使用借権評価の実務
相続税では使用借権はゼロ評価なのに、遺産分割では土地価格の10~20%を請求されます。
使用借権の評価方法と計算基準
使用借権の評価には、大きく分けて2つの方法があります。ひとつは地代相当額をベースにした計算方法、もうひとつは一定の割合を使った計算方法です。
実務では割合方式が広く用いられています。
割合方式では、借地権価格の3分の1や、更地価格の20%を使うことが多いです。たとえば、路線価で算出した自用地評価額が3,000万円で借地権割合が60%の土地の場合、借地権価格は1,800万円となります。これを使用借権として評価する際には、1,800万円×1/3=600万円、または3,000万円×20%=600万円という計算になります。
この金額は決して小さくありません。
地代相当額ベースの計算方法では、使用貸借の残存期間中に借主が得る地代相当額の利益を現在価値に換算します。たとえば、年間地代相当額が120万円で残存期間が10年の場合、複利現価率を考慮して計算することになります。ただし、この方法は計算が複雑になるため、割合方式の方が実務では好まれています。
つまり割合方式が主流です。
公共用地の取得に伴う損失補償基準でも、使用借権の評価は借地権評価額の3分の1程度を標準としています。この基準は、収用という強制的な場面での公的な評価方法として定められており、民間取引の相場形成にも影響を与えています。
みずほ中央法律事務所による使用借権評価の詳細解説では、割合方式と地代相当額方式の具体的な計算例が紹介されています
使用借権の相続税評価がゼロになる理由
国税庁の取り扱いでは、使用貸借に係る使用借権の価額はゼロとして評価されます。これは、使用貸借が無償の契約であり、権利金の授受もないため、税務上の経済的価値を認めないという考え方に基づいています。
どういうことでしょうか?
親が所有する土地に子供が無償で家を建てて住んでいる場合を考えてみましょう。この場合、子供は使用借権を持っていますが、相続税評価上は価値ゼロです。親が亡くなって相続が発生すると、その土地は自用地評価額の100%で評価されます。借地権のように評価額から控除される部分はありません。
一方で、有償の賃貸借契約がある土地では借地権が発生します。借地権割合が60%の地域で自用地評価額が3,000万円の土地なら、借地権は1,800万円、底地は1,200万円と評価されます。使用貸借ではこの借地権部分の控除がないため、貸主側の相続税評価額は高くなるのです。
評価がゼロということですね。
ただし、法人との使用貸借で「土地の無償返還に関する届出書」を提出している場合は別です。この場合、貸主の土地は自用地評価額の80%で評価され、借主である法人の株価評価には自用地評価額の20%が借地権として算入されます。貸主と株主が同一人物の場合、結果的に同族会社の株価が上昇することになるため注意が必要です。
国税庁の使用貸借に関する質疑応答事例では、使用借権をゼロ評価とする理由と具体的な取り扱いが説明されています
使用借権評価における遺産分割と特別受益の扱い
遺産分割の場面では、使用借権の評価が大きな争点になることがあります。親の土地に無償で家を建てて住んでいた相続人がいる場合、その使用借権相当額が特別受益として持ち戻し計算の対象となるかが問題となります。
実務では、使用借権が特別受益と認められるケースが多いです。評価額は更地価格の10~30%の範囲で、建物の構造や使用期間などの事情を考慮して決定されます。非堅固建物(木造など)の場合は10%程度、堅固建物(鉄筋コンクリートなど)の場合は20%程度が標準とされています。
たとえば、3,000万円の土地に木造住宅を建てて20年間無償で住んでいた場合、使用借権相当額として300万円程度(3,000万円×10%)が特別受益と評価される可能性があります。
これは決して無視できない金額です。
特別受益になるということですね。
ただし、すべての使用貸借が特別受益になるわけではありません。親の意思として持ち戻し免除が認められる場合や、同居して親の介護をしていたなど特段の事情がある場合には、特別受益に該当しないと判断されることもあります。また、使用期間が短い場合や、固定資産税相当額を負担していた場合なども、特別受益性が否定される要素となります。
一方で、使用借権が特別受益と認められた場合でも、その土地自体の評価額は使用借権相当額だけ減価されます。3,000万円の土地で使用借権が300万円と評価されれば、土地の評価額は2,700万円となり、これを基に遺産分割の計算が行われることになります。
厳しいところですね。
使用借権評価の競売実務と裁判例
不動産競売の場面では、使用借権付きの土地をどう評価するかが実務上の重要課題となっています。東京地方裁判所の競売評価実務では、明確な基準が設けられています。
