測量法改正で変わる不動産取引の実務と対応策

測量法改正が宅建実務に与える影響と対応のポイント

地籍調査が済んだ土地でも、確定測量の費用が30万円以上かかることがあります。

📌 この記事の3つのポイント
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施行タイミングを押さえる

令和6年6月12日公布、令和7年4月1日施行。測量成果の電子化・測量業登録の暴力団排除など3本柱の改正内容を理解することが実務の第一歩です。

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電子化で実務が変わる

国土地理院の基準点データ等が電子請求で取得可能になり、手続きの手間と時間が大幅に削減されます。不動産取引の事前調査でも活用できます。

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担い手不足で費用は上昇傾向

測量士・測量士補の高齢化と若手不足が深刻化。測量費用の高騰は宅建業者が仲介する土地取引のコスト構造に直接影響します。改正で担い手確保策が動き出しました。

測量法改正の背景:担い手不足と技術の進展が引き金

 

令和6年の測量法改正は、突然やってきた改正ではありません。その背景には、長年にわたって積み上がってきた構造的な問題があります。

測量業界では、技術者の高齢化と若手不足が年々深刻さを増しています。国土地理院が令和5年度に実施した「測量業における測量士・測量士補に関する実態調査」では、「現状でも測量士(管理技術者)が不足しているため受注できない場合がある」「このまま廃業も人ごとではない」といった現場の声が相次いで寄せられています。測量業者が減ることは、宅建業者にとっても他人事ではありません。

担い手が減れば、測量の予約待ちが長期化し、費用も上がります。確定測量の費用相場は現在、一般的な住宅地で30〜50万円程度、道路や水路との境界が絡む場合はそれ以上になることも珍しくありません。東京都内の住宅地では80〜100万円を超えるケースもあります。

もう一つの背景が、技術の急速な進展です。ドローンや3Dレーザースキャナー、GNSS測量機など新たな測量技術が現場に普及しているにもかかわらず、資格試験や養成施設の要件が古いままでした。つまり原則です。

新技術に対応できる技術者を育てる仕組みが追いついていない。それが今回の改正の大きな動機になっています。宅建業者が日々関わる土地取引においても、境界確定の精度向上や調査スピードの改善という形で、こうした技術革新の恩恵が届くことが期待されています。

参考:国土地理院「測量法の一部改正について」

測量法の一部改正について | 国土地理院

測量法改正の3つの柱:宅建事業者が知るべき変更点

今回の改正は大きく3つの柱で構成されています。それぞれの内容を宅建業者の目線で整理します。

①技術の進展に対応した担い手の確保

測量士・測量士補を輩出する「養成施設」の登録要件が見直されました。授業科目・実習機器・専任教員の人数などが時代に合った内容に更新されたほか、専任教員の人数要件が最小限に緩和されています。

また、学位授与機構による学位授与者など、従来の有資格者と同等以上の知識・技能を持つと国土交通大臣が認定した者にも、測量士・測量士補の資格を付与できる仕組みが整いました。これはいいことですね。新しい入口を増やすことで、担い手不足の解消を図る狙いがあります。

さらに、資格制度そのものの在り方について中長期的に検討していく姿勢を政府に求める規定も設けられました。

②測量成果等の提供の電子化

これまで紙媒体のみだった測量成果(謄本・抄本)の交付が、電子データでも可能になりました。令和7年4月1日から、国土地理院に対して電磁的記録の書面交付や電子提供を請求できます。

手数料についても整備されました。測量記録の「点の記」の場合、従来の紙請求で1点あたり210円、電子請求に切り替えると180円と、わずかながらコスト削減になります。基準点データなどを頻繁に使う測量業者にとっては、まとまった差になる可能性があります。

③測量業の登録に関する暴力団排除規定の整備

令和7年4月1日施行の改正で、測量業者としての登録拒否理由に「暴力団員等」および「暴力団員等がその事業活動を支配する者」が正式に追加されました。これに伴い、登録申請者が登録拒否理由に該当しないことを宣誓する書面の様式も改正されています。測量業者の信頼性が担保される仕組みが整備されたということです。

