収益還元法 計算式と直接還元法 DCF法の違い

収益還元法 計算式の基礎知識

還元利回り1%の差で評価額が数千万円変わります。

📊 この記事の3ポイント要約
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収益還元法の2つの計算式

直接還元法は1年間の純収益を還元利回りで割る簡便な方法、DCF法は複数年の収益を現在価値に割り引く精緻な方法です。

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純収益の正確な計算が必須

賃料収入から経費(管理費・修繕費・税金など)を正確に差し引き、空室率も考慮した純収益の算出が収益還元法の基礎となります。

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還元利回り設定の重要性

還元利回りは周辺事例や市場動向から慎重に設定する必要があり、わずか1%の差でも物件評価額が数千万円単位で変動します。

収益還元法の基本概念と計算式の構造

 

収益還元法とは、不動産が将来生み出す収益を現在価値に換算して不動産価格を求める評価方法です。国土交通省が定める不動産鑑定評価基準においても、収益物件の評価における中心的な手法として位置づけられています。計算式の基本は「不動産価格=純収益÷還元利回り」というシンプルな構造ですが、この式には物件の収益力と市場の期待利回りが凝縮されています。

収益還元法が重視されるのは、投資用不動産の本質的価値を数値化できるからです。居住用物件の評価には取引事例比較法が用いられることが多いですが、賃貸物件やビルなどの収益物件では、その物件がどれだけの利益を生むかが最も重要な評価基準となります。

つまり収益が基本です。

純収益の計算では、年間賃料収入から必要経費を差し引きます。必要経費には、固定資産税・都市計画税、管理費、修繕費、広告宣伝費、人件費、保険料などが含まれます。さらに空室率を考慮した実質的な賃料収入を算出する必要があり、満室想定の賃料収入をそのまま使うと過大評価につながります。空室率5%を見込むだけで年間収益は大きく変わるわけです。

還元利回りの設定は、収益還元法において最も慎重を要する部分です。周辺の類似物件の取引事例から求める方法、長期金利に不動産のリスクプレミアムを加算して求める方法など、複数のアプローチがあります。賃貸用住宅なら5~8%、事業用物件なら7~10%程度が一般的な目安とされていますが、立地や築年数、物件特性によって大きく変動します。

国土交通省の不動産鑑定評価基準PDF(収益還元法の詳細な定義と適用基準が記載)

収益還元法における直接還元法の計算手順

直接還元法は、1年間の純収益を一定の還元利回りで割り戻すことで不動産価格を算出する方法です。計算式は「不動産価格=1年間の純収益÷還元利回り」となり、最もシンプルで実務でも頻繁に使用されます。

計算が簡便なのが最大の特徴です。

具体的な計算例を見てみましょう。年間賃料収入が1,200万円の物件があるとします。空室率を5%と見込むと、実質的な賃料収入は1,200万円×0.95=1,140万円です。

ここから年間経費を差し引きます。

経費項目として、固定資産税・都市計画税が80万円、管理費が60万円、修繕積立金が40万円、その他諸経費が40万円で合計220万円とすると、純収益は1,140万円-220万円=920万円となります。

還元利回りを6%と設定した場合、不動産価格は920万円÷0.06≒1億5,333万円と算出されます。もし還元利回りを5%と設定すれば、920万円÷0.05=1億8,400万円となり、わずか1%の差で約3,000万円もの評価額の差が生じることがわかります。利回り設定が価格を左右するということですね。

直接還元法のメリットは、計算が単純で迅速に物件価値の目安をつかめることです。売買交渉の初期段階や、複数物件を比較検討する際には非常に有効な手法となります。ただし将来の賃料変動や大規模修繕などの一時的な支出を織り込みにくいという限界もあります。

安定収益前提の簡易評価に向くわけです。

実務では、賃料の単位ミスが致命的なエラーにつながります。物件資料には月額賃料が記載されていることが多く、これを年額に変換せずに計算すると、評価額が12分の1になってしまいます。月額10万円の賃料を年額120万円に変換する作業は当たり前に見えますが、複数物件を同時に評価する際には見落としやすいポイントです。

必ず単位確認をしましょう。

収益還元法におけるDCF法の詳細な計算プロセス

DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)は、将来の複数年にわたる純収益と売却価格を現在価値に割り引いて合計し、不動産価格を求める方法です。直接還元法よりも複雑ですが、将来の収益変動や売却時期を考慮できるため、より精緻な評価が可能になります。

長期保有を前提とした評価に適しています。

DCF法の計算式は、各年の純収益を割引率で現在価値に変換し、それらを合計するという手順を踏みます。例えば10年保有を想定する場合、1年目から10年目までの各年の純収益をそれぞれ割引率で割り戻します。1年目の純収益をNCF1、割引率をrとすると、1年目の現在価値はNCF1÷(1+r)、2年目の現在価値はNCF2÷(1+r)²となります。

これが割引現在価値の基本です。

加えて、10年後の売却を想定した場合、売却価格(復帰価格)も現在価値に変換して加算します。売却価格の算出には最終還元利回りを用いることが一般的で、10年目の純収益を最終還元利回りで割って売却価格を求め、それを割引率の10乗で割り戻します。売却価格も現在価値換算が必要ということですね。

具体的な計算例として、年間純収益が1年目から5年目まで900万円、6年目から10年目まで850万円(築年劣化を考慮)、割引率5%、最終還元利回り6%、10年目の純収益850万円とします。10年目の売却価格は850万円÷0.06≒1億4,167万円です。各年の純収益の現在価値と売却価格の現在価値を合算すると、物件価格は約1億4,800万円程度と算出されます(詳細計算は複雑なため概算値)。

