少額減価償却資産の特例・個人事業主の書き方と節税活用法

少額減価償却資産の特例・個人事業主の書き方と活用ポイント

特例を全額使えたと思っていたのに、償却資産税で追加の税金が来て驚いた、という話は少なくありません。

この記事の3つのポイント
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青色申告決算書の書き方

摘要欄に「措法28の2(明細は別途保管)」と記載するだけでなく、取得価額の合計額と明細保管の旨を正しく記入しないと特例が否認されるリスクがあります。

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償却資産税は別途かかる

少額減価償却資産の特例で全額経費化した資産も、一括償却資産とは異なり償却資産税(市区町村への申告)の対象になります。忘れると申告漏れになります。

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令和8年度税制改正で40万円未満に拡大予定

2026年の税制改正により、対象上限が30万円未満から40万円未満に引き上げられる見込みです。適用期限も2029年3月31日まで3年間延長される予定です。

少額減価償却資産の特例とは・個人事業主が知るべき制度の基本

少額減価償却資産の特例とは、青色申告をしている個人事業主(または中小企業者)が、取得価額30万円未満の減価償却資産を購入した際に、その取得年度に全額を必要経費として一括計上できる制度です。正式名称は「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」といい、租税特別措置法第28条の2に基づいています。

つまり即時費用化できる制度です。

通常、10万円以上の固定資産は法定耐用年数にしたがって複数年にわたり少しずつ減価償却しなければなりません。たとえばパソコン(法定耐用年数4年)を24万円で購入した場合、通常の定額法では1年あたり約6万円ずつしか経費計上できません。しかしこの特例を使えば、購入年に24万円を丸ごと経費にすることができます。

不動産業に従事する個人事業主にとっては、管理用のパソコン、スマートフォン、撮影機材、測量機器、業務ソフトのパッケージ版など、30万円未満の設備を購入する機会は少なくありません。これらを特例によって即時経費化することで、その年の所得を圧縮し、所得税・住民税の節税につながります。

ただし、年間300万円が上限です。

1事業年度に取得した少額減価償却資産の合計取得価額が300万円を超える場合、超過分については特例を適用できません。たとえば25万円の資産を13個購入すると合計325万円になりますが、特例が使えるのは300万円分(12個分・300万円まで)に限られます。事業開始が年度途中の場合は「300万円 ÷ 12 × 事業を営んだ月数」で上限が按分されます。

なお、この特例は恒久制度ではなく期間限定の措置です。令和8年度税制改正大綱では2029年3月31日まで3年間の適用延長が示されており、あわせて取得価額の上限を40万円未満に引き上げることも検討されています(後述)。

国税庁「中小企業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例制度とは」

個人事業主が特例を使う際の公式要件と、青色申告決算書への記載方法の正式な根拠が確認できます。

少額減価償却資産の特例・個人事業主の青色申告決算書の書き方

この特例を適用するには、確定申告の際に青色申告決算書の「減価償却費の計算」欄に正しく記載する必要があります。記載が不十分だと、税務調査の際に特例の適用が否認されるリスクがあります。これが最もミスの多い落とし穴です。

記入箇所は3点です。

まず「減価償却資産の名称等」欄には「少額減価償却資産」と記入します。複数の資産を購入した場合でも、まとめて1行で記入して構いません。次に「取得年月」欄には、申告する年度だけを記入します。取得価額の欄には、その年度に取得した少額減価償却資産の取得価額の合計額を記載します。

そして摘要欄への記入が最重要です。

摘要欄には以下の3事項を記載する必要があります。

  • 少額減価償却資産の取得価額の合計額(取得価額欄に記載の金額)
  • 租税特別措置法第28条の2を適用する旨(「措法28の2」と略記)
  • 少額減価償却資産の取得価額の明細を別途保管している旨(「明細は別途保管」と記入)

実際には摘要欄に「措法28の2(明細は別途保管)」と記入するだけで、3つの要件をほぼ満たせます。この1行の書き忘れが、特例否認に直結します。

なお、償却方法の欄には「少額」と記入し、「本年分の必要経費算入額」欄は事業専用割合が100%なら取得価額合計をそのまま記入、100%でなければ取得価額に事業割合を掛けた金額を記入します。

