損害賠償額の予定・例と違約金の制限を徹底解説

損害賠償額の予定の例と制限・不動産実務の重要ポイント

損害賠償の予定額を「20%以下に設定したから大丈夫」と思っていると、業者間取引で上限なしの違約金を請求されて数百万円の損失が出ます。

📋 この記事の3つのポイント
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民法と宅建業法でルールが異なる

民法420条では損害賠償額の予定に上限はないが、宅建業法38条では宅建業者が売主の場合に代金の20%以下という制限がある。どちらが適用されるかを正確に判断する必要がある。

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業者間取引は8種規制の適用外

売主・買主ともに宅建業者の場合は20%上限の規制が外れる。30%・40%の違約金条項も有効になるため、業者間の売買では契約書の特約を必ず確認することが重要。

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35条書面・37条書面への記載義務がある

損害賠償額の予定や違約金の定めは重要事項説明書(35条書面)と契約書(37条書面)の両方に記載・説明が必要。定めがない場合でも37条書面での記載省略はできない。


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損害賠償額の予定とは何か・不動産実務における基本的な仕組み

不動産の売買契約では、債務不履行が起きたときにトラブルが発生しやすいです。「実際の損害がいくらなのか」を証明するのは非常に難しく、当事者間で揉めるケースが後を絶ちません。そこで事前に「もし債務不履行が起きた場合には○○円を支払う」と取り決めておく仕組みが、損害賠償額の予定です(民法420条1項)。

損害賠償額の予定が設定されると、債権者は債務不履行の事実さえ立証すれば足り、損害額や損害の発生事実を別途立証する必要がなくなります。反対に、実際の損害が予定額を大きく上回っていても、原則として予定額を超えて請求することはできません。これが基本原則です。

実務上の具体例を挙げると分かりやすいでしょう。例えば4,000万円のマンションで、損害賠償の予定額を「代金の20%である800万円」と設定したとします。買主が債務不履行を起こして契約解除になった場合、売主は損害額の証明なしに800万円を請求できます。逆に、実際には1,000万円の損害が生じていたとしても、予定額の800万円が上限です。これは使えそうですね。

もう一つ、損害賠償額の予定があっても履行の請求や解除権の行使を妨げることにはなりません(民法420条2項)。つまり、違約金を請求しながら同時に契約の履行請求もできます。また「違約金」は、別途明記がない限り、民法上は損害賠償額の予定と推定されます(同条3項)。これも原則です。

条文 内容
民法420条1項 当事者は債務不履行について損害賠償額を予定できる。裁判所は原則として増減不可(ただし公序良俗違反の場合は無効化あり)
民法420条2項 賠償額の予定があっても、履行請求・解除権行使を妨げない
民法420条3項 違約金は賠償額の予定と推定する
宅建業法38条1項 宅建業者が売主の場合、損害賠償の予定額+違約金の合計は代金の20%以下でなければならない
宅建業法38条2項 20%を超えた部分のみ無効(全部無効ではない)

なお、2020年の民法改正(令和2年4月施行)以前は「裁判所はその額を増減することができない」という文言が民法420条1項に明記されていましたが、現行民法ではこの文言が削除されています。実務上は依然として予定額が原則的な基準となりますが、著しく不当な金額については公序良俗(民法90条)を根拠に一部無効となる可能性がある点を押さえておきましょう。

参考:宅建業法38条に基づく違約金条項の定め方を詳細に解説した公的機関の事例(不動産適正取引推進機構

業法第38条の損害賠償額の予定等の意味とその違約金条項の定め方 – 不動産適正取引推進機構

損害賠償額の予定の具体例・宅建業法38条の上限計算と違反した場合

宅建業者が自ら売主となり、買主が宅建業者以外の一般消費者である場合には、宅建業法38条による規制が適用されます。これは「8種規制(8種制限)」のひとつです。消費者保護を目的とした強行規定であり、この上限を超えた特約は重要事項として説明していても無効になる点が重要です。

では実際にどう計算するのか、具体的な数字で確認しましょう。

  • 💡 例①:代金3,000万円のマンション → 損害賠償の予定額+違約金の上限は600万円(代金の20%)
  • 💡 例②:代金4,000万円の宅地 → 上限は800万円。予定額を1,000万円と定めた場合、超過分の200万円部分のみ無効となり、実際の賠償予定額は800万円になる
  • 💡 例③:代金2,500万円の建物 → 上限は500万円。「損害賠償の予定額300万円+違約金300万円=600万円」という特約は20%の500万円を超えるため違反。超過分100万円のみ無効となる

