主たる事務所と従たる事務所の違い・設置要件と手続き完全解説

主たる事務所と従たる事務所の違い・宅建業の実務ポイントを徹底解説

不動産業を営む本店が宅建業を一切やっていなくても、専任の宅建士を置かないと免許が受けられません。

この記事の3ポイント要約
🏢

主たる事務所=本店は「常に」宅建業の事務所

本店では宅建業を営んでいなくても、支店で営んでいるだけで本店も宅建業法の「事務所」に該当します。専任宅建士の配置と営業保証金1,000万円が必要になります。

🏬

従たる事務所=支店は「実態」で判断される

支店として登記されていても宅建業を営んでいなければ「事務所」には該当しません。逆に、登記がなくても実態があれば事務所として扱われます。登記の有無だけでは判断できない点に注意が必要です。

📋

変更・新設には30日以内の届出が必須

従たる事務所の新設・廃止・名称変更はすべて変更後30日以内に届出が必要です。怠ると行政指導や業務停止処分の対象になります。

主たる事務所・従たる事務所の基本的な定義と宅建業法上の位置づけ

宅建業においては、事務所の区分が免許の種別や設置義務の内容を左右します。まず用語の意味を正確に押さえておきましょう。

「主たる事務所」とは、会社の本店(法人の場合)または個人事業主の営業の本拠地のことです。いわゆる「本社」「本店」に当たるもので、会社の経営判断や中枢的な業務管理が行われる場所を指します。一方、「従たる事務所」とは、主たる事務所以外に設置された支店や営業所のことで、本店の指揮・監督のもとで業務を行う拠点です。

宅建業法施行令第1条の2では、宅建業の「事務所」として以下の3つが定められています。

種類 具体的な内容 宅建業不実施時の扱い
本店(主たる事務所) 商業登記簿上の本店 常に事務所に該当する
支店(従たる事務所) 商業登記簿上の支店 宅建業を行わなければ該当しない
継続的施設 継続的に業務ができる場所で契約権限を持つ使用人がいる場所 実態があれば登記不要でも該当する

ここで重要なのは、本店と支店で扱いが大きく異なる点です。つまり「本店は常に事務所」が原則です。

支店については宅建業を実際に営んでいるかどうかが判断基準になりますが、本店は違います。本店では一切宅建業を取り扱っていなくても、支店でたった1か所でも宅建業を行っている限り、本店は自動的に宅建業法上の「事務所」として扱われます。

これは実務上でとても大きな意味を持ちます。本店に専任の宅建士を置かなければならない、営業保証金を本店分として1,000万円用意しなければならない、といった義務が発生するからです。登記上の本店が「社長の自宅」や「使っていない旧事務所」であっても、この原則は変わりません。

参考:宅建業免許における本店・支店・従たる事務所の取り扱いについて詳しく解説されています。

宅建業免許における本店と支店と従たる事務所|宅建支援.net

主たる事務所と従たる事務所で異なる専任宅建士の配置ルール

専任宅建士の配置ルールは「事務所ごとに5名に1名以上の割合」が基本です。これが原則です。

主たる事務所であっても従たる事務所であっても、この割合は同じです。ただし、両者の間には実務上見落としやすい重要な違いがあります。

まず、主たる事務所(本店)については宅建業を営んでいるかどうかに関係なく配置義務が生じます。専任宅建士が不在のまま放置すると、業務停止命令の対象となります。悪質な場合は免許取り消し処分につながる可能性もあります。

従たる事務所については、支店として登記されていても、宅建業を行っていなければ専任宅建士の設置義務は生じません。逆に、登記のない「営業所」でも宅建業を継続的に行っていれば設置が必要です。登記の有無と設置義務の有無は必ずしも一致しません。

次に、専任宅建士の「専任性」の問題があります。専任とは「その事務所に常勤し、専従で業務に従事している状態」を意味します。本店の専任宅建士が従たる事務所の専任宅建士を兼務することは、原則としてできません。

  • 本店と支店A、両方の専任宅建士を1人に兼務させる → ❌ 違反
  • 本店の専任宅建士を支店Aに異動させて、支店A専属にする → ✅ 問題なし
  • 支店Aと支店Bを1人が掛け持ち(兼務) → ❌ 違反

専任宅建士が不足した状態が発覚すると、まず行政指導(文書勧告)が行われます。これは公表されませんが、その後改善されなければ業務停止処分に進みます。業務停止処分になると業者名と処分内容が公表されるため、会社のブランドイメージにも直結します。厳しいところですね。

専任宅建士が退職等で不在になった場合、2週間以内に補充等の措置を取ることが宅建業法で義務付けられています。採用計画は余裕を持って立てておくことが重要です。

参考:専任宅建士不在時のリスクと行政処分の流れが詳しくまとめられています。

専任の宅地建物取引士を設置せずに営業するリスク|宅建業免許ネット

主たる事務所と従たる事務所で変わる営業保証金・分担金の額

宅建業者が開業する際には、消費者保護の観点から「営業保証金の供託」または「保証協会への加入と弁済業務保証金分担金の納付」が義務付けられています。この金額は、主たる事務所と従たる事務所で異なります。