国税庁の確定申告書等作成コーナーを利用している場合は、「減価償却資産の種類等」で「中小企業者の特例対象資産」を選択すると、摘要欄に「措置法28の2」が自動表示されます。会計ソフトを使っている場合も、固定資産登録の際に「即時償却」や「少額償却」を選択すれば自動処理されます。ただし税務要件を満たしているかどうかの最終確認は、利用者自身が行う必要があります。

国税庁「令和7年分 青色申告決算書(一般用)の書き方」(PDF)

青色申告決算書の減価償却費の計算欄の記入例が実物形式で確認できます。4ページ目に少額減価償却資産の記載例が掲載されています。

少額減価償却資産の特例・取得価額の判定で不動産業者が陥りやすいミス

不動産業や兼業で不動産投資をしている個人事業主が特に注意すべきなのが、「取得価額30万円未満かどうか」の判定基準です。ここには2つの重要な落とし穴があります。

判定は按分前の金額が原則です。

1つ目の落とし穴は家事按分です。たとえば事業と自宅を兼用する車を60万円で購入し、事業割合を40%に設定した場合、按分後の金額は24万円で「30万円未満」に見えます。しかし、少額減価償却資産かどうかの判定は按分前の元の取得価額で行うのが原則です。この場合、60万円は30万円以上のため特例は適用できません。知らずに適用すると税務調査で否認されます。

2つ目の落とし穴は貸付用資産の扱いです。

2022年4月1日以降に取得した資産については、貸付けの用に供したものは少額減価償却資産の特例の対象外となりました。これは足場材料・ドローン・LED照明などを大量購入して知人等に貸し付けることで課税を繰り延べる節税スキームが横行したことを受けた改正です。

ただし例外があります。

不動産賃貸業を主要事業とする個人事業主が、賃借人に対して家具・家電などを一緒に貸し付ける場合は「主要な事業として行われる貸付け」に該当し、引き続き特例を適用できるとされています。つまり、不動産賃貸業者が賃貸住宅の設備として購入した冷蔵庫や洗濯機(それぞれ30万円未満)などは、特例の対象になりうるということです。ただしグレーゾーンもあるため、不安な場合は税理士に確認することを勧めます。

消費税の処理方法も判定に影響します。税込経理を採用している事業主は消費税を含めた価格で判定し、税抜経理の場合は消費税抜きの価格で判定します。これを混同するとせっかく「29万円台」で購入したつもりが、税込で30万円を超えてしまうことがあります。

国税庁「No.5403 少額の減価償却資産になるかどうかの判定の例示」

取得価額が10万円未満かどうかの判定基準として、消費税の経理処理(税込・税抜)の違いによる判定方法が公式に解説されています。

少額減価償却資産の特例と一括償却資産の違い・不動産業での使い分け

少額減価償却資産の特例と混同されやすい制度として「一括償却資産」があります。両者はよく似ていますが、不動産業者が知っておくべき重要な違いがあります。

項目 少額減価償却資産の特例 一括償却資産
対象取得価額 30万円未満(改正後は40万円未満予定) 20万円未満
適用対象者 青色申告の中小企業者等のみ 規模・申告方式問わず全事業者
償却期間 取得年度に全額一括 3年間で均等償却
償却資産税 ✅ 対象(市区町村への申告必要) 対象外
年間上限 300万円 上限なし

一括償却資産の最大のメリットは、償却資産税の対象外になる点です。

少額減価償却資産の特例は「全額を今年の経費にできる」という点では節税効果が高いように見えます。しかし一括償却資産は3年間の分割とはいえ、償却資産税が発生しないため、長期的に保有する資産や複数の資産を多数購入する場合はトータルのコストで見ると一括償却資産のほうが有利なケースもあります。

不動産業では、アパートやマンションの設備備品(エアコン、給湯器など)を10万円以上20万円未満で取得した場合は一括償却資産を選ぶ、20万円以上30万円未満の資産は少額減価償却資産の特例を使う、というように使い分けを検討する価値があります。利益が出ている年は特例を積極活用し、利益が少ない年は節税効果が薄れるため一括償却を選ぶという判断軸も有効です。

マネーフォワード「少額減価償却資産は償却資産税の対象?計算方法や申告書の書き方も解説」

少額減価償却資産と一括償却資産の償却資産税の違い、償却資産申告書の記入例が詳しく解説されています。

少額減価償却資産の特例・令和8年度税制改正で何が変わるか【2026年最新】

令和8年度税制改正大綱(2025年12月公表)により、少額減価償却資産の特例に大きな見直しが示されました。これは制度が創設された2003年(平成15年)以来、初めての金額要件の見直しです。

