日との決定的な違い
「死亡とみなされる日」と「裁判確定日」を混同するのは、不動産業従事者が犯しやすい最も危険なミスのひとつです。
裁判確定日とは何か:
失踪宣告審判確定日は、家庭裁判所が行った審判が確定した日を指します。 審判書謄本が申立人に送達されてから2週間、異議申立てがなかった場合に審判が確定します。
参考)https://vs-group.jp/lawyer/souzoku/sisso-sibobi/
申立てから審判確定までは通常6か月程度かかるため、普通失踪の場合の審判確定日は死亡日より6か月以上後になります。 特別失踪の場合は、申立要件が「危難から1年以上」のため、確定日は死亡日より1年6か月以上後になります。
戸籍謄本での記載形式:
戸籍謄本には、次のように2つの日付が別々に記録されます。souzokusodan-fukuoka+1
【死亡とみなされる日】令和4年3月10日
【失踪宣告の裁判確定日】令和6年8月5日
【届出日】令和6年8月7日
不動産登記や相続手続きでは、必ず「死亡とみなされる日」を基準として使います。 裁判確定日はあくまで手続き完了の記録であり、権利変動の起算点ではありません。これが原則です。
参考)失踪宣告の効力発生日
不動産登記における失踪宣告の実務対応:相続登記との連動
失踪宣告が確定すると、失踪者を被相続人とする相続が開始します。不動産登記の実務ではここからが本番です。
相続登記の申請タイミング:
相続登記の義務化(2024年4月施行)により、相続を知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。失踪宣告の場合、「相続を知った日」は審判確定日を基準に考えるのが実務上の通説です。ただし、死亡とみなされる日が相続開始日であることは変わりません。
失踪宣告後の相続登記に必要な書類は主に次のとおりです。
相続税申告との連動:
相続税の申告期限は、相続の開始を知った日(=失踪宣告審判確定日)の翌日から10か月以内です。 死亡とみなされる日が10年以上前であっても、申告期限は審判確定日を基準に計算される点は重要です。
意外ですね。死亡日は過去に遡るのに、税務申告の期限は裁判確定後にスタートします。
相続人が複数おり、遺産に不動産が含まれる場合は、司法書士・税理士・弁護士の3者が連携して対応するケースが多くなります。早期に専門家をアサインしておくと、後から期限切れになるリスクを防ぐことができます。
失踪宣告と認定死亡の違い:不動産実務で間違えやすいポイント
不動産実務では失踪宣告と並んで「認定死亡」という制度も登場します。混同すると手続き選択を誤るため、明確に区別しておきましょう。
| 項目 | 失踪宣告 | 認定死亡 |
|---|---|---|
| 根拠法 | 民法30条・31条 | 戸籍法89条 |
| 手続き機関 | 家庭裁判所 | 市区町村(行政) |
| 対象 | 生死不明で7年以上(普通)/ 1年以上(特別) | 死体未発見だが死亡確実な事故・災害 |
| 死亡日 | 法律で定まった日(7年満了日等) | 調査した官公署が認定した日 |
| 取消し | 可能(生存が判明した場合) | 可能 |
| 戸籍への記載 | 死亡とみなされる日・確定日が別記 | 認定死亡として記載 |
認定死亡は、たとえば大規模災害や航空機事故などで死体が発見されなかった場合に、調査した官公署の報告をもとに市区町村長が戸籍に記載するものです。 手続きは失踪宣告より迅速に完了することが多く、裁判所を経由しません。
不動産取引の場面では、売主や相続人の死亡証明として戸籍謄本を確認する際に、失踪宣告による記載なのか認定死亡による記載なのかを見分けることが求められます。記載形式が異なるため、必ず司法書士に確認を依頼するのが安全策です。
失踪宣告が取り消された場合の不動産権利への影響:見落とされがちなリスク
失踪宣告は、失踪者が生存していたことが判明した場合や、失踪宣告で定められた時点と異なる時期に死亡していたことが証明された場合に取り消されます(民法32条)。 これが不動産実務で最も見落とされやすいリスクです。
参考)失踪宣告について
取消し後の権利関係:
失踪宣告の取消しがあった場合、原則として失踪宣告によって生じた法律効果は遡及的に消滅します。つまり、相続によって取得した不動産の所有権も、理論上は効力を失います。
ただし、善意で取得した第三者は保護されます(民法32条2項)。 具体的には、失踪宣告を信頼して不動産を購入した買主が善意(生存を知らなかった)であれば、その取引は有効とみなされます。
実務上の注意点:
失踪宣告に基づく相続登記済み物件を仲介・売買する場合は、次の確認が必須です。
- ✅ 失踪宣告の審判書謄本で確定日・死亡とみなされる日を確認する
- ✅ 失踪者が現在も生存している可能性を排除できるか確認する
- ✅ 売主(相続人)が善意取得者として保護される立場にあるかを法的に確認する
- ✅ 所有権移転後の取消しリスクについて買主に説明し、重要事項説明書に記載する
取消しが現実に起きる確率は低いとはいえ、リスクゼロではありません。重要事項説明での告知漏れは宅建業法違反にもつながります。
法的リスクを正確に把握したうえで買主への説明責任を果たす。これが不動産業従事者の最低限の義務です。
不動産取引における失踪宣告案件の調査・リスク評価については、司法書士または弁護士に相談し、登記簿謄本・戸籍謄本・審判書謄本の3点を必ずセットで確認するようにしてください。
失踪宣告案件の詳細な法的手続きについては、裁判所の公式案内も参照することをおすすめします。
普通失踪・特別失踪の死亡日の計算方法と具体的な戸籍記載例については、こちらの解説が詳しいです。
失踪宣告の効力発生日と不動産登記・相続手続きへの実務的な影響については、こちらの司法書士解説も参考になります。