区分 営業保証金(供託) 弁済業務保証金分担金(協会加入)
主たる事務所(本店) 1,000万円 60万円
従たる事務所(支店等)1か所あたり 500万円 30万円

営業保証金を直接供託する場合、本店1か所だけで1,000万円が必要です。本店+支店2か所なら1,000万円+500万円×2=2,000万円となります。中小の不動産会社にとって決して小さくない金額です。

保証協会に加入する場合は、本店60万円+支店1か所につき30万円で済むため、コスト面でははるかに有利です。多くの事業者が保証協会(ハトマークの「全宅連」またはウサギマークの「全日本不動産協会」)に加入する主な理由がここにあります。

供託先については注意が必要です。営業保証金はすべて「主たる事務所の最寄りの供託所」に一括して供託します。従たる事務所の分を、その支店所在地近くの供託所に別途供託してしまうミスが実務上よく起きています。供託先は1か所に統一するのが条件です。

さらに見落としやすいのは、事務所を1か所追加するたびに保証金額が増える点です。従たる事務所を1つ増やすたびに、営業保証金なら追加500万円、弁済業務保証金分担金なら追加30万円が必要になります。事業拡大のコスト計算には必ずこの増額分を織り込みましょう。

参考:営業保証金・弁済業務保証金分担金の詳しい金額と手続きが解説されています。

宅建業の営業保証金は供託するべきか協会に加入するべきか|兵庫県宅地建物取引業協会

従たる事務所の新設・廃止時に必要な変更届の手続きと注意点

従たる事務所を新しく設置したり廃止したりする場合、宅建業法第9条に基づいて「変更があった日から30日以内」に変更届を提出しなければなりません。これは義務です。

実務上、よく見落とされるのが「届出先」と「届出のタイミング」の問題です。届出は免許を受けた都道府県知事または国土交通大臣に対して行いますが、従たる事務所が別の都道府県に位置する場合は手続きが複雑になります。

具体的には、1つの都道府県内にすべての事務所があれば「都道府県知事免許」で済みますが、2つ以上の都道府県にまたがって事務所を置く場合は「国土交通大臣免許」が必要です。従たる事務所を別の都道府県に設置する場合、単なる変更届にとどまらず「免許換え申請」も同時に行わなければなりません。

これは新規免許申請と同程度の手間がかかります。書類準備は早めに動くことが不可欠です。

また、事務所の名称にも注意が必要です。登記されていない従たる事務所に「○○支店」という名称を付けようとすると、行政庁から理由書の提出を求められたり、申請を受け付けてもらえないケースがあります。登記のない事務所には「○○営業所」「○○店」「○○サテライト」など、「支店」という文言を使わない名称にするのが無難です。

  • 🔴 「○○支店」(登記なし)→ 行政から指摘を受けやすい
  • 🟢 「○○営業所」「○○店」(登記なし)→ 問題なく受理されやすい

さらに、新しい従たる事務所を開設するには、その事務所専属の「政令使用人」と「専任の宅建士」を事前に確保しておく必要があります。申請してから人員を探すのでは、審査期間中も家賃や人件費だけが発生するリスクがあります。

参考:従たる事務所の廃止・名称変更の変更届についての手続きが解説されています。

【変更届】従たる事務所の廃止、名称の変更|宅建業免許 大阪サポート

実務者が見落としがちな「従たる事務所の独立性」要件と判断基準

宅建業の事務所として認められるためには、「独立性」という要件が実務上の大きなハードルになります。これは法令に明確な定義はなく、都道府県の実務担当者が写真や図面を見て個別に判断します。

独立性の要件として確認される主なポイントは以下の通りです。

  • 入り口から事務所スペースまで独立していること(共有スペースを通らずに入れる)
  • デスク・椅子・電話・FAX・コピー機・宅建業免許証など事務機器が揃っていること
  • 他の業種や他の事業者と空間を明確に区別していること
  • テント張り・仮設建物・ホテルの一室は不可

意外なのは、「自宅の2階の部屋」や「他のオフィスと間仕切りなしで共有しているフロア」は事務所として認められないという点です。「場所さえあれば通る」という思い込みは危険です。

また、固定電話番号の専用割り当ても強く求められます。本店と共通の番号、または携帯電話番号のみでの登録は受け付けてもらえません。各事務所にそれぞれ専用の固定電話番号を用意することが条件です。

従たる事務所を設置する計画がある場合は、物件契約の前段階から独立性の確保を意識した物件選びをすることが重要です。後から内装工事で対応しようとすると追加コストが発生します。申請が却下されてからでは手遅れになる場合もあるため、都道府県の担当窓口に事前相談することをおすすめします。事前相談は無料です。

参考:宅建業法における事務所の独立性・設備要件について詳しく解説されています。

宅建業法が定める「事務所」とはどんな場所なのか?|愛知宅建業免許.com