精緻な計算が求められます。

DCF法のデメリットは、将来予測の精度に結果が大きく左右されることです。10年後の賃料水準や空室率、売却価格を正確に予測することは困難であり、前提条件が変われば評価額も大きく変動します。また計算が複雑なため、エクセルなどの計算ツールを使用することが一般的で、手計算での算出は現実的ではありません。

ツール活用が前提の手法です。

実務では、割引率と最終還元利回りの設定が評価の要となります。割引率は投資家が期待する利回りを反映し、最終還元利回りは将来売却時の市場利回りを想定します。一般的に割引率よりも最終還元利回りの方がやや高めに設定されることが多く、これは将来の不確実性リスクを反映したものです。適切な利回り設定には市場動向の把握が欠かせません。

収益還元法の純収益計算で見落としやすい経費項目

純収益の計算では、賃料収入から差し引く経費項目を正確に把握することが極めて重要です。見落としがちな経費項目として、まず大規模修繕費があります。外壁塗装や屋上防水などの大規模修繕は10~15年周期で発生し、一度に数百万円から数千万円の支出となりますが、これを年平均額に換算して経費に計上する必要があります。

修繕積立は必須項目です。

PM(プロパティマネジメント)フィーも重要な経費項目です。賃貸管理会社に支払う管理手数料は賃料収入の3~5%程度が一般的ですが、物件規模や管理内容によって変動します。また原状回復費用、入居者募集時の広告宣伝費(賃料1~2ヶ月分程度)も定期的に発生する経費として見込む必要があります。

募集費用も忘れずに計上しましょう。

空室損失と貸倒損失も経費ではなく収入の減少要因として計上します。国土交通省の不動産鑑定評価基準では、空室損失は経費項目ではなく収入項目で調整することが明記されています。例えば満室想定賃料1,200万円、空室率5%の場合、実質賃料収入を1,140万円として計算を開始するのが正しい方法です。

空室は収入側で考慮するのが原則です。

見落としやすい経費として、火災保険料や地震保険料があります。年間数十万円規模の支出となることもあり、特に築古物件や木造物件では保険料が高額になる傾向があります。また物件所有者が法人の場合、事務所経費や人件費の一部を物件経費として按分計上することも必要です。

細かい経費も積み重なれば大きくなります。

エレベーター保守費用、貯水槽清掃費用、消防設備点検費用など、法定点検に関わる経費も定期的に発生します。これらは年間契約で固定費となることが多いですが、物件規模が大きいほど金額も増加します。共用部分の光熱費(廊下照明、エレベーター電気代など)も忘れがちな経費項目です。

法定点検費用は必ず見込みましょう。

純収益の精度を高めるために、過去3年分程度の実績データを確認することが推奨されます。特に修繕費や空室率は年度によって変動が大きいため、平均値を用いることで安定した評価が可能になります。実績ベースの経費率は物件種別によって異なり、ワンルームマンションで20~25%、ファミリータイプで25~30%程度が目安とされています。

実績データの活用が精度向上につながります。

収益還元法と積算法・取引事例比較法の使い分け

不動産評価には収益還元法のほかに、積算法(原価法)と取引事例比較法があり、それぞれ異なる視点から物件価値を評価します。積算法は土地の価格と建物の再調達原価から減価償却を考慮して価格を算出する方法で、物件の担保価値や最低ラインの価値を把握する際に用いられます。

担保評価では積算法が重視されます。

取引事例比較法は、類似物件の実際の取引事例を収集し、物件条件の違いを補正して対象物件の価格を推定する方法です。居住用マンションや土地の売買では最も一般的に用いられる手法で、市場性を直接反映できるメリットがあります。ただし収益物件の場合、取引事例があっても収益力が異なるため、取引価格だけでは適正評価が困難です。

市場価格の把握に有効な手法です。

収益還元法は投資用不動産の評価において最も重視される手法です。賃貸マンション、オフィスビル、商業施設、ホテルなど、収益を生む物件の評価では、その物件がどれだけの利益を生み出すかが本質的価値となります。銀行融資の際にも、積算評価だけでなく収益還元評価を求められることが増えており、投資判断の中心的指標となっています。

収益力こそが投資物件の真の価値です。

実務では3つの手法を組み合わせて総合的に評価することが推奨されます。例えば収益還元法で1億5,000万円、積算法で1億2,000万円、取引事例比較法で1億4,000万円と算出された場合、収益還元法の評価を重視しつつ、積算評価が著しく低い場合は担保価値の面でリスクがあると判断します。

多角的評価がリスク把握につながります。

金融機関の融資姿勢も評価手法によって変わります。積算評価が高い物件は担保価値が確保されているため融資が出やすい一方、収益還元評価が高くても積算評価が低い物件は融資条件が厳しくなる傾向があります。特に地方物件では土地値が低く積算評価が出にくいため、収益力が高くても融資が難しいケースがあります。

融資判断には両面の評価が影響します。

収益還元法を使いこなすには、市場動向の継続的な把握が不可欠です。周辺エリアの賃料相場、空室率、還元利回り(キャップレート)のトレンドを定期的にチェックし、評価の前提条件を適切に設定する必要があります。日本不動産研究所が公表する「不動産投資家調査」などの資料を参考に、エリア別・物件種別の利回り水準を確認することが実務では重要です。

市場データの活用が評価精度を高めます。

一般財団法人日本不動産研究所「不動産投資家調査」(エリア別・物件種別の期待利回りデータ)

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