よくある誤解が「特約全体が無効になる」というものです。これは間違いです。あくまで20%を超えた部分のみが無効となり、代金の20%の範囲では有効に機能します。全体無効ではありません。

また、損害賠償の予定額を定めなかった場合はどうなるでしょうか?この場合、実際に生じた損害額を立証して請求することになります。上限の制限もなく、売買代金を超える損害賠償請求も理論上は可能です。ただし立証の手間は大きくなります。一般的には20%以内で予定額を設定しておく方が、双方のリスク管理として有効とされています。

手付金の額は、損害賠償の予定額とは別枠です。よく「手付金100万円を支払っているから損害賠償の予定額は残り200万円まで」という誤解が見られますが、手付金の額は20%上限の計算には関係しません。代金の20%というのは、あくまで損害賠償の予定額と違約金の合算が対象です。これは間違えやすいポイントですね。

損害賠償額の予定と違約金の違い・不動産業者が混同しがちな実務上のリスク

「違約金」と「損害賠償額の予定」は似た言葉ですが、法律上はまったく異なる概念です。不動産業者がここを混同すると、契約書の記載に重大なミスが生じることがあります。

損害賠償額の予定とは、債務不履行があった場合に支払うべき賠償額を事前に合意しておくものです。一方、違約金とは、債務不履行があった場合に違約した者が相手方に支払うことを約した金銭ですが、その法的性質はいくつかの種類があります。

  • 🔵 損害賠償額の予定としての違約金:実損害の立証不要。支払えば損害賠償責任を果たしたことになる
  • 🔴 違約罰としての違約金:制裁金(ペナルティ)の性質。支払った後でも別途実損害の賠償請求ができる

民法420条3項では「違約金は損害賠償額の予定と推定する」と定めています。つまり契約書に単に「違約金」と書いた場合、それは「損害賠償額の予定」として扱われます。違約罰にしたい場合には、契約書上で明確にその旨を記載しなければなりません。

宅建業法上でも、この違いは重要です。宅建業法38条1項は「損害賠償の額を予定し、または違約金を定めるときは、これらを合算した額が代金の20%を超えてはならない」と規定しています。つまり、損害賠償額の予定と違約金の両方を同時に設定することができ、合計が20%以内であれば問題ありません。このため、「損害賠償の予定額15%+違約罰としての違約金5%」のような組み合わせも設計できます。

ただし、現実の取引では違約金と称しているものの大半が損害賠償額の予定です。不動産取引のリスク管理担当者は、契約書上の表記だけでなく、その法的性質を正確に把握しておくことが大切です。

参考:不動産売買における違約金の仕組みと法的な取り扱いについての解説(弁護士法人ポート)

不動産売買取引と違約金 – 弁護士法人ポート

損害賠償額の予定が適用されない例外・業者間取引と個人間取引の重要な違い

宅建業法38条の20%上限規制は、すべての不動産取引に適用されるわけではありません。これが実務上で見落とされやすいポイントです。

適用対象は「宅建業者が売主+宅建業者以外が買主」の場合のみです。以下の取引では適用が除外されます。

  • 業者間取引:売主・買主ともに宅建業者の場合(宅建業法78条2項)→ 代金の20%を超える違約金も有効
  • 個人間売買:宅建業者が関与しない個人間の取引 → 民法のルールのみ適用(上限の制限なし)
  • 宅建業者が買主の場合:売主が宅建業者であっても、買主も宅建業者なら8種規制は不適用

具体例で確認しましょう。代金3,000万円の宅地で、売主・買主ともに宅建業者の場合、違約金を代金の30%(900万円)と定めることができます。これは業者間取引への8種規制の適用除外があるためです。一般消費者が買主の場合は上限600万円(20%)ですが、業者間であれば30%でも有効です。

また個人間売買については、公序良俗(民法90条)に反するような著しく高額な賠償予定でない限り、金額に法的上限はありません。ただし「通常予想される損害を著しく超える」場合には、暴利行為として無効となるケースがあります。厳しいところですね。

不動産仲介業者として媒介に携わる場合、買主・売主の属性(宅建業者か否か)を正確に把握した上で、どの規定が適用されるかを判断する必要があります。誤った前提で重要事項説明を行うと、後日トラブルの原因になりかねません。

取引の類型 宅建業法38条の適用 損害賠償予定の上限
宅建業者(売主)× 一般消費者(買主) ✅ 適用あり 代金の20%以下
宅建業者(売主)× 宅建業者(買主) ❌ 適用なし 制限なし(公序良俗の範囲内)
個人(売主)× 個人(買主) ❌ 適用なし 制限なし(公序良俗の範囲内)
宅建業者が媒介のみ(個人間売買) ❌ 適用なし 制限なし(公序良俗の範囲内)