改正のポイントは3点あります。

①取得価額の上限を40万円未満に引き上げ

現行の30万円未満から40万円未満へ10万円引き上げる方向です。物価の上昇や対象資産の価格上昇を踏まえた見直しとされています。不動産業で使う業務用タブレットや測量機器、防犯カメラシステムなども取得価額39万円台であれば一括経費化できる可能性が広がります。

②適用期限を令和11年3月31日(2029年3月31日)まで3年延長

これまで2年ごとの延長を繰り返してきた制度ですが、今回は3年間の延長となります。中長期の設備投資計画に組み込みやすくなります。

③従業員数要件の見直し(500人以下→400人以下)

適用対象から除外される法人の基準となる常時使用従業員数が「500人超」から「400人超」へ引き下げられます。ただし個人事業主は従業員1,000人以下という別の要件が適用されており、多くの不動産業従事者には直接影響しません。

なお年間300万円の上限、青色申告要件、損金経理要件は変なしの見込みです。

重要な注意点があります。

2026年3月30日現在、この税制改正はまだ国会での法案審議・成立待ちの状況です。施行前に「40万円未満」を前提として購入計画を進めることはリスクがあります。正式な法令成立を確認してから判断してください。

財務省「令和8年度税制改正の大綱」(第3章 中小企業関連)

少額減価償却資産の特例改正に関する公式の大綱文書です。改正の条文根拠と内容を原文で確認できます。

世良税理士事務所「【令和8年度改正】少額減価償却資産の特例が40万円未満に拡大」

令和8年度税制改正による変更点を3つのポイントに整理して解説しており、現行制度との比較も確認できます。

少額減価償却資産の特例・不動産業者が使いやすいケース別チェックリスト

ここまでの内容を踏まえ、不動産業に従事する個人事業主が実際にどのようなケースで少額減価償却資産の特例を活用しやすいかを整理します。

特例を使いやすいケース

  • 📸 不動産物件の撮影用カメラ・レンズ(合計25万円など):業務専用なら適用可
  • 💻 業務管理用パソコン(20万円台):法定耐用年数4年を待たずに即時経費化
  • 🔑 鍵管理システムや電子錠(20万円台):設備備品として適用検討の余地あり
  • 📦 パッケージ型の業務ソフト(不動産管理ソフトなど、30万円未満):無形固定資産も対象
  • 🛋️ 入居者に貸し付ける家具・家電(主要事業の不動産賃貸業者の場合):2022年改正後も「主要事業」なら対象

特例が使えないケース

  • ❌ 取得価額が30万円以上の資産(例:35万円の高性能カメラ)→ 通常の減価償却または来年度の改正後を待つ
  • ❌ 白色申告での申告→ 青色申告に切り替えることが前提条件
  • ❌ 主要事業外の節税目的で購入・貸付する資産(2022年4月1日以降取得分)
  • ❌ 家事按分後に30万円未満になる資産でも、按分前の取得価額が30万円以上のもの
  • ❌ クラウド型サブスクリプションソフト(資産計上ではなく利用料として経費処理)

これは使えそうです。

白色申告で確定申告をしている方は、少額減価償却資産の特例自体を利用できません。この特例を活用したいならば、適用を受けたい年の前年3月15日までに所轄税務署へ「所得税の青色申告承認申請書」を提出して青色申告に切り替えることが大前提です。青色申告の65万円控除という別の節税メリットも合わせて得られるため、不動産所得がある個人事業主であれば切り替えを強く勧めます。

なお、少額減価償却資産の特例を使った資産は固定資産台帳でも管理する必要があります。帳簿には「工具器具備品(または備品)」として購入時に計上し、期末に「減価償却費」として全額費用計上するという2段階の仕訳が必要です。購入時から領収書・明細を整理しておくと、年度末のまとめ作業がスムーズになります。明細書の保管期間は最低7年です。

中小企業庁「少額減価償却資産の特例」

制度の対象者要件と適用条件が中小企業庁の公式ページで確認できます。個人事業主の要件(従業員1,000人以下)についても明記されています。