宅建業者にとっては、依頼する測量業者の適格性をより安心して確認できる環境になったと言えます。

参考:国土地理院「測量法施行令・測量法施行規則の改正について」

「測量法施行令の一部を改正する政令」及び「測量法施行規則の一部を改正する省令」について | 国土地理院

測量成果の電子化が土地取引の実務を変える理由

測量成果の電子化は、宅建業者にとって「測量業者の話」に聞こえるかもしれません。しかし実際には、土地取引の実務に直接影響するポイントがあります。

まず、基準点データの入手が簡便になります。これまで国土地理院から基準点データを取得する際には、紙を前提とした手続きが残っており、時間がかかることがありました。電子化によってこの手続きがスムーズになれば、測量業者がデータ収集にかける時間を短縮でき、結果として測量全体のスピードが上がります。つまり、宅建業者が依頼する確定測量や境界確認の期間が短縮される方向に動くわけです。

次に、測量成果の保管・共有が容易になります。紙の成果を保管・郵送する手間がなくなり、電子データとして管理できるため、測量データの活用幅が広がります。GIS(地理情報システム)との連携も容易になり、たとえば宅建業者が物件調査で利用するデジタル地図との整合確認がしやすくなります。これは使えそうです。

一方で、電子データの活用には注意点もあります。電磁的記録として提供される測量成果は、正確に管理・取り扱う必要があります。業務上取得した測量データの不適切な転用や改ざんは、法的リスクにつながる点は変わりません。電子化に伴うデータ管理のルールを確認しておくことが条件です。

宅建業者として今できる実務上の対応は、依頼している土地家屋調査士や測量業者に「電子化後の基準点データ取得の手続きに変更はあるか」を確認しておくことです。行動は一つで十分です。

地籍調査の進捗と境界問題:宅建業者が知らないと損するリスク

測量法改正と並行して、宅建業者が必ず把握しておきたいのが地籍調査の現状です。

令和5年度末時点での地籍調査の全体進捗率は53%です。調査開始から70年以上が経過していますが、日本の土地の約半分はまだ境界が公式には確認されていない状態にあります。都道府県別に見ると、千葉・神奈川・大阪・京都・奈良などの都市部の進捗率が著しく低い状況です。不動産取引の件数が多い都市部こそ、境界問題のリスクが高い地域とも言えます。

地籍調査が完了した地域では、「14条地図」として法務局に備え付けられた高精度の地図が整備されます。法務局に備え付けられている14条地図約432万枚のうち、7割以上が国土調査による地籍図です。宅建業者が物件調査で取得している地籍図の多くが、実は国土調査の成果であることは、あまり知られていません。意外ですね。

一方、地籍調査未了の地域では、境界が不明確なまま取引が進むリスクがあります。こうした地域で土地の売買を行う場合、境界未確定のまま公簿面積で取引すると、引渡し後に実測面積との差が明らかになり、代金精算トラブルや境界紛争に発展することがあります。

令和6年6月に施行された「土地境界みなし確認制度」は、この状況を変える可能性があります。所有者に筆界案を送付し、期限(起算日から20日間)以内に意見の申し出等がなければ「確認を得たものとみなす」として調査を進める制度です。これにより所有者不明土地などでも調査が進みやすくなり、地籍調査の加速が見込まれます。

宅建業者が土地所有者から「地籍調査の説明会があるんだけど参加すべき?」と相談を受けた場合、積極的に協力を勧めてください。所有者は費用負担なしで測量成果を得られる、という点が最大のメリットです。

参考:不動産業者必見の土地境界みなし確認制度解説

【国土調査の加速と進捗率への影響】不動産業者必見の土地境界みなし確認制度
2024年は第七次国土調査事業十箇年計画、いわゆる国土調査の中間期にあたります。 国土調査は、昭和26年に施行された国土調査法及び、昭和37年に施行された国土調査促進特別措置法に基づき実施される、科学