損害賠償額の予定の重要事項説明・35条書面と37条書面への正しい記載方法

損害賠償額の予定に関する事項は、重要事項説明書35条書面)と契約書(37条書面)の双方に記載が必要です。これが原則です。実務担当者として、この二つの書面における取り扱いの違いを正確に理解しておく必要があります。

まず35条書面(重要事項説明書)について確認します。宅建業法35条1項9号では「損害賠償額の予定または違約金に関する事項」が説明義務事項として列挙されています。損害賠償の予定額を定めるかどうか、定める場合にはその金額や趣旨・内容を宅建士が説明しなければなりません。

次に37条書面(契約書)については、損害賠償の予定額や違約金の定めがある場合に、その内容を記載しなければなりません。「定めがある場合のみ記載」という点が35条書面との違いです。定めがない場合は記載を省略できます。

  • 📋 35条書面:損害賠償額の予定の有無・金額・内容を説明(宅建士が対面または電子で実施)
  • 📋 37条書面:定めがある場合にのみ、その内容を記載(定めがない場合は記載不要)

よくある実務上のミスは「損害賠償の予定額を代金の20%以下にしたから、重要事項説明での詳細な説明は省略できる」という誤解です。上限の範囲内であっても、説明義務は一切省略できません。37条書面への記載も同様で、定めを設けた以上は必ず記載が必要です。

記載内容としては、FRK(不動産流通経営協会)の書式を参考にすると、売主・買主双方に適用される違約金の額と、その根拠(宅建業法38条が適用されるかどうか)を明記する形式が一般的です。宅建業者が売主の場合は「代金の20%以下」という制限の根拠を明確にした記載が推奨されます。

業務の効率化という観点では、不動産売買の書類作成支援サービスや重要事項説明書の作成代行サービスを活用する選択肢もあります。複雑な案件や特殊な取引形態では、書類ミスによる後日トラブルのリスクが高まります。損害賠償額の予定を含む特約設計に不安がある場合は、専門の不動産調査・書類作成サービスへの相談を検討してみてください。

参考:重要事項説明書における損害賠償額の予定の記載方法と実務解説(イクラ不動産)

「損害賠償額の予定または違約金に関する事項」とはなにか – イクラ不動産

損害賠償額の予定に関する不動産実務の独自視点・「予定しない」選択が有利になる場面

「損害賠償額の予定は必ず設定しておくべきだ」という認識が不動産実務者の間では一般的です。しかし実は、損害賠償額を予定しないことが、売主側にとって有利に働くケースがあります。これは見落とされがちなポイントです。

損害賠償額の予定を設定してしまうと、実際の損害がそれを上回っていても予定額しか請求できません。例えば、3,000万円の土地の売買で損害賠償の予定額を600万円(代金の20%)と設定したとします。買主の契約違反によって売主が実際に800万円の損害を受けた場合でも、請求できるのは600万円が上限です。差額の200万円は泣き寝入りです。痛いですね。

一方、損害賠償の予定を設けなければ、実際の損害額(800万円)を立証して請求できます。ただし損害の発生と金額の両方を証明する必要があり、裁判等での立証コストが生じるという側面もあります。

  • 🔵 損害賠償額の予定あり:立証不要で請求しやすい。ただし上限が代金の20%に縛られる
  • 🔴 損害賠償額の予定なし:上限なしで実損額を請求できる。ただし損害の立証が必要

売買の交渉力が強い売主や、高額取引で実損リスクが大きい案件では、あえて予定額を設定しない選択肢も検討に値します。「予定を設けた方が確実に回収できる」という面と、「実損が大きい場合に回収額が減る」というトレードオフの関係を理解した上で、案件ごとに判断することが重要です。

また、損害賠償の予定があっても過失相殺の適用は可能という点も知っておく必要があります。債権者(被害者)側に過失があった場合、裁判所は過失相殺を考慮して損害賠償額を減じることができます。「予定額を決めたからそのまま全額もらえる」とは必ずしも言えません。過失相殺が絡む案件では、予定額がそのまま認められないリスクも想定しておきましょう。

このように、損害賠償額の予定の設計は「とりあえず20%」と決めてしまうのではなく、取引の性質・双方の交渉力・実損リスクの大きさを踏まえた戦略的な判断が求められます。不動産業者として、より深い実務知識を持つことが、トラブル回避とクライアントへの適切なアドバイスにつながります。

参考:不動産売買における損害賠償・違約金条項の実務的解説(関口総合法律事務所)

不動産売買契約における違約金(損害賠償額の予定)とは – 関口総合法律事務所