非堅固建物が建っている場合は更地価格の10%を標準として減価し、堅固建物の場合は20%を標準として減価します。たとえば、評価額2,000万円の土地に鉄筋コンクリート造の建物が建っている使用貸借の場合、使用借権として400万円(2,000万円×20%)を控除し、1,600万円を競売での評価額とするわけです。
これは実務基準です。
裁判例でも、使用借権の評価について判断されたケースがあります。東京地裁昭和46年10月8日判決では、使用借権の残存期間が20年のケースで、貸主が中途解約を申し出た際の使用利益について、土地については更地価格の40%と認定しました。ただし、この40%という割合については計算の根拠が明らかにされておらず、一般化できる数値ではないとされています。
競売評価における使用借権の控除は、あくまで所有権の価値を適正に評価するためのものです。使用借権そのものを積極的に評価しているわけではなく、使用借権という負担が付いていることで土地の流通性や利用可能性が制限されることを反映させているのです。
下崎寛不動産鑑定事務所のコラムでは、使用貸借の鑑定評価における具体的な算定方法と基準が詳しく解説されています
使用借権評価における法人取引の特殊性
個人間の使用貸借と異なり、法人が絡む使用貸借では税務上の扱いが複雑になります。特に同族会社との取引では、株価評価への影響を理解しておく必要があります。
法人が個人から土地を使用貸借で借りて建物を建てている場合、「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出することが一般的です。この届出書を提出すると、法人に借地権は発生せず、将来土地を無償で返還することを約束したことになります。
結果はどうなりますか?
この届出書を提出している場合、貸主側の土地は自用地評価額の80%で評価されます。一方、借主である法人の株価評価では、自用地評価額の20%を借地権として純資産に加算する必要があります。これは、実質的に土地を利用できる経済的利益を法人が持っていることを反映させるためです。
たとえば、自用地評価額5,000万円の土地を法人が使用貸借している場合、法人の株価評価では1,000万円(5,000万円×20%)が純資産に加算されます。貸主が法人の株主でもある場合、土地の評価は4,000万円(5,000万円×80%)に下がりますが、株価評価は1,000万円上がるため、全体としては5,000万円の財産を保有していることになります。
痛いですね。
無償返還届出書を提出していない場合は、さらに複雑です。法人に借地権が発生したとみなされ、借地権相当額について認定課税が行われる可能性があります。個人から法人への借地権の贈与として、法人税や所得税の問題が生じるのです。この認定課税を避けるために、実務では無償返還届出書の提出が必須となっています。
使用借権評価の独自視点:場所的利益との関係性
使用借権の評価を考える際、もうひとつ重要な概念があります。
それは「場所的利益」です。
場所的利益とは、借地権が消滅した後も建物所有者が持つ一定の経済的利益のことで、建物買取請求権が行使された場合などに評価されます。
場所的利益の評価額は、一般的に土地価格の15%程度とされています。一方、使用借権の評価は10~20%または借地権割合の3分の1です。この2つの概念は、どちらも借地権未満の権利価値を表すものですが、その関係についてはふたつの見解があります。
ひとつは、使用借権の方が価値が高いとする見解です。使用貸借では残存期間中の法的保護があり、一定の経済的利益を享受できるのに対し、場所的利益は借地権が消滅した後の評価であるため、使用借権より低くなるはずだという論理です。
意外ですね。
もうひとつは、場所的利益の方が価値が高いとする見解です。場所的利益は借地人の生存権(生活権)を保障する最低限度の権利であり、正当な地代を支払っていた借地人の権利は、地代を支払っていなかった使用借権より保護されるべきだという考え方です。
実務では、使用借権の評価が場所的利益より高くなるケースが多いと考えられています。特に残存期間が長い使用貸借の場合、借主が享受する経済的利益は大きく、その評価額も相応に高くなるからです。ただし、個別の事案によって判断が分かれる部分であり、不動産鑑定士や弁護士の専門的な判断が必要となります。
この論点は、使用貸借が終了する際の立退料の算定や、共有物分割における全面的価格賠償の賠償金算定など、実務上重要な場面で問題となります。不動産業従事者としては、場所的利益と使用借権の違いを理解し、状況に応じた適切な評価方法を選択できるようにしておくことが重要です。
みずほ中央法律事務所による建物買取請求における場所的利益の解説では、使用借権との比較も含めた詳細な分析が掲載されています

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