測量法改正を踏まえた宅建業者の実務チェックリスト

ここまでの内容を踏まえて、宅建事業者が今すぐ実務で確認・対応すべきポイントを整理します。これが基本です。

🔍 物件調査・重要事項説明への影響

土地取引において境界確定は重要事項説明の核心部分です。売主に「確定測量図の有無」「直近の測量実施年」を確認し、古い測量図(特に平成17年の不動産登記法改正前のもの)の場合は再測量が必要か検討してください。なお、平成17年改正後は分筆残地も含めて測量が求められるようになったため、古い地積測量図が残っている土地は注意が必要です。

確認項目 チェックポイント 対応の優先度
確定測量図の有無 作成年が平成17年以降か確認 🔴 高
隣地との境界確認書 隣地全筆との確認書が揃っているか 🔴 高
地籍調査の完了有無 14条地図(法務局)か旧公図かを確認 🟡 中
測量成果の電子データ対応 依頼先測量業者の電子化対応状況を確認 🟢 低(今後対応)
測量業者の登録確認 国土交通省の登録業者かを確認(暴排規定対応) 🟡 中

💰 測量費用の見積もり時期と負担交渉

測量費用は原則として売主負担ですが、法的な義務規定はありません。宅建業者が仲介に入る場合、契約前に測量費用の見積もりを取り、誰が・いつ・どのタイミングで費用負担するかを明確に定めておくことが重要です。担い手不足の影響で測量業者の予約が取りにくくなっているエリアも増えているため、「手付金授受後すぐに測量を発注する」というスケジュールが現実的なケースもあります。

📋 測量業者の選定と信頼性確認

今回の改正で暴力団排除規定が整備されたことで、国土交通省の各地方整備局等に登録された測量業者かどうかをあらかじめ確認することが、より重要になっています。登録の有無は国土交通省の地方整備局ウェブサイトで確認できます。依頼先の測量業者が適正に登録されているかを確認するだけで、取引の信頼性が高まります。

参考:宅建業者向け境界トラブル防止の留意点(神奈川県宅建協会)

不動産取引に伴う境界トラブル防止の留意点(PDF)

【独自視点】測量法改正が「土地の売れやすさ」を変える中長期シナリオ

測量法改正の影響は、短期的な手続き変更にとどまりません。中長期的に見ると、日本の「土地の売れやすさ」そのものに変化をもたらす可能性があります。これは他の媒体ではあまり語られない視点です。

現在、全国の都市部を中心に、境界が未確定のまま長年放置されてきた土地が多数存在します。こうした土地は市場に出にくく、売却・活用が進みません。特に相続で取得した「負動産」と呼ばれるような土地の多くに、境界問題が絡んでいます。

今回の改正で担い手確保策が動き出し、並行して地籍調査も「土地境界みなし確認制度」によって加速が見込まれます。担い手が増えれば測量の供給が増え、費用が安定または低下する。地籍調査が進めば境界問題を抱えた土地が順次整理されていく。この二つの流れが重なれば、これまで取引困難だった土地が市場に出始める可能性があります。

宅建業者にとっては、新たな仲介案件の発掘機会が増えるシナリオとも読めます。積極的に動けば得ですね。

一方でリスクもあります。今後5〜10年の間に測量費用の変動幅が大きくなる可能性があります。担い手不足が続く間は費用高止まり、担い手確保策が機能し始めると需給バランスが変化する。こうしたタイミングのズレが、不動産売却のコスト試算を難しくする要因になります。

宅建業者として今から準備できることは、担当エリアの地籍調査の進捗状況と、信頼できる土地家屋調査士・測量業者のネットワークを手元に持つことです。法改正の知識だけでなく、「実際に動いてくれるパートナー」を持っている業者が、測量法改正後の不動産市場で強みを発揮できるでしょう。

参考:三井住友トラスト不動産「地積測量図は土地家屋調査士以外でも作れる?」(確認作業の整理に有用)

https://smtrc.jp/useful/knowledge/kyokai-hikai/2024_01.html

税理士が押さえておきたい 地主・不動産オーナーの相続発生後 関与の勘所